水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

「幕が上がる(2)」

2021年08月03日 | 学年だよりなど
1学年だより「幕が上がる(2)」


~ 「私は、みんなもちょっとは知ってると思うけど、大学でずっと芝居やってて、けっこうのめり込んで、いま思うと、よく単位も教職も取れたと思うけど、五年かかって卒業して、……後悔はしてないけど、でも怖い世界だっていうのは、よく知ってるつもりです。
 楽しいうちはいいけど、やっぱり大変だし、いややっぱり楽しいんだけど、楽しすぎて人生変えちゃうかもしれないし、そんなの責任持てないしね。
 だからブロック大会まで行くっていうのは、私のエゴみたいなもんで、でも、こんな素材を前にして、私が少しだけ手伝わせてもらったら、って言うか、これからは少しだけじゃなくて、手伝いでもなくて、本気で指導させてほしいんだけど。いままでは、片手間でやっていてごめんなさい。本気でやらせてください、演劇部。本気でやって、ブロック大会まで行こう」 ~


 ちなみに、この小説は映画化もされている(2015年)。ももいろクローバーZの五人(当時)が演劇部員を、演劇部顧問を黒木華さんが演じる。これほど見事なキャスティングの作品は希だと当時感じた。しかも後輩の演劇部員を伊藤沙莉、吉岡里帆、芳根京子が演じている(ミラクル!)。
 夏休み。
 初めての校外合宿は、代々木の「オリンピック記念青少年センター」に出かけた。
 昼間はセンター内のスタジオで、大会のために「銀河鉄道の夜」を練習する。
 夜は下北沢や池袋へ芝居を見にでかける。
 ぎゅうぎゅう詰めの小屋で汗をかきながら芝居を観た帰り路、駅を降りると「ちょっとだけ回り道するね」と吉岡は部員たちを歩道橋に連れて行く。
「ほら」と指さされて見上げた部員たちの目に飛び込んできたのは、せまるようにそびえ立つ新宿副都心の高層ビル群だった。大都会だ。
「きれいですね……」部員たちが一瞬暑さを忘れ、肩を寄せ合ってビルを見上げる。
「東京で銀河は見えないから、そのかわりだよ」と空に手をひろげた吉岡先生は美しかった。
 役者ではなく作・演出を担当することになったさおりは、合宿までに台本を完成させていた。
 自分の書いたセリフが声になっていくのを聞きながら、「ずっと演劇をやっていたいな」と思う。
 なかなか寝付かれず、夜も小さな灯りのついている談話コーナーにふらっと行ってみると、ユッコがソファに寝転んで台本を読んでいるのに気づき、驚いた。ユッコもさおりに気づく。


~ 私はユッコの横に座った。ユッコはそのままの変な姿勢で、
「ありがとう」
 と言った。
「え、なにが?」
「言いたい台詞ばっかりだよ」   (平田オリザ『幕が上がる』講談社文庫) ~

コメント
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