水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

「幕が上がる(3)」

2021年08月07日 | 学年だよりなど
1学年だより「幕が上がる(3)」


「高校時代は人生で一番大切だ!」的な話を、よく耳にする。おそらく、そう語る大人ほどには、みなさんは本気で感じてないと思う。自分も正直そこまで高校「だけ」が大事だとは思わない。
 でも、試合で負けたあとの帰り道や、友達と馬鹿話してるだけの放課後の教室や、あまり接点のなかったクラスメイトと急に意気投合したときや、帰りに食べたラーメンがなぜかいつもよりおいしかった時や、文化祭のあと突然風が冷たく感じた瞬間や、なんでもないような一瞬が、なぜかかけがえのないものに思えた時はないだろうか。
 人生で高校時代だけが大事なわけではないが、何十年も生きたわれわれから見ると、わずか十数年しか生きていない今のみんなにとっての一年、一ヶ月、一週間、一日は、やはりまぶしいほど輝いて見える。
 何かやりたいことを見つけたとき、やるべきことをやろうとしたとき、最初は気が進まなかったことでも、何かにのめり込み打ち込んでみることは、貴重な経験だ。
 理屈ではなく、経験した人間しか感じられない愛おしい時間になる。人生を「コスパ」だけで見ている人には得られない感覚だろう。みなさんにもそんな時を過ごしてほしい。


~ 私は、何ものにもなれない自分に苛立っていた。
 本当は何かを表現したいのに、その表現の方法が見つからない自分を持て余していた。
 もう少し勉強すれば、地域で一番の進学校にも行けたのに、通学の長さを理由に、行きやすいいまの学校を選んだ自分が嫌いだった。
 演劇は、そんな私が、やっと見つけた宝物だった。 (平田オリザ『幕が上がる』講談社) ~


 なんとか地区大会を勝ち抜き、県大会に臨むにあたり、さおりは台本を書き換えた。
 映画やドラマで描かれる「高校生らしい高校生」なんて、現実にはいないと思った。
 いっしょに芝居に取り組んできた目の前の仲間達こそが現実の姿だとの思いをこめた。


~ 私たちは、舞台の上でなら、どこまでも行ける。どこまででも行ける切符をもっている。私たちの頭の中は、銀河と同じ大きさだ。……どこまでも行けるから、だから私たちは不安なんだ。その不安だけが現実だ。誰か、他人が作ったちっぽけな「現実」なんて、私たちの現実じゃない。 ~


 書き換えた台詞、そこに込めた思いは客席に十分伝わっていると思えた。
 県大会の舞台が終わる。幕が降りた瞬間、今まで聞いたことのない拍手が聞こえてくる。
 反対側の部隊袖でガッツポーズをする役者が見える。ユッコと中西さんが抱き合うのが見える。
 後輩の男子部員が、自分のとなりで泣いている。
 かけがえのない時間だった。
 本からでも映像からでもいい、勉強の合間に、書店かTSUTAYAへ!
コメント
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