2学年だより「悲観論」
今シーズン最後の試合を終えた直後の大谷選手のインタビュー。
規定打席、規定投球回の両方達したことの感想を問われ、「それ自体については、こんなものかなという感じ、来季はもっといい選手になりたい」というニュアンスでたんたんと答えていたと思う。
歴史的偉業を成し遂げたことへの充実感と自負はもちろんあるだろうが、そこで満足する感覚はいっさいない。むしろ来季、今年以上の活躍をするために、いつから何をやればいいのかという、前向きな心配さえ感じられる口ぶりだった。
小平奈緒選手の引退レースのあとのインタビューも興味深かった。
「今日のレースに点数をつけるとすれば?」と問われ、「一期一会のもので、点数はつけない。自分の人生に点数をつけたら成長は止まるから」と答える。
現役最後のレースでほぼ自己ベストの記録で走る、つまり現時点で世界トップの力をみせつけながら、それ自体には満足せず、人生の次のステップをみすえている。
こんな二人の言葉を聞くと、彼らは「強く願ったから夢を叶えた」のではないと、感じざるを得ない。そんな誰もが言えるようなことで叶う夢など、そもそも夢とは言えないのかもしれないと。
もちろん強く願ったことは間違いない。
しかし、それを叶えるために、ありとあらゆる努力を積み重ねる。
夢を思い描くことよりも、実現するために何をすればいいか、どうすればいいか、傍から見れば「心配性(しよう)」と見えるくらいに、やれることをすべてやる。
成功した自分を思い浮かべて気分を盛り上げるというより、成功しなかった場合のネガティブなイメージを努力のバネにしていたのではないかと思えるほどだ。
前向きな悲観論とでも言うべき心性を感じる。
ポジティブなイメージばかり強く持っていると、マイナスに働く場合もあるという。
~ ポジティブな期待の自己実現はどうだろうか。ダイエット後のほっそりした姿を思い描いた女性は、ネガティブなイメージを浮かべた女性に比べて体重の減り方が少なく、成績でAをもらうことをイメージした学生は、勉強時間が減って成績が落ちたという研究がある。
こんな残念な結果になったのは、ヒトの脳が幻想と現実を見分けるのが不得意だかららしい。 夢の実現を強く願うと、脳はすでに望みのものを手に入れたと勘違いして、努力するかわりにリラックスしてしまうのだ。
(橘玲『バカと無知』新潮新書)~
「強く願うと逆に夢は叶わない」とは言えないが、「願っているだけ」は危険なのだ。
願ったことを紙に書き出し、分割し、手立てを考え、地道にこなし、足りないことはないか考え、やることを修正し……という作業を、「そこまでやる?」というレベルまで積み重ねる。
類い希な才能を持つ人たちがそういう作業を積み重ねているのだから、われわれが、ほんのちょっと頑張って思うようにならないと嘆くなんて、お話しにならないだろう。
今シーズン最後の試合を終えた直後の大谷選手のインタビュー。
規定打席、規定投球回の両方達したことの感想を問われ、「それ自体については、こんなものかなという感じ、来季はもっといい選手になりたい」というニュアンスでたんたんと答えていたと思う。
歴史的偉業を成し遂げたことへの充実感と自負はもちろんあるだろうが、そこで満足する感覚はいっさいない。むしろ来季、今年以上の活躍をするために、いつから何をやればいいのかという、前向きな心配さえ感じられる口ぶりだった。
小平奈緒選手の引退レースのあとのインタビューも興味深かった。
「今日のレースに点数をつけるとすれば?」と問われ、「一期一会のもので、点数はつけない。自分の人生に点数をつけたら成長は止まるから」と答える。
現役最後のレースでほぼ自己ベストの記録で走る、つまり現時点で世界トップの力をみせつけながら、それ自体には満足せず、人生の次のステップをみすえている。
こんな二人の言葉を聞くと、彼らは「強く願ったから夢を叶えた」のではないと、感じざるを得ない。そんな誰もが言えるようなことで叶う夢など、そもそも夢とは言えないのかもしれないと。
もちろん強く願ったことは間違いない。
しかし、それを叶えるために、ありとあらゆる努力を積み重ねる。
夢を思い描くことよりも、実現するために何をすればいいか、どうすればいいか、傍から見れば「心配性(しよう)」と見えるくらいに、やれることをすべてやる。
成功した自分を思い浮かべて気分を盛り上げるというより、成功しなかった場合のネガティブなイメージを努力のバネにしていたのではないかと思えるほどだ。
前向きな悲観論とでも言うべき心性を感じる。
ポジティブなイメージばかり強く持っていると、マイナスに働く場合もあるという。
~ ポジティブな期待の自己実現はどうだろうか。ダイエット後のほっそりした姿を思い描いた女性は、ネガティブなイメージを浮かべた女性に比べて体重の減り方が少なく、成績でAをもらうことをイメージした学生は、勉強時間が減って成績が落ちたという研究がある。
こんな残念な結果になったのは、ヒトの脳が幻想と現実を見分けるのが不得意だかららしい。 夢の実現を強く願うと、脳はすでに望みのものを手に入れたと勘違いして、努力するかわりにリラックスしてしまうのだ。
(橘玲『バカと無知』新潮新書)~
「強く願うと逆に夢は叶わない」とは言えないが、「願っているだけ」は危険なのだ。
願ったことを紙に書き出し、分割し、手立てを考え、地道にこなし、足りないことはないか考え、やることを修正し……という作業を、「そこまでやる?」というレベルまで積み重ねる。
類い希な才能を持つ人たちがそういう作業を積み重ねているのだから、われわれが、ほんのちょっと頑張って思うようにならないと嘆くなんて、お話しにならないだろう。