東京に雪が降ると、転倒する人が続出して、雪国の人からバカにされる。
なぜなら、東京人は雪道にふさわしい靴と歩き方を選択していないから。
いわば雪道をノーマルタイヤで普通にスピード出して運転し、当然ながらスリップ事故を起こしているようなものだから。
せっかくだから、歩き方は1つではない、ということを認識しよう。
残念ながら、世に出ている「歩行法」は、洋式歩行のみを唯一正しいとした偏狭なものだ。
すなわち、爪先後方蹴りだし駆動で、膝を伸ばして踵着地、骨盤を前後に回転し、足とは逆の腕を振る。
スニーカーで平らな道をスタスタ歩くにはこれでいい。
だがこの歩き方で雪道や和室を歩かないでほしい。
着物を着て和室を歩くなら、和式歩行をしてほしい。
すなわち、膝を軽く曲げた姿勢で、爪先も踵も大きく上げないすり足で、両手は腿に付けて、腕は振らない(振るにしても足と同じ側)。
こうすれば足音を立てずに歩けるし、つまずいたり滑ることもない。
江戸時代の日本人はこの歩き方だった(江戸時代の日本人は今でいう”正しい”歩き方をせずに、数百キロの街道を歩き通せていた)。
そして雪道では、足をフラットに降ろし、後方にけり出さずに、フラットに持ち上げる。
すなわち着地した靴底内の重心移動を極力避ける。
この歩き方はダイナミックに重心移動する洋式歩行とは真逆で、和式歩行に近い。
いいかえれば雪道で”正しい”洋式歩行をすると、必ずスリップする(底面がツルツルの靴ならなおさら)。
最適な歩きは、道の状態や履物によって異なるのである。
だから、歩きは複数パターン身につけ、時と場合に応じて選択すべきである。
歩き方は自然に身に付くのではなく、学ぶものである。
日本人はきちんと歩く教育を受けていない人が大半なので(本来は学校の体育でやるべき)、和式・洋式いずれの視点からも中途半端な歩き方になっている。
小笠原流礼法に基づく私の授業では、和式、洋式双方の正式な歩行法を教えている。