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廃墟巡礼 宇佐美圭司

「廃墟巡礼」という題名がついていて、世界中の廃墟を求めて旅を続けている著者の本ではあるのだが、どうも著者が「廃墟マニア」という感じがしない。廃墟を見る目の冷静さが際だっているからだろうか。また、本書で描かれている外国の風景は「廃墟」という言葉でくくられるものとはかなり異質だ。普通廃墟とは言わないものに対しても、廃墟に対するのと同じ視線で向き合っている。途中に何枚か挿入されている著者自身のスケッチもあまり「廃墟」という感じのものではない。「廃墟」といえば経済的な理由やら宗教的な理由やらで使われなくなった後、朽ちていくままに放置された建造物ということになるだろう。しかしこの著者が眺めている廃墟はもう少し広い意味のような気がする。一方、著者の対象物を見る目が非常に多様なことに驚かされる。本業がプロの画家ということなので、色彩であったりフォルムであったり、視覚的なイマジネーションを語る部分が多いことは確かだが、それだけではくくれない記述が実に多く、そうした部分にこそ面白さが感じられる。画家が絵を描くことの背景にある要素の多様性を示すものなのか、著者の個人的な資質なのかは判らないが、個人的には現代の画家というのはおしなべて前者であることを強いられているという部分が大きいのではないかと思う。(「廃墟巡礼」宇佐美圭司、平凡社新書)
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