書評、その他
Future Watch 書評、その他
錨を上げよ(上・下) 百田尚樹
本書は、私よりも少し年配の「団塊の世代」に属する主人公の1人称で、約20年くらいの遍歴が延々と語られている。上下合わせて1200ページの大作なので、週末で読みきることができず、読みきるのにほぼ1週間かかってしまった。帯には「この男はいったい何者なのか?」と書かれているが、半分近く読み進めても、この主人公、この話がいったい何処へ辿り着くのかが全く読めない。本書に対して「冗長なだけ」という書評があった。確かに長いが、私にはあまり苦にならなかった。主人公には、少し落ち着いたかと思うと、また突然全てを捨てて違う生活に飛び込んでいってしまうという性癖があり、とにかく先が読めない。少し先回りしたいと思って、途中で作者の略歴をみると、1956年生まれとあり、主人公=作者というわけでもなさそうで、ますます判らなくなる。そうかと思うと、主人公が通う大学名は、作者の出身校と同じだし、主人公の放送作家という職業も作者と重なっていて、さらに判らなくなる。そういう意味では、まさしく虚実皮膜の「小説」といえるのかもしれない。読んでいて大変面白かったので、小説としては文句はないが、別の書評で読んだ「感動の最終章」というキャッチフレーズの割には、淡々と終わってしまったのがやや拍子抜けだった。(「錨を上げよ(上・下)」 百田尚樹、講談社)
本屋大賞2011 反省
今年も予想は外れ、「ノミネートされたこと自体が疑問」と思った「謎解きは‥」が大賞になった。読みやすい本が読まれるという傾向、ここに極まったという感じがする。ここまで外れるということは、自分の読書傾向と世間の読書傾向のずれだけが原因ということではなく、「本屋大賞」に対する自分の勝手な思い込みが間違っているという要素もあるのだろう。でも、面白い本を毎年10冊も紹介してくれるというのは、間違いなく「本屋大賞」の私にとっての意義であるというのは変わらない。また来年が楽しみだ。