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空白の5マイル 角幡唯介

中国とインドの国境近くのチベットの山奥を流れるツアンポー川の流域にグランドキャニオンをはるかにしのぐ規模の大峡谷があり、そこには幻の大きな滝があるという。また、そこにはシャングリ・ラのモデルとなった理想郷があるという。さらに、そこを訪れた幾多の探険家が挫折してどうしても近づけない「空白の5マイル」と呼ばれる極めつけの難所があるという。本書は、その「空白の5マイル」の踏破に単身で挑んだ作者の冒険譚である。作者がそこを踏破する構想を抱いてから実行に移すまでに、西洋人の冒険家によって「空白の5マイル」は踏破されてしまい、厳密には「空白の5マイル」ではなくなってしまうのだが、それでも作者は、まだそこには何かがあると信じてそのジャングルに足を踏み入れる。信じられないような苦難の連続の冒険を読むだけで感動してしまうが、やはり、「まだ何かある」というその「何か」も大変なことなのだろうと思う。まず、彼の探索のほとんどが「単独行」「無許可」だったこと。最初に踏破に成功した西洋人が現地のガイドや荷役を連れた正式な探索隊、グループだったのに対して、彼の場合は「そこに行きたい」という無鉄砲な思いを抱いた若者による無許可探索で、現地のガイドにも逃げられ、たった一人での探索だった。それだけでも見えてくるものは大きく違うだろう。結局、彼は、空白の5マイルの単独踏破を成し遂げた上に、新しい滝を発見、理想郷を思わせる大きな洞窟も発見、これまでの探検隊の間違いも発見と、様々な成果を持ち帰る。生きて帰ってこられて本当に良かったと心底思うが、現地での写真を持って帰ってこられたことも本当に良かった。掲載された多くの写真がすごい。(「空白の5マイル」 角幡唯介、集英社)

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