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嘘と絶望の生命科学 榎木英介

STAP細胞を巡る事件を契機にして緊急出版されたと思われる本書。これを読むと、STAP細胞の事件が決して特殊なものではなく、生命科学分野における様々な事情が関係したい実に根深い事件であるということが良く判る。本書によれば、「研究不正」と呼ばれるものの7割が「生命科学分野」でおきているという。論文重視、3大科学雑誌偏重、教授を中心とする研究所内のヒエラルキーといった生命科学分野特有の要因が「研究不正」が後を絶たない直接間接の原因になっているという。直観や思考実験のみで論文が書ける数学や物理とは違って、生命科学ではとにかく地道に実験を繰り返すことのみが成果を上げる唯一の道ということで、ポスドクと呼ばれる研究員が奴隷のような扱いを受けながら、成果を上げなければというプレッシャーと闘いながら実験を繰り返している。こうした背景を理解すると、「どうしてすぐにばれる不正をするのか」という疑問も少し理解できるような気がする。また、「生命科学に横行する研究不正」という事情は日本に限らず、全世界的な事情らしい。さらに、STAP細胞事件では、「再現できないこと」が大きな問題となっているが、本書を読むと、例えばガンの著名な実験結果論文で再現できたのは10%強という統計もあるそうで、「肝心な部分は隠す」ということは珍しいことではないそうだ。色々な情報が満載で、STAP細胞事件を考えるための多くの材料を提供してくれる1冊だ。(「嘘と絶望の生命科学」 榎木英介、文春文庫)

海外出張のため1週間ほど更新をお休みします。

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