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11枚のトランプ 泡坂妻夫

著者の最初の長編ミステリーの再版。著者の本はこれで3冊目だが、前の2冊があまりにもトリッキーかつ衝撃的な本だったので、あまりハードルを高くしないように心がけながら読んだ。この小説の最大の特徴は、ミステリーの大切な要素である「謎を解く鍵・証拠」あるいは読者に解決の糸口を示したり困惑させたりする目的の「伏線」というものの存在だ。ミステリーを多く読んでいると「ああこれが伏線だな」というのはなんとなく判ることが多い。それが伏線であることが判った上で、それがどう解決の糸口なのかを考えるのが読者と著者の知恵比べということになる。しかし本書の場合は、私自身、何が伏線なのか、真相が究明されるまで全く気がつかなかったし、伏線どころか「何が謎なのか」さえもほとんど意識できなかったほどだ。こうした作品を書くには本当に緻密な作業が必要だろう。その意味では、前に読んだ2作品に負けず劣らない異色作だと感じた。(「11枚のトランプ」 泡坂妻夫、角川文庫)

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