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ヒトラー演説 高田博行
ヒトラーの演説といえば、古い画像でヒトラーが大きな身振りで絶叫しているシーンを何度か見たことがあるという程度だが、実際のところはどうだったのか、それを教えてくれるのが本書だ。著者は、ヒトラーの演説150万語をデータベース化し、それを分析することで、ヒトラーの演説の様々な側面を読者に教えてくれる。本書を読むと、われわれがイメージしているのとは全く違い、冷静に言葉を選んで、民衆の心を掌握するために演説する稀代の弁士としてのヒトラー像が浮かび上がってくる。ナチスが活動を始めて勢力を拡大していくまでの演説、政権を掌握してから国民を言葉で誘導していく演説、戦争が不可避になっていく過程で「外交」を強く意識した演説、人心が離れていき誰に向かって話しているのか判らなくなっていく晩年の演説と、それぞれの時期の対比の分析は、見事というしかない。なお、ヒトラーの全盛期、彼の演説を「ラジオ」で聞くことが法律で義務付けられていたという話を読んでびっくりした。ハンナ・アーレントの本を読んで、彼女の思想の主な発表場所が「ラジオ」だったという話に違和感を感じたが、この本を読むと、当時の自分の考えの伝達手段として「ラジオ」というものが現在の自分たちが考える以上に重要だったということが判って面白かった。そういえば、日本の終戦の時の玉音放送も「ラジオ」だったのだと思い至った。最高に面白い1冊だ。(「ヒトラー演説」 高田博行、中公新書)
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