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亜愛一郎の逃亡 泡坂妻夫

シリーズ3冊目の最終巻。探偵役の主人公は、キャラが立っているようでいて、実際のところ、短編集を2冊読み終えた時点でも、あまりどういう人物なのかよく判らない。長身のイケメンで、職業は雲や昆虫などを専門とするカメラマン、何故かよく転び、何か頭に閃くと白目をむくということくらいしか情報がない。短編をいくつ読んでもその情報が増えないのは、毎回毎回同じパターンを繰り返しているからだ。この極端なカリカチャーは、不可思議な事件が進むなかで、その不思議さをなんとなく覆い隠してしまうような役割を果たしているように思われる。要は、登場人物のリアリティの欠如が、全体のリアリティからの乖離を「そんなものかな」と読者に思わせる効果があるのだと思う。手品師が、手品を披露する際にそれらしい衣装を着たり、舞台に黒幕を張って怪しい雰囲気を出したりするようなものかもしれない。それにしても、この1冊でこのシリーには続きがないと思うと寂しい気がする。著者の他の本をあたるしかないのだが、こうした雰囲気をまた味わえるのかどうか、期待と不安が半々といったところだ。ところでこのシリーズには、名前による言葉遊び等、色々な仕掛けが施されている。その中の1つだが、各短編に必ず登場する不思議な人物が1人いることに2冊目あたりで気がついた。これも色々あるお遊びの1つかと思っていたら、最終話でこの人物の正体が判明し、それと同時に吃驚仰天のうちにシリーズ完結となってしまった。3冊目になるとさすがにトリックの意外性は最初に比べてトーンダウンしている気がしたが、それを補って余りある驚きが隠されていたというわけだ。(「亜愛一郎の逃亡」 泡坂妻夫、創元推理文庫)

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