書評、その他
Future Watch 書評、その他
プーチン戦争の論理 下斗米伸夫
ロシアの政治や歴史の専門家によるウクライナ侵攻の解説書。これまでに色々読んできた軍事専門家とは少し違った視点で今回の戦争の背景を教えてくれる。まず最初に語られるのは、今回の紛争が冷戦時代のようなイデオロギーの対立ではなく歴史や宗教を巡る文明の衝突であるという点。そこから見えてくるのは、他の東欧諸国のようにカトリックを信奉する西ウクライナ、コンスタンチノープルがオスマントルコに占領されたあと東ローマ帝国の血統を受け継いだロシアおよびその首都であるモスクワがキリスト教の正当な継承者、継承地であるという宗教観を持つ正教を信奉する東ウクライナというウクライナの二面性だ。これを読むと、なぜウクライナという国がソ連崩壊後に一つの国として成立したのかむしろ不思議な気がするくらいだ。一方、本書で彼の地の歴史を見ていくと、今回の紛争の背景として、ゴルバチョフと西欧諸国で描いた冷戦後のヘゲモニーをないがしろにしたアメリカをはじめとする西欧諸国の度重なる傲慢な施策や挑発行為、あるいは失政が根底にあることがわかる。この点においてはプーチンにも十分な言い分はあり、プーチンの過ちは対立を戦争という暴力で解決しようとしている点と、占領地での略奪や虐殺といった戦争犯罪の2点にあることになる。プーチンの残虐性とか異常性が前提になっているような報道とはかなり違った事実を浮き彫りにしてくれる一冊だった。(「プーチン戦争の論理」 下斗米伸夫、インターナショナル新書)
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )