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講談放浪記 神田伯山

当代随一の人気講談師が、講談の舞台になった所縁の地を訪れたり、講談披露の場に関する思い出を語りながら、講談というものの歴史、見方、見どころなどを丁寧に教えてくれる内容。巻末には師匠の人間国宝神田松鯉との対談も読める贅沢な一冊だ。そもそも自分が講談というものを初めてオンサイトで聞いたのはこの著者の講談だったし、その後何回も独演会やTVで著者の講談を聴く機会があったが、演目の時代設定とか作られた背景などには全く無頓着のままだった。今回本書を読んでそうしたことを色々知るともっと講談を聴くのが楽しくなりそうな気がして、少し反省しつつも単純にこれからが楽しみで嬉しくなった。本書で取り上げられている赤穂浪士の「南部坂雪の別れ」、源平盛衰記の「扇の的」「青葉の笛」、四谷怪談の「お岩誕生」、相撲物の「谷風の情け相撲」などは著者らの講談で聞いたことがあったが、本書を読むとまた違った気持ちで聞けるような気がするし、まだまだ名作が無数にあることが分かる。講談は、史実とフィクションを織り交ぜて作られた読み物や歌舞伎などの元ネタから講談用に脚色が施され、さらに師匠から弟子に伝授される段階で演者独自の工夫が施される演芸とのこと。また、本書の出版元である講談社と講談の深いつながり、唯一の講談専門の講釈場「本牧亭」の閉鎖、それにより寄席が演じる場の中心となり講談にも笑いを入れることが必要になったことなど、初めて知ることが多かった。全体を通じて、専門の講釈場の復興、後進の育成を通じて講談の隆盛を企図する著者の強い気持ちが伝わってきた。(「講談放浪記」 神田伯山、講談社)
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