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ロヒンギャ危機 中西嘉宏

ミャンマーのロヒンギャ問題についての解説書。少し前に買っておいた本だが、数日前にミャンマーでクーデターとのニュースがあり、もう一度ミャンマーについて考えるために読むことにした。人道的見地からは、ミャンマー国軍によるロヒンギャへの過酷な弾圧、大規模な難民問題という図式で語られるロヒンギャ問題だが、本書は、その中心地であるミャンマーラカイン州の歴史的経緯を詳細に述べることで、そうした単純化が到底出来ないような複雑さを孕んだ問題だということを教えてくれる。貿易の要衝として他民族共存の地域が、国家という概念の誕生によって変貌していき、さらにイギリスの植民地支配下のインド系ムスリムの大量移住、日本軍統治下の混乱、独立運動時の同床異夢、軍事政権の誕生などに翻弄されていく。ここまで問題がこじれてしまうと、どちらが良い悪いとか正統非正統とかではなく、全く別の論理を持ち出さないと埒があかないようにも思えてくる。また、ロヒンギャの大量難民化の直接の原因となった騒乱が、ロヒンギャによるイスラム国家設立を目的とした武装蜂起、国軍による武装勢力の掃討作戦、さらにその後の地元の非ロヒンギャとロヒンギャとのコミュナル紛争という3つの段階があったことを知ると、さらにこの問題の難しさが浮き彫りになる。ジャーナリズムのこの問題に対する論調は「スーチー批判」色が濃厚だが、実際には非常に冷静かつ適切に対応しているという印象を強く持つし、それが多くの一般的なミャンマー国民の素直な感情なのだろう。そのことは、今回のクーデターという事態を理解する上でも重要な点だ。スーチーさんはやるべきことをやろうとしていて、軍部に危機感を与えたということだ。日本に置き換えて考えると、どこかの地域でISのような勢力がイスラム国家設立のために武装蜂起して警察署などを襲撃する事件が起きたら、日本人は国際世論がどうあれそれをテロだとみなすのかどうか、自衛隊の出動といった事態を支持するのかどうか、そうした問いかけをされている気がした。(「ロヒンギャ危機」 中西嘉宏、中公新書)
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