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ジム・アボット

90年代に大リーグで活躍した左腕投手。生まれつき右腕の先がないという障害を乗り越えて、大学野球、プロで活躍した選手である。投げ終わったあとにグラブを左手にパッと持ち替えて守備につく姿は、今でも鮮明に目に焼き付いている。大リーグで通算89勝、18勝した年もあり、しかもノーヒットノーランまでやってのけているのだから、「障害を乗り越えた」投手としてではなく、本当に実力があったのだと思う。サインには、出身校のミシガン大学の名前が直筆で書き添えられている。大学のエースとして活躍し、ソウルオリンピックでの金メダルの立役者になったその時代こそが、彼自身の原点であり、誇りであるという心境が伝わってくる。
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平面いぬ 乙一

乙一の本は、読む本毎に、微妙な雰囲気の違いがあって、なかなかとらえどころのない作家だと思う。但し、振幅が大きいとか、出来不出来が激しいというわけではなく、それぞれが強烈な「乙一らしさ」を持っていて、しかも読者に高い満足を与えてくれる点には、ぶれがない。こうしたえもいわれぬ彼の独特の雰囲気を「せつない」という言葉で置き換える書評などが多いが、本当にそうした曖昧な形容詞でしか括れない感じがする。ここで乙一の「平面いぬ。」を取り上げたのは、単に、このブログを書き始めてから、久しぶりに乙一の本を読んだからであるが、個人的には、「GOTH」や「ZOO」といった、現代の若者の普遍化を試みているような作品の方が、より彼らしい作品のようで好きである。一方、かれの処女作はどちらかというとその対極にあるような作品で、その中間に彼の中心点があるのだろう。次の作品はどのあたりにあるのかなと思いながら、新しい作品を読むのが、乙一の楽しみ方の一つだろうと思う。
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キリストの棺 ヤコボビッチ&ベルグリーノ

1980年にエルサレムで1つの墓が発見された。そこには、10の骨棺が納められていて、そのうちの6つに「ヨセ(フ)」「マリア」「ヨセフの息子イエス」「マリアムネ(ギリシャ文字)」「マタイ」「シモン」「イエスの子ユダ」の刻印があったという。ここから全ての知的冒険が始まる。キリスト教に詳しくない私でも、「ヨセフ」「マリア」「イエス」とくればぴんと来るはずだが、発見した人々はほとんど重要視しなかったらしい。何故か?「マリアムネ」という聞きなれない名前は何を表しているのか、なぜその名前だけがギリシャ語で書かれているのか? しかもその骨棺の一部からは人骨が採取されDNA鑑定も可能だという。その結果わかったことは? そもそも「骨棺」とは何なのか?

キリスト教の正統派の見解を見直し、キリストの生涯を歴史的事実として再構築する動きという意味では、「ダ・ヴィンチ・コード」ブームの便乗本のように思えるが、語られている内容は、本家以上に衝撃的だ。ダ・ヴィンチ・コードがフィクションであるのに対して、本書はノンフィクションであり、衝撃の事実を語りつつも、その事実がキリスト教の教義、ユダヤ教の教義にどのような影響を与えるかを慎重に見極めながら検証が進められていく。その慎重な姿勢が、教義に致命的な影響を与えてしまっては「絵空事」として抹殺されてしまうという懸念によるものであったとは言え、そうした極めて抑制的な態度が大変重く感じられる。新しい証拠を見つけたときの喜びよりも、たどり着いた結論が現在の教義と矛盾しないと判った時の喜び、キリスト個人が言行一致の人であった証拠であると知った時の感銘の方が強く伝わってくる。

本書をめくるとまず、簡単な解説付きの口絵写真が大量に載っている。解説を読みながら写真をみても、なんのことだかほとんど理解できないのだが、どうやらそこに写っているのが「キリストの棺」ということだけが判る。最初の文字を読み始める前に、すでに期待度が最高潮になっているという仕掛けだ。読み進めていって、そういえばこの話は口絵の解説にあったなと、もう一度口絵を見直す。うまくできていると思う。

本書では、最初にあげた疑問について、竜頭蛇尾に終わることなく、思った以上に明確な結論が導き出されている。そうした点で満足度は高い。特に心に残ったのは、「骨棺」というものが何故キリストの生きた時代の前後の短い時代だけ作られたのか、その重要な歴史の証拠が今までほとんど歴史家によって注目されてこなかったのか、これだけイエスに関わる人の名前の棺が見つかっていながらそれをイエス本人と結び付けて考えなかったのか、などなど、その背後にある歴史を再構築することの難しさである。
(「キリストの棺」ヤコボビッチ&ベルグリーノ、イースト・プレス)
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杉山愛

先のウインブルドン女子複で準優勝した杉山選手のサイン(下の方)。サインをみると、やや堅めの線は、彼女が非常に強い意志を持った人であることを感じさせる一方、簡素ではあるが勢いと安定感のある全体的なバランスのよさは、彼女自身のそうした面を感じさせる。
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グーグル革命の衝撃

最近、新しいIT・ウエブの将来像を探る面白い新書が目白押しである。「ウェブ進化論」梅田望夫(ちくま新書)あたりから続々と出始め、「グーグル」佐々木俊尚(文春新書)、「グーグル・アマゾン化する社会」森健(光文社新書)、「爆発するソーシャルメディア」湯川鶴章(ソフトバンク新書)、「次世代ウェブ」佐々木俊尚(光文社新書)等、どれも非常に興味深くためになる本ばかりであった。こうした本がもっともっといろいろ出てきて欲しいという感じである。これらの本を読んでいて驚かされるのは、著者達の洞察力の鋭さもさることながら、本の中で紹介されている議論の新鮮さである。こうした新鮮な議論のポイントが新書で読めるというのは、ある意味かなりすごいことだと思う。幻冬舎の本あたりから始まった「書籍の新鮮さ」を重視する傾向が、こうしたジャンル、話題では、大きなプラスとして働いていると感じる。私としては、とにかく、このジャンルに関してはできる限り多くの人の話を聞いてみたい(本を読んでみたい)。そこで少し気がかりなのは、一見「ノウハウ本」のようなタイトルの本の中に、新鮮な意見の本があるのではないかということである。「上手なグーグルの使い方」といったノウハウ本と、上記の本は全然違うものであり、上記のような本で紹介されている議論にもっと触れたいと思っている人は、「ノウハウ本」のようなタイトルの本は買わないだろう。そうした本の中にすばらしい将来像が書かれた本が埋もれているのではないかという不安がぬぐえないのである。

NHKのこの本については、少し前にTVで見た記憶があったが、内容は番組よりも遙かに充実していて、「TVで見たから読む必要なし」という本ではない。これも、「TVで見たからいいや」と思ってしまいそうなところで、読まない人が多くいるとしたら残念な話である。読んだ後の、最先端の問題にふれたという充実感は、最初にあげたいくつかの本の中でも1,2を争う感じであった。但し、この本、2人の著者によって章ごとに交代でかかれており、内容の矛盾や文体のちぐはぐさは当然全く見られないが、両者で他方にやや遠慮して書かれているような気がした。各章の論点が明確な割には、踏み込み方において、そうした遠慮があったのではと少しもどかしい気がした。(「グーグル革命の衝撃」NHK取材班、NEK出版)
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「走れメロス」森見登美彦、「鴨川ホルモー」万城目学

「走れメロス」は、本屋大賞2位の「夜は短し歩けよ乙女」の関連作品ということで読んだ。一方、「鴨川ホルモー」も本屋大賞ベスト10にランクインした作品で、こちらはかなり前に読んだ本だ。三題噺ではないが、両書は、「京都」「学生」「少し不思議」という点で共通点が多い。また、私くらいの年代の人が読むと、遠い昔の自分の学生時代を思い出してしまう一種のノスタルジーを感じさせる点も同じだ。我々が学生の頃、我々の心情を代弁してくれたのは、柴田翔、庄司薫といった作家たちであった。先日、現在柴田翔の代表作が絶版になっていると言う話を聞いて、少しショックを受けた。庄司薫についても、今どの程度若者に読まれているのか、心許ない。柴田翔などは、私のもう1つ前の世代から「若者の代弁者」であり、少なくとも2世代にわたって読まれ続けたのだが、それからさらに20年以上「代弁者」であり続けることはできなかったということだ。万城目や森見の小説は、そうした「若者の代弁者」を狙っているようには見えないので、ある意味、時代とともに消えていく心配はないかもしれないが、そうかといって、その時代を代弁していなければ支持をうけることもできない。そのあたりのバランスが名作として長く読まれ続けるかどうかの分かれ目かもしれない。その観点から言うと、万城目よりも森見の本の方が普遍性があり、長く読み継がれていく可能性が高いように思われる(「鴨川ホルモ-」万城目学、産業編集センター)
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カール・ルイス

最近、大阪世界陸上のテレビCMでよく見かける、オリンピック・世界陸上での金メダル17個という陸上選手カール・ルイスのサインである。大昔に発売された野球カードのデザインを踏襲して作られたカードにサインがされて、それをフィルムのようなものでカバーしてある。このデザインのサインは多くの種類があるが、その特徴は、少し変わった有名人のサインが作られていることである。このカール・ルイスのサインの他、ボクシングの Mike Tyson、レスリングの Hulk Hogan、女子サッカーの Brandi Couture、サーフィンの Andy Irons といった様々なスポーツ選手のサインがあるかと思えば、競馬ジョッキーのJerry Baily、全米ホットドッグ早食い選手権チャンピョンの Takeru Kobayashi、全米書き取り選手権チャンピョン Wendy Guey といったかなりマニアックな人物のサインもあり、なかなか楽しい。
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ミーナの行進 小川洋子

今年の本屋大賞のベスト10で、唯一未読だった本書を読んだ直後に、本書こそベスト1でもおかしくないと思った。この本の魅力は、小説全体のすばらしさもさることながら、マッチ箱に添えられた小さな物語、主人公の1人がバレーボールの猫田選手に宛てた手紙、ノスタルジックな挿絵などの細部に心を揺すぶられる。主人公たちの小さな世界の物語の進行と絡みながら描写される現実の社会的事件の数々。
今の自分が小さいときの自分を見つめる目の優しさがそのまま全体の優しい雰囲気になっているにも関わらず、そこに描写されている細部に共通するテーマは「死」だ。語られる社会的事件は、川端康成の自殺であり、猫田選手の自殺であり、ミュンヘンオリンピックでのテロ事件である。主人公の世界においても、語られる事件らしい事件と言えば、終盤にくる登場人物の死である。主人公の読む本の感想も死にまつわるものばかりである。主人公自身の死生観が語られているところもある。社会を通して、自分の世界を通して、そして読む本を通して、主人公たちは死を見つめている。しかし、そうした死が凄惨なものでも、悲しいだけのものでもなく、静かに語られているところにこの本の真骨頂をみた。(「ミーナの行進」、小川洋子、中央公論新社)
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となりのクレーマー

名古屋~東京の往復の新幹線の中で読もうと思った本だが、読みやすさと話の面白さで、行きのなかだけで読み終えてしまった。速読術の長けた人ならば1時間もかからずに読めてしまうのではないかと思う。企業のクレーマー対応を専門としてきた人ならではの、臨場感のある描写が興味を持続させて一気に読ませてしまうということだ。クレーマ-にどのような事に注意しながら、どのように対応したかということは判るし、お客様第1主義と不当な要求への毅然とした対応のバランスの取り方の難しさといったことは伝わってきたが、それだけに終始してしまっているのが残念だった。勝手な感想であるが、全体的に優等生すぎる。クレーマーが増加していることの社会的背景とか、クレーマー側の心理といったことでも、経験豊かな筆者でしか書けないこと、判らないことがあるに違いない。筆者の扱ったクレーム件数は数千件に及ぶとのことであり、この本で取り扱われているのが数件なので、まだまだ、筆者には本を書く素材がいくらでもあるだろう。あまり節度を意識せず、もっと大胆に現場で思ったことを書いて欲しい。
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