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ミーナの行進 小川洋子

今年の本屋大賞のベスト10で、唯一未読だった本書を読んだ直後に、本書こそベスト1でもおかしくないと思った。この本の魅力は、小説全体のすばらしさもさることながら、マッチ箱に添えられた小さな物語、主人公の1人がバレーボールの猫田選手に宛てた手紙、ノスタルジックな挿絵などの細部に心を揺すぶられる。主人公たちの小さな世界の物語の進行と絡みながら描写される現実の社会的事件の数々。
今の自分が小さいときの自分を見つめる目の優しさがそのまま全体の優しい雰囲気になっているにも関わらず、そこに描写されている細部に共通するテーマは「死」だ。語られる社会的事件は、川端康成の自殺であり、猫田選手の自殺であり、ミュンヘンオリンピックでのテロ事件である。主人公の世界においても、語られる事件らしい事件と言えば、終盤にくる登場人物の死である。主人公の読む本の感想も死にまつわるものばかりである。主人公自身の死生観が語られているところもある。社会を通して、自分の世界を通して、そして読む本を通して、主人公たちは死を見つめている。しかし、そうした死が凄惨なものでも、悲しいだけのものでもなく、静かに語られているところにこの本の真骨頂をみた。(「ミーナの行進」、小川洋子、中央公論新社)
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