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キリストの棺 ヤコボビッチ&ベルグリーノ
1980年にエルサレムで1つの墓が発見された。そこには、10の骨棺が納められていて、そのうちの6つに「ヨセ(フ)」「マリア」「ヨセフの息子イエス」「マリアムネ(ギリシャ文字)」「マタイ」「シモン」「イエスの子ユダ」の刻印があったという。ここから全ての知的冒険が始まる。キリスト教に詳しくない私でも、「ヨセフ」「マリア」「イエス」とくればぴんと来るはずだが、発見した人々はほとんど重要視しなかったらしい。何故か?「マリアムネ」という聞きなれない名前は何を表しているのか、なぜその名前だけがギリシャ語で書かれているのか? しかもその骨棺の一部からは人骨が採取されDNA鑑定も可能だという。その結果わかったことは? そもそも「骨棺」とは何なのか?
キリスト教の正統派の見解を見直し、キリストの生涯を歴史的事実として再構築する動きという意味では、「ダ・ヴィンチ・コード」ブームの便乗本のように思えるが、語られている内容は、本家以上に衝撃的だ。ダ・ヴィンチ・コードがフィクションであるのに対して、本書はノンフィクションであり、衝撃の事実を語りつつも、その事実がキリスト教の教義、ユダヤ教の教義にどのような影響を与えるかを慎重に見極めながら検証が進められていく。その慎重な姿勢が、教義に致命的な影響を与えてしまっては「絵空事」として抹殺されてしまうという懸念によるものであったとは言え、そうした極めて抑制的な態度が大変重く感じられる。新しい証拠を見つけたときの喜びよりも、たどり着いた結論が現在の教義と矛盾しないと判った時の喜び、キリスト個人が言行一致の人であった証拠であると知った時の感銘の方が強く伝わってくる。
本書をめくるとまず、簡単な解説付きの口絵写真が大量に載っている。解説を読みながら写真をみても、なんのことだかほとんど理解できないのだが、どうやらそこに写っているのが「キリストの棺」ということだけが判る。最初の文字を読み始める前に、すでに期待度が最高潮になっているという仕掛けだ。読み進めていって、そういえばこの話は口絵の解説にあったなと、もう一度口絵を見直す。うまくできていると思う。
本書では、最初にあげた疑問について、竜頭蛇尾に終わることなく、思った以上に明確な結論が導き出されている。そうした点で満足度は高い。特に心に残ったのは、「骨棺」というものが何故キリストの生きた時代の前後の短い時代だけ作られたのか、その重要な歴史の証拠が今までほとんど歴史家によって注目されてこなかったのか、これだけイエスに関わる人の名前の棺が見つかっていながらそれをイエス本人と結び付けて考えなかったのか、などなど、その背後にある歴史を再構築することの難しさである。
(「キリストの棺」ヤコボビッチ&ベルグリーノ、イースト・プレス)
キリスト教の正統派の見解を見直し、キリストの生涯を歴史的事実として再構築する動きという意味では、「ダ・ヴィンチ・コード」ブームの便乗本のように思えるが、語られている内容は、本家以上に衝撃的だ。ダ・ヴィンチ・コードがフィクションであるのに対して、本書はノンフィクションであり、衝撃の事実を語りつつも、その事実がキリスト教の教義、ユダヤ教の教義にどのような影響を与えるかを慎重に見極めながら検証が進められていく。その慎重な姿勢が、教義に致命的な影響を与えてしまっては「絵空事」として抹殺されてしまうという懸念によるものであったとは言え、そうした極めて抑制的な態度が大変重く感じられる。新しい証拠を見つけたときの喜びよりも、たどり着いた結論が現在の教義と矛盾しないと判った時の喜び、キリスト個人が言行一致の人であった証拠であると知った時の感銘の方が強く伝わってくる。
本書をめくるとまず、簡単な解説付きの口絵写真が大量に載っている。解説を読みながら写真をみても、なんのことだかほとんど理解できないのだが、どうやらそこに写っているのが「キリストの棺」ということだけが判る。最初の文字を読み始める前に、すでに期待度が最高潮になっているという仕掛けだ。読み進めていって、そういえばこの話は口絵の解説にあったなと、もう一度口絵を見直す。うまくできていると思う。
本書では、最初にあげた疑問について、竜頭蛇尾に終わることなく、思った以上に明確な結論が導き出されている。そうした点で満足度は高い。特に心に残ったのは、「骨棺」というものが何故キリストの生きた時代の前後の短い時代だけ作られたのか、その重要な歴史の証拠が今までほとんど歴史家によって注目されてこなかったのか、これだけイエスに関わる人の名前の棺が見つかっていながらそれをイエス本人と結び付けて考えなかったのか、などなど、その背後にある歴史を再構築することの難しさである。
(「キリストの棺」ヤコボビッチ&ベルグリーノ、イースト・プレス)
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