バイオリニストは太っていてはならない。何故なら、腕が細くないとバイオリンと身体の一体感が崩れてしまう。バイオリンという楽器は身体も楽器の一部なのであると、私はそう思っている。そして、願わくば、鎖骨のくぼみがはっきりと見えるほど痩せていることが望ましい。ここまで言うと、おのずから女性バイオリニストの場合しか考えていないことがバレてしまうが。最後に、一番大事なことは、弾いているときの表情である。この表情が一番好きなのは諏訪内晶子だ。まあ、なんとも言えない。ただ、映像を見て聴いてくださいとしか言えない。
若手では庄司紗矢香の音を生み出す苦悶の表情から、それを生み出した後の一瞬の悦楽にも似た表情への変化に魅かれる。最近、南紫音の眉の吊り上げ方や目の閉じ方にも、同じような将来性を感じる。
結局、私はクラシックを音で楽しんでいるのではなく、邪悪にも目で楽しんでいるのである。だから、ヴァイオリンはCDではあまり聞かない。まあ、あさましい人間の身勝手な所業であるが、残りの人生が短いということで、クラシックをほんとうに愛する方々にはお許しを願いたい。人生の晩年を、ビートルズを聞くしかないのか!、と諦めていた者にとって、こうした邪道ではあるが、クラシックとの出会いは、一筋の光明がさしたと感謝している。