よし坊のあっちこっち

神出鬼没、中年オヤジ、いや、老年オヤジの何でも有りブログだ!

火事だ!-第一章 逃げろ

2007年02月13日 | いろいろ
しかし、この激しいドア叩きと怒号は何だ、しつこい。何かオカシイ。韓国語は挨拶程度の片言しか出来ないから、何を言っているのかさっぱり分からん。が、様子が変だ。起き上がった瞬間、うっすらと煙い匂がしたような気がしたが、それでも未だ何が起こっているのかわからない。恐る恐るドアを開けた。濃い煙の匂いが一挙に来た。廊下は既に腰から上は煙で見えない状態だ。火事だ!

そして女の人がわめいている(早く出ろと言っているらしい)。逃げなきゃ。その後は何をどうしたのかさっぱり記憶に無い。気がついてみたら、その女の人がよし坊の手を引っ張って、こっちだと言わんばかりに誘導してくれた。なんのことはない。部屋のまん前が非常階段だ。しかし、日頃非常階段などチェックもしないから、このざまだ。兎に角、外に出られた。ここは8階だ。このホテル、後で聞いたが、当時のソウルで、外に非常階段がある二つのホテルのその一つ。

上から次々と人が非常階段を降りてくる。押されながら下を見ると、三階四階あたりから、火が横に猛烈な勢いで吹き出している。降りながら、頭をよぎるのは、妻ともうすぐ一歳になる娘の顔ばかり。ほかの事は何も浮かばずだ。しかも走馬灯のように繰り返しやってくる。途中で逃げ道が途絶えたらどうする?そりゃ、ここから飛び降りるしかないわな。全く恐怖心も湧かず、いつその瞬間がきてもいい心境。不思議なものだ。きっと、人間、死を決意した時はこんなもんかと思う。そんなことを考えていたら、いつの間にか四階三階にたどり着き、そこは既に逃げ道確保され、無事通過。やっと一階の出口に来た。よし、助かった。だが、待てよ。最後の最後で上からの落下物に当って死ぬこともある。ここは最後の用心だ。おもむろに上を見上げると、何も落ちて来そうも無い。漸く外への第一歩を踏み出した。(つづく)