よし坊のあっちこっち

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映画三昧 - SULLY(サリー)

2016年09月12日 | 映画
9月に入ると映画もアカデミー狙いの話題作が続々と登場する。先週の金曜日に封切られた話題作のひとつ、SULLY(サリー)を観てきた。見応えのある映画だった。

事件や事故がメディアを通して報じられて我々は初めて何が起きたのかを知るが、それは断片的な場面の切り取りであるから、その後何が起こったのか、真相はどうだったのか、は知る由もない。

2009年1月15日に起こり、「ハドソン川の奇跡」として時のヒーローとなったUSエアの機長サレンバーガー(愛称サリー)とその事故の概要は、他の事件や事故が常にそうであるように、その後数日間続く新聞やテレビ報道で知る域を出るものではなかった。事故の概要を簡単に言えば、鳥の吸い込みによる二基のエンジン停止ーハドソン川に不時着ー乗客乗務員全員救助ーヒーロー機長の誕生 と言う流れとなり、めでたしめでたし、で終わり、そしていつの間にか我々の前から忘れられていった。しかし、事件であれ事故であれ、その真相と裏で何が起こっていたのかを我々が知るのは、その後の裁判や、公的機関による調査、時にはジャーナリスト魂旺盛な記者による地道な資料などによって、漸く分かるのである。この映画は、当時書きたてられた機長のヒーロー話の陰で、機長が直面する苦境にもがいた人間の苦悩の物語である。

サレンバーガー、サリーを演ずるトム・ハンクスがPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされる場面から映画は始まる。

映画は、事故調査委員会での”ハドソン川に着水しなくとも、空港に戻れたのではないか”が争点となる。事故の責任の所在で、損害補償の向け先が変わってくるから、機体製造メーカーや損保会社にとっては重大な関心事となる。

検証委員会では、機長の主張する二基のエンジン停止に対し、委員会側から一基は破損していたとはいえまだ動いていたのでは、との提起があり、それに基づいたシミュレーションで、無事空港に引き返せた事を立証しようとする。

サリーは委員会側の主張を否定し、更にシミュレーションそのものの有効性についても疑義を唱える。フライトレコーダーとボイスレコーダーからのデータを機会に入力してのシミュレーションにはヒューマンファクターが無視されている、と主張する。そして、審議の途中で動いていたとするエンジンが回収され完全に破損していたことが報告され、それに基づいたシミュレーションで、飛行機が空港には帰れない事が判明する。

サリーはこの映画で最も重要な一言を言い放つ。「いまだかつて全エンジンが停止した状態で訓練やシミュレーションして成功した者がいるだろうか。全エンジン停止状態はリアルなのである。シミュレーションではない」。この一言は委員会側に突き刺さる。

早々とオスカーレースに登場した感があるこの映画だが、この映画の関係者により興味深いコメントがある。「撮影の最中、映画を指揮するクリント・イーストウッドは立ちっ放しで指揮を執り、主演のトム・ハンクスも彼の傍らで同じように、あたかもイーストウッドの一挙手一投足と息遣いを感じ取ろうと役作りに没頭していた。」

日本で言えば、高倉健の映画に対するあの姿勢であろうか。


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