暑い夏も過ぎ、秋となった。
この9~10月の、私の住む茨城の情景を、詩的、いや私的に表現すると「夏は、暑さを背負い海に帰っていった。秋が涼しさを連れて山から戻ってきた。吹く風が、田や野山が実り始めたことを伝えている……。」 黄金色になびく、稲穂の波。ぽっくり顔を出す栗の実。柿も色づいてきた。アケビも大きくなり、手を伸ばしたくなる。
そしてリンゴ。私の住む茨城でも、リンゴ栽培が行われている。
常陸大宮市はリンゴ栽培の南限だそうだ。会社のすぐ近くに、観光リンゴ園がある。リンゴの実が木になっている風景は、私を子どもの頃読んだ懐かしい異国の物語の世界に誘う。リンゴは西洋の童話によく登場する。魔女に憎まれたお姫様は、毒リンゴを食べさせられ長い眠りに落ちる。また病弱な王子様はリンゴを食べて元気をとりもどす。……記憶はさだかではないがそんなのがあった。
先日、久しぶりにりんご園でのんびり過ごした。リンゴの木は、上部を剪定していくので、枝を下方に向かい伸ばしていく。老木は魔女が手を何本も伸ばしているように見える。向こうに見える西洋風のリンゴ園の建物には、お姫様が住んでいそうだ、などと、私の想像力は勝手に童話の世界を巡る。
……秋の日の美しい幻想である。
絵は会社近くのリンゴ園、御前山観光リンゴ園。 10月12日 岩下賢治