長野県塩尻市の平出遺跡に行ってきた。山の裾野の台地に縄文期の遺構が数多く発見発掘され、そこが整地され広々とした公園となっているのである。
当時の住居も7棟、想像・復元されている。しかし見学者は誰も見当たらない。
そんな風景の中に立ち、思うことは多々あったが、最も印象的だったのは、タンポポの群生だった。
日本のような、雨の多いところでは、台地での植物の群生というのは、ある特定の条件の元でしか成り立たない。例えば台風の大雨で台地の表土がすっかり流されてしまった後とか、急激な温度や湿度の変化で、特定の植物しか生き残れなかったとか、など。ところが、この平出の古墳跡は、整地がされ相当に年月が経ち、それほどの環境変化があったとは思われないのに、タンポポが群生しているのである。それが驚きである。しかもそのタンポポが、都市近郊では西洋タンポポにほとんど駆逐されている日本タンポポなのである。私が訪れたのは5月の初旬だが、既に綿毛を飛ばしているタンポポがあるものの、なお咲き誇っているものが無数ある。
私には、不思議な光景に思えた。消滅した文明と消滅しつつある植物群の稀な出会いが、なにか語りかけるものがあるように思えるのだった。
日本タンポポと西洋タンポポの違いは花びらを支える額のあり方にある。日本タンポポは額は綿毛を飛ばすまでしっかりと閉じているのに対し、西洋タンポポは額を開いた状態で咲く。下手な絵だが、左が日本タンポポ、右が西洋タンポポ。
縄文遺跡についてはまた改めて。【彬】