歴史の中にはいろいろなエピソードが隠されていて、私たちは歴史の大きな流れより、個々のエピソードの方が物語的に伝わるために、そこに真実をみたがる。例えば、江戸時代で言えば、忠臣蔵、吉田松陰の物語、桜田門の変、榎本武揚の伝記などなど。
みなもとたろう「風雲児たち」は、関ヶ原の戦いから幕末(明治維新までいくのだろう)までの流れを、劇画として描きとうしており、現在、幕末編だけで22巻を数える。考証も怠りなく、単なる劇画とは思われない力のいれようだ。もちろんマンガだから、笑話としてのオチがあって、その分、訴えるものが重畳化する。
愛読している私は、中でもターヘル・アナトミアの翻訳に奔走する杉田玄白・前野良沢を中心として、その関連で展開される蛮書関係の物語が好きだが、最近作の22巻「咸臨丸」から「木村摂津守」に至る物語が、それに増して出色を極めているので、紹介したい。
咸臨丸には勝海舟を艦長とする105名が乗り組んでいるが、その中にブルックという難破船のアメリカ人ら11名がいる。勝は艦長とはいえ、強度の船酔い癖があり、もっぱら操艦の指揮をとるのはブルックという船長である。この時のブルックの航海記というのがあって、本人の意思により死後50年間封印されてきたが、これが公開されることによって、咸臨丸の一部始終(往路)が明らかになった。彼ブルックの男気、それに応える勝、木村という人たちの気概というのが描かれており、思わず落涙する。通常「幕府保守派」対「薩長開明派」としてとらえられる幕末史だが、幕府・咸臨丸には年少の福沢諭吉ら文明の先進性を求める人材多数が乗り込んでおり、薩長側よりいっそう開明的だったのである。
絵として掲げたのは作品の扉とみなもとたろう氏の自画像であるが、マンガ著作権に見識を持っている氏には無断で拝借しました。作品の紹介なので、お許しいただけるものと思っています。【彬」
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