ノキアといえば、日本の携帯電話をガラパゴス化に位置づけた、世界最強のメーカーでした。
それが今や携帯事業を売却・撤退することになったのです。ニュースを聞いた時は驚きましたが、創業は紙パ業界で変遷を重ねてきた流れで、携帯・スマホのコモディティ・ヘルからの脱出の英断と聞き、備忘録としてとりあげさせていただきました。
フィンランドの国民が、ノキアの前CEO(最高経営責任者)のスティーブン・エロップ氏に怒っている。
ノキアは9月3日、かつて世界最大規模を誇った携帯電話事業を米マイクロソフトに54億4000万ユーロ(約7190億円)で売却することを発表した。それに伴い、エロップ氏は携帯電話事業の部門長に“降格”したのだが、売却後はマイクロソフトに幹部として招き入れられ、しかも、退任予定のスティーブ・バルマーCEOの後継者になると目されている。
さらに、マイクロソフトへの事業売却が完了した際には、1880万ユーロ(約25億円)もの“退職金”を受け取る契約になっており、その70%をマイクロソフトが負担するという。ノキアの携帯電話事業を再建できなかったにもかかわらず、古巣のマイクロソフトからこれほどの厚遇を受けることを聞けば、「エロップ氏はノキアCEOとして、本当にノキアのために経営してきたのか」との疑いの目を向けたくなる気持ちもわかる。
<中略>
「ウィンドウズ」への賭け、外れる
エロップ氏は2010年、ノキア再生の切り札として、マイクロソフトからヘッドハントされてきた。それまでノキアのCEOは代々フィンランド人が勤めてきたが、エロップ氏はカナダ人。約150年の歴史で初めて、外国人をトップに据えた。過去のしがらみを断って大胆な事業改革を実行し、米アップルや韓国サムスン電子との戦いで生き残る道を探るためだった。
ただ、エロップ氏は就任当初から、その手腕に厳しい視線が送られていた。フィンランドで最も愛され、尊敬されてきたブランド「NOKIA」に誇りを持つ社員たちを、カナダ人が掌握できるのかという懸念だ。実際、エロップ氏がノキアの独自OSの開発を中止し、マイクロソフトのOS「ウィンドウズフォン」を採用したことを契機に、優秀なエンジニアの多くが会社を去った。
エロップ氏が当時、急速に勢いを増していたグーグルのアンドロイドを採用せずに、他社との差別化を理由にウィンドウズフォンを採用したことは、大きな戦略ミスだったと指摘する声も多い。現在、スマホのOSのシェアは、アンドロイドが79%で、iOSが14.2%。一方、ウィンドウズフォンは3.3%に過ぎない。
だが、仮にノキアがアンドロイドを採用していても、厳しい状況には変わりはなかったとの見方もある。アンドロイドは、最大手サムスンだけではなく、中国の格安スマホにも採用されており、アンドロイドを搭載したスマホ同士で激しい価格競争を繰り広げている。エロップ氏が予見した通り、アンドロイドを採用すれば差別化がさらに難しくなるという事態が、現実に起きている。
「iPhone」の3日間の販売台数、ノキアのスマホの3カ月分以上
そのことを考えれば、「主力事業の売却」という大胆な決断は、企業の存続を確実なものにするには避けられなかっただろう。スマホは、かつての薄型テレビ以上の勢いで急速に低価格化が進んでいる。早くもコモディティー化が始まったスマホで、アップルやサムスンに比べてブランドが劣るノキアが市場奪還のチャンスを見出せる余地は小さくなるばかりだ。
<中略>
事業売却のタイミング、今しかなかった
ある事業からの撤退を成功させるには、タイミングが重要だ。その事業を売却するのなら、買い手が最も高く買ってくれる時であることが大切であろう。スマホ市場が急速にその魅力を失いつつある中で、ノキアの携帯電話事業の売却は、まさにぎりぎりのタイミングだったのではないか。
事実、ブラックベリーを展開してきたカナダのRIMも先月、投資会社に全株式を売却した。日本でも、NECやパナソニックがスマホ事業からの撤退を相次いで決めている。スマホ事業から撤退するなら、そのタイミングは「今」であり、それは、かつて携帯電話最大手だったノキアにとっても例外ではなかった。
売上規模149億ユーロ(約1兆9700億円)相当の携帯電話事業の売却により、ノキアの売上高はほぼ半減する。従業員は、全体の約36%に相当する3万6000人がマイクロソフトに移籍することになる。シラスマ会長は売却発表の記者会見で、「合理的に正しいステップだが、感情的にはとても複雑な思いだ。次の150年の始まりとしたい」と苦しい胸の内を露呈した。
事業規模半分に縮小し、次の「150年」に向けて再出発
ノキアは1865年に、パルプの製造会社として創業した。その後、タイヤなどゴム製品に進出し、やがてテレビやコンピューターなども手掛ける総合メーカーとなった。しかし、90年代に経営危機に直面。そこで選択と集中を加速し、携帯電話メーカーに脱皮したことが功を奏して、携帯電話世界最大手に飛躍した。そして今回の携帯電話事業売却で、ノキアは再びBtoB企業へと戻ることになる。
ノキアのような事業の大転換は、なかなか真似できないものかもしれない。特に、「テレビを家電の王様」と位置付け、薄型テレビ事業を再建する見通しが立たないまま、ずるずるとリストラを繰り返してきた日本の電機業界にとっては、なおさらだろう。
だが、ノキアによる携帯電話事業の売却は、企業を存続させるためには、時には、コア事業をも売却する覚悟が必要になることを私たちに教えている。ノキアには、果敢に事業を組み替えてきた150年の歴史があるだけに、説得力がある。ノキアの「脱・携帯電話」の成否はまだ分からないが、その行方に注目すれば、日本の電機業界にとっても参考になるヒントを見出せるのではないか。
2010年にヘッドハントされてエロップ氏がノキアへ移った時、携帯電話の市場シェアは、トップがノキア(34.2%)、2位がサムスン(20.1%)で、アップルは7位(2.7%)。スマートフォンのOSのシェアでも、ノキアの「シンビアン」が42.1%、カナダのRIMの「ブラックベリー」が18.2%、グーグルの「アンドロイド」が17.2%、アップルの「iOS」は14.2%だったのだそうですね。
しかし、携帯電話の主戦場が、従来型携帯からスマートフォンに移行する中、3年後には、スマホではサムスンが31.7%、アップルが14.2%となり、ノキアはトップ5にも入れず、携帯電話全体でも、サムスンが24.7%で首位に躍り出て、ノキアは14%で2位、3位に7.3%のアップと大きな変化が生じてしまいました。
OSを、サムスンに代表される「アンドロイド」を採用せず、差別化をする戦略を採ったのですが、自社開発は止めて「ウィンドゥズフォン」に変えたのですね。携帯電話・スマホ市場に出遅れたマイクロソフトの参入意欲と巻き返しを狙うノキアとの利害が一致した(=エロップ氏がキューピット役?)ということなのでしょう。
このOSの自社開発放棄で優秀な技術者が退職したのだそうです。
差別化で携帯・スマホ事業の生き残りを図ったノキアですが、自社開発OSでも、「ウィンドゥズフォン」でも狙いは叶わず、「アンドロイド」でコモディティ・ヘル化する市場をあきらめて脱出を計ったのですね。脱出するのに事業を売り払うには今が最後のチャンスだった。
紙・パルプで創業して150年。事業内容を時代に即して変遷させながら企業を存続させてきた実績から産まれた決断。
凄いの一言です。
一方、携帯・スマホ事業参入の橋頭保としてノキアと提携してきたマイクロソフト。乗り遅れて八方塞がりにはまりつつあるある状況はより深刻化したと言えるでしょう。高額でノキアの事業を買い取り、エロップ氏には退職金を支払いながらも、自社の次期CEOとして迎え入れる。
なんだか複雑な話ですね。パソコン用OSのWindowsでの成長が低迷するなか、携帯・スマホ業界へ進出するのに、結果的にノキアの買収に成功した。その立役者のエロップ氏に報奨金を贈るとともに、スティーブ・バルマーCEOの後任CEOとして迎え入れる...。
コモディティ・ヘルから脱出するノキア。後発ながら、そのコモディティ・ヘル市場へ脱出したノキアの責任者をCEOに呼び戻して参入するマイクロソフト。
両社の今後の同行に注目ですね。
米ゼネラル・エレクトリック(GE)のCEO(最高経営責任者)であるジェフ・イメルト氏が発した言葉です。各社の製品やサービスが特徴によって差異化できなくなり、その結果、価格競争に陥る。その先に待っているのは地獄(ヘル)ということを示しています。
コモディティ・ヘル:日経ビジネスDigital より
冒頭の画像は、ノキアの携帯電話事業売却の記者会見で話す、スティーブン・エロップ前CEO
この花の名前は、水蓮
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