英フィナンシャル・タイムズ(FT)は11月16日、ウクライナの情報機関の評価を引用し、今年初めにウクライナ軍に奪われた領土の奪還を目指すロシアの取り組みを支援するため、北朝鮮がロシアに国産の「170ミリ M1989自走榴弾砲」50門と「240ミリ多連装ロケット砲システム」20基を提供、それらはクルスク州に移送されたと報じたと、軍事アナリストの西村 金一氏。
この火砲と多連装砲がウクライナ軍を苦しめるのか、それとも役に立たないのかを考察すると、西村氏。
私は、30年前からこの火砲に特別な関心を持っていた。
なぜかというと、これはソウルを直接射撃できるように砲身を長くして発射威力を増大させ、射撃距離を延伸させた北朝鮮の自信作といわれているからだと、西村氏。
北朝鮮は、あらゆる機会にこの砲を大量に海岸に並べて、大きな火炎を出しながら射撃する写真を公表していた。
今回は、このような特異な火砲がウクライナ戦争に提供されることになり、この火砲と多連装砲がウクライナ軍を苦しめるのか、それとも役に立たないのかを考察すると、西村氏。
ロシアは、ウクライナ侵攻の戦争で大量の火砲(榴弾砲・多連装砲・迫撃砲)を失った。その量は、この10月末で2万門を超えた。
ロシアは、侵攻当初では、使える火砲は約4000門であった。
その後、ウクライナ軍参謀部の発表では、現在2万門の損失があったとされている。
ロシアはとうとう、製造している量だけでは足りず、北朝鮮の火砲まで取り込まなければならなくなった。
ウクライナとの地上戦で火力の優勢を獲得するだけの砲が不足し、砲弾を十分に発射できなくなりつつあると、西村氏。
冷戦時代、米欧とロシアの砲兵同志が撃ち合えば、米欧の火砲の射程外から射撃ができるように考案された。
世界で、砲身が長い火砲として知られているのは、ロシアの「2S7ピオン 203ミリ自走カノン砲」と北朝鮮の「170ミリ火砲M1989コクサン」だけ。
ロシアの2S7ピオンは、現在では使用されていない。砲身が長すぎて、多くの故障が生じたからだろうと、西村氏。
ロシアや北朝鮮のこれらの火砲の射程は、日米の火砲よりも砲身も射程も約1.5倍長い。
ロシアの火砲には、最新型の「2S35 コアリツィヤ-SV 152ミリ自走榴弾砲」(最大射程は精密誘導砲弾で70キロ、通常弾でも40キロ)があるが、その保有数量はたったの8両。
現実には使用されてはいないと考えてよい。おそらく、精密誘導の技術が完全に成功していないからだろうと、西村氏。
ロシアが近年、大量に生産し、この戦争の映像でも多く出現したのが主力の火砲である「2S19ムスタ-S 152ミリ」。
最大射程が通常弾の場合24.7キロ、噴進弾では36キロである。弾の種類には、長距離精密誘導砲弾はないのだそうです。
したがって、10キロ離れたそれらの目標に向けて、これらを発射したとして、500メートル前後離れて落下しても当然のことであると、西村氏。
一方、米欧がウクライナに供与している「155ミリ長距離精密誘導砲弾M982 エクスカリバー」は墳進弾機能を持ち40~57キロ飛翔し、滑空翼とGPS誘導により直径10~40メートルの円の中に、2発発射すれば1発は入ることができるものなのだそです。
ロシアはこの劣勢を補うために、精度は悪くてもエクスカリバーと同じ射程を持つ火砲が必要。
それが、北朝鮮の170ミリ榴弾砲と240ミリ多連装砲なのだと、西村氏。
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、ソウルを狙って長射程で射撃しようとして設計されているために、砲身が細くて異常ともいえるほどに長い。
このため、この火砲の砲身は、300~500発ほど発射(戦場での10日から1か月の砲弾発射量)すれば、おそらく壊れるだろうと、西村氏。
また、衝撃も大きいので、火砲を支える装置や砲身の後退の衝撃を緩和する装置が壊れることにもなるとも。
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、構造上の問題なのか、特殊な火薬を使用しているためなのか、砲口から大きな火炎が出るのだそうです。
一般市民には脅威を与えるが、軍事専門家から見れば、「おそまつ」と言うほかはない。
射撃中に大きな火炎が出ると、その火炎は遠くからでも見える。
遠くから見えれば、ウクライナの監視によって発見され、その位置が標定され、砲兵部隊に連絡が行く。
米欧から供与されたエクスカリバー弾が発射されると、170ミリ榴弾砲や240ミリ多連装砲そのものに命中して破壊され、操作員に破片が当たり、死傷することになると、西村氏。
北朝鮮は、韓国を恫喝するために、170ミリ榴弾砲や多連装ロケット砲を海岸に並べて射撃している写真を、1年間に何度も発表している。
2010年には、各種多連装ロケット砲を韓国西海、北朝鮮から11~15キロにある延坪島に撃ち込んだことがある。
この時、1回目150発と2回目20発に分けて発射した。1回目の150発のうち島内には約60発が着弾し、残りは海に着弾した。
島内にわずか約30%しか入らなかったのは、射撃精度の悪さを証明している。また、合計170発のうち約20発、12%が不発であった。
北朝鮮は普段から、これらを海岸線に並べて射撃し、韓国を恫喝しているものの、実際の精度の悪さや不発弾の多さは度を超していると、西村氏。
金正恩総書記は、保有する兵器に自信をもっていたと思われるが、急遽実戦の場に投入されて、その兵器の劣悪さが世界に暴露されることになる。
北朝鮮の火砲は発見され、あるいは、砲身が破裂するほどの事故が発生するだろう。
また、ロケット弾は命中精度が悪く、不発弾も多いことも明らかになる。
兵士も近代兵器を使った戦いには不慣れであり、また命令が上手く伝わらないために、多くの兵士が狭い範囲に集まることが多くなるだろう。
つまり、北朝鮮の火砲等や兵士は、ウクライナ軍の格好の餌食になる可能性が高いと、西村氏。
北朝鮮兵の多くの損失や兵器の大きな欠陥が、実戦の場で暴露され、金正恩軍が笑われる大恥を晒す事態になることが予想されるとも。
# 冒頭の画像は、北朝鮮製170ミリ自走榴弾砲M1989コクサンの射撃状況
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この火砲と多連装砲がウクライナ軍を苦しめるのか、それとも役に立たないのかを考察すると、西村氏。
まもなく赤っ恥かく金正恩、北朝鮮製兵器の時代遅れが白日の下に 相次ぐ自爆や不発弾、射撃後にはウクライナ軍の格好の攻撃目標に | JBpress (ジェイビープレス) 2024.11.24(日) 西村 金一
英フィナンシャル・タイムズ(FT)は11月16日、ウクライナの情報機関の評価を引用し、今年初めにウクライナ軍に奪われた領土の奪還を目指すロシアの取り組みを支援するため、北朝鮮がロシアに国産の「170ミリ M1989自走榴弾砲」50門と「240ミリ多連装ロケット砲システム」20基を提供、それらはクルスク州に移送されたと報じた。
この170ミリM1989自走榴弾砲(1989年確認)は、通常の火砲よりも砲身がかなり長い。
私は、30年前からこの火砲に特別な関心を持っていた。
なぜかというと、これはソウルを直接射撃できるように砲身を長くして発射威力を増大させ、射撃距離を延伸させた北朝鮮の自信作といわれているからだ。
米欧の火砲と比べても、その砲身は細くて異様なほど長い。
北朝鮮は、あらゆる機会にこの砲を大量に海岸に並べて、大きな火炎を出しながら射撃する写真を公表していた。
今回は、このような特異な火砲がウクライナ戦争に提供されることになり、この火砲と多連装砲がウクライナ軍を苦しめるのか、それとも役に立たないのかを考察する。
1.粗悪な北朝鮮の火砲でも欲しいロシア
ロシアは、ウクライナ侵攻の戦争で大量の火砲(榴弾砲・多連装砲・迫撃砲)を失った。その量は、この10月末で2万門を超えた。
ロシアは、侵攻当初では、使える火砲は約4000門であった。
その後、ウクライナ軍参謀部の発表では、現在2万門の損失があったとされている。
現有の数量よりも損失量が多いのは、屋外の砲廠(ほうしょう:火砲を置いておく場所)に野ざらしになっていた予備の火砲を整備したものと新たに製造したものを戦場に送り出した結果、2万門という量の損失が出たということだ。
ロシアはとうとう、製造している量だけでは足りず、北朝鮮の火砲まで取り込まなければならなくなった。
ウクライナとの地上戦で火力の優勢を獲得するだけの砲が不足し、砲弾を十分に発射できなくなりつつあるのだ。
2.細く異常に長い北朝鮮製自走榴弾砲
火砲には、NATO(北大西洋条約機構)タイプとロシアタイプがある。
NATOタイプは、総合的な性能を発揮させるためにバランスよく製造されている。
ロシアのタイプは、射程を長くして遠くの目標を射撃できるように、砲身を長くしている。
そのため、ロシアの火砲は、加農砲(ガン)と榴弾砲(ハウザー)を一緒にして、「ガンハウザー」とも呼称されている。
冷戦時代、米欧とロシアの砲兵同志が撃ち合えば、米欧の火砲の射程外から射撃ができるように考案された。
砲と砲が戦う「対砲兵戦」で勝利するためだ。
世界で、砲身が長い火砲として知られているのは、ロシアの「2S7ピオン 203ミリ自走カノン砲」と北朝鮮の「170ミリ火砲M1989コクサン」だけである。
ロシアの2S7ピオンは、現在では使用されていない。砲身が長すぎて、多くの故障が生じたからだろう。
北朝鮮の口径170ミリのコクサンの最大射程は、通常砲弾では40キロ、噴進弾(RAP弾)では54キロである。
ロシアの口径203ミリのピオンの最大射程は、通常砲弾では37.5キロ、噴進弾では55キロである。
米国の203ミリ榴弾砲の最大射程は、通常砲弾では25キロ、噴進弾では30キロである。
自衛隊の203ミリ榴弾砲も米国製のものとほぼ同じである。
ロシアや北朝鮮のこれらの火砲の射程は、日米の火砲よりも砲身も射程も約1.5倍長い。この2つの火砲を除けば、射程はほぼ同じである。
3.ロシアはなぜ射程の長い火砲が欲しいのか
ロシアの火砲には、最新型の「2S35 コアリツィヤ-SV 152ミリ自走榴弾砲」(最大射程は精密誘導砲弾で70キロ、通常弾でも40キロ)があるが、その保有数量はたったの8両である。
戦線で精密誘導砲弾が使用された、あるいはこの火砲が破壊されたという情報がないので、現実には使用されてはいないと考えてよいだろう。
ロシアは、この火砲を大量に生産して戦場に送り込みたいのだろうが、できない事情がある。おそらく、精密誘導の技術が完全に成功していないからだろう。
ロシアが近年、大量に生産し、この戦争の映像でも多く出現したのが主力の火砲である「2S19ムスタ-S 152ミリ」だ。
この自走榴弾砲は、最大射程が通常弾の場合24.7キロ、噴進弾では36キロである。弾の種類には、長距離精密誘導砲弾はない。
そのため、この通常砲弾は1つの建物、防空兵器や火砲などの目標に命中させることはできない。
したがって、10キロ離れたそれらの目標に向けて、これらを発射したとして、500メートル前後離れて落下しても当然のことである。
一方、米欧がウクライナに供与している「155ミリ長距離精密誘導砲弾M982 エクスカリバー」は墳進弾機能を持ち40~57キロ飛翔し、滑空翼とGPS誘導により直径10~40メートルの円の中に、2発発射すれば1発は入ることができるものだ。
ロシアの火砲や防空兵器が破壊されているのは、ほとんど自爆型無人機とこの砲弾によるものだ。
ロシアはこの劣勢を補うために、精度は悪くてもエクスカリバーと同じ射程を持つ火砲が必要なのである。
それが、北朝鮮の170ミリ榴弾砲と240ミリ多連装砲なのである。
4.1000発撃つ前に砲身破裂する北朝鮮火砲
同じ口径でも、砲身が長く射程が長いということは、火砲の構造上、問題が発生しやすい。
射程を長くするためには、装薬といわれる発射のための火薬が多く使われる。その爆発の威力で遠くに飛ばすのである。
また、砲身を長くすると、砲弾に強い圧力をかけ砲弾の回転力を高めることができる。
では、射程を長くするために砲身が長ければ長いほどいいのかというと、そこには限度というものがある。
爆発力を高め砲身に圧力を加えすぎると、砲身内部が摩耗し亀裂ができる。
それがさらに大きくなると、砲口内で砲弾が破裂し砲身が折れるか、粉々に破壊することになる。
砲身が細くて長ければ、その可能性が高くなる。
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、ソウルを狙って長射程で射撃しようとして設計されているために、砲身が細くて異常ともいえるほどに長い。
このため、この火砲の砲身は、300~500発ほど発射(戦場での10日から1か月の砲弾発射量)すれば、おそらく壊れるであろう。
また、衝撃も大きいので、火砲を支える装置や砲身の後退の衝撃を緩和する装置が壊れることにもなる。
5.射撃後直ちに発見される北朝鮮榴弾砲
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、構造上の問題なのか、特殊な火薬を使用しているためなのか、砲口から大きな火炎が出る。空砲の場合も実弾の場合もである。
北朝鮮は、大きな火炎が出る写真を朝鮮通信などを通じて公表している。
この写真を使えば、一般市民には脅威を与えるが、軍事専門家から見れば、「おそまつ」と言うほかはない。
射撃中に大きな火炎が出ると、その火炎は遠くからでも見える。
遠くから見えれば、ウクライナの監視によって発見され、その位置が標定され、砲兵部隊に連絡が行く。
米欧から供与されたエクスカリバー弾が発射されると、170ミリ榴弾砲や240ミリ多連装砲そのものに命中して破壊され、操作員に破片が当たり、死傷することになる。
北朝鮮の砲を操作する北朝鮮兵にとっては、エクスカリバー弾のことは知らされてはいないために、飛び上がって驚いているうちに死傷することになるだろう。
6.精度の悪い北朝鮮多連装ロケット砲
北朝鮮は今年8月、240ミリ多連装ロケット砲システムの試験射撃を実施した。
しかし、このロケット砲はまだ開発中なので、これをロシアへは提供しないだろう。
提供するのは、過去に製造したものと見るのが妥当だろう。
その性能について過去の事例をもとに紹介する。
北朝鮮は、韓国を恫喝するために、170ミリ榴弾砲や多連装ロケット砲を海岸に並べて射撃している写真を、1年間に何度も発表している。
北朝鮮は2010年、各種多連装ロケット砲を韓国西海、北朝鮮から11~15キロにある延坪島に撃ち込んだことがある。
この島は、東西3.2キロ・南北3キロの三角形の島である。
この時、1回目150発と2回目20発に分けて発射した。1回目の150発のうち島内には約60発が着弾し、残りは海に着弾した。
島内にわずか約30%しか入らなかったのは、射撃精度の悪さを証明している。また、合計170発のうち約20発、12%が不発であった。
通常、100発発射すれば不発弾は1~2発程度だ。北朝鮮が実戦場で使用した弾が12%も不発というのは多すぎる。
北朝鮮は普段から、これらを海岸線に並べて射撃し、韓国を恫喝しているものの、実際の精度の悪さや不発弾の多さは度を超している。
北朝鮮が、ロシアのクルスク州でロケット弾を射撃すれば、友軍陣地に弾が落下し、多くの不発弾が発見されることになるだろう。
7.北朝鮮兵や火砲は精密誘導砲弾の餌食
北朝鮮は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領から求められて、最初は「イスカンデルMミサイル」に酷似した「KN-23」とロシア軍用の砲弾を、次には北朝鮮の兵士約11000人、その次には170ミリ榴弾砲や旧式の240ミリ多連装ロケット砲を差し出している。
北朝鮮は、自国の優秀な兵器で韓国を威嚇してきた。それらの兵器が実戦の場で使用されるのである。
北朝鮮、特に金正恩総書記は、保有する兵器に自信をもっていたと思われるが、急遽実戦の場に投入されて、その兵器の劣悪さが世界に暴露されることになる。
北朝鮮の火砲は発見され、あるいは、砲身が破裂するほどの事故が発生するだろう。
また、ロケット弾は命中精度が悪く、不発弾も多いことも明らかになる。
兵士も近代兵器を使った戦いには不慣れであり、また命令が上手く伝わらないために、多くの兵士が狭い範囲に集まることが多くなるだろう。
つまり、北朝鮮の火砲等や兵士は、ウクライナ軍の格好の餌食になる可能性が高い。
北朝鮮兵の多くの損失や兵器の大きな欠陥が、実戦の場で暴露され、金正恩軍が笑われる大恥を晒す事態になることが予想される。
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西村 金一(にしむら・きんいち)
1952年生まれ。法政大学卒業、第1空挺団、幹部学校指揮幕僚課程(CGS)修了、防衛省・統合幕僚監部・情報本部等の情報分析官、防衛研究所研究員、第12師団第2部長、幹部学校戦略教官室副室長等として勤務した。定年後、三菱総合研究所専門研究員、2012年から軍事・情報戦略研究所長(軍事アナリスト)として独立。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)は11月16日、ウクライナの情報機関の評価を引用し、今年初めにウクライナ軍に奪われた領土の奪還を目指すロシアの取り組みを支援するため、北朝鮮がロシアに国産の「170ミリ M1989自走榴弾砲」50門と「240ミリ多連装ロケット砲システム」20基を提供、それらはクルスク州に移送されたと報じた。
この170ミリM1989自走榴弾砲(1989年確認)は、通常の火砲よりも砲身がかなり長い。
私は、30年前からこの火砲に特別な関心を持っていた。
なぜかというと、これはソウルを直接射撃できるように砲身を長くして発射威力を増大させ、射撃距離を延伸させた北朝鮮の自信作といわれているからだ。
米欧の火砲と比べても、その砲身は細くて異様なほど長い。
北朝鮮は、あらゆる機会にこの砲を大量に海岸に並べて、大きな火炎を出しながら射撃する写真を公表していた。
今回は、このような特異な火砲がウクライナ戦争に提供されることになり、この火砲と多連装砲がウクライナ軍を苦しめるのか、それとも役に立たないのかを考察する。
1.粗悪な北朝鮮の火砲でも欲しいロシア
ロシアは、ウクライナ侵攻の戦争で大量の火砲(榴弾砲・多連装砲・迫撃砲)を失った。その量は、この10月末で2万門を超えた。
ロシアは、侵攻当初では、使える火砲は約4000門であった。
その後、ウクライナ軍参謀部の発表では、現在2万門の損失があったとされている。
現有の数量よりも損失量が多いのは、屋外の砲廠(ほうしょう:火砲を置いておく場所)に野ざらしになっていた予備の火砲を整備したものと新たに製造したものを戦場に送り出した結果、2万門という量の損失が出たということだ。
ロシアはとうとう、製造している量だけでは足りず、北朝鮮の火砲まで取り込まなければならなくなった。
ウクライナとの地上戦で火力の優勢を獲得するだけの砲が不足し、砲弾を十分に発射できなくなりつつあるのだ。
2.細く異常に長い北朝鮮製自走榴弾砲
火砲には、NATO(北大西洋条約機構)タイプとロシアタイプがある。
NATOタイプは、総合的な性能を発揮させるためにバランスよく製造されている。
ロシアのタイプは、射程を長くして遠くの目標を射撃できるように、砲身を長くしている。
そのため、ロシアの火砲は、加農砲(ガン)と榴弾砲(ハウザー)を一緒にして、「ガンハウザー」とも呼称されている。
冷戦時代、米欧とロシアの砲兵同志が撃ち合えば、米欧の火砲の射程外から射撃ができるように考案された。
砲と砲が戦う「対砲兵戦」で勝利するためだ。
世界で、砲身が長い火砲として知られているのは、ロシアの「2S7ピオン 203ミリ自走カノン砲」と北朝鮮の「170ミリ火砲M1989コクサン」だけである。
ロシアの2S7ピオンは、現在では使用されていない。砲身が長すぎて、多くの故障が生じたからだろう。
北朝鮮の口径170ミリのコクサンの最大射程は、通常砲弾では40キロ、噴進弾(RAP弾)では54キロである。
ロシアの口径203ミリのピオンの最大射程は、通常砲弾では37.5キロ、噴進弾では55キロである。
米国の203ミリ榴弾砲の最大射程は、通常砲弾では25キロ、噴進弾では30キロである。
自衛隊の203ミリ榴弾砲も米国製のものとほぼ同じである。
ロシアや北朝鮮のこれらの火砲の射程は、日米の火砲よりも砲身も射程も約1.5倍長い。この2つの火砲を除けば、射程はほぼ同じである。
3.ロシアはなぜ射程の長い火砲が欲しいのか
ロシアの火砲には、最新型の「2S35 コアリツィヤ-SV 152ミリ自走榴弾砲」(最大射程は精密誘導砲弾で70キロ、通常弾でも40キロ)があるが、その保有数量はたったの8両である。
戦線で精密誘導砲弾が使用された、あるいはこの火砲が破壊されたという情報がないので、現実には使用されてはいないと考えてよいだろう。
ロシアは、この火砲を大量に生産して戦場に送り込みたいのだろうが、できない事情がある。おそらく、精密誘導の技術が完全に成功していないからだろう。
ロシアが近年、大量に生産し、この戦争の映像でも多く出現したのが主力の火砲である「2S19ムスタ-S 152ミリ」だ。
この自走榴弾砲は、最大射程が通常弾の場合24.7キロ、噴進弾では36キロである。弾の種類には、長距離精密誘導砲弾はない。
そのため、この通常砲弾は1つの建物、防空兵器や火砲などの目標に命中させることはできない。
したがって、10キロ離れたそれらの目標に向けて、これらを発射したとして、500メートル前後離れて落下しても当然のことである。
一方、米欧がウクライナに供与している「155ミリ長距離精密誘導砲弾M982 エクスカリバー」は墳進弾機能を持ち40~57キロ飛翔し、滑空翼とGPS誘導により直径10~40メートルの円の中に、2発発射すれば1発は入ることができるものだ。
ロシアの火砲や防空兵器が破壊されているのは、ほとんど自爆型無人機とこの砲弾によるものだ。
ロシアはこの劣勢を補うために、精度は悪くてもエクスカリバーと同じ射程を持つ火砲が必要なのである。
それが、北朝鮮の170ミリ榴弾砲と240ミリ多連装砲なのである。
4.1000発撃つ前に砲身破裂する北朝鮮火砲
同じ口径でも、砲身が長く射程が長いということは、火砲の構造上、問題が発生しやすい。
射程を長くするためには、装薬といわれる発射のための火薬が多く使われる。その爆発の威力で遠くに飛ばすのである。
また、砲身を長くすると、砲弾に強い圧力をかけ砲弾の回転力を高めることができる。
では、射程を長くするために砲身が長ければ長いほどいいのかというと、そこには限度というものがある。
爆発力を高め砲身に圧力を加えすぎると、砲身内部が摩耗し亀裂ができる。
それがさらに大きくなると、砲口内で砲弾が破裂し砲身が折れるか、粉々に破壊することになる。
砲身が細くて長ければ、その可能性が高くなる。
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、ソウルを狙って長射程で射撃しようとして設計されているために、砲身が細くて異常ともいえるほどに長い。
このため、この火砲の砲身は、300~500発ほど発射(戦場での10日から1か月の砲弾発射量)すれば、おそらく壊れるであろう。
また、衝撃も大きいので、火砲を支える装置や砲身の後退の衝撃を緩和する装置が壊れることにもなる。
5.射撃後直ちに発見される北朝鮮榴弾砲
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、構造上の問題なのか、特殊な火薬を使用しているためなのか、砲口から大きな火炎が出る。空砲の場合も実弾の場合もである。
北朝鮮は、大きな火炎が出る写真を朝鮮通信などを通じて公表している。
この写真を使えば、一般市民には脅威を与えるが、軍事専門家から見れば、「おそまつ」と言うほかはない。
射撃中に大きな火炎が出ると、その火炎は遠くからでも見える。
遠くから見えれば、ウクライナの監視によって発見され、その位置が標定され、砲兵部隊に連絡が行く。
米欧から供与されたエクスカリバー弾が発射されると、170ミリ榴弾砲や240ミリ多連装砲そのものに命中して破壊され、操作員に破片が当たり、死傷することになる。
北朝鮮の砲を操作する北朝鮮兵にとっては、エクスカリバー弾のことは知らされてはいないために、飛び上がって驚いているうちに死傷することになるだろう。
6.精度の悪い北朝鮮多連装ロケット砲
北朝鮮は今年8月、240ミリ多連装ロケット砲システムの試験射撃を実施した。
しかし、このロケット砲はまだ開発中なので、これをロシアへは提供しないだろう。
提供するのは、過去に製造したものと見るのが妥当だろう。
その性能について過去の事例をもとに紹介する。
北朝鮮は、韓国を恫喝するために、170ミリ榴弾砲や多連装ロケット砲を海岸に並べて射撃している写真を、1年間に何度も発表している。
北朝鮮は2010年、各種多連装ロケット砲を韓国西海、北朝鮮から11~15キロにある延坪島に撃ち込んだことがある。
この島は、東西3.2キロ・南北3キロの三角形の島である。
この時、1回目150発と2回目20発に分けて発射した。1回目の150発のうち島内には約60発が着弾し、残りは海に着弾した。
島内にわずか約30%しか入らなかったのは、射撃精度の悪さを証明している。また、合計170発のうち約20発、12%が不発であった。
通常、100発発射すれば不発弾は1~2発程度だ。北朝鮮が実戦場で使用した弾が12%も不発というのは多すぎる。
北朝鮮は普段から、これらを海岸線に並べて射撃し、韓国を恫喝しているものの、実際の精度の悪さや不発弾の多さは度を超している。
北朝鮮が、ロシアのクルスク州でロケット弾を射撃すれば、友軍陣地に弾が落下し、多くの不発弾が発見されることになるだろう。
7.北朝鮮兵や火砲は精密誘導砲弾の餌食
北朝鮮は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領から求められて、最初は「イスカンデルMミサイル」に酷似した「KN-23」とロシア軍用の砲弾を、次には北朝鮮の兵士約11000人、その次には170ミリ榴弾砲や旧式の240ミリ多連装ロケット砲を差し出している。
北朝鮮は、自国の優秀な兵器で韓国を威嚇してきた。それらの兵器が実戦の場で使用されるのである。
北朝鮮、特に金正恩総書記は、保有する兵器に自信をもっていたと思われるが、急遽実戦の場に投入されて、その兵器の劣悪さが世界に暴露されることになる。
北朝鮮の火砲は発見され、あるいは、砲身が破裂するほどの事故が発生するだろう。
また、ロケット弾は命中精度が悪く、不発弾も多いことも明らかになる。
兵士も近代兵器を使った戦いには不慣れであり、また命令が上手く伝わらないために、多くの兵士が狭い範囲に集まることが多くなるだろう。
つまり、北朝鮮の火砲等や兵士は、ウクライナ軍の格好の餌食になる可能性が高い。
北朝鮮兵の多くの損失や兵器の大きな欠陥が、実戦の場で暴露され、金正恩軍が笑われる大恥を晒す事態になることが予想される。
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西村 金一(にしむら・きんいち)
1952年生まれ。法政大学卒業、第1空挺団、幹部学校指揮幕僚課程(CGS)修了、防衛省・統合幕僚監部・情報本部等の情報分析官、防衛研究所研究員、第12師団第2部長、幹部学校戦略教官室副室長等として勤務した。定年後、三菱総合研究所専門研究員、2012年から軍事・情報戦略研究所長(軍事アナリスト)として独立。
私は、30年前からこの火砲に特別な関心を持っていた。
なぜかというと、これはソウルを直接射撃できるように砲身を長くして発射威力を増大させ、射撃距離を延伸させた北朝鮮の自信作といわれているからだと、西村氏。
北朝鮮は、あらゆる機会にこの砲を大量に海岸に並べて、大きな火炎を出しながら射撃する写真を公表していた。
今回は、このような特異な火砲がウクライナ戦争に提供されることになり、この火砲と多連装砲がウクライナ軍を苦しめるのか、それとも役に立たないのかを考察すると、西村氏。
ロシアは、ウクライナ侵攻の戦争で大量の火砲(榴弾砲・多連装砲・迫撃砲)を失った。その量は、この10月末で2万門を超えた。
ロシアは、侵攻当初では、使える火砲は約4000門であった。
その後、ウクライナ軍参謀部の発表では、現在2万門の損失があったとされている。
ロシアはとうとう、製造している量だけでは足りず、北朝鮮の火砲まで取り込まなければならなくなった。
ウクライナとの地上戦で火力の優勢を獲得するだけの砲が不足し、砲弾を十分に発射できなくなりつつあると、西村氏。
冷戦時代、米欧とロシアの砲兵同志が撃ち合えば、米欧の火砲の射程外から射撃ができるように考案された。
世界で、砲身が長い火砲として知られているのは、ロシアの「2S7ピオン 203ミリ自走カノン砲」と北朝鮮の「170ミリ火砲M1989コクサン」だけ。
ロシアの2S7ピオンは、現在では使用されていない。砲身が長すぎて、多くの故障が生じたからだろうと、西村氏。
ロシアや北朝鮮のこれらの火砲の射程は、日米の火砲よりも砲身も射程も約1.5倍長い。
ロシアの火砲には、最新型の「2S35 コアリツィヤ-SV 152ミリ自走榴弾砲」(最大射程は精密誘導砲弾で70キロ、通常弾でも40キロ)があるが、その保有数量はたったの8両。
現実には使用されてはいないと考えてよい。おそらく、精密誘導の技術が完全に成功していないからだろうと、西村氏。
ロシアが近年、大量に生産し、この戦争の映像でも多く出現したのが主力の火砲である「2S19ムスタ-S 152ミリ」。
最大射程が通常弾の場合24.7キロ、噴進弾では36キロである。弾の種類には、長距離精密誘導砲弾はないのだそうです。
したがって、10キロ離れたそれらの目標に向けて、これらを発射したとして、500メートル前後離れて落下しても当然のことであると、西村氏。
一方、米欧がウクライナに供与している「155ミリ長距離精密誘導砲弾M982 エクスカリバー」は墳進弾機能を持ち40~57キロ飛翔し、滑空翼とGPS誘導により直径10~40メートルの円の中に、2発発射すれば1発は入ることができるものなのだそです。
ロシアはこの劣勢を補うために、精度は悪くてもエクスカリバーと同じ射程を持つ火砲が必要。
それが、北朝鮮の170ミリ榴弾砲と240ミリ多連装砲なのだと、西村氏。
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、ソウルを狙って長射程で射撃しようとして設計されているために、砲身が細くて異常ともいえるほどに長い。
このため、この火砲の砲身は、300~500発ほど発射(戦場での10日から1か月の砲弾発射量)すれば、おそらく壊れるだろうと、西村氏。
また、衝撃も大きいので、火砲を支える装置や砲身の後退の衝撃を緩和する装置が壊れることにもなるとも。
北朝鮮の170ミリ榴弾砲は、構造上の問題なのか、特殊な火薬を使用しているためなのか、砲口から大きな火炎が出るのだそうです。
一般市民には脅威を与えるが、軍事専門家から見れば、「おそまつ」と言うほかはない。
射撃中に大きな火炎が出ると、その火炎は遠くからでも見える。
遠くから見えれば、ウクライナの監視によって発見され、その位置が標定され、砲兵部隊に連絡が行く。
米欧から供与されたエクスカリバー弾が発射されると、170ミリ榴弾砲や240ミリ多連装砲そのものに命中して破壊され、操作員に破片が当たり、死傷することになると、西村氏。
北朝鮮は、韓国を恫喝するために、170ミリ榴弾砲や多連装ロケット砲を海岸に並べて射撃している写真を、1年間に何度も発表している。
2010年には、各種多連装ロケット砲を韓国西海、北朝鮮から11~15キロにある延坪島に撃ち込んだことがある。
この時、1回目150発と2回目20発に分けて発射した。1回目の150発のうち島内には約60発が着弾し、残りは海に着弾した。
島内にわずか約30%しか入らなかったのは、射撃精度の悪さを証明している。また、合計170発のうち約20発、12%が不発であった。
北朝鮮は普段から、これらを海岸線に並べて射撃し、韓国を恫喝しているものの、実際の精度の悪さや不発弾の多さは度を超していると、西村氏。
金正恩総書記は、保有する兵器に自信をもっていたと思われるが、急遽実戦の場に投入されて、その兵器の劣悪さが世界に暴露されることになる。
北朝鮮の火砲は発見され、あるいは、砲身が破裂するほどの事故が発生するだろう。
また、ロケット弾は命中精度が悪く、不発弾も多いことも明らかになる。
兵士も近代兵器を使った戦いには不慣れであり、また命令が上手く伝わらないために、多くの兵士が狭い範囲に集まることが多くなるだろう。
つまり、北朝鮮の火砲等や兵士は、ウクライナ軍の格好の餌食になる可能性が高いと、西村氏。
北朝鮮兵の多くの損失や兵器の大きな欠陥が、実戦の場で暴露され、金正恩軍が笑われる大恥を晒す事態になることが予想されるとも。
# 冒頭の画像は、北朝鮮製170ミリ自走榴弾砲M1989コクサンの射撃状況
モウソウチク
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