岸田文雄政権の支持率が、政権維持のための「喫水線」である3割を そしていくつかのスキャンダルについては自らの関与や、派閥の関与もうわさされ、実際にパーティー券をめぐる「裏金」問題に関しては、自らの派閥である岸田派からも東京地検に立件されるなどの問題が起こった。にもかかわらず、岸田首相個人としては、「まったく責任を取ってきていない」ということが問題視されてきたところがある。割り込んでいることが伝えられるようになってから久しい。
時事通信の最新の調査(7月5~8日実施)では、岸田内閣の支持率は15.5%となり、2012年の政権奪還以来、最も低い値であった。さらに自民党の支持率は、この岸田内閣の低支持率に引きずられて、前月よりも低下し16.0%であり、2割を切っていることが伝えられている。
岸田首相は、2021年の首相就任以来、2022年の旧統一教会と自民党との関係をめぐるスキャンダル、2023年の自民党の派閥をめぐるパーティー券の「裏金」化の問題をめぐるスキャンダルなど、多くのスキャンダルに見舞われてきた。
実際にパーティー券をめぐる「裏金」問題に関しては、自らの派閥である岸田派からも東京地検に立件されるなどの問題が起こった。にもかかわらず、岸田首相個人としては、「まったく責任を取ってきていない」ということが問題視されてきたところがあると、白鳥浩法政大学大学院 教授。
岸田政権の政策も、2022年2月に勃発したウクライナ戦争に端を発する「物価高」「エネルギー高」に対して、何ら有効な手段を提起することができず、補助金を垂れ流すだけであった。
安全保障政策についても、同じ年の年末の安保三文書の改訂や、2023年初頭のトマホーク・ミサイルの購入による「防衛増税」、2023年年末の防衛装備移転三原則の見直しの決定などで、「平和国家」日本の在り方を憲法改正を行わずに変えようとしていると批判された。
また、2023年の統一地方選の直前に「異次元の少子化対策」という政策を突然に打ち出すなども行っている。
これらの政策は、必ずしも財源が明確に国民に提示されて決定されたわけではないという批判を招いてきた。そのため岸田首相の政策は、国民にとっては思い付きのように感じられているところがある。そして、その財源に対する国民負担への懸念から「増税メガネ」という岸田首相を揶揄するあだ名すら生まれたのであった。
自民党には、こうした岸田首相の低支持率に表れている国民の不満に対して、積極的に何か対応するという姿勢はこれまで明らかではなかった。通例であれば、自民党の中から、より支持率の高い政治リーダーへと総裁を交代させる、いわゆる「おろし」が起こるはずである。
しかしながら、岸田政権においては、それらの「おろし」、つまり「岸田おろし」といわれる行動は、いままで行われては来なかった。一体それはなぜなのだろうか。そこには理由があると、白鳥教授。
第一に、そうした「首相の変更」、自民党内から見れば「総裁の変更」は、これまでは「派閥」が主導して行ってきたものであった。
しかし、政権と一定の距離がある自民党の派閥の多くは岸田首相本人によって、2024年の初頭までに解散に追い込まれている。特に、「おろし」を主導する可能性のあった二つの派閥、最大勢力の「安倍派」は、安倍晋三元首相の銃撃による死去に伴う領袖の不在。
非主流派の「二階派」は、この派閥にも「裏金」が飛び火し、二階氏自身が「次期衆院選への不出馬」の選択を余儀なくされた。
こうした中で、組織的な「岸田おろし」は起こることがなかったと、白鳥教授。
第二に、こうした派閥の在り方とも関係するが、現在の政権を決定する衆議院の「選挙制度」である小選挙区制の問題があると。
平成期に至るまで、自民党の派閥を温存してきたのは「中選挙区制cxz」という選挙制度であった。一つの選挙区から複数の当選者を選出できるこの選挙制度においては、派閥ごとに候補者の擁立を行うことができた。
しかしながら、1996年衆院選から実施された小選挙区比例代表並立制では、当選者は一人である。
そこで派閥単位での候補者の擁立ではなく、党執行部による候補者の決定が行われるようになった。
派閥は一定の権力を維持はできたものの、その影響力は限定的なものとなった。
逆に、その決定権が党執行部に集中することで、総裁の権限が強化されることとなった。
本来であれば「おろし」を主導する選挙基盤の弱い若手議員は、次の選挙に向かって公認を取り消されるという懸念から、積極的に「おろし」を起こすには至らないままであった。
第三に、「時期」の問題である。
岸田政権の支持率が決定的に低下する原因となったのは、2023年の臨時国会中に発覚したパーティー券をめぐる「政治とカネ」の問題がクローズアップされるようになってからであった。
2024年の通常国会が始まってからは、多くの派閥は解散させられ、この「政治とカネ」の問題を解決するために政治資金規正法の改正を行う中で、次の総理総裁を目指す政治家にとっても「岸田おろし」を行う時間的余裕はなかった。
さらに、岸田首相は自民党の中でも予測ができない行動に出ると考えられている。6月23日に閉幕した通常国会開会中に、解散総選挙を行う可能性すら取りざたされていた。その意味で自民党所属議員は「おろし」は行いえなかったと、白鳥教授。
こうした、「派閥」「選挙制度」「時期」といった「おろし」を阻害する要因が取り払われることとなったのが、「通常国会の閉幕」と「9月の総裁選」の実施、そして「新総裁の下での解散総選挙」の見通しであるとも、白鳥教授。
第一に、国会が閉じれば解散総選挙は行われない。衆院解散の「時期」を気にする必要がなくなった。
第二に、9月に総裁選が行われるならば、現在の総裁が公認を最終決定することはない。
第三に、総裁選ののちに総選挙が行われるならば、解体された「派閥」を復活させて、新総裁の誕生に貢献することで、公認はおろか、人事ポストを獲得することも可能である。さらに「派閥」が復活するなら、組織的な行動も今後は許容される。
ここに至り、国会閉幕前後に次の総裁を目指した「岸田おろし」の動きが顕在化、活発化してきたと、白鳥教授。
そこでカギとなるのは、岸田首相に引導を渡され、非主流派に甘んじてきた無派閥の菅義偉前首相。
「令和のニューリーダー」とされる「HKT」や、小泉進次郎元環境相と会食、19日には菅氏と茂木敏充幹事長が会食したことが伝えられた。菅氏は将来の総裁を狙う現在の非主流派や政権内部の有力候補に、一定のパイプを持っていることを示していると。
こうした政権をめぐる、権力闘争による党内のダイナミズムこそが、自民党の力の淵源であり、それこそが自民党を復活させる処方箋であるといえる、というのは皮肉なことであろうかと、白鳥教授。
野党が重箱の隅つつきばかりで政権構想に欠ける現状の日本では、自民党内での政策論争で構想が練られてきていた日本の政治・政策。
政権をめぐる、権力闘争による党内のダイナミズムこそが、自民党の力の淵源であり、それこそが自民党を復活させる処方箋であると白鳥教授。
新生しつつある政策集団や、維新、国民民主などとも連携した新たな政策論争のテーブルで、あらたな日本政治の政策集団を再スタートしていただきたい。
# 冒頭の画像は、丸2年を迎えた銃撃現場に設けられた献花台。
この花の名前は、ミソハギ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス
時事通信の最新の調査(7月5~8日実施)では、岸田内閣の支持率は15.5%となり、2012年の政権奪還以来、最も低い値であった。さらに自民党の支持率は、この岸田内閣の低支持率に引きずられて、前月よりも低下し16.0%であり、2割を切っていることが伝えられている。
岸田首相は、2021年の首相就任以来、2022年の旧統一教会と自民党との関係をめぐるスキャンダル、2023年の自民党の派閥をめぐるパーティー券の「裏金」化の問題をめぐるスキャンダルなど、多くのスキャンダルに見舞われてきた。
実際にパーティー券をめぐる「裏金」問題に関しては、自らの派閥である岸田派からも東京地検に立件されるなどの問題が起こった。にもかかわらず、岸田首相個人としては、「まったく責任を取ってきていない」ということが問題視されてきたところがあると、白鳥浩法政大学大学院 教授。
「岸田おろし」いよいよ本格化へ…なぜ“超低空飛行”でも延命できた?外れた3つの制約、うごめき始めた有力者たち 青色吐息でもここまで延命できたワケ…菅、進次郎、茂木、HKTはどう動く? | JBpress (ジェイビープレス) 2024.7.16(火) 白鳥 浩:法政大学大学院 教授
揶揄され続け…なのに起きない“岸田おろし”
岸田文雄政権の支持率が、政権維持のための「喫水線」である3割を割り込んでいることが伝えられるようになってから久しい。
時事通信の最新の調査(7月5~8日実施)では、岸田内閣の支持率は15.5%となり、2012年の政権奪還以来、最も低い値であった。さらに自民党の支持率は、この岸田内閣の低支持率に引きずられて、前月よりも低下し16.0%であり、2割を切っていることが伝えられている。
この岸田首相は、2021年の首相就任以来、2022年の旧統一教会と自民党との関係をめぐるスキャンダル、2023年の自民党の派閥をめぐるパーティー券の「裏金」化の問題をめぐるスキャンダルなど、多くのスキャンダルに見舞われてきた。
そしていくつかのスキャンダルについては自らの関与や、派閥の関与もうわさされ、実際にパーティー券をめぐる「裏金」問題に関しては、自らの派閥である岸田派からも東京地検に立件されるなどの問題が起こった。にもかかわらず、岸田首相個人としては、「まったく責任を取ってきていない」ということが問題視されてきたところがある。
また、政策的にも2022年2月に勃発したウクライナ戦争に端を発する「物価高」「エネルギー高」に対して、何ら有効な手段を提起することができず、補助金を垂れ流すだけであった。
さらに、安全保障政策についても、同じ年の年末の安保三文書の改訂や、2023年初頭のトマホーク・ミサイルの購入による「防衛増税」、2023年年末の防衛装備移転三原則の見直しの決定などで、「平和国家」日本の在り方を憲法改正を行わずに変えようとしていると批判された。
また、2023年の統一地方選の直前に「異次元の少子化対策」という政策を突然に打ち出すなども行っている。
これらの政策は、必ずしも財源が明確に国民に提示されて決定されたわけではないという批判を招いてきた。そのため岸田首相の政策は、国民にとっては思い付きのように感じられているところがある。そして、その財源に対する国民負担への懸念から「増税メガネ」という岸田首相を揶揄するあだ名すら生まれたのであった。
自民党には、こうした岸田首相の低支持率に表れている国民の不満に対して、積極的に何か対応するという姿勢はこれまで明らかではなかった。通例であれば、自民党の中から、より支持率の高い政治リーダーへと総裁を交代させる、いわゆる「おろし」が起こるはずである。実際、自民党の歴史は、そうした「おろし」にまつわる「権力闘争の歴史」であったといってもよい。
しかしながら、岸田政権においては、それらの「おろし」、つまり「岸田おろし」といわれる行動は、いままで行われては来なかった。一体それはなぜなのだろうか。そこには理由がある。
「おろし」の主役だった派閥の解消
第一に、そうした「首相の変更」、自民党内から見れば「総裁の変更」は、これまでは「派閥」が主導して行ってきたものであった。自民党は現在でも300を超える国会議員によって構成されている。それだけの大所帯ともなれば、内部でその理想とするところの近い者同士が寄り集まって「派閥」を構成し、そのリーダーによる組織の運営を目指すというのは、どの集団においても常である。
ただ、自民党の場合には、その組織の長は、日本の最大権力者である首相となるということが他の組織とは異なる。
しかし、政権と一定の距離がある自民党の派閥の多くは岸田首相本人によって、2024年の初頭までに解散に追い込まれている。特に、「おろし」を主導する可能性のあった二つの派閥、第一に、最大勢力の「安倍派」は、安倍晋三元首相の銃撃による死去に伴う領袖の不在、そして「旧統一教会」や「裏金」の問題で身動きが取れず、また第二に、非主流派の「二階派」は、この派閥にも「裏金」が飛び火し、二階氏自身が「次期衆院選への不出馬」の選択を余儀なくされた。
こうした中で、組織的な「岸田おろし」は起こることがなかった。
若手が「おろし」しづらい選挙制度
第二に、こうした派閥の在り方とも関係するが、現在の政権を決定する衆議院の「選挙制度」である小選挙区制の問題がある。
平成期に至るまで、自民党の派閥を温存してきたのは「中選挙区制cxz」という選挙制度であった。一つの選挙区から複数の当選者を選出できるこの選挙制度においては、派閥ごとに候補者の擁立を行うことができた。
しかしながら、1996年衆院選から実施された小選挙区比例代表並立制では、当選者は一人である。
そこで派閥単位での候補者の擁立ではなく、党執行部による候補者の決定が行われるようになった。もちろん、派閥は一定の権力を維持はできたものの、その影響力は限定的なものとなった。
逆に、その決定権が党執行部に集中することで、総裁の権限が強化されることとなった。本来であれば「おろし」を主導する選挙基盤の弱い若手議員は、次の選挙に向かって公認を取り消されるという懸念から、積極的に「おろし」を起こすには至らないままであった。
内輪の「おろし」に割く時間もなかった
第三に、「時期」の問題
である。岸田政権の支持率が決定的に低下する原因となったのは、2023年の臨時国会中に発覚したパーティー券をめぐる「政治とカネ」の問題がクローズアップされるようになってからであった。
そこで前述のように2024年の通常国会が始まってからは、多くの派閥は解散させられ、この「政治とカネ」の問題を解決するために政治資金規正法の改正を行う中で、次の総理総裁を目指す政治家にとっても「岸田おろし」を行う時間的余裕はなかった。
さらに、岸田首相は自民党の中でも予測ができない行動に出ると考えられている。6月23日に閉幕した通常国会開会中に、解散総選挙を行う可能性すら取りざたされていた。その意味で自民党所属議員は「おろし」は行いえなかったといえる。
制約が取り除かれ、動いた元首相
こうした、「派閥」「選挙制度」「時期」といった「おろし」を阻害する要因が取り払われることとなったのが、「通常国会の閉幕」と「9月の総裁選」の実施、そして「新総裁の下での解散総選挙」の見通しである。
第一に、国会が閉じれば解散総選挙は行われない。そこで、自民党の国会議員たちが衆院解散の「時期」を気にする必要がなくなった。
第二に、9月に総裁選が行われるならば、現在の総裁が公認を最終決定することはない。「選挙制度」も考慮から外れる。
第三に、総裁選ののちに総選挙が行われるならば、解体された「派閥」を復活させて、新総裁の誕生に貢献することで、公認はおろか、人事ポストを獲得することも可能である。さらに「派閥」が復活するなら、組織的な行動も今後は許容される。
そこで、国会閉幕前後に次の総裁を目指した「岸田おろし」の動きが顕在化、活発化してきたのだった。
そこでカギとなるのは、岸田首相に引導を渡され、岸田政権成立後は非主流派に甘んじてきた無派閥の菅義偉前首相である。
6月6日には、菅氏は萩生田光一前政調会長や加藤勝信元官房長官、武田良太元総務相らの、いわゆる「令和のニューリーダー」とされる「HKT」や、小泉進次郎元環境相と会食、19日には菅氏と茂木敏充幹事長が会食したことが伝えられた。菅氏は将来の総裁を狙う現在の非主流派や政権内部の有力候補に、一定のパイプを持っていることを示した。
さらに6月23日の国会閉幕日公開のインターネット番組で、首相の責任について触れ、事実上の退陣要求を行うに至るのである。
秋の総裁選に向けて、自民党内はこれから大きな激動を経験する。こうした政権をめぐる、権力闘争による党内のダイナミズムこそが、自民党の力の淵源であり、それこそが自民党を復活させる処方箋であるといえる、というのは皮肉なことであろうか。今後の推移から目が離せない。
揶揄され続け…なのに起きない“岸田おろし”
岸田文雄政権の支持率が、政権維持のための「喫水線」である3割を割り込んでいることが伝えられるようになってから久しい。
時事通信の最新の調査(7月5~8日実施)では、岸田内閣の支持率は15.5%となり、2012年の政権奪還以来、最も低い値であった。さらに自民党の支持率は、この岸田内閣の低支持率に引きずられて、前月よりも低下し16.0%であり、2割を切っていることが伝えられている。
この岸田首相は、2021年の首相就任以来、2022年の旧統一教会と自民党との関係をめぐるスキャンダル、2023年の自民党の派閥をめぐるパーティー券の「裏金」化の問題をめぐるスキャンダルなど、多くのスキャンダルに見舞われてきた。
そしていくつかのスキャンダルについては自らの関与や、派閥の関与もうわさされ、実際にパーティー券をめぐる「裏金」問題に関しては、自らの派閥である岸田派からも東京地検に立件されるなどの問題が起こった。にもかかわらず、岸田首相個人としては、「まったく責任を取ってきていない」ということが問題視されてきたところがある。
また、政策的にも2022年2月に勃発したウクライナ戦争に端を発する「物価高」「エネルギー高」に対して、何ら有効な手段を提起することができず、補助金を垂れ流すだけであった。
さらに、安全保障政策についても、同じ年の年末の安保三文書の改訂や、2023年初頭のトマホーク・ミサイルの購入による「防衛増税」、2023年年末の防衛装備移転三原則の見直しの決定などで、「平和国家」日本の在り方を憲法改正を行わずに変えようとしていると批判された。
また、2023年の統一地方選の直前に「異次元の少子化対策」という政策を突然に打ち出すなども行っている。
これらの政策は、必ずしも財源が明確に国民に提示されて決定されたわけではないという批判を招いてきた。そのため岸田首相の政策は、国民にとっては思い付きのように感じられているところがある。そして、その財源に対する国民負担への懸念から「増税メガネ」という岸田首相を揶揄するあだ名すら生まれたのであった。
自民党には、こうした岸田首相の低支持率に表れている国民の不満に対して、積極的に何か対応するという姿勢はこれまで明らかではなかった。通例であれば、自民党の中から、より支持率の高い政治リーダーへと総裁を交代させる、いわゆる「おろし」が起こるはずである。実際、自民党の歴史は、そうした「おろし」にまつわる「権力闘争の歴史」であったといってもよい。
しかしながら、岸田政権においては、それらの「おろし」、つまり「岸田おろし」といわれる行動は、いままで行われては来なかった。一体それはなぜなのだろうか。そこには理由がある。
「おろし」の主役だった派閥の解消
第一に、そうした「首相の変更」、自民党内から見れば「総裁の変更」は、これまでは「派閥」が主導して行ってきたものであった。自民党は現在でも300を超える国会議員によって構成されている。それだけの大所帯ともなれば、内部でその理想とするところの近い者同士が寄り集まって「派閥」を構成し、そのリーダーによる組織の運営を目指すというのは、どの集団においても常である。
ただ、自民党の場合には、その組織の長は、日本の最大権力者である首相となるということが他の組織とは異なる。
しかし、政権と一定の距離がある自民党の派閥の多くは岸田首相本人によって、2024年の初頭までに解散に追い込まれている。特に、「おろし」を主導する可能性のあった二つの派閥、第一に、最大勢力の「安倍派」は、安倍晋三元首相の銃撃による死去に伴う領袖の不在、そして「旧統一教会」や「裏金」の問題で身動きが取れず、また第二に、非主流派の「二階派」は、この派閥にも「裏金」が飛び火し、二階氏自身が「次期衆院選への不出馬」の選択を余儀なくされた。
こうした中で、組織的な「岸田おろし」は起こることがなかった。
若手が「おろし」しづらい選挙制度
第二に、こうした派閥の在り方とも関係するが、現在の政権を決定する衆議院の「選挙制度」である小選挙区制の問題がある。
平成期に至るまで、自民党の派閥を温存してきたのは「中選挙区制cxz」という選挙制度であった。一つの選挙区から複数の当選者を選出できるこの選挙制度においては、派閥ごとに候補者の擁立を行うことができた。
しかしながら、1996年衆院選から実施された小選挙区比例代表並立制では、当選者は一人である。
そこで派閥単位での候補者の擁立ではなく、党執行部による候補者の決定が行われるようになった。もちろん、派閥は一定の権力を維持はできたものの、その影響力は限定的なものとなった。
逆に、その決定権が党執行部に集中することで、総裁の権限が強化されることとなった。本来であれば「おろし」を主導する選挙基盤の弱い若手議員は、次の選挙に向かって公認を取り消されるという懸念から、積極的に「おろし」を起こすには至らないままであった。
内輪の「おろし」に割く時間もなかった
第三に、「時期」の問題
である。岸田政権の支持率が決定的に低下する原因となったのは、2023年の臨時国会中に発覚したパーティー券をめぐる「政治とカネ」の問題がクローズアップされるようになってからであった。
そこで前述のように2024年の通常国会が始まってからは、多くの派閥は解散させられ、この「政治とカネ」の問題を解決するために政治資金規正法の改正を行う中で、次の総理総裁を目指す政治家にとっても「岸田おろし」を行う時間的余裕はなかった。
さらに、岸田首相は自民党の中でも予測ができない行動に出ると考えられている。6月23日に閉幕した通常国会開会中に、解散総選挙を行う可能性すら取りざたされていた。その意味で自民党所属議員は「おろし」は行いえなかったといえる。
制約が取り除かれ、動いた元首相
こうした、「派閥」「選挙制度」「時期」といった「おろし」を阻害する要因が取り払われることとなったのが、「通常国会の閉幕」と「9月の総裁選」の実施、そして「新総裁の下での解散総選挙」の見通しである。
第一に、国会が閉じれば解散総選挙は行われない。そこで、自民党の国会議員たちが衆院解散の「時期」を気にする必要がなくなった。
第二に、9月に総裁選が行われるならば、現在の総裁が公認を最終決定することはない。「選挙制度」も考慮から外れる。
第三に、総裁選ののちに総選挙が行われるならば、解体された「派閥」を復活させて、新総裁の誕生に貢献することで、公認はおろか、人事ポストを獲得することも可能である。さらに「派閥」が復活するなら、組織的な行動も今後は許容される。
そこで、国会閉幕前後に次の総裁を目指した「岸田おろし」の動きが顕在化、活発化してきたのだった。
そこでカギとなるのは、岸田首相に引導を渡され、岸田政権成立後は非主流派に甘んじてきた無派閥の菅義偉前首相である。
6月6日には、菅氏は萩生田光一前政調会長や加藤勝信元官房長官、武田良太元総務相らの、いわゆる「令和のニューリーダー」とされる「HKT」や、小泉進次郎元環境相と会食、19日には菅氏と茂木敏充幹事長が会食したことが伝えられた。菅氏は将来の総裁を狙う現在の非主流派や政権内部の有力候補に、一定のパイプを持っていることを示した。
さらに6月23日の国会閉幕日公開のインターネット番組で、首相の責任について触れ、事実上の退陣要求を行うに至るのである。
秋の総裁選に向けて、自民党内はこれから大きな激動を経験する。こうした政権をめぐる、権力闘争による党内のダイナミズムこそが、自民党の力の淵源であり、それこそが自民党を復活させる処方箋であるといえる、というのは皮肉なことであろうか。今後の推移から目が離せない。
岸田政権の政策も、2022年2月に勃発したウクライナ戦争に端を発する「物価高」「エネルギー高」に対して、何ら有効な手段を提起することができず、補助金を垂れ流すだけであった。
安全保障政策についても、同じ年の年末の安保三文書の改訂や、2023年初頭のトマホーク・ミサイルの購入による「防衛増税」、2023年年末の防衛装備移転三原則の見直しの決定などで、「平和国家」日本の在り方を憲法改正を行わずに変えようとしていると批判された。
また、2023年の統一地方選の直前に「異次元の少子化対策」という政策を突然に打ち出すなども行っている。
これらの政策は、必ずしも財源が明確に国民に提示されて決定されたわけではないという批判を招いてきた。そのため岸田首相の政策は、国民にとっては思い付きのように感じられているところがある。そして、その財源に対する国民負担への懸念から「増税メガネ」という岸田首相を揶揄するあだ名すら生まれたのであった。
自民党には、こうした岸田首相の低支持率に表れている国民の不満に対して、積極的に何か対応するという姿勢はこれまで明らかではなかった。通例であれば、自民党の中から、より支持率の高い政治リーダーへと総裁を交代させる、いわゆる「おろし」が起こるはずである。
しかしながら、岸田政権においては、それらの「おろし」、つまり「岸田おろし」といわれる行動は、いままで行われては来なかった。一体それはなぜなのだろうか。そこには理由があると、白鳥教授。
第一に、そうした「首相の変更」、自民党内から見れば「総裁の変更」は、これまでは「派閥」が主導して行ってきたものであった。
しかし、政権と一定の距離がある自民党の派閥の多くは岸田首相本人によって、2024年の初頭までに解散に追い込まれている。特に、「おろし」を主導する可能性のあった二つの派閥、最大勢力の「安倍派」は、安倍晋三元首相の銃撃による死去に伴う領袖の不在。
非主流派の「二階派」は、この派閥にも「裏金」が飛び火し、二階氏自身が「次期衆院選への不出馬」の選択を余儀なくされた。
こうした中で、組織的な「岸田おろし」は起こることがなかったと、白鳥教授。
第二に、こうした派閥の在り方とも関係するが、現在の政権を決定する衆議院の「選挙制度」である小選挙区制の問題があると。
平成期に至るまで、自民党の派閥を温存してきたのは「中選挙区制cxz」という選挙制度であった。一つの選挙区から複数の当選者を選出できるこの選挙制度においては、派閥ごとに候補者の擁立を行うことができた。
しかしながら、1996年衆院選から実施された小選挙区比例代表並立制では、当選者は一人である。
そこで派閥単位での候補者の擁立ではなく、党執行部による候補者の決定が行われるようになった。
派閥は一定の権力を維持はできたものの、その影響力は限定的なものとなった。
逆に、その決定権が党執行部に集中することで、総裁の権限が強化されることとなった。
本来であれば「おろし」を主導する選挙基盤の弱い若手議員は、次の選挙に向かって公認を取り消されるという懸念から、積極的に「おろし」を起こすには至らないままであった。
第三に、「時期」の問題である。
岸田政権の支持率が決定的に低下する原因となったのは、2023年の臨時国会中に発覚したパーティー券をめぐる「政治とカネ」の問題がクローズアップされるようになってからであった。
2024年の通常国会が始まってからは、多くの派閥は解散させられ、この「政治とカネ」の問題を解決するために政治資金規正法の改正を行う中で、次の総理総裁を目指す政治家にとっても「岸田おろし」を行う時間的余裕はなかった。
さらに、岸田首相は自民党の中でも予測ができない行動に出ると考えられている。6月23日に閉幕した通常国会開会中に、解散総選挙を行う可能性すら取りざたされていた。その意味で自民党所属議員は「おろし」は行いえなかったと、白鳥教授。
こうした、「派閥」「選挙制度」「時期」といった「おろし」を阻害する要因が取り払われることとなったのが、「通常国会の閉幕」と「9月の総裁選」の実施、そして「新総裁の下での解散総選挙」の見通しであるとも、白鳥教授。
第一に、国会が閉じれば解散総選挙は行われない。衆院解散の「時期」を気にする必要がなくなった。
第二に、9月に総裁選が行われるならば、現在の総裁が公認を最終決定することはない。
第三に、総裁選ののちに総選挙が行われるならば、解体された「派閥」を復活させて、新総裁の誕生に貢献することで、公認はおろか、人事ポストを獲得することも可能である。さらに「派閥」が復活するなら、組織的な行動も今後は許容される。
ここに至り、国会閉幕前後に次の総裁を目指した「岸田おろし」の動きが顕在化、活発化してきたと、白鳥教授。
そこでカギとなるのは、岸田首相に引導を渡され、非主流派に甘んじてきた無派閥の菅義偉前首相。
「令和のニューリーダー」とされる「HKT」や、小泉進次郎元環境相と会食、19日には菅氏と茂木敏充幹事長が会食したことが伝えられた。菅氏は将来の総裁を狙う現在の非主流派や政権内部の有力候補に、一定のパイプを持っていることを示していると。
こうした政権をめぐる、権力闘争による党内のダイナミズムこそが、自民党の力の淵源であり、それこそが自民党を復活させる処方箋であるといえる、というのは皮肉なことであろうかと、白鳥教授。
野党が重箱の隅つつきばかりで政権構想に欠ける現状の日本では、自民党内での政策論争で構想が練られてきていた日本の政治・政策。
政権をめぐる、権力闘争による党内のダイナミズムこそが、自民党の力の淵源であり、それこそが自民党を復活させる処方箋であると白鳥教授。
新生しつつある政策集団や、維新、国民民主などとも連携した新たな政策論争のテーブルで、あらたな日本政治の政策集団を再スタートしていただきたい。
# 冒頭の画像は、丸2年を迎えた銃撃現場に設けられた献花台。
この花の名前は、ミソハギ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス