中国政府は、価格競争での輸出振興ではなく、貧富の格差是正による内需拡大に力点を移し、1960年代の日本をモデルとした所得倍増計画を進めようとしています。
「1600元」(約2万円)と書かれていた初任給の額が、フェルトペンで「1700元」と書き換えられた。
旧正月(春節)が明けた14日、中国の沿海部、浙江省義烏の人力資源市場(ハローワーク)。日本の「100円ショップ」に並ぶ品物の一大生産拠点として知られる義烏のこの求人現場で、労働者の待遇がオークションのようにつり上がっている。
紡績工場の工員募集担当の女性は、求人情報を殴り書きした段ボールを持ち上げて白い息をはいた。「去年より給料を上げないと見向きもしてもらえない」
紙製手提げ袋メーカーの採用担当、徐淑滝さん(30)も「学歴とか経験とか言ってられない。18~40歳なら誰でもいいから来て欲しい」と話した。
中国では、「用工荒」(工場労働者不足)が問題になっている。昨秋からの物価の上昇で、労働者がより給与の高い職を求める傾向が強まっていた。そこに、発展が著しい内陸部での求人増が重なり、農村から沿海部へ向かう出稼ぎ労働者の流れが変わった。沿海部と内陸部の問で労働者の争奪戦が起きている。
中国の今年の労働市場は、ストライキが多発した昨年以上の売り手市場だ。広東で100万人、ほかの沿岸都市でも数十万人単位の人手不足の情報が飛び交う。社会の安定を急ぐ中国政府も賃金の底上げを支持する。
旧正月前の1月。広東省の日系工場で賃上げを求めてストライキが発生した。情報を得た地元政府の役人が駆けつけてきた。「これでどうだ」とある水準を示し、労使はそれで妥結した。役人は「契約に違反してサボタージュしたら厳重に処罰する」と労働者に言い残してその場を去ったという。さながら、騒乱を嫌う地元政府も加わった中国版「春闘」だ。
春節休みが明けて1日目の9日。漸江省紹興市幹部は、地元企業の採用担当者らを連れて内陸部へ飛び立った。
一つ目のグループは約2千キロ西の甘粛省へ。別のグループは2日後、ベトナム国境に接する広西チワン族自治区へ向かった。いずれも出稼ぎ労働者を確保するための旅だ。
金融危機からいち早く立ち直った中国は2010年以降、輸出が好調で、沿海部の工場は多くの注文を抱えている。だが労働者を確保できないと、納期に間に合わない。だから、旅の目的地は、四川省よりさらに奥地、または発展途上の国境沿いとなった。しかし、中国にはもはや労働条件で奥地や辺境はなかった。浙江省の新聞「今日早報」によると、甘粛省では上海周辺などの企業100社以上と競合。残業代込み月2千~3千元では求職者へうまくアピールできなかった。果物価格の上昇で、甘粛省内に年収5万元を超えるリンゴ農家が現れたことも響いたようだ。
深圳だけで45万人の労働者を抱え、米アップルのiPhone(アイフォーン)などを製造する「富士康」は、手取り月3千元を超す出稼ぎ労働者も珍しくない。日本貿易振興機構(JETRO)広州事務所の池部亮副所長は「賃上げしてやっていける会社と、そうでない会社とで二極化し始めている」と話す。
出稼ぎ新世代里帰り志向
旧正月の大型連休があけた2月中旬、大きな荷物を抱えて出稼ぎ先へ戻る人たちが行き交う重慶駅。広場の赤いテントで、台湾のIT企業3社が現地の工員を募集していた。
「保険は、給料は、働く時間は?」。浙江省へ戻る40代の男性、江さんは、列車を待つ問、人事担当者に熱心に質問していた。重慶で暮らす娘の燕さん(20)のためだ。
出稼ぎ歴20年余りの江さん。今は造船所で月5千元を稼ぐ。今年は人手不足を気にし始めた社長が、旧正月後も職場に戻るよう往復の交通費を初めて出してくれた。
「娘には地元で働いてほしいんだ。昔と違って今は選べる」。傍らで資料を見ていた無職の燕さんも「母と一緒にここにいたい」。
重慶の最低賃金は870元。5年前の倍になったとはいえ、軒並み千元を超える沿海部より2割ほど安い。「富士康」などが示す初任給は残業代を入れて2千元前後。沿海部の自社工場と比べると、やはり2割余り安い。
「まあ許せる範囲かな」。広州市のセーター工場で月2500元を稼ぐ葉さん(26)は面接を申し込んだ。出稼ぎして10年。「そろそろ家の近くに帰りたい。物価も安いし、家族も友達もいる」
市政府も「引き留め」に力を入れる。「戸籍制度を改革し、農民が市内で働きやすくします。住宅も用意します」━━。社会保障で差別してきた農村出身者の待遇を市独自に改善する政策を書き込み、駅などで出稼ぎ労働者に「慰問の手紙」として配った。
四川省社会科学院の郭暁鳴・副院長は「新世代の『農民工』(農村出身の出稼ぎ労働者)は自分の好みで仕事を選びたいという気持ちが強い。給料だけではなく、生活環境を含めて選ぶ」と話す。
重慶で働き姶めたが、すぐに辞めて都市へ戻った青年もいた。一心に仕送りし、20年来の高成長を支えた両親の世代からみれば「気まぐれにも映る若者たちが今、「世界の工場」の主役だ。
中国の生産年齢人口は、2015年にはピークを迎え、農村の余剰人口が工場に吸収され、次第に不足していく状況を迎えるのだそうです。日本にも1960年代に高度成長期のピークを迎え、労働争議と賃上げが続いた時期がありました。
ただ、中国では大卒者が就職難にあえいでいる状況を迎えていて、この点は1960年代の日本と異なります。労働集約型産業構造中心であった世界の工場の産業構造からの脱却が出来ていないからと言われています。
それだけでは、日本との違いは説明しつくされないと考えます。圧倒的な人口の多さが日本と違い、日本をモデルにして、すでに生じてしまっている高学歴層の就職難=求人と求職のミスマッチという、日本も抱える最新の社会問題を解決しなくてはならないのですから。
世界の工場としての輸出の生産に人手が足らない。昨年活発化した賃上げなどの労働争議。社会不安緩和のための内需振興での内陸部の求人増による、沿岸部と内陸部の労働者の争奪合戦。これらによる人件費高騰は、世界の工場の力の源であった価格競争力に大きく影響してきます。
労働集約型の産業構造からの脱却が必要になりますが、その設備投資も必要となります。(設備投資増は内需活性化の経済効果は産みます)
環境汚染も、人々の暮らしに影響を与え始めていて、改善投資が必要です。
これらもろもろに手を染めざるをえなくなると、日本や欧米企業との差がなくなってきます。世界中の企業が狙う、中国の内需のマーケットに近いことだけが、中国企業の強みとして残るだけになる...。
少子高齢化の社会構造も見えてきています。
中国では、GDP世界 2位に沸き、遠くない将来には米国を抜いて世界 1位にともてはやす声もあります。
新興国待遇で、義務を負担することなくここまで着た中国。所得倍増で豊かになる国民は、知識・知性も豊かになります。いま閉ざされている世界の情報も、豊かになることで、海外から入手できる様になるでしょう。
中国経済の見通しが、今のバラ色に見える状況ではなく、転換点に差し掛かっていて、そのかじ取りが大きく世界経済を含め、今後を左右するところにあります。
日本企業と日本は、しっかり見極めて対応(投資先、輸出入先)することが求められますね。
↓よろしかったら、お願いします。