プーチンのウクライナ侵攻の攻防は、一進一退の展開で、最近はロシア側の優勢とも聞こえる状況でしたが、ウクライナ軍が東部ハリコフ州の支配地の大部分を奪還。ロシア軍が敗走するという大きな局面転換が生じたことは、諸兄がご承知のとおりです。
その要因について、いろいろな解説がありますが、制空権(ミサイルの攻防)を巡る電子戦でのロシア軍の敗北を解説いただいているのは、元防衛省幹部学校戦略教官室副室長等を歴任された、軍事アナリストの西村金一氏。
ウクライナ軍 ハルキウ奪還で露呈したロシア軍の致命的欠陥 軍事専門家も驚き(デイリー新潮) 奇襲攻撃は、なぜ成功したのか──? 日テ…|dメニューニュース(NTTドコモ)
航空作戦を有利に進めるためには、戦闘機などが自由に飛行できるように、侵攻当初から敵の防空兵器を破壊することが必要だ。
破壊する方法の代表的なものは、対レーダーミサイルで、レーダー波を出している防空レーダーを攻撃することだと、西村氏。
2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻したその日、テレビニュースには、ウクライナ軍の防空レーダーが、ロシア軍のミサイルに攻撃されて燃えている様子が映し出されていた。
ウクライナ軍の防空レーダーが使えなくなったのでは、ウクライナ上空の航空優勢はロシア軍のものであり、ロシアの戦闘機や爆撃機の飛行は思いのままだ。
たった1日で、この戦争の行方は「ロシア勝利」と見えているかのようだった。
ところが、実際のところウクライナ軍は、旧式の防空レーダーのみが破壊されたのであって、大部分の防空兵器は残存していたのだそうです。
旧式の防空ミサイルは囮となって破壊され、旧式ではない防空レーダーは当時、電源を切っていていたか、あるいは別の対策を行って、対レーダーミサイルの攻撃から逃れたと。
空間には、両軍のありとあらゆる電波が飛んでいる。
交信している電波を集めるのがシギント機、各種レーダー波を集めるのがエリント機。
電子戦機は、平時、敵国の各種レーダーの電波を収集し、機器に記録して帰投しているのだそうです。
今回のウクライナでの戦争では、防空レーダーの区別、例えば、ロシア軍の「S-300」、「S-300改良型」、「S-400」、さらに中短SAM用の捜索用レーダーや射撃統制レーダーを区分しなければならない。
もし、区分し選別していなければ、ミサイルはどのレーダーに向かって行けばいいのか分からないのであると、西村氏。
米国国防省は8月、ウクライナへの支援の中に、対レーダーミサイル「HARM」が含まれると述べた。別の情報ではもうすでに、対レーダーミサイル「HARM」を供与したとなっている。
HARMを供与したということは、ウクライナ軍と米軍が、もうすでにウクライナ上空での電子戦を機能させ、ミサイルを発射できる段階であることを証明している。
ウクライナ軍は、国製HARMを発射できる戦闘機を持っているのか。
米国は、このミサイルを供与したと発言したことから、搭載用の戦闘機は改修が済んでいるか間もなくということだろう。近いうちに、その能力を発揮するだろう。
戦闘機は、レーダー波をキャッチし、レーダーから最も離れた地点から、ミサイルを発射して帰投するということになる。
この作戦が成功すれば、ウクライナの上空では、ウクライナ空軍戦闘機が、頻繁に活動できるようになると、西村氏。
ロシア軍侵攻開始直後、マリウポリの軍の監視レーダーやキーウの電波塔が破壊された。これは、ロシア軍が対レーダーミサイルを使用して破壊した成果だったのだろう。
だが、ウクライナ軍の大部分の防空レーダーは生き残った。
こられのレーダーは、今でも機能しているため、ロシア空軍戦闘機・爆撃機は、ウクライナ内部(例えば、ドニエプル川の線)まで侵入していないのだそうです。
ロシア軍には、米空軍の空中警戒管制機(AWACS)の電波や無人機のGPS誘導を妨害できる「クラスハ2/4」という電子戦兵器がある。
キーウから撤退する時に、置き去りにされた電子兵器だ。
戦場では、ロシア軍のこれらの電子戦兵器は機能していないか、使用してはいないようだと、西村氏。
ロシア軍の情報収集機は、ソ連邦が崩壊する前から、最前線で活動しているものが現在も使用されているのだそうです。
つまり、ロシア軍の電子戦では、ウクライナ軍の電子兵器の機能をストップさせてはいないということであろうと、西村氏。
旧ソ連軍の電子戦は、世界最強と考えられてきた。
その後30年が経過し、ロシア軍は、ウクライナ軍の電子戦に敗北することになる。
ロシアはハリキウ州特に都市イジュームまで奪還された。
ロシア軍は、再編成して攻撃するという。現実には、攻撃は不可能だ。
なぜなら、ロシアは、電子戦を含めたあらゆる分野ですでに敗北しているからだと。
一進一退の攻防を繰り返していた戦況。今回のロシア軍の敗走は、大きな転機となるのでしょうか。
#冒頭の画像は、ハルキウ州から撤退したロシア軍が残した車両の残骸
タヌキマメ
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その要因について、いろいろな解説がありますが、制空権(ミサイルの攻防)を巡る電子戦でのロシア軍の敗北を解説いただいているのは、元防衛省幹部学校戦略教官室副室長等を歴任された、軍事アナリストの西村金一氏。
ウクライナ軍 ハルキウ奪還で露呈したロシア軍の致命的欠陥 軍事専門家も驚き(デイリー新潮) 奇襲攻撃は、なぜ成功したのか──? 日テ…|dメニューニュース(NTTドコモ)
ウクライナが空からの大反撃開始へ、空中電子戦で敗北したロシア 自衛隊機にレーダー照射した韓国軍艦艇が二重に愚かだった理由 | JBpress (ジェイビープレス) 2022.9.16(金) 西村 金一 軍事・情報戦略研究所長(軍事アナリスト)
ウクライナ軍によるハルキウ州奪回成功の陰に、ロシア軍電子戦の敗北がある。
航空作戦を有利に進めるためには、戦闘機などが自由に飛行できるように、侵攻当初から敵の防空兵器を破壊することが必要だ。
破壊する方法の代表的なものは、対レーダーミサイルで、レーダー波を出している防空レーダーを攻撃することだ。
■1.空中の電子戦に当初敗北していた?
2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻したその日、テレビニュースには、ウクライナ軍の防空レーダーが、ロシア軍のミサイルに攻撃されて燃えている様子が映し出されていた。かなり衝撃的であった。
これは、ウクライナ軍の防空レーダー(防空ミサイル用の射撃統制レーダーや防空監視レーダー)が発するレーダー波に、ロシアの対レーダーミサイルがロックオンして、レーダー波の発信源に向かって飛翔し、命中し、破壊したのだ。
ウクライナ軍のレーダーが破壊され燃える映像は、すべての防空兵器が、破壊されたのではないかと想像させるものでもあった。
ウクライナ軍の防空レーダーが使えなくなったのでは、ウクライナ上空の航空優勢はロシア軍のものであり、ロシアの戦闘機や爆撃機の飛行は思いのままだ。
たった1日で、この戦争の行方は「ロシア勝利」と見えているかのようだった。
実際のところウクライナ軍は、旧式の防空レーダーのみが破壊されたのであって、大部分の防空兵器は残存していた。
つまり、旧式の防空ミサイルは囮となって破壊され、旧式ではない防空レーダーは当時、電源を切っていていたか、あるいは別の対策を行って、対レーダーミサイルの攻撃から逃れたのだ。
このような戦いに、勝敗を左右する電子戦が存在しているのだ。
空中における電子戦は、日頃公表されない。このため、どのようなことが行われているのか、理解されないことが多い。
そこで、今回はウクライナ上空における電子戦について、以下の順序で考察する。
(1)あらゆる電波が飛んでいる空間で、防空レーダーの電波を特定する方法
(2)防空レーダー波の収集と解析で、破壊すべき防空レーダーを選定する方法
(3)ウクライナ軍の対レーダー作戦
(4)ロシア軍の空中での電子戦の実態
(5)ロシア軍による航空作戦のための電子戦の成否は
■2.電波空間で防空レーダー波を特定する方法
空間には、両軍のありとあらゆる電波が飛んでいる。
例えば、地上部隊の無線通信電波、対砲レーダー波、各種防空レーダー波、妨害電波、対艦レーダー波、戦闘機の捜索レーダー波、軍艦のレーダー波などだ。
交信している電波を集めるのがシギント機、各種レーダー波を集めるのがエリント機だ。
各種電波を収集するため、機はそれぞれの電波をキャッチできる各種アンテナを備え付けている。
エリント機は、空間を飛んでいる各種レーダー波を集める。
戦争をしている時に、接近してレーダー波を集めることは、ミサイルで撃墜される恐れがあるため難しい。
そのため、平時から敵地に接近して、レーダー波を集める。
ロシア軍が放射する電波を収集する米軍の電子戦機(イメージ)
防空ミサイルのレーダーには、捜索用(監視用)レーダーと射撃統制(火器管制)レーダーがある。
日頃、捜索用レーダー波が送信されているので、これをキャッチすることは容易だ。
だが、火器管制レーダー波を収集することは難しい。
なぜなら、火器管制レーダーを敵機に照射することは、誤ってミサイルが飛ぶという危険なことが発生するために、平時には照射することはほとんどない。
だが、2018年12月、韓国海軍軍艦が日本の「P-1」哨戒機に火器管制レーダーを照射した。
これは、かなり危険なことであり、照射された日本機はミサイルが飛来してくる危険を予想したために、慌てて帰投した。
韓国軍軍艦が、危険なことをあえて行ったので、日韓関係がかなり悪化したのも当然のことである。
しかしながら、このことを情報関係者から見ると、これほど上手い話はない。
なぜなら、日頃得られない韓国の火器管制レーダーのデータを集められたからだ。
特に、この場合はどの艦が照射したかが分かるので、火器管制レーダー波の諸元と、照射した艦が分かった。
したがって、照合もしやすい。
韓国側は日本の哨戒機を脅し、近くの上空から立ち去らせるために実施したことなのだろうが、重要な火器管制レーダー波の情報を日本の情報機関に与えたことになった。
■3.破壊すべき防空レーダーを選定する方法
電子戦機は、平時、敵国の各種レーダーの電波を収集し、機器に記録して帰投する。
レーダー波の解析は、地上勤務の解析担当の部署が行う。レーダー波の解析のため、極めて特殊な解析能力が必要だ。
長い年月を経て、解析の蓄積が必要なのだ。
解析官の研究とその知識の向上、併せて解析機器の開発を実施しなければならない。このようなことは、短時間にできるものではない。
また、監視レーダー、火器管制レーダー、対砲レーダーなどとの区別が必要だ。
今回のウクライナでの戦争では、防空レーダーの区別、例えば、ロシア軍の「S-300」、「S-300改良型」、「S-400」、さらに中短SAM用の捜索用レーダーや射撃統制レーダーを区分しなければならない。
もし、区分し選別していなければ、ミサイルはどのレーダーに向かって行けばいいのか分からないのである。
①基地で、対レーダーミサイルに、狙いを定める特定のレーダー波をセットする。
②③④⑤そのレーダー波が、戦闘機に照射され、レーダー波にロックオンして、ミサイルが発射されるのである。
ウクライナ軍「MIG-29」戦闘機からHARMを発射(イメージ)
もしも、敵のレーダーが電波を放射することをやめれば、GPS誘導によって特定された位置まで飛翔して攻撃する。その場合は、精度が落ちることもある。
捜索用レーダーだけでは、反射波の大きさによって、爆撃機と戦闘機の区分はできるが、機種までは特定できない。
そこで、戦闘機のレーダー波も解析する。
まず、レーダー波の種類によって、どの戦闘機の機種なのかを解明するのである。
例えば、戦闘機MiG-29・「Su-27」・「Su-35」、対地攻撃機「Su-25」攻撃機、爆撃機「Tu-95」・「Tu-22」・「Tu-16」・「Tu-160」などを特定できる。
時間をかけて解析し、そのレーダー波を継続して捕捉すれば、それぞれの軍用機がどのように飛行しているのかが分かる。飛行バターンを解明できるのである。
とはいえ、戦闘機などの場合は、レーダー波を放射する時間は極めて短いので、そのレーダーに向けて、対レーダーミサイルを撃ち込むことはできない。
■4.ウクライナ軍の対レーダー作戦は
米国国防省は8月、ウクライナへの支援の中に、対レーダーミサイル「HARM」が含まれると述べた。別の情報ではもうすでに、対レーダーミサイル「HARM」を供与したとなっている。
しかし、以下のことが実行できなければ、このミサイルは能力を発揮できない。
①ロシア軍の防空レーダーの電子情報を、それも、どの種類の防空ミサイルのレーダーなのかという正確な情報を保有していること。
②ミサイルが、ロシア軍防空レーダー波をロックオンして、その後、それに向かって飛翔できるように、そのミサイルにレーダー波諸元をセットしていること。
③戦闘機が、戦場上空にこのミサイルレーダー波を他のレーダー波と区別してキャッチし、機内に表示できていること。
④そのレーダーの位置が判明していること、ミサイルの射程内であること。
したがって、HARMを供与したということは、ウクライナ軍と米軍が、もうすでにウクライナ上空での電子戦を機能させ、ミサイルを発射できる段階であることを証明している。
米空軍機であれば、米国製HARMを発射できる能力を有している。
だが、ウクライナ軍はそれができる戦闘機を保有しているのか。MiG-29を改良しているという情報があるが、米軍機と同様のシステムを搭載できているのか。
このMiG-29は、どの国の戦闘機なのか。ウクライナ軍の戦闘機か。
もしくは、4月にスロバキアの首相がウクライナに供与することを検討していると発言していたことから、この戦闘機を改良している可能性もある。
ただし、改良するといっても簡単なことではない。
米軍の電子戦の秘密情報が洩れる恐れもあるし、実際に、MiG機に対レーダーミサイル用のレーダー、処理機材、ディスプレイを搭載するには大改修が必要なはずだ。
米国は、このミサイルを供与したと発言したことから、搭載用の戦闘機は改修が済んでいるか間もなくということだろう。近いうちに、その能力を発揮するだろう。
米空軍の対レーダーミサイル「AGM88」は、射程約150キロという。
戦闘機は、レーダー波をキャッチし、レーダーから最も離れた地点から、ミサイルを発射して帰投するということになる。
この作戦が成功すれば、ウクライナの上空では、ウクライナ空軍戦闘機が、頻繁に活動できるようになる。
■5.ロシア軍、空中での電子戦実態
ロシア軍侵攻開始直後、マリウポリの軍の監視レーダーやキーウの電波塔が破壊された。これは、ロシア軍が対レーダーミサイルを使用して破壊した成果だったのだろう。
だが、ウクライナ軍の大部分の防空レーダーは生き残った。
こられのレーダーは、今でも機能しているため、ロシア空軍戦闘機・爆撃機は、ウクライナ内部(例えば、ドニエプル川の線)まで侵入していない。
ウクライナ軍の防空ミサイルの有効射程内には、ほとんど入っていないということだ。ウクライナ軍の防空ミサイルが生きていて、戦闘機を撃墜されるのが怖いからだ。
実際に、数は少ないが撃墜もされている。
ウクライナ軍の旧型のレーダーには、対レーダーミサイルには有効に機能したが、その他の防空レーダーには、ミサイル射撃の効果がなかったようだ。
ウクライナ軍は、ロシア軍に気付かれないように、米軍の協力を得て改良して対レーダーミサイルの効果を減少させた可能性がある。
そのためなのか、最近ではウクライナ軍の防空レーダーが破壊されている映像も見ない。
ロシア軍には、米空軍の空中警戒管制機(AWACS)の電波や無人機のGPS誘導を妨害できる「クラスハ2/4」という電子戦兵器がある。
キーウから撤退する時に、置き去りにされた電子兵器だ。
妨害の範囲は、約250~300キロだ。戦場では、ロシア軍のこれらの電子戦兵器は機能していないか、使用してはいないようだ。
現実には、米軍のAWACSは、ウクライナとポーランドの国境付近を飛行して、収集した情報をウクライナ軍に送っている。
さらに、ウクライナ軍の自爆型無人機やGPSによる誘導砲弾なども妨害されることなく機能しているのだ。
■6.航空作戦用の電子戦にも敗れたロシア
ロシア軍の情報収集機には、IL-20、Tu-16、Yu-22があるが、ソ連邦が崩壊する前から、最前線で活動している。現在も同じだ。
電子戦の情報収集に力を入れているという情報はほとんどない。つまり、ロシア軍の電子戦では、ウクライナ軍の電子兵器の機能をストップさせてはいないということであろう。
日本周辺を飛行するロシア軍IL-20情報収集機
米国は、ウクライナに対レーダーミサイルHARMを供与したというが、このミサイルが発射されて、防空レーダーが破壊された映像はまだ見ていない。
おそらく、これから成果として表れてくるだろう。
これまで(9月13日)、ロシア軍の防空システムの損耗は、ウクライナ軍参謀部の情報によると、165基。損耗率13%だ。
火砲の損耗率70%に比べて、極めて少ない。
ロシア軍防空システムの損害は、これまではほとんど自爆型無人機の攻撃によるものった。
これからは、MiG-29に搭載される対レーダーミサイルで、防空兵器が破壊されることになる。
旧ソ連軍の電子戦は、世界最強と考えられてきた。
その後30年が経過し、ロシア軍は、ウクライナ軍の電子戦に敗北することになる。
ロシアはハリキウ州特に都市イジュームまで奪還された。
ロシア軍は、再編成して攻撃するという。現実には、攻撃は不可能だ。
なぜなら、ロシアは、電子戦を含めたあらゆる分野ですでに敗北しているからだ。
電子戦は、ウクライナでの戦いの一部であるので、戦い全般での位置づけを知りたい場合は、ウクライナ戦争から見えてきた国防の問題を指摘した、楽天ブックス: こんな自衛隊では日本を守れない - 西村金一 - 9784828424309 : 本を、参照してほしい。
ウクライナ軍によるハルキウ州奪回成功の陰に、ロシア軍電子戦の敗北がある。
航空作戦を有利に進めるためには、戦闘機などが自由に飛行できるように、侵攻当初から敵の防空兵器を破壊することが必要だ。
破壊する方法の代表的なものは、対レーダーミサイルで、レーダー波を出している防空レーダーを攻撃することだ。
■1.空中の電子戦に当初敗北していた?
2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻したその日、テレビニュースには、ウクライナ軍の防空レーダーが、ロシア軍のミサイルに攻撃されて燃えている様子が映し出されていた。かなり衝撃的であった。
これは、ウクライナ軍の防空レーダー(防空ミサイル用の射撃統制レーダーや防空監視レーダー)が発するレーダー波に、ロシアの対レーダーミサイルがロックオンして、レーダー波の発信源に向かって飛翔し、命中し、破壊したのだ。
ウクライナ軍のレーダーが破壊され燃える映像は、すべての防空兵器が、破壊されたのではないかと想像させるものでもあった。
ウクライナ軍の防空レーダーが使えなくなったのでは、ウクライナ上空の航空優勢はロシア軍のものであり、ロシアの戦闘機や爆撃機の飛行は思いのままだ。
たった1日で、この戦争の行方は「ロシア勝利」と見えているかのようだった。
実際のところウクライナ軍は、旧式の防空レーダーのみが破壊されたのであって、大部分の防空兵器は残存していた。
つまり、旧式の防空ミサイルは囮となって破壊され、旧式ではない防空レーダーは当時、電源を切っていていたか、あるいは別の対策を行って、対レーダーミサイルの攻撃から逃れたのだ。
このような戦いに、勝敗を左右する電子戦が存在しているのだ。
空中における電子戦は、日頃公表されない。このため、どのようなことが行われているのか、理解されないことが多い。
そこで、今回はウクライナ上空における電子戦について、以下の順序で考察する。
(1)あらゆる電波が飛んでいる空間で、防空レーダーの電波を特定する方法
(2)防空レーダー波の収集と解析で、破壊すべき防空レーダーを選定する方法
(3)ウクライナ軍の対レーダー作戦
(4)ロシア軍の空中での電子戦の実態
(5)ロシア軍による航空作戦のための電子戦の成否は
■2.電波空間で防空レーダー波を特定する方法
空間には、両軍のありとあらゆる電波が飛んでいる。
例えば、地上部隊の無線通信電波、対砲レーダー波、各種防空レーダー波、妨害電波、対艦レーダー波、戦闘機の捜索レーダー波、軍艦のレーダー波などだ。
交信している電波を集めるのがシギント機、各種レーダー波を集めるのがエリント機だ。
各種電波を収集するため、機はそれぞれの電波をキャッチできる各種アンテナを備え付けている。
エリント機は、空間を飛んでいる各種レーダー波を集める。
戦争をしている時に、接近してレーダー波を集めることは、ミサイルで撃墜される恐れがあるため難しい。
そのため、平時から敵地に接近して、レーダー波を集める。
ロシア軍が放射する電波を収集する米軍の電子戦機(イメージ)
防空ミサイルのレーダーには、捜索用(監視用)レーダーと射撃統制(火器管制)レーダーがある。
日頃、捜索用レーダー波が送信されているので、これをキャッチすることは容易だ。
だが、火器管制レーダー波を収集することは難しい。
なぜなら、火器管制レーダーを敵機に照射することは、誤ってミサイルが飛ぶという危険なことが発生するために、平時には照射することはほとんどない。
だが、2018年12月、韓国海軍軍艦が日本の「P-1」哨戒機に火器管制レーダーを照射した。
これは、かなり危険なことであり、照射された日本機はミサイルが飛来してくる危険を予想したために、慌てて帰投した。
韓国軍軍艦が、危険なことをあえて行ったので、日韓関係がかなり悪化したのも当然のことである。
しかしながら、このことを情報関係者から見ると、これほど上手い話はない。
なぜなら、日頃得られない韓国の火器管制レーダーのデータを集められたからだ。
特に、この場合はどの艦が照射したかが分かるので、火器管制レーダー波の諸元と、照射した艦が分かった。
したがって、照合もしやすい。
韓国側は日本の哨戒機を脅し、近くの上空から立ち去らせるために実施したことなのだろうが、重要な火器管制レーダー波の情報を日本の情報機関に与えたことになった。
■3.破壊すべき防空レーダーを選定する方法
電子戦機は、平時、敵国の各種レーダーの電波を収集し、機器に記録して帰投する。
レーダー波の解析は、地上勤務の解析担当の部署が行う。レーダー波の解析のため、極めて特殊な解析能力が必要だ。
長い年月を経て、解析の蓄積が必要なのだ。
解析官の研究とその知識の向上、併せて解析機器の開発を実施しなければならない。このようなことは、短時間にできるものではない。
また、監視レーダー、火器管制レーダー、対砲レーダーなどとの区別が必要だ。
今回のウクライナでの戦争では、防空レーダーの区別、例えば、ロシア軍の「S-300」、「S-300改良型」、「S-400」、さらに中短SAM用の捜索用レーダーや射撃統制レーダーを区分しなければならない。
もし、区分し選別していなければ、ミサイルはどのレーダーに向かって行けばいいのか分からないのである。
①基地で、対レーダーミサイルに、狙いを定める特定のレーダー波をセットする。
②③④⑤そのレーダー波が、戦闘機に照射され、レーダー波にロックオンして、ミサイルが発射されるのである。
ウクライナ軍「MIG-29」戦闘機からHARMを発射(イメージ)
もしも、敵のレーダーが電波を放射することをやめれば、GPS誘導によって特定された位置まで飛翔して攻撃する。その場合は、精度が落ちることもある。
捜索用レーダーだけでは、反射波の大きさによって、爆撃機と戦闘機の区分はできるが、機種までは特定できない。
そこで、戦闘機のレーダー波も解析する。
まず、レーダー波の種類によって、どの戦闘機の機種なのかを解明するのである。
例えば、戦闘機MiG-29・「Su-27」・「Su-35」、対地攻撃機「Su-25」攻撃機、爆撃機「Tu-95」・「Tu-22」・「Tu-16」・「Tu-160」などを特定できる。
時間をかけて解析し、そのレーダー波を継続して捕捉すれば、それぞれの軍用機がどのように飛行しているのかが分かる。飛行バターンを解明できるのである。
とはいえ、戦闘機などの場合は、レーダー波を放射する時間は極めて短いので、そのレーダーに向けて、対レーダーミサイルを撃ち込むことはできない。
■4.ウクライナ軍の対レーダー作戦は
米国国防省は8月、ウクライナへの支援の中に、対レーダーミサイル「HARM」が含まれると述べた。別の情報ではもうすでに、対レーダーミサイル「HARM」を供与したとなっている。
しかし、以下のことが実行できなければ、このミサイルは能力を発揮できない。
①ロシア軍の防空レーダーの電子情報を、それも、どの種類の防空ミサイルのレーダーなのかという正確な情報を保有していること。
②ミサイルが、ロシア軍防空レーダー波をロックオンして、その後、それに向かって飛翔できるように、そのミサイルにレーダー波諸元をセットしていること。
③戦闘機が、戦場上空にこのミサイルレーダー波を他のレーダー波と区別してキャッチし、機内に表示できていること。
④そのレーダーの位置が判明していること、ミサイルの射程内であること。
したがって、HARMを供与したということは、ウクライナ軍と米軍が、もうすでにウクライナ上空での電子戦を機能させ、ミサイルを発射できる段階であることを証明している。
米空軍機であれば、米国製HARMを発射できる能力を有している。
だが、ウクライナ軍はそれができる戦闘機を保有しているのか。MiG-29を改良しているという情報があるが、米軍機と同様のシステムを搭載できているのか。
このMiG-29は、どの国の戦闘機なのか。ウクライナ軍の戦闘機か。
もしくは、4月にスロバキアの首相がウクライナに供与することを検討していると発言していたことから、この戦闘機を改良している可能性もある。
ただし、改良するといっても簡単なことではない。
米軍の電子戦の秘密情報が洩れる恐れもあるし、実際に、MiG機に対レーダーミサイル用のレーダー、処理機材、ディスプレイを搭載するには大改修が必要なはずだ。
米国は、このミサイルを供与したと発言したことから、搭載用の戦闘機は改修が済んでいるか間もなくということだろう。近いうちに、その能力を発揮するだろう。
米空軍の対レーダーミサイル「AGM88」は、射程約150キロという。
戦闘機は、レーダー波をキャッチし、レーダーから最も離れた地点から、ミサイルを発射して帰投するということになる。
この作戦が成功すれば、ウクライナの上空では、ウクライナ空軍戦闘機が、頻繁に活動できるようになる。
■5.ロシア軍、空中での電子戦実態
ロシア軍侵攻開始直後、マリウポリの軍の監視レーダーやキーウの電波塔が破壊された。これは、ロシア軍が対レーダーミサイルを使用して破壊した成果だったのだろう。
だが、ウクライナ軍の大部分の防空レーダーは生き残った。
こられのレーダーは、今でも機能しているため、ロシア空軍戦闘機・爆撃機は、ウクライナ内部(例えば、ドニエプル川の線)まで侵入していない。
ウクライナ軍の防空ミサイルの有効射程内には、ほとんど入っていないということだ。ウクライナ軍の防空ミサイルが生きていて、戦闘機を撃墜されるのが怖いからだ。
実際に、数は少ないが撃墜もされている。
ウクライナ軍の旧型のレーダーには、対レーダーミサイルには有効に機能したが、その他の防空レーダーには、ミサイル射撃の効果がなかったようだ。
ウクライナ軍は、ロシア軍に気付かれないように、米軍の協力を得て改良して対レーダーミサイルの効果を減少させた可能性がある。
そのためなのか、最近ではウクライナ軍の防空レーダーが破壊されている映像も見ない。
ロシア軍には、米空軍の空中警戒管制機(AWACS)の電波や無人機のGPS誘導を妨害できる「クラスハ2/4」という電子戦兵器がある。
キーウから撤退する時に、置き去りにされた電子兵器だ。
妨害の範囲は、約250~300キロだ。戦場では、ロシア軍のこれらの電子戦兵器は機能していないか、使用してはいないようだ。
現実には、米軍のAWACSは、ウクライナとポーランドの国境付近を飛行して、収集した情報をウクライナ軍に送っている。
さらに、ウクライナ軍の自爆型無人機やGPSによる誘導砲弾なども妨害されることなく機能しているのだ。
■6.航空作戦用の電子戦にも敗れたロシア
ロシア軍の情報収集機には、IL-20、Tu-16、Yu-22があるが、ソ連邦が崩壊する前から、最前線で活動している。現在も同じだ。
電子戦の情報収集に力を入れているという情報はほとんどない。つまり、ロシア軍の電子戦では、ウクライナ軍の電子兵器の機能をストップさせてはいないということであろう。
日本周辺を飛行するロシア軍IL-20情報収集機
米国は、ウクライナに対レーダーミサイルHARMを供与したというが、このミサイルが発射されて、防空レーダーが破壊された映像はまだ見ていない。
おそらく、これから成果として表れてくるだろう。
これまで(9月13日)、ロシア軍の防空システムの損耗は、ウクライナ軍参謀部の情報によると、165基。損耗率13%だ。
火砲の損耗率70%に比べて、極めて少ない。
ロシア軍防空システムの損害は、これまではほとんど自爆型無人機の攻撃によるものった。
これからは、MiG-29に搭載される対レーダーミサイルで、防空兵器が破壊されることになる。
旧ソ連軍の電子戦は、世界最強と考えられてきた。
その後30年が経過し、ロシア軍は、ウクライナ軍の電子戦に敗北することになる。
ロシアはハリキウ州特に都市イジュームまで奪還された。
ロシア軍は、再編成して攻撃するという。現実には、攻撃は不可能だ。
なぜなら、ロシアは、電子戦を含めたあらゆる分野ですでに敗北しているからだ。
電子戦は、ウクライナでの戦いの一部であるので、戦い全般での位置づけを知りたい場合は、ウクライナ戦争から見えてきた国防の問題を指摘した、楽天ブックス: こんな自衛隊では日本を守れない - 西村金一 - 9784828424309 : 本を、参照してほしい。
航空作戦を有利に進めるためには、戦闘機などが自由に飛行できるように、侵攻当初から敵の防空兵器を破壊することが必要だ。
破壊する方法の代表的なものは、対レーダーミサイルで、レーダー波を出している防空レーダーを攻撃することだと、西村氏。
2月24日、ロシア軍がウクライナに侵攻したその日、テレビニュースには、ウクライナ軍の防空レーダーが、ロシア軍のミサイルに攻撃されて燃えている様子が映し出されていた。
ウクライナ軍の防空レーダーが使えなくなったのでは、ウクライナ上空の航空優勢はロシア軍のものであり、ロシアの戦闘機や爆撃機の飛行は思いのままだ。
たった1日で、この戦争の行方は「ロシア勝利」と見えているかのようだった。
ところが、実際のところウクライナ軍は、旧式の防空レーダーのみが破壊されたのであって、大部分の防空兵器は残存していたのだそうです。
旧式の防空ミサイルは囮となって破壊され、旧式ではない防空レーダーは当時、電源を切っていていたか、あるいは別の対策を行って、対レーダーミサイルの攻撃から逃れたと。
空間には、両軍のありとあらゆる電波が飛んでいる。
交信している電波を集めるのがシギント機、各種レーダー波を集めるのがエリント機。
電子戦機は、平時、敵国の各種レーダーの電波を収集し、機器に記録して帰投しているのだそうです。
今回のウクライナでの戦争では、防空レーダーの区別、例えば、ロシア軍の「S-300」、「S-300改良型」、「S-400」、さらに中短SAM用の捜索用レーダーや射撃統制レーダーを区分しなければならない。
もし、区分し選別していなければ、ミサイルはどのレーダーに向かって行けばいいのか分からないのであると、西村氏。
米国国防省は8月、ウクライナへの支援の中に、対レーダーミサイル「HARM」が含まれると述べた。別の情報ではもうすでに、対レーダーミサイル「HARM」を供与したとなっている。
HARMを供与したということは、ウクライナ軍と米軍が、もうすでにウクライナ上空での電子戦を機能させ、ミサイルを発射できる段階であることを証明している。
ウクライナ軍は、国製HARMを発射できる戦闘機を持っているのか。
米国は、このミサイルを供与したと発言したことから、搭載用の戦闘機は改修が済んでいるか間もなくということだろう。近いうちに、その能力を発揮するだろう。
戦闘機は、レーダー波をキャッチし、レーダーから最も離れた地点から、ミサイルを発射して帰投するということになる。
この作戦が成功すれば、ウクライナの上空では、ウクライナ空軍戦闘機が、頻繁に活動できるようになると、西村氏。
ロシア軍侵攻開始直後、マリウポリの軍の監視レーダーやキーウの電波塔が破壊された。これは、ロシア軍が対レーダーミサイルを使用して破壊した成果だったのだろう。
だが、ウクライナ軍の大部分の防空レーダーは生き残った。
こられのレーダーは、今でも機能しているため、ロシア空軍戦闘機・爆撃機は、ウクライナ内部(例えば、ドニエプル川の線)まで侵入していないのだそうです。
ロシア軍には、米空軍の空中警戒管制機(AWACS)の電波や無人機のGPS誘導を妨害できる「クラスハ2/4」という電子戦兵器がある。
キーウから撤退する時に、置き去りにされた電子兵器だ。
戦場では、ロシア軍のこれらの電子戦兵器は機能していないか、使用してはいないようだと、西村氏。
ロシア軍の情報収集機は、ソ連邦が崩壊する前から、最前線で活動しているものが現在も使用されているのだそうです。
つまり、ロシア軍の電子戦では、ウクライナ軍の電子兵器の機能をストップさせてはいないということであろうと、西村氏。
旧ソ連軍の電子戦は、世界最強と考えられてきた。
その後30年が経過し、ロシア軍は、ウクライナ軍の電子戦に敗北することになる。
ロシアはハリキウ州特に都市イジュームまで奪還された。
ロシア軍は、再編成して攻撃するという。現実には、攻撃は不可能だ。
なぜなら、ロシアは、電子戦を含めたあらゆる分野ですでに敗北しているからだと。
一進一退の攻防を繰り返していた戦況。今回のロシア軍の敗走は、大きな転機となるのでしょうか。
#冒頭の画像は、ハルキウ州から撤退したロシア軍が残した車両の残骸
タヌキマメ
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA