インドネシア・ジャカルタで実現された日中首脳会談の評価が姦しいのですが、習近平政権のこれまでの流れの転換点になったという声が多い様に思います。
転換点となったと言う声にも二種類あって、会って直接話をしたからと単純に言う声と、中国が日米との対立路線から一転、日本に接近せざるを得ない理由が生じたからとの解説に分かれます。
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・宮家邦彦氏は後者の立場で、3つの理由を挙げておられます。
4月22日インドネシアの首都ジャカルタで開かれた日本と中国の首脳会談で、日中両首脳は「両国関係改善に向け対話・交流を進める」ことで一致したという。
旅客機にたとえれば、習近平政権は「離陸後ようやく巡航飛行に入った」ということだな・・・。第1報に接した筆者は思わずそう呟いた。今回は首脳会談後の日中関係を占ってみたい。
■予想以上に高い関係改善意欲
いつもの通り、まずは何が話されたかを確認しておこう。各種報道によれば、今回の会談では両首脳が、
(1)日中関係の改善傾向を評価し
(2)戦略的互恵関係の推進で一致するとともに
(3)日中間の対話と交流の促進でも一致した
という。さらに、具体的には概要次のようなやりとりがあったそうだ。
●冒頭、習主席は「最近、両国民の共同努力の下で、中日関係はある程度改善できた」と評価。
●安倍晋三首相も「昨年11月の首脳会談以降、日中関係が改善しつつあることを評価したい」と発言。
●双方は、戦略的互恵関係を推進し、地域や世界の安定や繁栄に貢献していくことで一致。
●習主席がAIIB(アジアインフラ投資銀行)への日本の参加を促し、安倍首相はガバナンスなどの問題があることを指摘。
以上を見る限り、日中双方の関係改善意欲はかなり真摯なものだったと思う
中国側は昨年夏までに、それまでの強面外交が予想以上に中国の国際的孤立を招いたことを深く反省したのだろう。昨年11月の第1回会談に続く今回の日中首脳会談もそうした中国側の対日戦術変更の結果と考えるべきだ。
<中略>
■会談はサプライズか
今回は複数の記者から「突然の首脳会談に驚いたか」と問われた。どうやら、内外マスコミの一部にとって首脳会談の実現はサプライズだったらしい。
報道によれば、日中外交筋が(今回の首脳会談は)「短時間ならできるかもしれない」との見通しを示したのは会談前日だったそうだから、驚くのも無理はない。
しかし、会談実現には様々な仕かけがあったはずだ。常識的に考えれば、日本側はかなり前から中国側に会談を打診していたに違いないと思うのだが、いずれにせよ、当然、中国側はすぐにOKを出さない。
様々なやり取りを経た後ゴーサインが出たのは最後の段階だろう。これが中国側の常套手段である。
日本側は中国側からゴーサインが出ない限り情報をリークしない。確証のないまま「首脳会談の可能性」を表に出せば、会談が実現しなかった時のダメージが大き過ぎるからだ。
もちろん、中国側は中国側で、この種の情報はリークしない。首脳会談が突然決まったかに見えた理由はこのあたりではなかろうか。
■中国はなぜ開催に応じたのか
最大の関心は中国側が首脳会談開催に応じた理由である。筆者の見立ては次の通りだ。
●第1は外交上の理由だ。安倍内閣を孤立化させ、日米の離反を図った過去2年間の中国の「強面外交」は失敗し、逆に中国自身が孤立化してしまった。
この失敗に学び、中国は日本との関係改善を進めざるを得なくなったのだろう。もしかしたら中国は第2次安倍政権を過小評価したのかもしれない。
●第2は経済的理由だ。中国経済、特にシャドーバンキングの破綻に端を発する危機発生の可能性は予想以上に深刻だという。これが事実であれば、中国経済の再興には日本企業の協力が不可欠だろう。そのことは中国指導部が最も自覚しつつあると思うのだ。
<中略>
●最後は内政上の理由だ。習近平国家主席がこれほど自信を持って日本との関係改善に邁進できるのは、内政上の障害が大幅に低下したからではないのか。
逆に言えば、今も強力な政敵がいれば、習近平主席と安倍首相のにこやかな握手など実現は難しかったかもしれない。
このことは、一昨年の薄熙来、昨年の周永康や軍上層部の汚職摘発が一定の成果を上げ、習近平政権が名実ともに安定した、すなわち「巡航飛行に入った」ことを示すのではなかろうか。
中国の政権の政治的基盤が強力であることは日中関係にとって今まで以上に重要となっていくのかもしれない。
■焦る韓国
最後に、韓国について一言。興味深いことに、今回の日中首脳会談実現で最もショックを受けたのは韓国であるらしい。
同国では一種の敗北感すら漂っているようだ。報道によれば、韓国・東亜日報は「韓国が東アジアの外交から追い出される可能性がある」と伝えたという。韓国外交の漂流は当分続きそうである。
宮家氏は、会談は日本側がかなり前から打診していて中国側が応じたと書いておられますが、今回は中国側から要請があったのが真実とする声が多い様に聞こえて来ています。
それは外交の貸し借りとしてさておき、中国が会談に臨んだ理由は同じことで、その分析は重要です。まして、習近平政権に、対日姿勢を変えねばならない事由が生じて、流れが変わるというのですから。
中国側の対日戦術変更が生じた前提は、昨年夏までに、それまでの強面外交が予想以上に中国の国際的孤立を招いたことを深く反省したことだと、指摘しておられます。
この失敗に学び、中国は日本との関係改善を進めざるを得なくなった、外交上の理由がひとつ。
二つ目が、経済上の理由。シャドーバンキングの破綻に端を発する危機発生の可能性は予想以上に深刻で、経済復興には、減少を続ける日本企業の投資が必要。
更に、遊爺が追加させていただけば、青山繁晴氏他の方々が指摘される、AIIB(中国基幹産業の余剰生産能力の稼働確保策で、成功の可否が中国経済の今後を左右する)の格付けの上位を獲得することと、多額の出資金確保に、日米の参加の有無が大きな影響を及ぼすこと。
中国当局が、南シナ海の人工島建設に関する公式発表 - 遊爺雑記帳
そして、三つ目が内政上の理由。習近平が日本との関係改善に転じることが出来るのは、国内の政権基盤が安定したからと、宮家氏は書かれています。一昨年の薄熙来、昨年の周永康や軍上層部の汚職摘発が一定の成果を上げたとの評価です。
汚職撲滅を名目とした虎退治は、人民の支持率向上も得ているのだそうですが、江沢民・上海閥、胡錦濤・共青団派に限られていて、習近平に忠誠を誓うものには及ばない不公平が露見されることや、これら既得権益層からの反感も強まっていて、身辺警護を強化しているとの情報も見聞しますので、遊爺は、政権安定云々については、評価が別れていると考えます。
二つ目の理由が根源で、一つ目はもしそうだとしても、日本へ接近というより、米国へ接近となり、その一環として日本へも接近と考えるほうが理解しやすいと考えますがどうでしょう。
そして、これら二つの理由で、対日接近に姿勢を転じる必要性が生じても、実行するには、反日を政権の柱としているからには、その柱に頼らなくてよいだけの政権基盤の安定が必要なのは、宮家氏が指摘される通りです。
汚職摘発が成功して基盤が安定しているのか、摘発の恐怖政治で表面上安定した様に見えているだけなのか、注目が必要ですね。
どちらにしても、日米同盟分断から、接近へ。第二列島線内の日本併合から共存へ、本気で政策路線変更をしようと言うのなら、いつかまた好戦姿勢が復活する時はあることとしつつも、日本の国益に利するという限定した範囲では、話は聞いてもいいかもしれませんね。
# 冒頭の画像は、ジャカルタでの日中首脳会談
クロガネモチ
↓よろしかったら、お願いします。