米半導体大手エヌビディアが22日発表した2-4月期(第1四半期)決算は引き続き好調で、同社は大いに波に乗っている。だが、人工知能(AI)ブームの中心にある同社の立場を弱めかねない脅威が生まれつつあると、WSJ・Asa Fitch。
AI企業は大手、中小を問わず、より小規模なモデルを構築・展開する方法を模索するようになっている。このようなモデルは特定のタスクに有効に機能し、エヌビディア製チップに頼らなければならないほどの演算処理能力を必要としない。
状況次第では、この1年好調だったエヌビディアに陰りが見え始める可能性があると、Asa Fitch。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)はインタビューで、課題がある中でも成長する態勢を同社がどうやって整えているかを説明。エヌビディアの役割は、チップの製造という枠を越え、AIを大量生産する現代のデジタル工場とフアン氏が考えるデータセンターの構築へと拡大している。
「これはチップ事業ではない」と断言。「データセンターに行って、その構築には信じられないほど多くの技術が必要であることを想像してみてほしい」とも述べたのだそうです。
パソコンや携帯電話、インターネットの出現に匹敵し得るAIブームの中で、エヌビディアは時宜を得て最適な位置にあり、市場をリードするサプライヤーとしての役割を果たしている。大和証券キャピタル・マーケッツアメリカのアナリスト、ルイス・ミシオシア氏はそう指摘。
エヌビディアと競合する半導体メーカーは攻勢を強めており、独自のAIチップを発売し、少なくとも一部のAI演算タスクにおいてはそれらの方が優れていると主張。
エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)を利用するために使われるソフトウエア市場で同社の支配を取り崩し、代替品を求める顧客からの要望に応えようとしていると、Asa Fitch。
新興AIチップメーカー、サンバノバ・システムズのロドリゴ・リアンCEOは「メーカー1社に依存している現在の状況は、顧客の選択を制限し、技術革新を妨げる可能性がある」と述べる。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEOは先月、今年の同社のAIチップ売上高が40億ドル(約6300億円)程度になるとの見通しを示した。
インテルは4月に新世代のAIチップを発売。パット・ゲルシンガーCEOはアナリストとの電話会見で、同社は下半期のチップ売上高を5億ドルと見込んでいると述べた。
アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトなどのハイテク大手は、独自にチップを設計し、製造は委託することで、エヌビディアに対抗しようとしている。
グーグルは今月、新世代のAIチップを発表。長年、半導体大手ブロードコムとの提携を通じて独自のAIチップを製造している。
アマゾンは昨年11月に新たなAIチップを発表。マイクロソフトも昨年同月、自社開発のAIチップ製造を開始すると明らかにしたと、Asa Fitch。
AI市場でトップの座を維持するためにエヌビディアが対応を迫られている問題は、製造面での直接的な競争だけではない。AIブームの最初の1年間は、生成AIモデルの構築とトレーニングに投資は集中した。膨大な演算処理能力が求められ、それにはエヌビディアのチップが適していた。
だが、AIモデルが与えられた新たな情報から回答を導き出す「インファレンス(推論)」と呼ばれるプロセスの開発段階に入ると、そのような高価なチップの絶対的必要性は低下する。エヌビディアのコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は22日、同社の過去1年間のデータセンター向けチップ売上高の4割以上が、すでにこうした用途向けで占められていたと語ったのだそうです。
AIブームには、より広範な脅威も存在する。AIチップが収納されるデータセンターの建設余力や十分な発電能力などだ。
さらに、企業は強力なAIシステムの構築・展開をより効率的に進める方法に関心を向けている。
企業はエヌビディア製チップからより多くの処理を引き出そうとする。AI新興ファウンドリー・テクノロジーズのジャレド・クインシー・デービスCEOはそう指摘。
「彼らの考え方はわれわれと全く同じで、物事を100倍効率化すれば、100倍よりもっと大きく市場を成長させることができると考えている」とも。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、世界には発電できる量が限られている地域があり、そこで重要なのは、最高のチップを手に入れて処理能力を最大化することだと述べた。しかし中には、AIに利用できるエネルギーが余っている国もあると指摘。
「そうしたエネルギーは輸出されておらず、他の場所に送電するための設備もない。つまり、データセンターを建設するには絶好の場所だ」と。
国内で相次ぐデータセンター新設 生成AIも関係しているって本当? | 電波新聞デジタル
エヌビディアは次世代チップの開発を進めることで増大する課題に対処している。最先端のAI用GPU「ブラックウェル」を年内に発売し、毎年アップデートしていく見通しだと、Asa Fitch。
同社はまた、AIの演算処理が行われるデータセンター向け事業の範囲を拡大しており、顧客が大規模なAI処理システム(フアン氏がよく言うところの「AIファクトリー」)を構築するのに必要なネットワークチップなど、インフラ向け製品のラインアップを増やしている。
フアン氏はカリフォルニア州サンタクララで今月開かれた会議で、「現時点でほとんどの人に分からないものをわれわれは作っている。新たなファクトリーが建設され、インテリジェンスを大規模に創出することになるだろう」と語ったのだそうです。
バーンスタイン・リサーチのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は、コンピューティングの未来を具現化するためのフアン氏の多方面にわたる野心は、エヌビディアの優位性を崩そうとする競合他社と戦う上で助けになるはずだ。
今のところはかなりうまくやっていると言えるのではないか」と。
エヌビディア、史上最高値更新中。AI時代の寵児。NVIDIA株の今後の見通し
# 冒頭の画像は、米カリフォルニア州サンノゼで3月開いたAI開発者会議で話すエヌビディアのジェンスン・フアンCEO
この花の名前は、アメリカナデシコ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス
エヌビディアの好調は続くのか 芽生える脅威 - WSJ
新たな競争とAI市場の変化に直面 By Asa Fitch 2024年5月24日
米半導体大手エヌビディアが22日発表した2-4月期(第1四半期)決算は引き続き好調で、同社は大いに波に乗っている。だが、人工知能(AI)ブームの中心にある同社の立場を弱めかねない脅威が生まれつつある。
競合他社や主要顧客はエヌビディア製品との差を埋めることができる半導体チップの生産を目指している。その一方で、AI市場は変化しており、エヌビディア製品の人気を低下させる可能性がある。
AI企業は大手、中小を問わず、より小規模なモデルを構築・展開する方法を模索するようになっている。このようなモデルは特定のタスクに有効に機能し、エヌビディア製チップに頼らなければならないほどの演算処理能力を必要としない。
状況次第では、この1年好調だったエヌビディアに陰りが見え始める可能性がある。同社の2-4月期売上高は3倍増となり、5-7月期にも倍増が見込まれている。同社の成功は株価を過去最高水準にまで押し上げ、2倍超の増配と1対10の株式分割の発表につながった。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)はインタビューで、課題がある中でも成長する態勢を同社がどうやって整えているかを説明した。エヌビディアの役割は、チップの製造という枠を越え、AIを大量生産する現代のデジタル工場とフアン氏が考えるデータセンターの構築へと拡大しているという。同社はAIチップに加え、AIに不可欠な構成要素であるCPU(中央演算処理装置)やネットワークチップ、ソフトウエアも製造している。
フアン氏は「これはチップ事業ではない」と断言。「データセンターに行って、その構築には信じられないほど多くの技術が必要であることを想像してみてほしい」と述べた。
勢いを持続できるか
パソコンや携帯電話、インターネットの出現に匹敵し得るAIブームの中で、エヌビディアは時宜を得て最適な位置にあり、市場をリードするサプライヤーとしての役割を果たしている。大和証券キャピタル・マーケッツアメリカのアナリスト、ルイス・ミシオシア氏はそう指摘している。「AIの出現は大きなことだが、かつて世界を変えたパソコンや携帯電話、インターネットよりも大きな出来事になる可能性がある」
投資家にとっての大きな疑問は、エヌビディアがこのまま勢いを持続できるのか、それとも、市場の変化とライバルとの競争激化が起きる中で市場自体が縮小してしまうのか、ということだ。
エヌビディアと競合する半導体メーカーは攻勢を強めており、独自のAIチップを発売し、少なくとも一部のAI演算タスクにおいてはそれらの方が優れていると主張している。また、エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)を利用するために使われるソフトウエア市場で同社の支配を取り崩し、代替品を求める顧客からの要望に応えようとしている。AIチップ市場に占めるエヌビディアのシェアは8割を超えているとみられる。
新興AIチップメーカー、サンバノバ・システムズのロドリゴ・リアンCEOは「メーカー1社に依存している現在の状況は、顧客の選択を制限し、技術革新を妨げる可能性がある」と述べる。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEOは先月、今年の同社のAIチップ売上高が40億ドル(約6300億円)程度になるとの見通しを示した。インテルは4月に新世代のAIチップを発売。パット・ゲルシンガーCEOはアナリストとの電話会見で、同社は下半期のチップ売上高を5億ドルと見込んでいると述べた。
アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトなどのハイテク大手は、独自にチップを設計し、製造は委託することで、エヌビディアに対抗しようとしている。
グーグルは今月、新世代のAIチップを発表した。同社は長年、半導体大手ブロードコムとの提携を通じて独自のAIチップを製造している。アマゾンは昨年11月に新たなAIチップを発表。マイクロソフトも昨年同月、自社開発のAIチップ製造を開始すると明らかにした。
調査会社テックインサイツが今週示した推計によると、グーグルは昨年、データセンター向けチップの設計でエヌビディア、インテルに次ぐ3位につけたとみられる。ブロードコムのホック・タンCEOは今年、社内向けの説明の中で、同社のカスタムチップ(特定の目的・製品向けにカスタマイズされたチップ)部門の四半期ベースの営業利益が10億ドルを超えていると明らかにした。同部門は主にグーグルのAIチップ生産を支援しており、この数字からグーグルが同事業にどれほど多くの資金を注ぎ込んでいるかをうかがい知ることができる。
またマイクロソフトは最近、クラウドコンピューティングの顧客にAMD製AIチップの利用機会を提供し、エヌビディア製以外の選択肢を設ける考えを示した。
ローゼンブラット・セキュリティーズのアナリスト、ハンス・モーゼスマン氏は、世界のAIチップ市場におけるエヌビディアのシェアは、競争圧力によって低下するとみられると述べている。しかし同時に、AIコンピューティング市場全体でのエヌビディアのシェアは現状を維持する公算が大きく、シェア拡大さえあり得ると予想している。エヌビディアがコンピューティングに関する他の分野およびソフトウエアで事業拡大を図っているためだという。
AI市場の変化
変化に富むAI市場でトップの座を維持するためにエヌビディアが対応を迫られている問題は、製造面での直接的な競争だけではない。AIブームの最初の1年間は、生成AIモデルの構築とトレーニングに投資は集中した。膨大な演算処理能力が求められ、それにはエヌビディアのチップが適していた。
だが、AIモデルが与えられた新たな情報から回答を導き出す「インファレンス(推論)」と呼ばれるプロセスの開発段階に入ると、そのような高価なチップの絶対的必要性は低下する。エヌビディアのコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は22日、同社の過去1年間のデータセンター向けチップ売上高の4割以上が、すでにこうした用途向けで占められていたと語った。
AIブームには、より広範な脅威も存在する。AIチップが収納されるデータセンターの建設余力や十分な発電能力などだ。
さらに、企業は強力なAIシステムの構築・展開をより効率的に進める方法に関心を向けている。それでも、そのことが必ずしも需要の減退を意味するわけではない。企業はエヌビディア製チップからより多くの処理を引き出そうとするからだ。AI新興ファウンドリー・テクノロジーズのジャレド・クインシー・デービスCEOはそう指摘する。
「彼らの考え方はわれわれと全く同じで、物事を100倍効率化すれば、100倍よりもっと大きく市場を成長させることができると考えている」とデービス氏は言う。「半導体チップを使って行われる物事の経済性が改善すればするほど、その市場は大きくなる」
フアン氏は、世界には発電できる量が限られている地域があり、そこで重要なのは、最高のチップを手に入れて処理能力を最大化することだと述べた。しかし中には、AIに利用できるエネルギーが余っている国もあると指摘した。
「そうしたエネルギーは輸出されておらず、他の場所に送電するための設備もない。つまり、データセンターを建設するには絶好の場所だ」とフアン氏。「AIを学習させる場所はどこでも構わない」
エヌビディアは次世代チップの開発を進めることで増大する課題に対処している。最先端のAI用GPU「ブラックウェル」を年内に発売し、毎年アップデートしていく見通しだ。
同社はまた、AIの演算処理が行われるデータセンター向け事業の範囲を拡大しており、顧客が大規模なAI処理システム(フアン氏がよく言うところの「AIファクトリー」)を構築するのに必要なネットワークチップなど、インフラ向け製品のラインアップを増やしている。
フアン氏はカリフォルニア州サンタクララで今月開かれた会議で、「現時点でほとんどの人に分からないものをわれわれは作っている。新たなファクトリーが建設され、インテリジェンスを大規模に創出することになるだろう」と語った。
バーンスタイン・リサーチのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は、コンピューティングの未来を具現化するためのフアン氏の多方面にわたる野心は、エヌビディアの優位性を崩そうとする競合他社と戦う上で助けになるはずだとの見方を示した。
「(競合他社から自社を守るための)堀を広く保てるかどうかはエヌビディア次第だが、今のところはかなりうまくやっていると言えるのではないか」とラスゴン氏は話した。
------------------------------------------
Asa Fitch(あさフィッチ)
ウォールストリートジャーナルのサンフランシスコ支局の半導体企業(Intel、Nvidia、Qualcommなど)をカバーするレポーターです。
カリフォルニアに移る前は、中東で外国特派員として10年間過ごしました。彼はドバイのジャーナルに参加し、イエメン、イラン、イラク、イスラエル、パレスチナの領土での地域の政治と紛争をカバーする前に、最初はビジネスと金融をカバーしました。
新たな競争とAI市場の変化に直面 By Asa Fitch 2024年5月24日
米半導体大手エヌビディアが22日発表した2-4月期(第1四半期)決算は引き続き好調で、同社は大いに波に乗っている。だが、人工知能(AI)ブームの中心にある同社の立場を弱めかねない脅威が生まれつつある。
競合他社や主要顧客はエヌビディア製品との差を埋めることができる半導体チップの生産を目指している。その一方で、AI市場は変化しており、エヌビディア製品の人気を低下させる可能性がある。
AI企業は大手、中小を問わず、より小規模なモデルを構築・展開する方法を模索するようになっている。このようなモデルは特定のタスクに有効に機能し、エヌビディア製チップに頼らなければならないほどの演算処理能力を必要としない。
状況次第では、この1年好調だったエヌビディアに陰りが見え始める可能性がある。同社の2-4月期売上高は3倍増となり、5-7月期にも倍増が見込まれている。同社の成功は株価を過去最高水準にまで押し上げ、2倍超の増配と1対10の株式分割の発表につながった。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)はインタビューで、課題がある中でも成長する態勢を同社がどうやって整えているかを説明した。エヌビディアの役割は、チップの製造という枠を越え、AIを大量生産する現代のデジタル工場とフアン氏が考えるデータセンターの構築へと拡大しているという。同社はAIチップに加え、AIに不可欠な構成要素であるCPU(中央演算処理装置)やネットワークチップ、ソフトウエアも製造している。
フアン氏は「これはチップ事業ではない」と断言。「データセンターに行って、その構築には信じられないほど多くの技術が必要であることを想像してみてほしい」と述べた。
勢いを持続できるか
パソコンや携帯電話、インターネットの出現に匹敵し得るAIブームの中で、エヌビディアは時宜を得て最適な位置にあり、市場をリードするサプライヤーとしての役割を果たしている。大和証券キャピタル・マーケッツアメリカのアナリスト、ルイス・ミシオシア氏はそう指摘している。「AIの出現は大きなことだが、かつて世界を変えたパソコンや携帯電話、インターネットよりも大きな出来事になる可能性がある」
投資家にとっての大きな疑問は、エヌビディアがこのまま勢いを持続できるのか、それとも、市場の変化とライバルとの競争激化が起きる中で市場自体が縮小してしまうのか、ということだ。
エヌビディアと競合する半導体メーカーは攻勢を強めており、独自のAIチップを発売し、少なくとも一部のAI演算タスクにおいてはそれらの方が優れていると主張している。また、エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)を利用するために使われるソフトウエア市場で同社の支配を取り崩し、代替品を求める顧客からの要望に応えようとしている。AIチップ市場に占めるエヌビディアのシェアは8割を超えているとみられる。
新興AIチップメーカー、サンバノバ・システムズのロドリゴ・リアンCEOは「メーカー1社に依存している現在の状況は、顧客の選択を制限し、技術革新を妨げる可能性がある」と述べる。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEOは先月、今年の同社のAIチップ売上高が40億ドル(約6300億円)程度になるとの見通しを示した。インテルは4月に新世代のAIチップを発売。パット・ゲルシンガーCEOはアナリストとの電話会見で、同社は下半期のチップ売上高を5億ドルと見込んでいると述べた。
アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトなどのハイテク大手は、独自にチップを設計し、製造は委託することで、エヌビディアに対抗しようとしている。
グーグルは今月、新世代のAIチップを発表した。同社は長年、半導体大手ブロードコムとの提携を通じて独自のAIチップを製造している。アマゾンは昨年11月に新たなAIチップを発表。マイクロソフトも昨年同月、自社開発のAIチップ製造を開始すると明らかにした。
調査会社テックインサイツが今週示した推計によると、グーグルは昨年、データセンター向けチップの設計でエヌビディア、インテルに次ぐ3位につけたとみられる。ブロードコムのホック・タンCEOは今年、社内向けの説明の中で、同社のカスタムチップ(特定の目的・製品向けにカスタマイズされたチップ)部門の四半期ベースの営業利益が10億ドルを超えていると明らかにした。同部門は主にグーグルのAIチップ生産を支援しており、この数字からグーグルが同事業にどれほど多くの資金を注ぎ込んでいるかをうかがい知ることができる。
またマイクロソフトは最近、クラウドコンピューティングの顧客にAMD製AIチップの利用機会を提供し、エヌビディア製以外の選択肢を設ける考えを示した。
ローゼンブラット・セキュリティーズのアナリスト、ハンス・モーゼスマン氏は、世界のAIチップ市場におけるエヌビディアのシェアは、競争圧力によって低下するとみられると述べている。しかし同時に、AIコンピューティング市場全体でのエヌビディアのシェアは現状を維持する公算が大きく、シェア拡大さえあり得ると予想している。エヌビディアがコンピューティングに関する他の分野およびソフトウエアで事業拡大を図っているためだという。
AI市場の変化
変化に富むAI市場でトップの座を維持するためにエヌビディアが対応を迫られている問題は、製造面での直接的な競争だけではない。AIブームの最初の1年間は、生成AIモデルの構築とトレーニングに投資は集中した。膨大な演算処理能力が求められ、それにはエヌビディアのチップが適していた。
だが、AIモデルが与えられた新たな情報から回答を導き出す「インファレンス(推論)」と呼ばれるプロセスの開発段階に入ると、そのような高価なチップの絶対的必要性は低下する。エヌビディアのコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は22日、同社の過去1年間のデータセンター向けチップ売上高の4割以上が、すでにこうした用途向けで占められていたと語った。
AIブームには、より広範な脅威も存在する。AIチップが収納されるデータセンターの建設余力や十分な発電能力などだ。
さらに、企業は強力なAIシステムの構築・展開をより効率的に進める方法に関心を向けている。それでも、そのことが必ずしも需要の減退を意味するわけではない。企業はエヌビディア製チップからより多くの処理を引き出そうとするからだ。AI新興ファウンドリー・テクノロジーズのジャレド・クインシー・デービスCEOはそう指摘する。
「彼らの考え方はわれわれと全く同じで、物事を100倍効率化すれば、100倍よりもっと大きく市場を成長させることができると考えている」とデービス氏は言う。「半導体チップを使って行われる物事の経済性が改善すればするほど、その市場は大きくなる」
フアン氏は、世界には発電できる量が限られている地域があり、そこで重要なのは、最高のチップを手に入れて処理能力を最大化することだと述べた。しかし中には、AIに利用できるエネルギーが余っている国もあると指摘した。
「そうしたエネルギーは輸出されておらず、他の場所に送電するための設備もない。つまり、データセンターを建設するには絶好の場所だ」とフアン氏。「AIを学習させる場所はどこでも構わない」
エヌビディアは次世代チップの開発を進めることで増大する課題に対処している。最先端のAI用GPU「ブラックウェル」を年内に発売し、毎年アップデートしていく見通しだ。
同社はまた、AIの演算処理が行われるデータセンター向け事業の範囲を拡大しており、顧客が大規模なAI処理システム(フアン氏がよく言うところの「AIファクトリー」)を構築するのに必要なネットワークチップなど、インフラ向け製品のラインアップを増やしている。
フアン氏はカリフォルニア州サンタクララで今月開かれた会議で、「現時点でほとんどの人に分からないものをわれわれは作っている。新たなファクトリーが建設され、インテリジェンスを大規模に創出することになるだろう」と語った。
バーンスタイン・リサーチのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は、コンピューティングの未来を具現化するためのフアン氏の多方面にわたる野心は、エヌビディアの優位性を崩そうとする競合他社と戦う上で助けになるはずだとの見方を示した。
「(競合他社から自社を守るための)堀を広く保てるかどうかはエヌビディア次第だが、今のところはかなりうまくやっていると言えるのではないか」とラスゴン氏は話した。
------------------------------------------
Asa Fitch(あさフィッチ)
ウォールストリートジャーナルのサンフランシスコ支局の半導体企業(Intel、Nvidia、Qualcommなど)をカバーするレポーターです。
カリフォルニアに移る前は、中東で外国特派員として10年間過ごしました。彼はドバイのジャーナルに参加し、イエメン、イラン、イラク、イスラエル、パレスチナの領土での地域の政治と紛争をカバーする前に、最初はビジネスと金融をカバーしました。
AI企業は大手、中小を問わず、より小規模なモデルを構築・展開する方法を模索するようになっている。このようなモデルは特定のタスクに有効に機能し、エヌビディア製チップに頼らなければならないほどの演算処理能力を必要としない。
状況次第では、この1年好調だったエヌビディアに陰りが見え始める可能性があると、Asa Fitch。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)はインタビューで、課題がある中でも成長する態勢を同社がどうやって整えているかを説明。エヌビディアの役割は、チップの製造という枠を越え、AIを大量生産する現代のデジタル工場とフアン氏が考えるデータセンターの構築へと拡大している。
「これはチップ事業ではない」と断言。「データセンターに行って、その構築には信じられないほど多くの技術が必要であることを想像してみてほしい」とも述べたのだそうです。
パソコンや携帯電話、インターネットの出現に匹敵し得るAIブームの中で、エヌビディアは時宜を得て最適な位置にあり、市場をリードするサプライヤーとしての役割を果たしている。大和証券キャピタル・マーケッツアメリカのアナリスト、ルイス・ミシオシア氏はそう指摘。
エヌビディアと競合する半導体メーカーは攻勢を強めており、独自のAIチップを発売し、少なくとも一部のAI演算タスクにおいてはそれらの方が優れていると主張。
エヌビディア製の画像処理半導体(GPU)を利用するために使われるソフトウエア市場で同社の支配を取り崩し、代替品を求める顧客からの要望に応えようとしていると、Asa Fitch。
新興AIチップメーカー、サンバノバ・システムズのロドリゴ・リアンCEOは「メーカー1社に依存している現在の状況は、顧客の選択を制限し、技術革新を妨げる可能性がある」と述べる。
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のリサ・スーCEOは先月、今年の同社のAIチップ売上高が40億ドル(約6300億円)程度になるとの見通しを示した。
インテルは4月に新世代のAIチップを発売。パット・ゲルシンガーCEOはアナリストとの電話会見で、同社は下半期のチップ売上高を5億ドルと見込んでいると述べた。
アマゾン・ドット・コムやグーグル、メタ・プラットフォームズ、マイクロソフトなどのハイテク大手は、独自にチップを設計し、製造は委託することで、エヌビディアに対抗しようとしている。
グーグルは今月、新世代のAIチップを発表。長年、半導体大手ブロードコムとの提携を通じて独自のAIチップを製造している。
アマゾンは昨年11月に新たなAIチップを発表。マイクロソフトも昨年同月、自社開発のAIチップ製造を開始すると明らかにしたと、Asa Fitch。
AI市場でトップの座を維持するためにエヌビディアが対応を迫られている問題は、製造面での直接的な競争だけではない。AIブームの最初の1年間は、生成AIモデルの構築とトレーニングに投資は集中した。膨大な演算処理能力が求められ、それにはエヌビディアのチップが適していた。
だが、AIモデルが与えられた新たな情報から回答を導き出す「インファレンス(推論)」と呼ばれるプロセスの開発段階に入ると、そのような高価なチップの絶対的必要性は低下する。エヌビディアのコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は22日、同社の過去1年間のデータセンター向けチップ売上高の4割以上が、すでにこうした用途向けで占められていたと語ったのだそうです。
AIブームには、より広範な脅威も存在する。AIチップが収納されるデータセンターの建設余力や十分な発電能力などだ。
さらに、企業は強力なAIシステムの構築・展開をより効率的に進める方法に関心を向けている。
企業はエヌビディア製チップからより多くの処理を引き出そうとする。AI新興ファウンドリー・テクノロジーズのジャレド・クインシー・デービスCEOはそう指摘。
「彼らの考え方はわれわれと全く同じで、物事を100倍効率化すれば、100倍よりもっと大きく市場を成長させることができると考えている」とも。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、世界には発電できる量が限られている地域があり、そこで重要なのは、最高のチップを手に入れて処理能力を最大化することだと述べた。しかし中には、AIに利用できるエネルギーが余っている国もあると指摘。
「そうしたエネルギーは輸出されておらず、他の場所に送電するための設備もない。つまり、データセンターを建設するには絶好の場所だ」と。
国内で相次ぐデータセンター新設 生成AIも関係しているって本当? | 電波新聞デジタル
エヌビディアは次世代チップの開発を進めることで増大する課題に対処している。最先端のAI用GPU「ブラックウェル」を年内に発売し、毎年アップデートしていく見通しだと、Asa Fitch。
同社はまた、AIの演算処理が行われるデータセンター向け事業の範囲を拡大しており、顧客が大規模なAI処理システム(フアン氏がよく言うところの「AIファクトリー」)を構築するのに必要なネットワークチップなど、インフラ向け製品のラインアップを増やしている。
フアン氏はカリフォルニア州サンタクララで今月開かれた会議で、「現時点でほとんどの人に分からないものをわれわれは作っている。新たなファクトリーが建設され、インテリジェンスを大規模に創出することになるだろう」と語ったのだそうです。
バーンスタイン・リサーチのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は、コンピューティングの未来を具現化するためのフアン氏の多方面にわたる野心は、エヌビディアの優位性を崩そうとする競合他社と戦う上で助けになるはずだ。
今のところはかなりうまくやっていると言えるのではないか」と。
エヌビディア、史上最高値更新中。AI時代の寵児。NVIDIA株の今後の見通し
# 冒頭の画像は、米カリフォルニア州サンノゼで3月開いたAI開発者会議で話すエヌビディアのジェンスン・フアンCEO
この花の名前は、アメリカナデシコ
↓よろしかったら、お願いします。
遊爺さんの写真素材 - PIXTA
月刊Hanada2024年2月号 - 花田紀凱, 月刊Hanada編集部 - Google ブックス