中国の中央銀行である人民銀行の総裁、易綱は10日の記者会見の冒頭、いきなり事実上の自己批判を口にしたのだそうです。
全人代の記者会見という就任後初めての晴れ舞台。しかも外国人記者らを前に経済悪化の責任を認める発言は極めて珍しいことなのだそうです。
景気後退下でも6.6%もの成長率を達成したとする公式発表とは辻つまが合わない政策失敗を意味する「信用収縮」という極めて強い言葉まで使った経済悪化の責任を認める発言。
強い圧力を内部で受けている証拠であり、こう表現せざるを得ないほど事態は深刻なのだと。
急速な債務削減が引き金を引いた民間企業の苦境。それは既に昨秋、放置できないほど突出した問題になっていて、易綱は昨年11月の段階で明確に失敗を認めていたのだそうです。
それでも経済失速を招いた責任を中央銀に押しつける動きはやまず、改めて態度表明に追い込まれたのだと。
しかし、一連の政策は、現指導部全員に責任があるはず。人民銀総裁に就いてわずか1年の易綱だけが自己批判を迫られるのはおかしい。
共産党内序列トップと2位という高位の人物が反省を口にすれば、権威に大きな傷が付く。共産党の最近の常識ではあり得ない。だからこそ、ある意味、末端にいる易綱がいけにえになったのだそうです。
習近平と李克強のトップ2人は既に目立たぬよう軌道修正しているのだそうで、習近平は、鄧小平の改革開放の流れを継ぐ共青団派の李克強等が民間の力を活用しようとするのに反し、「国有企業を大きく」と唱えた旗を振っていたのに、このスローガンを表向き口にしなくなり、民間企業も平等に扱うとしているのだそうです。
李克強は、金融部門を暗に批判したうえで「民間企業や小企業・零細企業の資金繰り難、調達コスト高」の解決に向けた細かい対処方針を示したのだと。
また、易綱は、焦点の対米経済・貿易交渉に出席しているのだそうです。国内の金融政策の責任者と対米交渉人という二枚看板を背負っているのです。
対米交渉を含めた重い責任を担う人物が、公の場で政策の失敗を認めなければならない状況に追い込まれたということになります。
対米交渉団を率いているのは、劉鶴で、易綱はナンバー2。
劉鶴は2012年の習近平指導部の発足以来、経済政策を差配し、1年前、経済担当の副首相に就き、その勢いは本来、経済政策全般を取り仕切るべき首相の李克強をしのぐかに見えた人物。
就任わずか1年の易綱が何度も自己批判せざるをえないとすると、共産党内で経済の現状に不満を持つ勢力が狙う本当の標的は、習近平の寵臣劉鶴。
トランプ大統領は、2月に貿易問題の閣僚級協議のために訪米していた劉鶴副首相と会談し、3月、習近平国家主席との首脳会談を開き、最終的な合意を目指す考えを示していました。
習氏と3月会談の意向 トランプ氏が言及 - FNN.jpプライムオンライン
このことを、全人代の閣僚記者会見で、海外メディアの記者が英語で質問したのだそうですが、通訳は質問の肝の部分をまるごと抜いてしまったのだそうです。
海外報道がブロックされている中国内では、習近平がわざわざ訪米してトランプの別荘を訪ねる計画はまだ一切、公式報道されていないのが理由。
余談ですが、通訳の凄腕に感心します。
ここから分かるのは、習近平とトランプが相対する米中首脳会談での最終決着を中国内で公に話題にできるほど交渉が詰まっていないという事実。
対米外交、国内景気と逆風にさらされ、一年前に確立したかに見えた独裁政治体制に早くも曇りが見え始めた習近平。
なんとか全人代は乗り切った様子ですが、これからどうなるか。
ブレグジットの行方と、中国経済の行方は世界経済への影響がおおきく、要注目ですね。
# 冒頭の画像は、全人代記者会見の冒頭で改めて事実上の政策失敗を認めた中国人民銀行の易綱総裁
シラカバの黄葉
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全人代の記者会見という就任後初めての晴れ舞台。しかも外国人記者らを前に経済悪化の責任を認める発言は極めて珍しいことなのだそうです。
景気後退下でも6.6%もの成長率を達成したとする公式発表とは辻つまが合わない政策失敗を意味する「信用収縮」という極めて強い言葉まで使った経済悪化の責任を認める発言。
強い圧力を内部で受けている証拠であり、こう表現せざるを得ないほど事態は深刻なのだと。
中国失速招いた「信用収縮」 人民銀、自己批判の裏事情 :日本経済新聞 編集委員 中沢克二 2019/3/13
「社会の信用収縮を招き、中小企業、零細企業、民間企業の融資難、資金調達コスト高は突出し、経済の下押し圧力が高まった」
中国の中央銀行である人民銀行の総裁、易綱は10日の記者会見の冒頭、いきなり事実上の自己批判を口にした。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の記者会見という就任後初めての晴れ舞台。しかも外国人記者らを前に経済悪化の責任を認める発言は極めて珍しい。
■6.6%成長下での信用収縮の意味
強い圧力を内部で受けている証拠である。しかも政策失敗を意味する「信用収縮」という極めて強い言葉まで使った。日本のバブル崩壊後の信用収縮といえば、銀行が次々と破綻するほどの不況を思い起こす。昨年、景気後退下でも6.6%もの成長率を達成したとする公式発表とは辻つまが合わない。それでも、こう表現せざるを得ないほど事態は深刻だった。
急速な債務削減が引き金を引いた民間企業の苦境。それは既に昨秋、放置できないほど突出した問題になっていた。緊急事態に対処する前提として、易綱は昨年11月の段階で明確に失敗を認めている。国営新華社が配信したインタビューで「政策の考慮が不十分だった」と謝罪したのだ。
それでも経済失速を招いた責任を中央銀に押しつける動きはやまず、結局、今回、外国人記者らも見守る前で改めて態度表明に追い込まれた。
しかし、よく考えてみると易綱だけが自己批判を迫られるのはおかしい。彼が人民銀総裁に就いたのは、わずか1年前である。一連の政策は、共産党総書記で国家主席の習近平(シー・ジンピン)、国務院(政府)を預かる首相の李克強(リー・クォーチャン)を含めて、経済政策に関わる現指導部全員に責任があるはずだ。
だが、共産党内序列トップと2位という高位の人物が反省を口にすれば、権威に大きな傷が付く。共産党の最近の常識ではあり得ない。だからこそ、ある意味、末端にいる易綱がいけにえになった。肩書こそ重職である人民銀総裁だが、党内の序列は極めて低い。200人もいる中央委員でさえなく、その下の中央委員候補になったばかりだ。
前任の人民銀総裁は15年もこの地位にいた周小川。経済通の元首相、朱鎔基に近いベテランだけに、面と向かって文句を言える雰囲気ではなかった。
実は習近平と李克強のトップ2人は既に目立たぬよう軌道修正している。「国有企業を大きく」。習近平は自ら旗を振ってきたこのスローガンを表向き口にしなくなり、民間企業も平等に扱うとしている。「黒い白鳥」や「灰色のサイ」という金融用語で危機対処への準備も指示した。
李克強は5日の政府活動報告で「緊縮効果が重なり増幅するのを防ぐ」と金融部門を暗に批判したうえで「民間企業や小企業・零細企業の資金繰り難、調達コスト高」の解決に向けた細かい対処方針を示した。さすがに「信用収縮」という際どい言葉遣いは避け、それは責任者である易綱に譲った。
■本当の批判の矛先は劉鶴副首相に
もう一つ重要なポイントがある。易綱は、焦点の対米経済・貿易交渉に出席している。習近平の経済ブレーンで副首相の劉鶴が信頼する通貨政策の専門家だ。1998年、劉鶴は易綱を呼び、気鋭の経済学者らを集めるよう指示。立ち上げたのが中国経済のかじ取りに影響力を持つようになる「中国経済50人論壇」である。
易綱は先の対米交渉で、輸出を後押しする通貨人民元の切り下げをしないと約束したとしている。国内の金融政策の責任者と対米交渉人という二枚看板を背負う珍しい人物。それが易綱である。
「対米交渉を含めた重い責任を担う人物が、公の場で政策の失敗を認めなければならない状況は注意を要する」
中国の経済関係者が指摘する。どういう意味なのか。対米交渉団を率いて北京とワシントンを行き来するトップは劉鶴である。その下で働く交渉団ナンバー2が易綱だ。
劉鶴は対外経済政策ばかりではなく、国内経済政策でも実質的に司令塔を担っている。「彼(劉鶴)は私にとって極めて重要だ」。かつて習近平は米国要人にこう劉鶴を紹介している。側近であることを明かす珍しい発言だ。その言葉通り劉鶴は2012年の習近平指導部の発足以来、経済政策を差配し、17年秋には25人だけの精鋭である共産党政治局委員に抜てきされた。堂々の中央指導部入りだ。
そして1年前、経済担当の副首相に就いたことで「ミスター中国経済政策」という面持ちが固まった。派手なパフォーマンスはないが、その勢いは本来、経済政策全般を取り仕切るべき首相の李克強をしのぐかに見えた。
就任わずか1年の易綱が何度も自己批判せざるをえないとすると、共産党内で経済の現状に不満を持つ勢力が狙う本当の標的は別にいる。易綱の裏で国内と対米という両方の経済政策を総覧する劉鶴である。現在の苦境を招いた真の責任者への圧力。習近平の寵臣(ちょうしん)、劉鶴は様々なものを背負って対米交渉に臨んでいる。背後から玉が飛んできかねない状況だ。
■通訳者が消した「マール・ア・ラーゴ」米中首脳会談
肝心の対米交渉と米中首脳会談の設定はどうなっているのか。全人代の閣僚記者会見で現状を象徴する興味深い一幕があった。海外メディアの記者が英語で米フロリダにあるトランプの別荘「マール・ア・ラーゴ」で3月末にも米中首脳会談が実現するのかを問う質問が出た。
中国の記者会見では、まず中国側の優秀な同時通訳者が英語質問を中国語に訳して披露する。だが、この通訳は巧みに質問自体を換骨奪胎して見せた。「月内の遅い時期に合意はありうるか」というように。現場の海外メディアの記者らはあぜんとした。「マール・ア・ラーゴでの米中首脳会談」という質問の肝の部分が丸ごとない。
なぜ、こうした事態が起きたのか。同時通訳者の中国訳は全人代の公式サイトや、中国メディアを通じた現場文字中継で素早く全国に流れる。全てを訳せば、中国国民に3月末に習近平がトランプの別荘「マール・ア・ラーゴ」に行く計画が固まったような印象を与えてしまう。
海外報道がブロックされている中国内では、習近平がわざわざ訪米してトランプ別荘を訪ねる計画はまだ一切、公式報道されていない。この厳格な報道統制を破るわけにはいかない。同時通訳者は、事前の報道方針に沿って問題がある部分を削った。彼らは中国宣伝部門の一翼を担っている。
ここから分かるのは、習近平とトランプが相対する米中首脳会談での最終決着を中国内で公に話題にできるほど交渉が詰まっていないという事実である。米側の要求水準はかなり高い。劉鶴は12日、米中交渉の米側トップである米通商代表部(USTR)代表のライトハイザーらと電話協議するなど打開策を探っているが、大詰めの交渉と米中首脳会談が遅れる可能性もある。
華為技術(ファーウェイ)自身が米国で提訴する法的措置に出た影響なども予断を許さない。15日の全人代閉幕後、習近平が欧州訪問に出かけるまでの動きを注意深く見極める必要がある。(敬称略)
「社会の信用収縮を招き、中小企業、零細企業、民間企業の融資難、資金調達コスト高は突出し、経済の下押し圧力が高まった」
中国の中央銀行である人民銀行の総裁、易綱は10日の記者会見の冒頭、いきなり事実上の自己批判を口にした。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の記者会見という就任後初めての晴れ舞台。しかも外国人記者らを前に経済悪化の責任を認める発言は極めて珍しい。
■6.6%成長下での信用収縮の意味
強い圧力を内部で受けている証拠である。しかも政策失敗を意味する「信用収縮」という極めて強い言葉まで使った。日本のバブル崩壊後の信用収縮といえば、銀行が次々と破綻するほどの不況を思い起こす。昨年、景気後退下でも6.6%もの成長率を達成したとする公式発表とは辻つまが合わない。それでも、こう表現せざるを得ないほど事態は深刻だった。
急速な債務削減が引き金を引いた民間企業の苦境。それは既に昨秋、放置できないほど突出した問題になっていた。緊急事態に対処する前提として、易綱は昨年11月の段階で明確に失敗を認めている。国営新華社が配信したインタビューで「政策の考慮が不十分だった」と謝罪したのだ。
それでも経済失速を招いた責任を中央銀に押しつける動きはやまず、結局、今回、外国人記者らも見守る前で改めて態度表明に追い込まれた。
しかし、よく考えてみると易綱だけが自己批判を迫られるのはおかしい。彼が人民銀総裁に就いたのは、わずか1年前である。一連の政策は、共産党総書記で国家主席の習近平(シー・ジンピン)、国務院(政府)を預かる首相の李克強(リー・クォーチャン)を含めて、経済政策に関わる現指導部全員に責任があるはずだ。
だが、共産党内序列トップと2位という高位の人物が反省を口にすれば、権威に大きな傷が付く。共産党の最近の常識ではあり得ない。だからこそ、ある意味、末端にいる易綱がいけにえになった。肩書こそ重職である人民銀総裁だが、党内の序列は極めて低い。200人もいる中央委員でさえなく、その下の中央委員候補になったばかりだ。
前任の人民銀総裁は15年もこの地位にいた周小川。経済通の元首相、朱鎔基に近いベテランだけに、面と向かって文句を言える雰囲気ではなかった。
実は習近平と李克強のトップ2人は既に目立たぬよう軌道修正している。「国有企業を大きく」。習近平は自ら旗を振ってきたこのスローガンを表向き口にしなくなり、民間企業も平等に扱うとしている。「黒い白鳥」や「灰色のサイ」という金融用語で危機対処への準備も指示した。
李克強は5日の政府活動報告で「緊縮効果が重なり増幅するのを防ぐ」と金融部門を暗に批判したうえで「民間企業や小企業・零細企業の資金繰り難、調達コスト高」の解決に向けた細かい対処方針を示した。さすがに「信用収縮」という際どい言葉遣いは避け、それは責任者である易綱に譲った。
■本当の批判の矛先は劉鶴副首相に
もう一つ重要なポイントがある。易綱は、焦点の対米経済・貿易交渉に出席している。習近平の経済ブレーンで副首相の劉鶴が信頼する通貨政策の専門家だ。1998年、劉鶴は易綱を呼び、気鋭の経済学者らを集めるよう指示。立ち上げたのが中国経済のかじ取りに影響力を持つようになる「中国経済50人論壇」である。
易綱は先の対米交渉で、輸出を後押しする通貨人民元の切り下げをしないと約束したとしている。国内の金融政策の責任者と対米交渉人という二枚看板を背負う珍しい人物。それが易綱である。
「対米交渉を含めた重い責任を担う人物が、公の場で政策の失敗を認めなければならない状況は注意を要する」
中国の経済関係者が指摘する。どういう意味なのか。対米交渉団を率いて北京とワシントンを行き来するトップは劉鶴である。その下で働く交渉団ナンバー2が易綱だ。
劉鶴は対外経済政策ばかりではなく、国内経済政策でも実質的に司令塔を担っている。「彼(劉鶴)は私にとって極めて重要だ」。かつて習近平は米国要人にこう劉鶴を紹介している。側近であることを明かす珍しい発言だ。その言葉通り劉鶴は2012年の習近平指導部の発足以来、経済政策を差配し、17年秋には25人だけの精鋭である共産党政治局委員に抜てきされた。堂々の中央指導部入りだ。
そして1年前、経済担当の副首相に就いたことで「ミスター中国経済政策」という面持ちが固まった。派手なパフォーマンスはないが、その勢いは本来、経済政策全般を取り仕切るべき首相の李克強をしのぐかに見えた。
就任わずか1年の易綱が何度も自己批判せざるをえないとすると、共産党内で経済の現状に不満を持つ勢力が狙う本当の標的は別にいる。易綱の裏で国内と対米という両方の経済政策を総覧する劉鶴である。現在の苦境を招いた真の責任者への圧力。習近平の寵臣(ちょうしん)、劉鶴は様々なものを背負って対米交渉に臨んでいる。背後から玉が飛んできかねない状況だ。
■通訳者が消した「マール・ア・ラーゴ」米中首脳会談
肝心の対米交渉と米中首脳会談の設定はどうなっているのか。全人代の閣僚記者会見で現状を象徴する興味深い一幕があった。海外メディアの記者が英語で米フロリダにあるトランプの別荘「マール・ア・ラーゴ」で3月末にも米中首脳会談が実現するのかを問う質問が出た。
中国の記者会見では、まず中国側の優秀な同時通訳者が英語質問を中国語に訳して披露する。だが、この通訳は巧みに質問自体を換骨奪胎して見せた。「月内の遅い時期に合意はありうるか」というように。現場の海外メディアの記者らはあぜんとした。「マール・ア・ラーゴでの米中首脳会談」という質問の肝の部分が丸ごとない。
なぜ、こうした事態が起きたのか。同時通訳者の中国訳は全人代の公式サイトや、中国メディアを通じた現場文字中継で素早く全国に流れる。全てを訳せば、中国国民に3月末に習近平がトランプの別荘「マール・ア・ラーゴ」に行く計画が固まったような印象を与えてしまう。
海外報道がブロックされている中国内では、習近平がわざわざ訪米してトランプ別荘を訪ねる計画はまだ一切、公式報道されていない。この厳格な報道統制を破るわけにはいかない。同時通訳者は、事前の報道方針に沿って問題がある部分を削った。彼らは中国宣伝部門の一翼を担っている。
ここから分かるのは、習近平とトランプが相対する米中首脳会談での最終決着を中国内で公に話題にできるほど交渉が詰まっていないという事実である。米側の要求水準はかなり高い。劉鶴は12日、米中交渉の米側トップである米通商代表部(USTR)代表のライトハイザーらと電話協議するなど打開策を探っているが、大詰めの交渉と米中首脳会談が遅れる可能性もある。
華為技術(ファーウェイ)自身が米国で提訴する法的措置に出た影響なども予断を許さない。15日の全人代閉幕後、習近平が欧州訪問に出かけるまでの動きを注意深く見極める必要がある。(敬称略)
急速な債務削減が引き金を引いた民間企業の苦境。それは既に昨秋、放置できないほど突出した問題になっていて、易綱は昨年11月の段階で明確に失敗を認めていたのだそうです。
それでも経済失速を招いた責任を中央銀に押しつける動きはやまず、改めて態度表明に追い込まれたのだと。
しかし、一連の政策は、現指導部全員に責任があるはず。人民銀総裁に就いてわずか1年の易綱だけが自己批判を迫られるのはおかしい。
共産党内序列トップと2位という高位の人物が反省を口にすれば、権威に大きな傷が付く。共産党の最近の常識ではあり得ない。だからこそ、ある意味、末端にいる易綱がいけにえになったのだそうです。
習近平と李克強のトップ2人は既に目立たぬよう軌道修正しているのだそうで、習近平は、鄧小平の改革開放の流れを継ぐ共青団派の李克強等が民間の力を活用しようとするのに反し、「国有企業を大きく」と唱えた旗を振っていたのに、このスローガンを表向き口にしなくなり、民間企業も平等に扱うとしているのだそうです。
李克強は、金融部門を暗に批判したうえで「民間企業や小企業・零細企業の資金繰り難、調達コスト高」の解決に向けた細かい対処方針を示したのだと。
また、易綱は、焦点の対米経済・貿易交渉に出席しているのだそうです。国内の金融政策の責任者と対米交渉人という二枚看板を背負っているのです。
対米交渉を含めた重い責任を担う人物が、公の場で政策の失敗を認めなければならない状況に追い込まれたということになります。
対米交渉団を率いているのは、劉鶴で、易綱はナンバー2。
劉鶴は2012年の習近平指導部の発足以来、経済政策を差配し、1年前、経済担当の副首相に就き、その勢いは本来、経済政策全般を取り仕切るべき首相の李克強をしのぐかに見えた人物。
就任わずか1年の易綱が何度も自己批判せざるをえないとすると、共産党内で経済の現状に不満を持つ勢力が狙う本当の標的は、習近平の寵臣劉鶴。
トランプ大統領は、2月に貿易問題の閣僚級協議のために訪米していた劉鶴副首相と会談し、3月、習近平国家主席との首脳会談を開き、最終的な合意を目指す考えを示していました。
習氏と3月会談の意向 トランプ氏が言及 - FNN.jpプライムオンライン
このことを、全人代の閣僚記者会見で、海外メディアの記者が英語で質問したのだそうですが、通訳は質問の肝の部分をまるごと抜いてしまったのだそうです。
海外報道がブロックされている中国内では、習近平がわざわざ訪米してトランプの別荘を訪ねる計画はまだ一切、公式報道されていないのが理由。
余談ですが、通訳の凄腕に感心します。
ここから分かるのは、習近平とトランプが相対する米中首脳会談での最終決着を中国内で公に話題にできるほど交渉が詰まっていないという事実。
対米外交、国内景気と逆風にさらされ、一年前に確立したかに見えた独裁政治体制に早くも曇りが見え始めた習近平。
なんとか全人代は乗り切った様子ですが、これからどうなるか。
ブレグジットの行方と、中国経済の行方は世界経済への影響がおおきく、要注目ですね。
# 冒頭の画像は、全人代記者会見の冒頭で改めて事実上の政策失敗を認めた中国人民銀行の易綱総裁
シラカバの黄葉
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