ウクライナ戦争に関する米国防総省の機密文書がソーシャルメディアで拡散している。
機密文書は、誰がリークしたのかは分からない。
一部では、ロシア政府または親露派グループが機密文書入手に関与し、ロシア軍の被害を少なめに改ざんしたのちにSNSを通じて拡散させた、とも囁かれているが真偽は不明だと、国際ジャーナリストの木村正人氏。
ウクライナ軍が大反攻に転じるこの戦争最大の作戦「Dデイ」が刻々と近づいている。
ウクライナ軍がいつ反撃に出るのか、どんな作戦をとり、どこまで領土を奪還できるのか。現地の情勢に詳しい元米陸軍兵士マーク・ロペス氏(現ウクライナ軍少佐)に木村氏がインタビューされています。
ウクライナ軍の反攻は、陸軍が必要な後方支援と戦術的装備(機甲部隊と火力支援)をすべて揃えたら、春の攻勢か初夏の作戦が有力になると、ロペス氏。
西側諸国の支援については、レオパルトや英国の主力戦車チャレンジャー2、機械化歩兵車両を加えることは、米国の旅団戦闘チームをモデルにしているが、規模は小さいと、ロペス氏。
ロシア軍に占領されている領土をどれぐらい奪還できるかについては、要塞化された地域を迂回し、主要な防衛線を突破する。
ロシア軍を分断し、食料、水、武器弾薬のサプライチェーンから孤立させる。補給基地や司令部をピンポイントで攻撃すれば、ロシア軍は包囲されて再補給を受けられなくなるか、クリミア半島に撤退せざるを得なくなると、ロペス氏。
東部ドネツク州の要衝バフムートの状況について、ワグネル・グループは、はっきり分かるほど大きな損害を被っている。歩兵部隊はシャベルや第二次大戦時代の武器でウクライナ軍の陣地を攻撃している。ロシア軍の戦車や装甲車は先の大戦以来のペースで破壊されている。
ロシア軍は倉庫の中で眠っていた1950年代、60年代、70年代の戦車を持ち出すことを余儀なくされていると、ロペス氏。
ワグネルグループのブリゴジンと、イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官間の対立については、プリゴジンは勝っている時は支持されていたが、今はロシア軍と同じように、戦場での敗北が彼の力を低下させていると。
初期のワグネル・グループはロシア軍の空爆と砲撃の支援を受け、突撃のスペシャリストとしてその名を馳せた。南東部の港湾都市マリウポルのアゾフスターリ製鉄所では大活躍した。
しかし、バフムートではワグネル・グループは支援不足、兵站の失敗、強制された服役囚の徴用に苦しんでいる。これでは、やる気のある兵士が困難な任務をこなすための環境が整っている状況とはいえない。
バフムートでワグネル・グループは85~95%の損失を被ったという報告もあると、ロペス氏。
今、米欧がウクライナのためにすべきことについてロペス氏は、ロシア軍の砲撃が届かなくするために、西側諸国はウクライナに長距離ミサイルやロケット弾を提供してロシア軍の弾薬庫をもっと後方に押し下げるべきだと。
第4世代、第5世代の兵器は歓迎されるだろうが、システムとサポートユニットの複雑さのため、これらの配備はロジスティックスの問題を抱えている。ウクライナ軍のパイロットはジェット戦闘機を操縦できるが、十分な数の配備とサポートは別の問題だと、ロペス氏。
ロシアによる同盟国ベラルーシへの戦術核兵器の配備については、これは「張り子の虎」だ。ロシアがウクライナや西側諸国に対して核攻撃を行うことはないだろう。そのような行動の結果、北大西洋条約機構(NATO)が集団防衛を定めた第5条を発動し、ロシア軍は破壊されることになると。
(ロシアの)すべてを破壊してから占領するという戦略は失敗している。ちょうどアフガニスタンにおける米軍の対反乱作戦(counter-insurgency)のように。なぜかというと占領地域の市民がロシアやその軍隊を支持していないことに気づかなかったからだと、ロペス氏。
民間インフラを圧倒的に破壊するロシア軍のシリア・モデルはウクライナ戦争では占領地域とロシアで強力なパルチザン・キャンペーンに見舞われている。
NATOのウクライナへの完全な後方支援という目標が達成されている。武器、弾薬、技術はウクライナに流れ込んでいるとも。
ウクライナ軍が反攻に転じた場合、ロシア軍はウクライナ軍の新戦力部隊を止めることは難しい。
多くのロシア軍部隊が戦力不足のため、ロシアにとっての選択肢は戦術的撤退か、全滅しかないだろうと、ロペス氏。
ロシア側も、ウクライナへの西側諸国の支援が整う前にと攻勢を強めている様子。
ロシア、東部要衝で攻勢強化 ウクライナ、補給路に懸念も:時事ドットコム
# 冒頭の画像は、バフムト近郊で、榴弾(りゅうだん)砲を撃つウクライナ兵
この花の名前は、オキナグサ
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
機密文書は、誰がリークしたのかは分からない。
一部では、ロシア政府または親露派グループが機密文書入手に関与し、ロシア軍の被害を少なめに改ざんしたのちにSNSを通じて拡散させた、とも囁かれているが真偽は不明だと、国際ジャーナリストの木村正人氏。
ウクライナ軍が大反攻に転じるこの戦争最大の作戦「Dデイ」が刻々と近づいている。
ウクライナ軍がいつ反撃に出るのか、どんな作戦をとり、どこまで領土を奪還できるのか。現地の情勢に詳しい元米陸軍兵士マーク・ロペス氏(現ウクライナ軍少佐)に木村氏がインタビューされています。
「ロシア軍には戦術的撤退か全滅の道しかない」ウ軍従軍の元米軍兵士が断言 「西側支援の武器弾薬を手にしたウクライナの反攻をロシアは止められない」 | JBpress (ジェイビープレス) 2023.4.11(火) 国際ジャーナリスト ・ 木村 正人
機密文書漏洩、背後にロシアの関与説
[ロンドン]ウクライナ戦争に関する米国防総省の機密文書がソーシャルメディアで拡散している。
米紙ニューヨーク・タイムズは「漏洩文書はロシア軍の状況を厳しく評価するとともに、ウクライナ軍も悲惨な状況にあることを示唆している」と報じている。皮肉なことに米国は、秘密主義に徹するウクライナ軍よりロシア軍の内部情報に精通していると言われる。
漏洩文書によると、ロシア軍は18万9500人~22万3000人の死傷者を出し、うち戦死者は最大4万3000人。2月時点でウクライナ軍の死傷者は12万4500人~13万1000人で、戦死者はうち最大1万7500人とされる。米国はこれまで、ロシア軍の死傷者を約20万人、ウクライナ軍のそれを約10万人と見積もっていた。
オープンソース・インテリジェンスを使ってロシアが撒き散らす嘘を見破り、発信し続けている「ベリングキャット」のトレーニング&リサーチ担当アリック・トーラ氏は「『最高機密』と書かれたものを含む文書の一部はロシアのウクライナ侵攻に焦点を当て、他の文書は南シナ海に関する英国の潜在的な政策などに関する詳細な分析を行っている」と指摘する。
機密文書は3月までのロシアのウクライナ侵攻に関する出来事を詳述し、分析しているが、誰がリークしたのかは分からない。3月上旬、ゲーマーに人気のメッセージング・プラットフォームに最初に投稿され、一部は「ベリングキャット」の調査で粗雑に編集されていることが判明している。
一部では、ロシア政府または親露派グループが機密文書入手に関与し、ロシア軍の被害を少なめに改ざんしたのちにSNSを通じて拡散させた、とも囁かれているが真偽は不明だ。米国防総省と米司法省は調査に乗り出した。
ウクライナ軍が大反攻に転じるこの戦争最大の作戦「Dデイ」が刻々と近づいている。しかしウクライナ軍がいつ反撃に出るのか、どんな作戦をとり、どこまで領土を奪還できるのか予測するのは難しい。昨年5月からウクライナ軍に従軍し、現地の情勢に詳しい元米陸軍兵士マーク・ロペス氏(現ウクライナ軍少佐)にインタビューした。
反攻開始は春から初夏にかけて
――ウクライナ軍による反攻はいつ、どのように起こると予測していますか。
マーク・ロペス氏(以下、ロペス) いかなる反攻作戦を立てる時も天候を考慮する必要がある。春の吹雪、低い気温のため、兵員や車両は雪や雨、ぬかるみに備える必要がある。晴天と地面が固まることを期待している。
陸軍が必要な後方支援と戦術的装備(機甲部隊と火力支援)をすべて揃えたら、春の攻勢か初夏の作戦が有力になる。ドイツ製主力戦車レオパルト1、2の到着が遅れている。機甲部隊の供与と配備が済んだ時が反攻のタイミングになるかもしれない。
――ウクライナ軍は米国など西側諸国から十分な装備を供与されていると思いますか。
ロペス ウクライナ軍は、機械化部隊だけでなく、反攻を維持するための砲兵支援部隊や後方支援列車を含む、優れた戦闘経験のある部隊を構築してきたと思う。
レオパルトや英国の主力戦車チャレンジャー2、機械化歩兵車両を加えることは、米国の旅団戦闘チームをモデルにしているが、規模は小さい。
ロシア軍がハルキウやヘルソンのように崩壊すれば、ウクライナ軍はクリミア半島の境界まで領土を回復できるだろう。
反攻のポイントは兵站線の分断
――ウクライナ軍は、ロシア軍に占領されている領土をどれぐらい奪還できると考えていますか。
ロペス ハルキウ作戦と同様、ロシア軍が守りを固めている拠点周辺への強固な機甲部隊の投入が鍵になると思われる。要塞化された地域を迂回し、主要な防衛線を突破する。ロシア軍の全部隊を破壊しようとして泥沼にハマることを回避しなければならない。
ロシア軍を分断し、食料、水、武器弾薬のサプライチェーンから孤立させる。補給基地や司令部をピンポイントで攻撃すれば、ロシア軍は包囲されて再補給を受けられなくなるか、クリミア半島に撤退せざるを得なくなる。
――両軍の死傷者数をどう見ていますか。
ロペス 推定では、ロシア軍はほぼ20万人以上の死傷者を出した。大隊戦術グループ全体が兵員と装備の75~90%の損失を被った。これらのグループは補充されるかもしれないが、兵員と装備の質は並み以下だ。
ウクライナ軍は特に東部ドンバスで死傷者を出し、負傷の大部分は榴散弾と脳震盪によるものだ。その結果、1万人以上の死者を出し、さらに多くの負傷者が出ている。
ロシアの歩兵部隊が手にしている武器はシャベルか第二次大戦時代の遺物
――米国の専門家は、東部ドネツク州の要衝バフムートでロシア軍が甚大な損害を被っていると言っていますが、どう思われますか。
ロペス ロシア軍と露民間軍事会社ワグネル・グループは、はっきり分かるほど大きな損害を被っている。歩兵部隊はシャベルや第二次大戦時代の武器でウクライナ軍の陣地を攻撃している。ロシア軍の戦車や装甲車は先の大戦以来のペースで破壊されている。
ロシア軍は倉庫の中で眠っていた1950年代、60年代、70年代の戦車を持ち出すことを余儀なくされている。これらは旧ソ連時代の中戦車T54(1946年採用)やT55(58年登場)、主力戦車T62(65年登場)と、そして数十年前の大砲だ。
――ウラジーミル・プーチン露大統領と「プーチンの料理番」ことワグネル・グループ創設者エフゲニー・プリゴジン、2014年の東部ドンバス紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮した極右の国家主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官間の対立をどう見ていますか。
ロペス 誰もが権力パズルの中の自分のピースのために戦っている。プーチンはオリガルヒ(新興財閥)と情報機関のヒエラルキーに激変がない限り、権力の座を維持するのに最も適した位置にいる。しかし、ヒエラルキーに激変が生じた場合、プーチンの権力基盤は崩壊し、ウクライナとの和平を急ぐ必要が出てくる。
プリゴジンは、米海軍の元軍人で米民間軍事会社ブラックウォーターUSAの創業者として知られるエリック・プリンスを思い起こさせる。プリゴジンも、プリンスと同じように常に政府の巨額資金が彼らの次の作戦を支援してくれることをあてにしている。
プリゴジンにとっての問題は「ウクライナで最も謎めいた場所」とされる“バフムート・トライアングル”で被った甚大な損失と、プーチンや軍、国防省との激しい口論である。プリゴジンは勝っている時は支持されていたが、今はロシア軍と同じように、戦場での敗北が彼の力を低下させている。
ガーキンは、ウクライナが勝利した場合、自分を一種の仲裁者に仕立て上げようとしている脇役だ。問題は、彼が、乗客283人と乗組員15人の全員が死亡したマレーシア航空17便撃墜事件で有罪判決を受けたことで、欧米への渡航が不可能になったことだ。彼がパルチザンの力によって無力化されることを期待している。
ワグネルはバフムートで壊滅的損失
――前線で戦うワグネル・グループはどのような状況ですか。
ロペス 初期のワグネル・グループはロシア軍の空爆と砲撃の支援を受け、突撃のスペシャリストとしてその名を馳せた。南東部の港湾都市マリウポルのアゾフスターリ製鉄所では大活躍した。
バフムートではワグネル・グループは支援不足、兵站の失敗、強制された服役囚の徴用に苦しんでいる。これでは、やる気のある兵士が困難な任務をこなすための環境が整っている状況とはいえない。領土の獲得は漸進的で、損失は甚大だ。
バフムートでワグネル・グループは85~95%の損失を被ったという報告もある。
――今、米欧がウクライナのためにすべきことは何だと思いますか。
ロペス いかなる反攻に対してもロシア軍の砲撃が届かなくするために、西側諸国はウクライナに長距離ミサイルやロケット弾を提供してロシア軍の弾薬庫をもっと後方に押し下げるべきだ。
第4世代、第5世代の兵器は歓迎されるだろうが、システムとサポートユニットの複雑さのため、これらの配備はロジスティックスの問題を抱えている。ウクライナ軍のパイロットはジェット戦闘機を操縦できるが、十分な数の配備とサポートは別の問題だ。
――日本の岸田文雄首相が主要7カ国(G7)最後の首脳としてウクライナを訪問したことについて、ご意見をお聞かせください。
ロペス 非常に力強い訪問で、ウクライナに対する世界的な支援を示すことができた。日本はウクライナへの技術支援と人道支援を約束した。日本の技術的優位性と組み合わせたこの支援表明は、現在のウクライナとウクライナの復興にとって極めて重要だと思う。
「破壊しつくしてから占領」というロシアの手法に市民からの強い反発
――ロシアによる同盟国ベラルーシへの戦術核兵器の配備をどう見ていますか。
ロペス これは「張り子の虎」だ。ロシアがウクライナや西側諸国に対して核攻撃を行うことはないだろう。そのような行動の結果、北大西洋条約機構(NATO)が集団防衛を定めた第5条を発動し、ロシア軍は破壊されることになるだろう。
プーチンは核のボタンを押す際、軍の支持を必要としている。
――ウクライナにおけるロシア軍の現状とその戦略・戦術をどう評価していますか。
ロペス すべてを破壊してから占領するという戦略は失敗している。ちょうどアフガニスタンにおける米軍の対反乱作戦(counter-insurgency)のように。なぜかというと占領地域の市民がロシアやその軍隊を支持していないことに気づかなかったからだ。
民間インフラを圧倒的に破壊するロシア軍のシリア・モデルはウクライナ戦争では占領地域とロシアで強力なパルチザン・キャンペーンに見舞われている。
大規模な火力支援と1万発の砲撃、ハイテクミサイルの使用により、NATOのウクライナへの完全な後方支援という目標が達成されている。武器、弾薬、技術はウクライナに流れ込んでいる。
ロシア側は制裁と戦場での大きな損失により戦術的な需要に追いつくことができない。もしウクライナ軍が反攻に転じた場合、ロシア軍はウクライナ軍の新戦力部隊を止めることは難しい。
多くのロシア軍部隊が戦力不足のため、ロシアにとっての選択肢は戦術的撤退か、全滅しかないだろう。
------------------------------------------------------------
【マーク・ロペス氏】
米陸軍で1974年から30年間、機甲と空挺の任務につき、イラクやアフガニスタンにも従軍。そのあと米民間警備会社を経営、アフガンに継続して関わった。2014年から4年間、ウクライナ軍に現地で爆発物探知や戦闘外傷救護を指導した。21年8月にはアフガン脱出作戦を支援。昨年5月から外国人志願兵(ウクライナ軍少佐)として主に戦闘外傷救護を指導する。
機密文書漏洩、背後にロシアの関与説
[ロンドン]ウクライナ戦争に関する米国防総省の機密文書がソーシャルメディアで拡散している。
米紙ニューヨーク・タイムズは「漏洩文書はロシア軍の状況を厳しく評価するとともに、ウクライナ軍も悲惨な状況にあることを示唆している」と報じている。皮肉なことに米国は、秘密主義に徹するウクライナ軍よりロシア軍の内部情報に精通していると言われる。
漏洩文書によると、ロシア軍は18万9500人~22万3000人の死傷者を出し、うち戦死者は最大4万3000人。2月時点でウクライナ軍の死傷者は12万4500人~13万1000人で、戦死者はうち最大1万7500人とされる。米国はこれまで、ロシア軍の死傷者を約20万人、ウクライナ軍のそれを約10万人と見積もっていた。
オープンソース・インテリジェンスを使ってロシアが撒き散らす嘘を見破り、発信し続けている「ベリングキャット」のトレーニング&リサーチ担当アリック・トーラ氏は「『最高機密』と書かれたものを含む文書の一部はロシアのウクライナ侵攻に焦点を当て、他の文書は南シナ海に関する英国の潜在的な政策などに関する詳細な分析を行っている」と指摘する。
機密文書は3月までのロシアのウクライナ侵攻に関する出来事を詳述し、分析しているが、誰がリークしたのかは分からない。3月上旬、ゲーマーに人気のメッセージング・プラットフォームに最初に投稿され、一部は「ベリングキャット」の調査で粗雑に編集されていることが判明している。
一部では、ロシア政府または親露派グループが機密文書入手に関与し、ロシア軍の被害を少なめに改ざんしたのちにSNSを通じて拡散させた、とも囁かれているが真偽は不明だ。米国防総省と米司法省は調査に乗り出した。
ウクライナ軍が大反攻に転じるこの戦争最大の作戦「Dデイ」が刻々と近づいている。しかしウクライナ軍がいつ反撃に出るのか、どんな作戦をとり、どこまで領土を奪還できるのか予測するのは難しい。昨年5月からウクライナ軍に従軍し、現地の情勢に詳しい元米陸軍兵士マーク・ロペス氏(現ウクライナ軍少佐)にインタビューした。
反攻開始は春から初夏にかけて
――ウクライナ軍による反攻はいつ、どのように起こると予測していますか。
マーク・ロペス氏(以下、ロペス) いかなる反攻作戦を立てる時も天候を考慮する必要がある。春の吹雪、低い気温のため、兵員や車両は雪や雨、ぬかるみに備える必要がある。晴天と地面が固まることを期待している。
陸軍が必要な後方支援と戦術的装備(機甲部隊と火力支援)をすべて揃えたら、春の攻勢か初夏の作戦が有力になる。ドイツ製主力戦車レオパルト1、2の到着が遅れている。機甲部隊の供与と配備が済んだ時が反攻のタイミングになるかもしれない。
――ウクライナ軍は米国など西側諸国から十分な装備を供与されていると思いますか。
ロペス ウクライナ軍は、機械化部隊だけでなく、反攻を維持するための砲兵支援部隊や後方支援列車を含む、優れた戦闘経験のある部隊を構築してきたと思う。
レオパルトや英国の主力戦車チャレンジャー2、機械化歩兵車両を加えることは、米国の旅団戦闘チームをモデルにしているが、規模は小さい。
ロシア軍がハルキウやヘルソンのように崩壊すれば、ウクライナ軍はクリミア半島の境界まで領土を回復できるだろう。
反攻のポイントは兵站線の分断
――ウクライナ軍は、ロシア軍に占領されている領土をどれぐらい奪還できると考えていますか。
ロペス ハルキウ作戦と同様、ロシア軍が守りを固めている拠点周辺への強固な機甲部隊の投入が鍵になると思われる。要塞化された地域を迂回し、主要な防衛線を突破する。ロシア軍の全部隊を破壊しようとして泥沼にハマることを回避しなければならない。
ロシア軍を分断し、食料、水、武器弾薬のサプライチェーンから孤立させる。補給基地や司令部をピンポイントで攻撃すれば、ロシア軍は包囲されて再補給を受けられなくなるか、クリミア半島に撤退せざるを得なくなる。
――両軍の死傷者数をどう見ていますか。
ロペス 推定では、ロシア軍はほぼ20万人以上の死傷者を出した。大隊戦術グループ全体が兵員と装備の75~90%の損失を被った。これらのグループは補充されるかもしれないが、兵員と装備の質は並み以下だ。
ウクライナ軍は特に東部ドンバスで死傷者を出し、負傷の大部分は榴散弾と脳震盪によるものだ。その結果、1万人以上の死者を出し、さらに多くの負傷者が出ている。
ロシアの歩兵部隊が手にしている武器はシャベルか第二次大戦時代の遺物
――米国の専門家は、東部ドネツク州の要衝バフムートでロシア軍が甚大な損害を被っていると言っていますが、どう思われますか。
ロペス ロシア軍と露民間軍事会社ワグネル・グループは、はっきり分かるほど大きな損害を被っている。歩兵部隊はシャベルや第二次大戦時代の武器でウクライナ軍の陣地を攻撃している。ロシア軍の戦車や装甲車は先の大戦以来のペースで破壊されている。
ロシア軍は倉庫の中で眠っていた1950年代、60年代、70年代の戦車を持ち出すことを余儀なくされている。これらは旧ソ連時代の中戦車T54(1946年採用)やT55(58年登場)、主力戦車T62(65年登場)と、そして数十年前の大砲だ。
――ウラジーミル・プーチン露大統領と「プーチンの料理番」ことワグネル・グループ創設者エフゲニー・プリゴジン、2014年の東部ドンバス紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮した極右の国家主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官間の対立をどう見ていますか。
ロペス 誰もが権力パズルの中の自分のピースのために戦っている。プーチンはオリガルヒ(新興財閥)と情報機関のヒエラルキーに激変がない限り、権力の座を維持するのに最も適した位置にいる。しかし、ヒエラルキーに激変が生じた場合、プーチンの権力基盤は崩壊し、ウクライナとの和平を急ぐ必要が出てくる。
プリゴジンは、米海軍の元軍人で米民間軍事会社ブラックウォーターUSAの創業者として知られるエリック・プリンスを思い起こさせる。プリゴジンも、プリンスと同じように常に政府の巨額資金が彼らの次の作戦を支援してくれることをあてにしている。
プリゴジンにとっての問題は「ウクライナで最も謎めいた場所」とされる“バフムート・トライアングル”で被った甚大な損失と、プーチンや軍、国防省との激しい口論である。プリゴジンは勝っている時は支持されていたが、今はロシア軍と同じように、戦場での敗北が彼の力を低下させている。
ガーキンは、ウクライナが勝利した場合、自分を一種の仲裁者に仕立て上げようとしている脇役だ。問題は、彼が、乗客283人と乗組員15人の全員が死亡したマレーシア航空17便撃墜事件で有罪判決を受けたことで、欧米への渡航が不可能になったことだ。彼がパルチザンの力によって無力化されることを期待している。
ワグネルはバフムートで壊滅的損失
――前線で戦うワグネル・グループはどのような状況ですか。
ロペス 初期のワグネル・グループはロシア軍の空爆と砲撃の支援を受け、突撃のスペシャリストとしてその名を馳せた。南東部の港湾都市マリウポルのアゾフスターリ製鉄所では大活躍した。
バフムートではワグネル・グループは支援不足、兵站の失敗、強制された服役囚の徴用に苦しんでいる。これでは、やる気のある兵士が困難な任務をこなすための環境が整っている状況とはいえない。領土の獲得は漸進的で、損失は甚大だ。
バフムートでワグネル・グループは85~95%の損失を被ったという報告もある。
――今、米欧がウクライナのためにすべきことは何だと思いますか。
ロペス いかなる反攻に対してもロシア軍の砲撃が届かなくするために、西側諸国はウクライナに長距離ミサイルやロケット弾を提供してロシア軍の弾薬庫をもっと後方に押し下げるべきだ。
第4世代、第5世代の兵器は歓迎されるだろうが、システムとサポートユニットの複雑さのため、これらの配備はロジスティックスの問題を抱えている。ウクライナ軍のパイロットはジェット戦闘機を操縦できるが、十分な数の配備とサポートは別の問題だ。
――日本の岸田文雄首相が主要7カ国(G7)最後の首脳としてウクライナを訪問したことについて、ご意見をお聞かせください。
ロペス 非常に力強い訪問で、ウクライナに対する世界的な支援を示すことができた。日本はウクライナへの技術支援と人道支援を約束した。日本の技術的優位性と組み合わせたこの支援表明は、現在のウクライナとウクライナの復興にとって極めて重要だと思う。
「破壊しつくしてから占領」というロシアの手法に市民からの強い反発
――ロシアによる同盟国ベラルーシへの戦術核兵器の配備をどう見ていますか。
ロペス これは「張り子の虎」だ。ロシアがウクライナや西側諸国に対して核攻撃を行うことはないだろう。そのような行動の結果、北大西洋条約機構(NATO)が集団防衛を定めた第5条を発動し、ロシア軍は破壊されることになるだろう。
プーチンは核のボタンを押す際、軍の支持を必要としている。
――ウクライナにおけるロシア軍の現状とその戦略・戦術をどう評価していますか。
ロペス すべてを破壊してから占領するという戦略は失敗している。ちょうどアフガニスタンにおける米軍の対反乱作戦(counter-insurgency)のように。なぜかというと占領地域の市民がロシアやその軍隊を支持していないことに気づかなかったからだ。
民間インフラを圧倒的に破壊するロシア軍のシリア・モデルはウクライナ戦争では占領地域とロシアで強力なパルチザン・キャンペーンに見舞われている。
大規模な火力支援と1万発の砲撃、ハイテクミサイルの使用により、NATOのウクライナへの完全な後方支援という目標が達成されている。武器、弾薬、技術はウクライナに流れ込んでいる。
ロシア側は制裁と戦場での大きな損失により戦術的な需要に追いつくことができない。もしウクライナ軍が反攻に転じた場合、ロシア軍はウクライナ軍の新戦力部隊を止めることは難しい。
多くのロシア軍部隊が戦力不足のため、ロシアにとっての選択肢は戦術的撤退か、全滅しかないだろう。
------------------------------------------------------------
【マーク・ロペス氏】
米陸軍で1974年から30年間、機甲と空挺の任務につき、イラクやアフガニスタンにも従軍。そのあと米民間警備会社を経営、アフガンに継続して関わった。2014年から4年間、ウクライナ軍に現地で爆発物探知や戦闘外傷救護を指導した。21年8月にはアフガン脱出作戦を支援。昨年5月から外国人志願兵(ウクライナ軍少佐)として主に戦闘外傷救護を指導する。
ウクライナ軍の反攻は、陸軍が必要な後方支援と戦術的装備(機甲部隊と火力支援)をすべて揃えたら、春の攻勢か初夏の作戦が有力になると、ロペス氏。
西側諸国の支援については、レオパルトや英国の主力戦車チャレンジャー2、機械化歩兵車両を加えることは、米国の旅団戦闘チームをモデルにしているが、規模は小さいと、ロペス氏。
ロシア軍に占領されている領土をどれぐらい奪還できるかについては、要塞化された地域を迂回し、主要な防衛線を突破する。
ロシア軍を分断し、食料、水、武器弾薬のサプライチェーンから孤立させる。補給基地や司令部をピンポイントで攻撃すれば、ロシア軍は包囲されて再補給を受けられなくなるか、クリミア半島に撤退せざるを得なくなると、ロペス氏。
東部ドネツク州の要衝バフムートの状況について、ワグネル・グループは、はっきり分かるほど大きな損害を被っている。歩兵部隊はシャベルや第二次大戦時代の武器でウクライナ軍の陣地を攻撃している。ロシア軍の戦車や装甲車は先の大戦以来のペースで破壊されている。
ロシア軍は倉庫の中で眠っていた1950年代、60年代、70年代の戦車を持ち出すことを余儀なくされていると、ロペス氏。
ワグネルグループのブリゴジンと、イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官間の対立については、プリゴジンは勝っている時は支持されていたが、今はロシア軍と同じように、戦場での敗北が彼の力を低下させていると。
初期のワグネル・グループはロシア軍の空爆と砲撃の支援を受け、突撃のスペシャリストとしてその名を馳せた。南東部の港湾都市マリウポルのアゾフスターリ製鉄所では大活躍した。
しかし、バフムートではワグネル・グループは支援不足、兵站の失敗、強制された服役囚の徴用に苦しんでいる。これでは、やる気のある兵士が困難な任務をこなすための環境が整っている状況とはいえない。
バフムートでワグネル・グループは85~95%の損失を被ったという報告もあると、ロペス氏。
今、米欧がウクライナのためにすべきことについてロペス氏は、ロシア軍の砲撃が届かなくするために、西側諸国はウクライナに長距離ミサイルやロケット弾を提供してロシア軍の弾薬庫をもっと後方に押し下げるべきだと。
第4世代、第5世代の兵器は歓迎されるだろうが、システムとサポートユニットの複雑さのため、これらの配備はロジスティックスの問題を抱えている。ウクライナ軍のパイロットはジェット戦闘機を操縦できるが、十分な数の配備とサポートは別の問題だと、ロペス氏。
ロシアによる同盟国ベラルーシへの戦術核兵器の配備については、これは「張り子の虎」だ。ロシアがウクライナや西側諸国に対して核攻撃を行うことはないだろう。そのような行動の結果、北大西洋条約機構(NATO)が集団防衛を定めた第5条を発動し、ロシア軍は破壊されることになると。
(ロシアの)すべてを破壊してから占領するという戦略は失敗している。ちょうどアフガニスタンにおける米軍の対反乱作戦(counter-insurgency)のように。なぜかというと占領地域の市民がロシアやその軍隊を支持していないことに気づかなかったからだと、ロペス氏。
民間インフラを圧倒的に破壊するロシア軍のシリア・モデルはウクライナ戦争では占領地域とロシアで強力なパルチザン・キャンペーンに見舞われている。
NATOのウクライナへの完全な後方支援という目標が達成されている。武器、弾薬、技術はウクライナに流れ込んでいるとも。
ウクライナ軍が反攻に転じた場合、ロシア軍はウクライナ軍の新戦力部隊を止めることは難しい。
多くのロシア軍部隊が戦力不足のため、ロシアにとっての選択肢は戦術的撤退か、全滅しかないだろうと、ロペス氏。
ロシア側も、ウクライナへの西側諸国の支援が整う前にと攻勢を強めている様子。
ロシア、東部要衝で攻勢強化 ウクライナ、補給路に懸念も:時事ドットコム
# 冒頭の画像は、バフムト近郊で、榴弾(りゅうだん)砲を撃つウクライナ兵
この花の名前は、オキナグサ
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA