ウクライナに侵攻したロシア軍は、これまでウクライナの強力な抵抗に遭い、深刻な打撃を受けて侵攻計画が予定通りに進展しておらず、首都キーウ(キエフ)からは一旦撤退に追い込まれました。
その劣勢の理由は、3方面から攻め込んだロシア軍は、短期決戦でゼレンスキー大統領から政権を奪えると誤算していたことで、兵站計画が杜撰であったことと、3方面から攻め込んだ軍を統括する将軍が設置されず、プーチンの側近からプーチンに正確な情報が伝わらず、バラバラの行動をしていたこと。
5月9日の対独勝利記念日には、今回の侵略の勝利を国内に喧伝し、支持率を確保したいプーチン。攻撃を東部と南部(海路からの侵略で、揚陸艦襲撃には遇ったものの侵攻は順調)の侵攻勝利を確定する為に、全軍の指揮を執るドボルニコフ司令官を任命しました。
東部、南部への攻撃に転嫁したロシア勢。
南部へルソンは陥落し、南東部マリウポリも陥落間近と伝えられていますね。
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ロシア軍新司令官に懸念 米政府高官「残虐行為に及んだ過去」 | NHK | ウクライナ情勢
ウクライナの強力な抵抗に遭い、深刻な打撃を受けて侵攻計画が予定通りに進展していなかったのは何故か。
元・陸上自衛隊幹部学校長、陸将の樋口氏は、原因の一つに挙げられているのが、ロシア軍の兵站(後方支援)の不備・失敗だと。
ロシア軍に対しては「水・食料や衣料が届かず、兵士の士気が低下」「燃料が不足し、戦車部隊の前進が遅滞」「弾薬が不足し、作戦遂行に重大な影響」などの指摘がなされている。
なぜロシアの兵站には不備があり、失敗と指摘されるのか。
ロシア軍は、北、東(中央)、南の3方向から外線作戦的にウクライナに侵攻した。
外線作戦の利点は、複数の作戦正面の相互の関係性を活用しながら、一つの正面で得られた戦果を他の正面に反映させることで作戦を主導することにあると樋口氏。
しかし、今回のロシア軍の場合、それぞれの間の距離が離れすぎていて、3正面の関係性を活用して成果を他に反映させるという外線作戦の利点を発揮することができず、各正面は、それぞれ独立した作戦を遂行。
兵站も3正面ごとに独立した組織を作って運用せざるを得ず、侵攻軍全体の兵站支援能力は3正面に分散され、相互支援も不可能であることから、兵站支援に多大な負担を強いられている。
英国国際戦略研究所(IISS)の地上戦担当の上級研究員であるベン・バリー准将は、以下の様に指摘。
・今回のウクライナ侵攻では、推定17万人余りのロシア兵が約130の大隊戦術群(BTG)に編成されて配備された
・米国や同盟国がイラクに侵攻した2003年、同程度の米兵が派遣されたが、大隊戦術群の数は50足らずだった
・米国は燃料や弾薬、水、食料の輸送や補給に兵力の大部分を割いている
この指摘は、軍隊の戦力構成において、ロシア軍の戦闘(および戦闘支援)部隊と兵站部隊の比率は前者が大きく、逆に米軍のそれは後者が大きいということを示している。
「ぜいたくな補給システム」に支えられている米軍に比べれば、ロシア軍は戦闘(および戦闘支援)能力の強化に比重を置いている分、兵站支援能力を犠牲にしていることから、そのしわ寄せが作戦遂行の足かせとなっていると樋口氏。
ロシア軍の空挺部隊は、開戦間もなく首都キーウ近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。
そのためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保し損ねた。
ロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になり、そのため軍用車両の渋滞が発生し、ウクライナ軍からは急襲されるなど、身動きが取れない様相を呈した。
但し、主に南部では鉄道や海上優勢を確保している海路を使った補給ができていることから、兵站輸送の問題による作戦の制約はあまり指摘されていない。
第一線と兵站施設との間が大きく離隔し兵站支援距離が長大な場合は、その中間に補給点(物資集積所)を設けるのが通常である。
しかし、ウクライナ領土内にロシア軍が補給点を設置した兆しはほとんど確認されておらず、輸送車両は長距離の往復を余儀なくされている。
ロシア軍は、長期戦に対する備えがない状態で侵攻を開始した可能性が高く、そのため開戦から3日目で燃料切れに見舞われる部隊も現れたと樋口氏。
もうひとつのロシア軍の欠陥は、3方向から攻め入ったが、全体を統括する司令官が不在だったこと。
特に兵站においては、兵站組織の構成、兵站組織・部隊の運用、そして兵站業務の運営について明確な方針を示すことが必要だが、全体を観る司令官がいなかった。
そのほかに、ロシア軍は、開戦から約1か月経過した段階においても航空優勢を獲得できていない。
ウクライナ軍は、レーダー誘導ミサイルや熱探知ミサイル、対空砲など様々な防空兵器を保有している。
さらに、米国やNATOからは対空ミサイル「スティンガー」などが供与され、ウクライナの防衛力が強化されているからであると樋口氏。
そのため、ロシアの大規模な侵攻軍に燃料や弾薬の補給を維持するのも難しい状況にあると。
ロシア軍は、戦車や装甲装軌車両を多用する作戦を行っている。
ロシア製戦車は総じて西側の戦車よりも重量は軽いが、燃費が悪く、戦闘可能な状況に維持しておくことは燃料補給上の要求が格段に上がる。
また、ロシア軍は当初、大量のミサイル攻撃を行った。
しかし、短期決戦の目算が狂ったことで、(在庫が減り)大砲やロケットなどの無誘導兵器導入という旧来の手法に切り替えた。
その結果、「軍事目標主義」に沿った精密な誘導攻撃ができず、非戦闘員である多くの市民に犠牲者を出し民間施設・病院などを破壊する要因ともなっている。
そこが、戦争犯罪だと、世界中から批難をあびている。
「素人は戦術を語るが、プロは兵站を学ぶ」という古い諺があるように、兵站の裏付けのない大規模な軍事作戦は失敗に帰すると樋口氏。
WSJは、「ロシア軍の補給問題、太平洋の米軍にも-米軍が兵站を改善しなければ、台湾防衛は失敗する可能性が高い」と指摘しているのだそうです。
ロシアのウクライナでの失敗は兵站面の問題に起因し、米軍の能力もロシア軍と同様に、大国(中国)との大規模な戦いに向けた態勢が整っているとは言えないとの懸念を指摘しているのだと。
「たまに撃つ弾が無いのが玉に傷」
自衛隊の慢性的な予算不足が招く弾薬備蓄の不足、すなわち兵站の軽視・不備を揶揄する川柳だそうです。
古くて新しい、そして政治が深刻に認識しなければならない我が国防衛に内在する根本的な問題であると樋口氏。
今般のロシアのウクライナ侵攻における兵站の不備・失敗は、決して他人事ではない。
中国の軍事的脅威に曝されている当事国の日本や台湾、そして同盟国の米国や友好国にとっても、改めて重大な戒めとして受け止めなければならないと。
反省し、巻き返しに出たロシア軍。東部や南部は占領されてしまうのでしょうか。
# 冒頭の画像は、ミサイル攻撃を受けた ウクライナ東部クラマトルスクの鉄道駅周辺
ウクライナ東部の駅に砲撃、避難民50人死亡 ロシアは関与否定 | ロイター
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その劣勢の理由は、3方面から攻め込んだロシア軍は、短期決戦でゼレンスキー大統領から政権を奪えると誤算していたことで、兵站計画が杜撰であったことと、3方面から攻め込んだ軍を統括する将軍が設置されず、プーチンの側近からプーチンに正確な情報が伝わらず、バラバラの行動をしていたこと。
5月9日の対独勝利記念日には、今回の侵略の勝利を国内に喧伝し、支持率を確保したいプーチン。攻撃を東部と南部(海路からの侵略で、揚陸艦襲撃には遇ったものの侵攻は順調)の侵攻勝利を確定する為に、全軍の指揮を執るドボルニコフ司令官を任命しました。
東部、南部への攻撃に転嫁したロシア勢。
南部へルソンは陥落し、南東部マリウポリも陥落間近と伝えられていますね。
CNN.co.jp : ウクライナ南部ヘルソンが陥落か、市長示唆 主要都市で初
マリウポリ陥落間近か ウクライナ「最後の戦い」に備え 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News
ロシア軍新司令官に懸念 米政府高官「残虐行為に及んだ過去」 | NHK | ウクライナ情勢
ウクライナ侵略、ロシアはなぜ兵站に失敗したのか 中国の台湾・尖閣侵略に備える米軍や自衛隊に他山の石 | JBpress (ジェイビープレス) 2022.4.12(火) 樋口 譲次
■素人は戦術を語り、プロは兵站を学ぶ
ウクライナに侵攻したロシア軍は、これまでウクライナの強力な抵抗に遭い、深刻な打撃を受けて侵攻計画が予定通りに進展していない。
その原因の一つに挙げられているのが、ロシア軍の兵站(後方支援)の不備・失敗である。
報道によると、ロシア軍に対しては「水・食料や衣料が届かず、兵士の士気が低下」「燃料が不足し、戦車部隊の前進が遅滞」「弾薬が不足し、作戦遂行に重大な影響」などの指摘がなされている。
兵站は、兵器類の整備修理、食料(含む水)・燃料・弾薬などの補給、そのための陸海空路を経由した輸送、戦闘傷病者の医療処置(衛生)などの任務を果たすことによって、戦力を維持増進し作戦を支援する機能である。
兵站は、目覚ましい第一線の作戦・戦闘に比べれば、目立たない裏方の地味な活動であるが、その成否が作戦の結果を左右するものであり、極めて重大な役割を担っている。
そこで、なぜロシアの兵站には不備があり、失敗と指摘されるのか、それを巡る諸要因を検証してみることとする。
それが、日本をはじめ米国や台湾など中国の軍事的野望の脅威に晒されている国々にとって、中国との武力紛争に対する教訓や有効な対策を示唆することになるからである。
■ロシアの兵站の不備・失敗の原因
1 兵站組織の構成
■外線作戦
ロシア軍は、北、東(中央)、南の3方向から外線作戦的にウクライナに侵攻した。
外線作戦の利点は、複数の作戦正面の相互の関係性を活用しながら、一つの正面で得られた戦果を他の正面に反映させることで作戦を主導することにある。
しかし、北正面のキーウ(キエフ)から東(中央)正面のルハンスクまでの直距離は約690キロ、ルハンスクから南正面のセベストポリまでは約627キロ、セベストポリからキーウまでは約690キロあり、それぞれが東京から青森(約578キロ)以上に離れている。
つまり、ロシア軍の作戦は、3正面の関係性を活用して成果を他に反映させるという外線作戦の利点を発揮することができず、各正面は、それぞれ独立した作戦を遂行している。
そのため、ウクライナ侵攻における兵站も3正面ごとに独立した組織を作って運用せざるを得ず、侵攻軍全体の兵站支援能力は3正面に分散され、相互支援も不可能であることから、兵站支援に多大な負担を強いられている。
■戦闘(および戦闘支援)部隊と兵站部隊の戦力構成
英国国際戦略研究所(IISS)の地上戦担当の上級研究員であるベン・バリー准将は、ウォールストリート・ジャーナル紙に「ロシア軍が前回、このような大規模な作戦を実施したのは1968年のチェコスロバキア制圧で、そこに強力な軍は存在しなかった」と述べた。
その上で次のように指摘している。
「今回のウクライナ侵攻では、推定17万人余りのロシア兵が約130の大隊戦術群(BTG)に編成されて配備された」
「米国や同盟国がイラクに侵攻した2003年、同程度の米兵が派遣されたが、大隊戦術群の数は50足らずだった」
「米国は燃料や弾薬、水、食料の輸送や補給に兵力の大部分を割いているため、こうした差が生じる」
この指摘は、軍隊の戦力構成において、ロシア軍の戦闘(および戦闘支援)部隊と兵站部隊の比率は前者が大きく、逆に米軍のそれは後者が大きいということを示している。
「ぜいたくな補給システム」に支えられている米軍に比べれば、ロシア軍は戦闘(および戦闘支援)能力の強化に比重を置いている分、兵站支援能力を犠牲にしていることから、そのしわ寄せが作戦遂行の足かせとなっていると見ることができる。
■大隊戦術群(BTG)を基本とした作戦
前述の通り、ロシア軍は大隊戦術群(BTG)を基本単位として作戦を遂行している。
BTGは、チェチェン紛争やロシア・グルジア戦争、東部ウクライナでの戦役でロシアが選んだ手段である。
師団や旅団と比較して、対テロ・ゲリラ戦への対応の軽快機敏性や紛争を通して部隊ローテーションを処理する方法などの理由で採用された特殊編制である。
ロシア軍は、兵站(補給整備)を民間の軍事請負業者(民間軍事会社、PMC)に委託する取り組みを進めているが、BTGではそのうちのいくつかが削除されたため、補給整備上の弱点が組織に内在していると指摘されている。
■キエフ近郊ホストメル空港に対する空挺作戦の失敗
ロシア軍の空挺部隊は、開戦間もなく首都キーウ近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。
そのためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保し損ねた。
代わりにロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になり、そのため軍用車両の渋滞が発生し、ウクライナ軍からは急襲されるなど、身動きが取れない様相を呈した。
なお、ロシア軍は、主に南部では鉄道や海上優勢を確保している海路を使った補給ができていることから、兵站輸送の問題による作戦の制約はあまり指摘されていない。
■長大な兵站線と中間補給点の不在
2014年以来、交戦状態にある東部ウクライナは別として、北部のベラルーシ国境からキーウまでは主要道路に沿った直線距離は約180キロ、南部のクリミア半島北端からマリウポリまでは約393キロある。
このように、第一線と兵站施設との間が大きく離隔し兵站支援距離が長大な場合は、その中間に補給点(物資集積所)を設けるのが通常である。
しかし、ウクライナ領土内にロシア軍が補給点を設置した兆しはほとんど確認されておらず、輸送車両は長距離の往復を余儀なくされている。
そのため、輸送部隊に大きな負担が掛かり、同時に輸送車両自体の燃料補給も必要なことから、輸送・補給効率の悪化を招いている。
2 兵站組織・部隊の運用
■短期決戦を想定した作戦準備
プーチン大統領の独裁体制がもたらす情報欠陥は、ウクライナ軍に戦意はなく、空挺部隊がキーウに電光石火の攻撃を仕掛ければ、何ら抵抗を受けることなく素早くウォロディミル・ゼレンスキー政権を崩壊させられるとのシナリオを想定していたと報道されている。
このような極めて甘く、杜撰な見積もりを根拠とし、短期決戦を想定した当初の作戦準備には、周到な兵站計画が存在しなくても何ら不思議ではない。
つまり、ロシア軍は、長期戦に対する備えがない状態で侵攻を開始した可能性が高く、そのため開戦から3日目で燃料切れに見舞われる部隊も現れた。
■侵攻軍司令官の不在
作戦を最大限に支援する兵站組織を作り運用するのも指揮官・司令官の大事な仕事である。
しかしながら、伝統的に厳格なトップダウンの指揮系統を持つロシア軍にあって、17万~19万人規模と見られる大軍を統括指揮する軍司令官が指名されていない。
ウクライナ侵攻は、ベラルーシ領土から展開して南下する北方ルート、分離独立派が支配するドンバス地方を経由する東方(中央)ルート、そしてクリミア半島を起点として北上する南方ルートの3方向から攻撃が開始された。
ウクライナ侵攻軍司令官は、作戦の全般目標、主作戦方向(主努力を指向する方向)、3方向に対する戦力配分と相互連携、陸海空軍の統合運用、兵站などの面で的確な作戦指揮を行わなければならない。
特に兵站においては、兵站組織の構成、兵站組織・部隊の運用、そして兵站業務の運営について明確な方針を示すことが必要である。
しかし、本作戦を一元的に指揮するウクライナ侵攻軍司令官が指名されていないため、それらの指揮指導がなされなかったことが、当初の目的通りに作戦が進展しなかった大きな原因であろう。
なお、ロシアのプーチン大統領は、開戦から40日以上が経過した4月10日までに、ようやくウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。
■獲得できない航空優勢
ロシア軍は、開戦から約1か月経過した段階においても航空優勢を獲得できていない。
ロシア空軍とウクライナの空軍および防空システムが航空優勢を巡って戦っているが、ウクライナ軍の防空システムが有効に機能していることから、ロシア軍は航空優勢を握れていない。
ウクライナ軍は、レーダー誘導ミサイルや熱探知ミサイル、対空砲など様々な防空兵器を保有している。
さらに、米国やNATO(北大西洋条約機構)からは対空ミサイル「スティンガー」などが供与され、ウクライナの防衛力が強化されているからである。
そのため、ロシアの大規模な侵攻軍に燃料や弾薬の補給を維持するのも難しい状況となっている。
■戦車・装甲装軌車両中心の作戦
ロシア軍は、戦車や装甲装軌車両を多用する作戦を行っている。
特に戦車は、一般的に大量の燃料を消費するが、ロシア製戦車は総じて西側の戦車よりも重量は軽いが、燃費が悪く、戦闘可能な状況に維持しておくことは燃料補給上の要求が格段に上がる。
「T—72B」戦車は、待機状態で1時間当たり5.8ガロン(約22リットル)のガソリンを消費し、走行中は1ガロン当たりの航続距離が1マイル(約1.6キロ)かそれを大きく下回る水準と見られている。
「T—80U」戦車は、強力なガスタービンエンジンを搭載しているが、非常に燃費が悪いという致命的な弱点がある。
そのため、戦車や装甲装軌車両を多用する作戦には大量の燃料が必要であり、補給が間に合わず、多くの戦車が「ガス欠」に陥って残置されていることが確認されている。
■無誘導兵器(大砲、ロケット)への依存
ロシア軍は当初、大量のミサイル攻撃を行った。
しかし、短期決戦の目算が狂ったことで、大砲やロケットなどの無誘導兵器導入という旧来の手法に切り替えた。
その結果、都市部において、国際法(ジュネーブ諸条約および追加議定書)の「軍事目標主義」に沿った精密な誘導攻撃ができず、非戦闘員である多くの市民に犠牲者を出し民間施設・病院などを破壊する要因ともなっている。
ちなみに、国際法(ジュネーブ諸条約および追加議定書)は、軍事行動は軍事目標のみを対象とするという「軍事目標主義」の基本原則を確認し、文民に対する攻撃の禁止、無差別攻撃の禁止、民用物の攻撃の禁止などに関し詳細に規定している。
ましてや、病者、難船者、医療組織、医療用輸送手段などの保護は厳重に守られなければならないことを謳っている。
無誘導兵器は、精密誘導兵器(ミサイル)に比較するとコスト的には安いが、同じ効果を得るのに精密誘導兵器1発で済むところが、無誘導兵器では60発必要との試算もあり、兵站には多大な負担がかかる。
そのため、作戦の持続の観点から、兵站の困難を極めることは明らかである。
3 兵站業務の運営―兵站計画の未整備
前述の通り、ロシアは早期の勝利を予想し、十分な兵站計画の作成を怠っていた可能性があり、作戦が長期化するにしたがって、兵站支援が遅滞麻痺する状況に陥っていると見られている。
■ロシアの失敗を他山の石とすべき日本
湾岸戦争は、『山・動く』(W.G.パゴニス著)が著わした通り、55万余の将兵と700万トンの物資をアラブの砂漠に動かした史上最大の「ロジスティクス(兵站)・システムの戦い」であった。
「素人は戦術を語るが、プロは兵站を学ぶ」という古い諺があるように、兵站の裏付けのない大規模な軍事作戦は失敗に帰する。
ウクライナへの軍事侵攻を敢行したロシア軍の兵站(後方支援)上の不備あるいは失敗は、前述の通り、単純に一つの理由によって説明できるものではない。
兵站組織の構成や兵站組織・部隊の運用、そして兵站業務の運営などの面で多くの要因が重なった結果であり、その解決は決して容易ではないはずだ。
ロシアおよびロシア軍は、今般の軍事侵攻を通じて、兵站(後方支援)の重要性と難しさについて、改めてその意味を深く噛みしめている所であろう。
中国との対立が本格化している米国でも、例えば、「ロシア軍の補給問題、太平洋の米軍にも-米軍が兵站を改善しなければ、台湾防衛は失敗する可能性が高い」(ウォールストリート・ジャーナル、2022年4月7日)のような注意を喚起する論調が出始めている。
その趣旨は、ロシアのウクライナでの失敗は兵站面の問題に起因し、米軍の能力もロシア軍と同様に、大国(中国)との大規模な戦いに向けた態勢が整っているとは言えないとの懸念を指摘しているものである。
「たまに撃つ弾が無いのが玉に傷」
これは、第一生命が主催するサラリーマン川柳において、かつて自衛隊部門の最優秀賞を獲得した作品である。
自衛隊の慢性的な予算不足が招く弾薬備蓄の不足、すなわち兵站の軽視・不備を揶揄する川柳であり、古くて新しい、そして政治が深刻に認識しなければならない我が国防衛に内在する根本的な問題である。
今般のロシアのウクライナ侵攻における兵站の不備・失敗は、決して他人事ではない。
中国の軍事的脅威に曝されている当事国の日本や台湾、そして同盟国の米国や友好国にとっても、改めて重大な戒めとして受け止めなければならない。
■素人は戦術を語り、プロは兵站を学ぶ
ウクライナに侵攻したロシア軍は、これまでウクライナの強力な抵抗に遭い、深刻な打撃を受けて侵攻計画が予定通りに進展していない。
その原因の一つに挙げられているのが、ロシア軍の兵站(後方支援)の不備・失敗である。
報道によると、ロシア軍に対しては「水・食料や衣料が届かず、兵士の士気が低下」「燃料が不足し、戦車部隊の前進が遅滞」「弾薬が不足し、作戦遂行に重大な影響」などの指摘がなされている。
兵站は、兵器類の整備修理、食料(含む水)・燃料・弾薬などの補給、そのための陸海空路を経由した輸送、戦闘傷病者の医療処置(衛生)などの任務を果たすことによって、戦力を維持増進し作戦を支援する機能である。
兵站は、目覚ましい第一線の作戦・戦闘に比べれば、目立たない裏方の地味な活動であるが、その成否が作戦の結果を左右するものであり、極めて重大な役割を担っている。
そこで、なぜロシアの兵站には不備があり、失敗と指摘されるのか、それを巡る諸要因を検証してみることとする。
それが、日本をはじめ米国や台湾など中国の軍事的野望の脅威に晒されている国々にとって、中国との武力紛争に対する教訓や有効な対策を示唆することになるからである。
■ロシアの兵站の不備・失敗の原因
1 兵站組織の構成
■外線作戦
ロシア軍は、北、東(中央)、南の3方向から外線作戦的にウクライナに侵攻した。
外線作戦の利点は、複数の作戦正面の相互の関係性を活用しながら、一つの正面で得られた戦果を他の正面に反映させることで作戦を主導することにある。
しかし、北正面のキーウ(キエフ)から東(中央)正面のルハンスクまでの直距離は約690キロ、ルハンスクから南正面のセベストポリまでは約627キロ、セベストポリからキーウまでは約690キロあり、それぞれが東京から青森(約578キロ)以上に離れている。
つまり、ロシア軍の作戦は、3正面の関係性を活用して成果を他に反映させるという外線作戦の利点を発揮することができず、各正面は、それぞれ独立した作戦を遂行している。
そのため、ウクライナ侵攻における兵站も3正面ごとに独立した組織を作って運用せざるを得ず、侵攻軍全体の兵站支援能力は3正面に分散され、相互支援も不可能であることから、兵站支援に多大な負担を強いられている。
■戦闘(および戦闘支援)部隊と兵站部隊の戦力構成
英国国際戦略研究所(IISS)の地上戦担当の上級研究員であるベン・バリー准将は、ウォールストリート・ジャーナル紙に「ロシア軍が前回、このような大規模な作戦を実施したのは1968年のチェコスロバキア制圧で、そこに強力な軍は存在しなかった」と述べた。
その上で次のように指摘している。
「今回のウクライナ侵攻では、推定17万人余りのロシア兵が約130の大隊戦術群(BTG)に編成されて配備された」
「米国や同盟国がイラクに侵攻した2003年、同程度の米兵が派遣されたが、大隊戦術群の数は50足らずだった」
「米国は燃料や弾薬、水、食料の輸送や補給に兵力の大部分を割いているため、こうした差が生じる」
この指摘は、軍隊の戦力構成において、ロシア軍の戦闘(および戦闘支援)部隊と兵站部隊の比率は前者が大きく、逆に米軍のそれは後者が大きいということを示している。
「ぜいたくな補給システム」に支えられている米軍に比べれば、ロシア軍は戦闘(および戦闘支援)能力の強化に比重を置いている分、兵站支援能力を犠牲にしていることから、そのしわ寄せが作戦遂行の足かせとなっていると見ることができる。
■大隊戦術群(BTG)を基本とした作戦
前述の通り、ロシア軍は大隊戦術群(BTG)を基本単位として作戦を遂行している。
BTGは、チェチェン紛争やロシア・グルジア戦争、東部ウクライナでの戦役でロシアが選んだ手段である。
師団や旅団と比較して、対テロ・ゲリラ戦への対応の軽快機敏性や紛争を通して部隊ローテーションを処理する方法などの理由で採用された特殊編制である。
ロシア軍は、兵站(補給整備)を民間の軍事請負業者(民間軍事会社、PMC)に委託する取り組みを進めているが、BTGではそのうちのいくつかが削除されたため、補給整備上の弱点が組織に内在していると指摘されている。
■キエフ近郊ホストメル空港に対する空挺作戦の失敗
ロシア軍の空挺部隊は、開戦間もなく首都キーウ近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。
そのためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保し損ねた。
代わりにロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になり、そのため軍用車両の渋滞が発生し、ウクライナ軍からは急襲されるなど、身動きが取れない様相を呈した。
なお、ロシア軍は、主に南部では鉄道や海上優勢を確保している海路を使った補給ができていることから、兵站輸送の問題による作戦の制約はあまり指摘されていない。
■長大な兵站線と中間補給点の不在
2014年以来、交戦状態にある東部ウクライナは別として、北部のベラルーシ国境からキーウまでは主要道路に沿った直線距離は約180キロ、南部のクリミア半島北端からマリウポリまでは約393キロある。
このように、第一線と兵站施設との間が大きく離隔し兵站支援距離が長大な場合は、その中間に補給点(物資集積所)を設けるのが通常である。
しかし、ウクライナ領土内にロシア軍が補給点を設置した兆しはほとんど確認されておらず、輸送車両は長距離の往復を余儀なくされている。
そのため、輸送部隊に大きな負担が掛かり、同時に輸送車両自体の燃料補給も必要なことから、輸送・補給効率の悪化を招いている。
2 兵站組織・部隊の運用
■短期決戦を想定した作戦準備
プーチン大統領の独裁体制がもたらす情報欠陥は、ウクライナ軍に戦意はなく、空挺部隊がキーウに電光石火の攻撃を仕掛ければ、何ら抵抗を受けることなく素早くウォロディミル・ゼレンスキー政権を崩壊させられるとのシナリオを想定していたと報道されている。
このような極めて甘く、杜撰な見積もりを根拠とし、短期決戦を想定した当初の作戦準備には、周到な兵站計画が存在しなくても何ら不思議ではない。
つまり、ロシア軍は、長期戦に対する備えがない状態で侵攻を開始した可能性が高く、そのため開戦から3日目で燃料切れに見舞われる部隊も現れた。
■侵攻軍司令官の不在
作戦を最大限に支援する兵站組織を作り運用するのも指揮官・司令官の大事な仕事である。
しかしながら、伝統的に厳格なトップダウンの指揮系統を持つロシア軍にあって、17万~19万人規模と見られる大軍を統括指揮する軍司令官が指名されていない。
ウクライナ侵攻は、ベラルーシ領土から展開して南下する北方ルート、分離独立派が支配するドンバス地方を経由する東方(中央)ルート、そしてクリミア半島を起点として北上する南方ルートの3方向から攻撃が開始された。
ウクライナ侵攻軍司令官は、作戦の全般目標、主作戦方向(主努力を指向する方向)、3方向に対する戦力配分と相互連携、陸海空軍の統合運用、兵站などの面で的確な作戦指揮を行わなければならない。
特に兵站においては、兵站組織の構成、兵站組織・部隊の運用、そして兵站業務の運営について明確な方針を示すことが必要である。
しかし、本作戦を一元的に指揮するウクライナ侵攻軍司令官が指名されていないため、それらの指揮指導がなされなかったことが、当初の目的通りに作戦が進展しなかった大きな原因であろう。
なお、ロシアのプーチン大統領は、開戦から40日以上が経過した4月10日までに、ようやくウクライナの全戦域を統括する司令官に、連邦軍の南部軍管区司令官を務めるアレクサンドル・ドゥボルニコフ大将(60)を任命した。
■獲得できない航空優勢
ロシア軍は、開戦から約1か月経過した段階においても航空優勢を獲得できていない。
ロシア空軍とウクライナの空軍および防空システムが航空優勢を巡って戦っているが、ウクライナ軍の防空システムが有効に機能していることから、ロシア軍は航空優勢を握れていない。
ウクライナ軍は、レーダー誘導ミサイルや熱探知ミサイル、対空砲など様々な防空兵器を保有している。
さらに、米国やNATO(北大西洋条約機構)からは対空ミサイル「スティンガー」などが供与され、ウクライナの防衛力が強化されているからである。
そのため、ロシアの大規模な侵攻軍に燃料や弾薬の補給を維持するのも難しい状況となっている。
■戦車・装甲装軌車両中心の作戦
ロシア軍は、戦車や装甲装軌車両を多用する作戦を行っている。
特に戦車は、一般的に大量の燃料を消費するが、ロシア製戦車は総じて西側の戦車よりも重量は軽いが、燃費が悪く、戦闘可能な状況に維持しておくことは燃料補給上の要求が格段に上がる。
「T—72B」戦車は、待機状態で1時間当たり5.8ガロン(約22リットル)のガソリンを消費し、走行中は1ガロン当たりの航続距離が1マイル(約1.6キロ)かそれを大きく下回る水準と見られている。
「T—80U」戦車は、強力なガスタービンエンジンを搭載しているが、非常に燃費が悪いという致命的な弱点がある。
そのため、戦車や装甲装軌車両を多用する作戦には大量の燃料が必要であり、補給が間に合わず、多くの戦車が「ガス欠」に陥って残置されていることが確認されている。
■無誘導兵器(大砲、ロケット)への依存
ロシア軍は当初、大量のミサイル攻撃を行った。
しかし、短期決戦の目算が狂ったことで、大砲やロケットなどの無誘導兵器導入という旧来の手法に切り替えた。
その結果、都市部において、国際法(ジュネーブ諸条約および追加議定書)の「軍事目標主義」に沿った精密な誘導攻撃ができず、非戦闘員である多くの市民に犠牲者を出し民間施設・病院などを破壊する要因ともなっている。
ちなみに、国際法(ジュネーブ諸条約および追加議定書)は、軍事行動は軍事目標のみを対象とするという「軍事目標主義」の基本原則を確認し、文民に対する攻撃の禁止、無差別攻撃の禁止、民用物の攻撃の禁止などに関し詳細に規定している。
ましてや、病者、難船者、医療組織、医療用輸送手段などの保護は厳重に守られなければならないことを謳っている。
無誘導兵器は、精密誘導兵器(ミサイル)に比較するとコスト的には安いが、同じ効果を得るのに精密誘導兵器1発で済むところが、無誘導兵器では60発必要との試算もあり、兵站には多大な負担がかかる。
そのため、作戦の持続の観点から、兵站の困難を極めることは明らかである。
3 兵站業務の運営―兵站計画の未整備
前述の通り、ロシアは早期の勝利を予想し、十分な兵站計画の作成を怠っていた可能性があり、作戦が長期化するにしたがって、兵站支援が遅滞麻痺する状況に陥っていると見られている。
■ロシアの失敗を他山の石とすべき日本
湾岸戦争は、『山・動く』(W.G.パゴニス著)が著わした通り、55万余の将兵と700万トンの物資をアラブの砂漠に動かした史上最大の「ロジスティクス(兵站)・システムの戦い」であった。
「素人は戦術を語るが、プロは兵站を学ぶ」という古い諺があるように、兵站の裏付けのない大規模な軍事作戦は失敗に帰する。
ウクライナへの軍事侵攻を敢行したロシア軍の兵站(後方支援)上の不備あるいは失敗は、前述の通り、単純に一つの理由によって説明できるものではない。
兵站組織の構成や兵站組織・部隊の運用、そして兵站業務の運営などの面で多くの要因が重なった結果であり、その解決は決して容易ではないはずだ。
ロシアおよびロシア軍は、今般の軍事侵攻を通じて、兵站(後方支援)の重要性と難しさについて、改めてその意味を深く噛みしめている所であろう。
中国との対立が本格化している米国でも、例えば、「ロシア軍の補給問題、太平洋の米軍にも-米軍が兵站を改善しなければ、台湾防衛は失敗する可能性が高い」(ウォールストリート・ジャーナル、2022年4月7日)のような注意を喚起する論調が出始めている。
その趣旨は、ロシアのウクライナでの失敗は兵站面の問題に起因し、米軍の能力もロシア軍と同様に、大国(中国)との大規模な戦いに向けた態勢が整っているとは言えないとの懸念を指摘しているものである。
「たまに撃つ弾が無いのが玉に傷」
これは、第一生命が主催するサラリーマン川柳において、かつて自衛隊部門の最優秀賞を獲得した作品である。
自衛隊の慢性的な予算不足が招く弾薬備蓄の不足、すなわち兵站の軽視・不備を揶揄する川柳であり、古くて新しい、そして政治が深刻に認識しなければならない我が国防衛に内在する根本的な問題である。
今般のロシアのウクライナ侵攻における兵站の不備・失敗は、決して他人事ではない。
中国の軍事的脅威に曝されている当事国の日本や台湾、そして同盟国の米国や友好国にとっても、改めて重大な戒めとして受け止めなければならない。
ウクライナの強力な抵抗に遭い、深刻な打撃を受けて侵攻計画が予定通りに進展していなかったのは何故か。
元・陸上自衛隊幹部学校長、陸将の樋口氏は、原因の一つに挙げられているのが、ロシア軍の兵站(後方支援)の不備・失敗だと。
ロシア軍に対しては「水・食料や衣料が届かず、兵士の士気が低下」「燃料が不足し、戦車部隊の前進が遅滞」「弾薬が不足し、作戦遂行に重大な影響」などの指摘がなされている。
なぜロシアの兵站には不備があり、失敗と指摘されるのか。
ロシア軍は、北、東(中央)、南の3方向から外線作戦的にウクライナに侵攻した。
外線作戦の利点は、複数の作戦正面の相互の関係性を活用しながら、一つの正面で得られた戦果を他の正面に反映させることで作戦を主導することにあると樋口氏。
しかし、今回のロシア軍の場合、それぞれの間の距離が離れすぎていて、3正面の関係性を活用して成果を他に反映させるという外線作戦の利点を発揮することができず、各正面は、それぞれ独立した作戦を遂行。
兵站も3正面ごとに独立した組織を作って運用せざるを得ず、侵攻軍全体の兵站支援能力は3正面に分散され、相互支援も不可能であることから、兵站支援に多大な負担を強いられている。
英国国際戦略研究所(IISS)の地上戦担当の上級研究員であるベン・バリー准将は、以下の様に指摘。
・今回のウクライナ侵攻では、推定17万人余りのロシア兵が約130の大隊戦術群(BTG)に編成されて配備された
・米国や同盟国がイラクに侵攻した2003年、同程度の米兵が派遣されたが、大隊戦術群の数は50足らずだった
・米国は燃料や弾薬、水、食料の輸送や補給に兵力の大部分を割いている
この指摘は、軍隊の戦力構成において、ロシア軍の戦闘(および戦闘支援)部隊と兵站部隊の比率は前者が大きく、逆に米軍のそれは後者が大きいということを示している。
「ぜいたくな補給システム」に支えられている米軍に比べれば、ロシア軍は戦闘(および戦闘支援)能力の強化に比重を置いている分、兵站支援能力を犠牲にしていることから、そのしわ寄せが作戦遂行の足かせとなっていると樋口氏。
ロシア軍の空挺部隊は、開戦間もなく首都キーウ近郊のホストメル空港に戦闘ヘリコプターで攻撃を仕掛けたものの、ウクライナ軍に押し返された。
そのためロシア軍は、兵員や装備、物資の補給に必要な空路を確保し損ねた。
ロシア軍は、補給物資のほとんどを主に陸路で運ぶ羽目になり、そのため軍用車両の渋滞が発生し、ウクライナ軍からは急襲されるなど、身動きが取れない様相を呈した。
但し、主に南部では鉄道や海上優勢を確保している海路を使った補給ができていることから、兵站輸送の問題による作戦の制約はあまり指摘されていない。
第一線と兵站施設との間が大きく離隔し兵站支援距離が長大な場合は、その中間に補給点(物資集積所)を設けるのが通常である。
しかし、ウクライナ領土内にロシア軍が補給点を設置した兆しはほとんど確認されておらず、輸送車両は長距離の往復を余儀なくされている。
ロシア軍は、長期戦に対する備えがない状態で侵攻を開始した可能性が高く、そのため開戦から3日目で燃料切れに見舞われる部隊も現れたと樋口氏。
もうひとつのロシア軍の欠陥は、3方向から攻め入ったが、全体を統括する司令官が不在だったこと。
特に兵站においては、兵站組織の構成、兵站組織・部隊の運用、そして兵站業務の運営について明確な方針を示すことが必要だが、全体を観る司令官がいなかった。
そのほかに、ロシア軍は、開戦から約1か月経過した段階においても航空優勢を獲得できていない。
ウクライナ軍は、レーダー誘導ミサイルや熱探知ミサイル、対空砲など様々な防空兵器を保有している。
さらに、米国やNATOからは対空ミサイル「スティンガー」などが供与され、ウクライナの防衛力が強化されているからであると樋口氏。
そのため、ロシアの大規模な侵攻軍に燃料や弾薬の補給を維持するのも難しい状況にあると。
ロシア軍は、戦車や装甲装軌車両を多用する作戦を行っている。
ロシア製戦車は総じて西側の戦車よりも重量は軽いが、燃費が悪く、戦闘可能な状況に維持しておくことは燃料補給上の要求が格段に上がる。
また、ロシア軍は当初、大量のミサイル攻撃を行った。
しかし、短期決戦の目算が狂ったことで、(在庫が減り)大砲やロケットなどの無誘導兵器導入という旧来の手法に切り替えた。
その結果、「軍事目標主義」に沿った精密な誘導攻撃ができず、非戦闘員である多くの市民に犠牲者を出し民間施設・病院などを破壊する要因ともなっている。
そこが、戦争犯罪だと、世界中から批難をあびている。
「素人は戦術を語るが、プロは兵站を学ぶ」という古い諺があるように、兵站の裏付けのない大規模な軍事作戦は失敗に帰すると樋口氏。
WSJは、「ロシア軍の補給問題、太平洋の米軍にも-米軍が兵站を改善しなければ、台湾防衛は失敗する可能性が高い」と指摘しているのだそうです。
ロシアのウクライナでの失敗は兵站面の問題に起因し、米軍の能力もロシア軍と同様に、大国(中国)との大規模な戦いに向けた態勢が整っているとは言えないとの懸念を指摘しているのだと。
「たまに撃つ弾が無いのが玉に傷」
自衛隊の慢性的な予算不足が招く弾薬備蓄の不足、すなわち兵站の軽視・不備を揶揄する川柳だそうです。
古くて新しい、そして政治が深刻に認識しなければならない我が国防衛に内在する根本的な問題であると樋口氏。
今般のロシアのウクライナ侵攻における兵站の不備・失敗は、決して他人事ではない。
中国の軍事的脅威に曝されている当事国の日本や台湾、そして同盟国の米国や友好国にとっても、改めて重大な戒めとして受け止めなければならないと。
反省し、巻き返しに出たロシア軍。東部や南部は占領されてしまうのでしょうか。
# 冒頭の画像は、ミサイル攻撃を受けた ウクライナ東部クラマトルスクの鉄道駅周辺
ウクライナ東部の駅に砲撃、避難民50人死亡 ロシアは関与否定 | ロイター
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