ロシアのウクライナ侵攻。戦争開始以前は、「ロシアは世界最大かつ最強クラスの軍隊を保有している」と広く信じられていて、ウクライナのような軍事的弱小国を征服する能力はあると思われていた。
プーチンは、2日間で首都キーウを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立し、ロシアがコントロールするウクライナの建設を夢想した模様だが、その試みは見事に失敗した。
ロシア軍は首都キーウを占領できず、大きな損害を出して撤退せざるを得ない状況になった。
プーチンが始めた露宇戦争は、ロシアの国際社会における孤立を決定的なものにしたと、前・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏。
プーチンの戦争に未来はないと説いておられます。
2022年の経済制裁は、2014年のそれに比較にならないくらいに厳しい。
西側から半導体やベアリングが入手できず、最新鋭の軍事装備品が製造できないロシアはもはや軍事大国とは言えない状況になるであろう。
考えてみれば、今回のプーチンの歴史的な誤判断のために、世界的なパワーバランスが民主主義陣営にとって有利な状況になる可能性が出てきたと、渡部氏。
ウクライナが強大な大国と思われたロシアとの緒戦において勝利したのはなぜなのか。
露宇戦争は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」であるとは、渡部氏以外にも多くの識者の方々が述べておられることですね。
今回の戦争に対してはその結果も含めてプーチンにすべての責任があると。
プーチンを今まで支えてきたシロビキ(治安・国防関係者)、オリガルヒ(新興財閥)、ロシア軍がプーチンについていけない状況になっているとも。
その分、停戦や終戦もプーチン次第。
20年以上にわたりロシアのトップに君臨したプーチンは裸の王様になっている。裸の王様には正しい情報が流れない。
この状況がロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価するという致命的な結果を招いてしまったと。
戦争を始める前に行う情報見積や作戦見積が極めて不適切なものとなり、その見積に基づいて作成される作戦計画が問題だらけになってしまったと、渡部氏。
初期の作戦では大きく分けて北、東、南方向からの攻撃を19万人の兵力で約19万人のウクライナ軍に対して実施してしまった。
通常、攻撃側は防衛側の5倍の戦力で攻撃しなければ成功しないのが原則。
この原則に従うと95万人の兵力が必要であるので、そもそもロシア軍の攻撃は失敗するのが必然だったと。
甘い見積や計画のために、食料・飲料水、弾薬、燃料などの兵站が機能しなくて大問題を引き起こしてしまったと渡部氏。
この兵站の問題は深刻な問題で4月12日の時点でも解決していないし、今後とも大幅に改善することはないであろうと。
その他の敗北の原因は、ウクライナ軍・ゼレンスキー政権・ウクライナ国民の頑強な抵抗や西側諸国の経済制裁に対する過小評価、情報戦の失敗、航空優勢獲得のための航空攻撃・ミサイル攻撃が不完全、ロシア軍の練度・士気の低さ、厳寒期の寒さ対策の欠如による凍傷の多発などが列挙できようとも。
軍事的にも非常に重要な部隊編成の欠陥あったと。
ドゥプイ研究所(TDI)は、「ロシア地上軍の中核である大隊戦術群(BTG:Battalion Tactical Group)の欠陥がロシア軍の作戦失敗の大きな原因である)と主張しているのだそうです。
BTGとは、簡単に言えば、大隊規模の任務編成された諸兵科連合(combined arms)チームのこと。
注目されるのが歩兵の数が200人と極端に少ない点だと渡部氏。
128個中38個の損害は30%の損害であり、軍事の常識で30%の損耗を被るとその部隊は機能しなくなる。
特に主攻撃であった首都キーウを包囲し攻撃したBTGの損害は最大50%という情報もあり、この正面が攻撃をあきらめて撤退したのは当然のことであったと。
ドゥプイ研究所の主要な指摘は以下。
・ロシア軍が現在BTGを重視しているのは、利用可能な人員が不足しているため
・ロシア軍のBTGとドクトリンは、マンパワーを犠牲にして、火力と機動力を重視して構築
・BTGは、実際にはこれが機能しないことが判明した。安全な手段で通信することさえできないし、ましてや遠距離で素早く効果的に狙いを定めて攻撃することはできない。このため、BTGの戦闘力の優位性はほとんど失われている
・ロシアのBTGは有能な諸兵科連合戦術を実行できないように見える
・BTGの歩兵は、ウクライナの機械化・軽歩兵の対戦車キラーチームが、ロシア軍の装甲戦闘車(AFV)、歩兵戦闘車(IFV)、自走砲を攻撃するのを防ぐことができない
・BTGは、防御された市街地を攻撃し占領するのに必要な歩兵部隊の質と量を欠いている
・BTGの人員構成がスリム(約1000人以下)であるため、多くの消耗を被ると戦闘力と効率性が著しく低下する。
・BTGのパフォーマンスが、ロシア軍の人員と訓練に内在する欠陥によるものか、それとも教義上のアプローチの欠陥によるものか
・これらの問題は短期的には改善されそうにない。この問題を解決するためには大規模な改革が必要
キーウの戦いでの失敗後、ロシア軍は東部と南部の軍を統合し、ドンバスのウクライナ軍の包囲殲滅などの大規模な攻勢を再開しようとしている。
しかし、問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることだと渡部氏。
敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。
ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる。
ある地域では少しずつ成果を上げ、別の地域では押し戻されることになるだろうと。
これは、ウクライナに投入されたロシア軍の規模が小さすぎるためだと。
ロシア軍は特別に大きいというわけではなく、実際には、戦闘力の点で中型の軍隊に過ぎない。
ロシア軍の状態が良ければ、プーチンはウクライナ以外に配置されている部隊を投入し、損害を出している侵攻軍を助けることができるだろう。
しかし、実際にはその逆であるように思われる。
民間軍事会社の私兵「ワグネル」などを除いて、ロシア指導部はキーウの戦いで敗れた部隊を再使用しようとしていている。
これは、通常の軍事的常識では理解できない話だと、渡部氏。
ロシア兵を早く悲惨な戦争に再び戻そうとすることは、プーチン指導部のパニックの表れであり、プーチン政権にとって大きなリスクとなる。
ロシア軍の兵士がウクライナへの派兵を拒否したという話はすでにある(空挺部隊のような精鋭部隊の一部も拒否している)。
再投入された部隊は、完全に崩壊状態になる可能性があると。
ロシアの兵力がウクライナ全土を占領するのに十分ではないことが原因だと繰り返し強調しておられます。。
南部と東部の一部を占領するのに十分な兵力はあるかもしれないが、その後にそれらの地域を保持しようとすると、良質な部隊が残っていないとも。
プーチンが戦争開始にあたり夢見たような大戦果を得ることはなく、戦争が数年間継続する公算が高くなっていると渡部氏。
国連の常任理事国のロシアが、その大統領の個人の想い、過去の栄光ある国家への復活を達成して炒めに侵略戦争を勃発させる。しかも、戦争犯罪の行為や脅しで。そんなことが、21世紀の今日に勃発。
もうひとつ、毛沢東時代の専制政治に戻し、中華の夢を追求しようとしている国がある。その国も、ロシアも、日本は海を隔ててではあるものの、対峙している。
我々日本人は露宇戦争から多くの教訓を学び、我が国の問題だらけの安全保障体制を改善する努力をすべきであろうとの渡部氏のご指摘。
G7で、リーダーシップを発揮した安倍政権ではなく、外務大臣失格実績の岸田政権となってしまっている今日。重く受け止めねばなりませんね。
# 冒頭の画像は、ウクライナ軍が撃墜した、ロシア軍の戦闘機「Su-35S」の残骸
この花の名前は、一輪草
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プーチンは、2日間で首都キーウを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立し、ロシアがコントロールするウクライナの建設を夢想した模様だが、その試みは見事に失敗した。
ロシア軍は首都キーウを占領できず、大きな損害を出して撤退せざるを得ない状況になった。
プーチンが始めた露宇戦争は、ロシアの国際社会における孤立を決定的なものにしたと、前・陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏。
プーチンの戦争に未来はないと説いておられます。
キーウ敗北軍の再構築でさらなる大打撃被るロシア軍 派兵拒否の精鋭続出、プーチンの戦争に未来はない | JBpress (ジェイビープレス) 2022.4.13(水)
渡部 悦和
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月24日に開始したロシア・ウクライナ戦争(露宇戦争)は既に50日が経過しようとしている。
過去10年間、ロシア軍の近代化と戦力向上について多くのことが語られてきたため、戦争開始以前は、「ロシアは世界最大かつ最強クラスの軍隊を保有している」と広く信じられていた。
軍事力は米国には及ばないが、ウクライナのような軍事的弱小国を征服する能力はあると思われていた。
プーチンは、2日間で首都キーウを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立し、ロシアがコントロールするウクライナの建設を夢想した模様だが、その試みは見事に失敗した。
7週間にわたるウクライナでの戦争で、ロシア軍は首都キーウを占領できず、大きな損害を出して撤退せざるを得ない状況になった。
ロシア連邦軍の評判は地に落ちている。そして今、ロシア軍はウクライナの他の地域でも劇的な成功は望み薄で手詰まり状態になりつつある。
プーチンが始めた露宇戦争は、プーチンの意図とは逆に、米国などの民主主義陣営の結束を強化する結果となり、ロシアの国際社会における孤立を決定的なものにした。
さらに、民主主義諸国のロシアに対する厳しい経済制裁は、ロシア経済に甚大な被害を与え、ロシアの国力は徐々に減衰する可能性が高い。
2014年のロシアのクリミア半島併合に対する経済制裁ですらロシアの製造業、特に軍事産業に大きな影響を与え、西側諸国の部品を必要とする武器の製造を困難にした。
例えば、ロシアの最新戦車「アルマータ(T-14)」は、西側諸国の部品が入手できずに量産(当初の計画では2020年までに2300両の製造を予定していた)を断念した。
世界の軍事専門家が「なぜアルマータが戦場に登場しないのか」という疑問に対する答えがここにある。
2022年の経済制裁は、2014年のそれに比較にならないくらいに厳しい。
西側から半導体やベアリングが入手できず、最新鋭の軍事装備品が製造できないロシアはもはや軍事大国とは言えない状況になるであろう。
考えてみれば、今回のプーチンの歴史的な誤判断のために、世界的なパワーバランスが民主主義陣営にとって有利な状況になる可能性が出てきた。喜ばしいことである。
■1 ロシアが敗北したわけ:ロシア側の要因
露宇戦争の初期作戦において、ウクライナ軍がロシア軍に勝利したことは明白である。
ウクライナ軍は、特にロシア軍の主攻撃であった首都キーウ正面において、ロシア軍に大打撃を与え、ロシア軍を撤退せざるを得ない状況にした。
この項では、ウクライナが強大な大国と思われたロシアとの緒戦において勝利したのはなぜかについて、ロシア側の原因に着目して記述する。
独裁者プーチンの戦争
露宇戦争は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」であると私は思っている。
つまり、今回の戦争に対してはその結果も含めてプーチンにすべての責任がある。
独裁者プーチンが自ら戦争の実施などの重要事項を決定した。プーチンの決定は、プーチンとプーチン以外の断絶を明らかにした。
戦争をやる気満々のプーチンと戦争に乗り気でないプーチンの側近たち、特に国防相セルゲイ・ショイグやロシア連邦軍参謀総長ワレリー・ゲラシモフの間には断絶がある。
プーチンを今まで支えてきたシロビキ(治安・国防関係者)、オリガルヒ(新興財閥)、ロシア軍がプーチンについていけない状況になっている。
20年以上にわたりロシアのトップに君臨したプーチンは裸の王様になっている。
裸の王様には正しい情報が流れない。プーチンが喜ぶ情報しか彼に届かないで、彼にとって不都合な情報は届かない状況になっていると言われている。
この状況がロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価するという致命的な結果を招いてしまった。
ロシア軍を過大評価しウクライナ軍を過小評価してしまった
プーチンは、ロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価してしまった。
その結果、戦争を始める前に行う情報見積(敵の能力や敵の可能行動に関する見積)や作戦見積(我に関する見積で、行動方針やその結論を含む)が極めて不適切なものとなり、その見積に基づいて作成される作戦計画が問題だらけになってしまった。
例えば、2日間で首都キーウを占領し、ゼレンスキー政権を排除し、傀儡政権を樹立し、ウクライナ全体を数週間で占領するなどの計画は非現実的なものになってしまった。
今回の初期の作戦では大きく分けて北、東、南方向からの攻撃を19万人の兵力で約19万人のウクライナ軍に対して実施してしまった。
通常、攻撃側は防衛側の5倍の戦力で攻撃しなければ成功しないのが原則だ。
この原則に従うと95万人の兵力が必要であるので、そもそもロシア軍の攻撃は失敗するのが必然だったのだ。
甘い見積や計画のために、食料・飲料水、弾薬、燃料などの兵站が機能しなくて大問題を引き起こしてしまった。
「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という格言があるが、兵站なくして戦争の勝利はあり得ない。
この兵站の問題は深刻な問題で4月12日の時点でも解決していないし、今後とも大幅に改善することはないであろう。
その他の敗北の原因は、ウクライナ軍・ゼレンスキー政権・ウクライナ国民の頑強な抵抗や西側諸国の経済制裁に対する過小評価、情報戦の失敗、航空優勢獲得のための航空攻撃・ミサイル攻撃が不完全、ロシア軍の練度・士気の低さ、厳寒期の寒さ対策の欠如による凍傷の多発などが列挙できよう。
ロシア陸軍の中核である「大隊戦術群」の致命的な欠陥
ここで、軍事的に非常に重要な部隊編成の欠陥について記述する。
ドゥプイ研究所(TDI:The Dupuy Institute)は、トレヴァー・ドゥプイ(Trevor N. Dupuy)が設立した研究所で、軍事紛争に関連する歴史データの分析を主とした学術的研究機関だ。
TDIがツイッター(@dupuyinstitute)で、「ロシア地上軍の中核である大隊戦術群(BTG:Battalion Tactical Group)の欠陥がロシア軍の作戦失敗の大きな原因である)と本質的な主張しているので紹介する。
BTGとは、簡単に言えば、大隊規模の任務編成された諸兵科連合(combined arms)チームのことである。
第2次世界大戦以降、すべての主要な軍隊が諸兵科連合チームを採用している。
図1を見てもらいたい。BTGは増強された機械化歩兵大隊で、3個の歩兵中隊に砲兵中隊、防空小隊、通信小隊、工兵小隊、後方支援部隊などで編成され、総計で兵員700~1000人(この中で歩兵は200人)、戦車10両、装甲歩兵戦闘車40両の部隊だ。
ここで注目されるのが歩兵の数が200人と極端に少ない点である。
ロシア軍は、170個のBTGを編成したが、その中で128個のBTGが今回の戦争に参加し、37~38個が壊滅的損害を受けている。
128個中38個の損害は30%の損害であり、軍事の常識で30%の損耗を被るとその部隊は機能しなくなる。
特に主攻撃であった首都キーウを包囲し攻撃したBTGの損害は最大50%という情報もあり、この正面が攻撃をあきらめて撤退したのは当然のことであった。
ドゥプイ研究所はツイートでBTGの問題点を列挙しているが、主要な指摘は以下の通りだ。
・ ロシア軍が現在BTGを重視しているのは、利用可能な人員が不足しているためである。BTGはチェチェン紛争の際に便宜的に使用され、2013年にロシア国防省のマンパワーが少ないことへの対策として全面的に採用されたものである。
・ロシア軍のBTGとドクトリンは、マンパワーを犠牲にして、火力と機動力を重視して構築されている。
・ 西側のアナリストは、ロシアのBTGはリアルタイム(またはほぼリアルタイム)で長距離砲撃をネットワーク化することができると考えていた。例えば2014年のゼレノピリア攻撃*1のように。
(なお、ゼレノピリア攻撃とは、2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕が野営していた37人のウクライナの兵士と国境警備隊員を殺害した攻撃のことだ)
・BTGは、実際にはこれが機能しないことが判明した。安全な手段で通信することさえできないし、ましてや遠距離で素早く効果的に狙いを定めて攻撃することはできない。このため、BTGの戦闘力の優位性はほとんど失われている。
・ロシアのBTGは有能な諸兵科連合戦術を実行できないように見える。第1次世界大戦以来、諸兵科連合は近代的な火力・機動戦術の基本中の基本であったから、BTGは基本的に失敗の組織である。
・これは、効果的な歩兵支援の欠如に大きく表れている。BTGの歩兵は、ウクライナの機械化・軽歩兵の対戦車キラーチームが、ロシア軍の装甲戦闘車(AFV)、歩兵戦闘車(IFV)、自走砲を攻撃するのを防ぐことができない。装甲部隊の防護は歩兵の主要な仕事である。
・これは歩兵部隊が有効でないためか、BTGの歩兵の数が足りないためかは不明であるが、おそらく両方であろう。
・実際、BTGは、妥当な戦闘損耗で、防御された市街地を攻撃し占領するのに必要な歩兵部隊の質と量を欠いている。
・BTGの人員構成がスリム(約1000人以下)であるため、多くの消耗を被ると戦闘力と効率性が著しく低下する。
・BTGのパフォーマンスが、ロシア軍の人員と訓練に内在する欠陥によるものか、それとも教義上のアプローチの欠陥によるものかを判断するには、徹底的な分析が必要である。しかし、ここでもまた両者に原因があると思われる。
・いずれにせよ、これらの問題は短期的には改善されそうにない。この問題を解決するためには大規模な改革が必要である。
以上のようなドゥプイ研究所の主張は妥当だと思う。ロシア軍が露宇戦争に勝てない要因が根本的なものであるならば、今後のロシア軍の苦戦は明らかであろう。
*1=2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕は、野外でキャンプしていた37人のウクライナの兵士と国境警備隊を殺害した。
■2 選択肢を失いつつあるロシア軍
セントアンドリュース大学(スコットランド所在)のフィリップス・オブライエン教授は、ロシア・ウクライナ戦争についてツイッターや有名雑誌への投稿など精力的に情報発信を行っている。
本項は、オブライエン教授の論考「選択肢を失いつつあるロシア軍(The Russian army is running out of options)」やツイッター(@PhillipsPObrien)でロシア軍に対する厳しい批判をしているので紹介する。
ロシア軍の規模は小さすぎる
キーウの戦いでの失敗後、ロシア軍は東部と南部の軍を統合し、ドンバスのウクライナ軍の包囲殲滅などの大規模な攻勢を再開しようとしている(図2を参照)。
問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることである。
東部で大規模な作戦を展開し、ウクライナの陣地を急速に突破してウクライナの主要都市を奪取するには十分な戦力と新たな戦術・戦法が必要だ。
つまり、敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。
ロシア軍は、今までこれらすべての点で失敗してきた。
ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる。
ある地域では少しずつ成果を上げ、別の地域では押し戻されることになるだろう。
これは、何よりもまず、ウクライナに投入されたロシア軍の規模が小さすぎるためであり、その他のロシア軍も、指導者が実際に効果を上げることができると信頼できるような兵力を有していないためである。
ロシア軍は特別に大きいというわけではなく、実際には、戦闘力の点で中型の軍隊に過ぎない。
ロシアは19万から20万人の兵士でウクライナに侵攻したが、この部隊にはロシア陸軍のまともな戦闘力を持つ部隊の約75%(170個のBTGから128個BTGが戦争に参加していると仮定)を含むと考えられていた。
これまでのところ、この75%のロシア軍最高の部隊は苦戦している。
キーウ周辺で敗れ、多くの死傷者を出した後、急遽撤退を余儀なくされ、北ウクライナには多くの破壊または放棄された装備が散乱している。
南部と東部でも、ドンバスのイジウムに向けて少しずつ前進しながら、南西部のヘルソンでは実際には後退させられており、3週間前からほとんど動きがない状態となっている。
敗戦で大きな損害を出した部隊を再使用する長期戦は難しい
もしロシア軍の状態が良ければ、プーチンはウクライナ以外に配置されている部隊を投入し、損害を出している侵攻軍を助けることができるだろう。
しかし、実際にはその逆であるように思われる。
つまり、ネオナチの傭兵(民間軍事会社の私兵「ワグネル」)などを除いて、ロシア指導部はキーウの戦いで敗れた部隊を再使用しようとしていている。
これは、通常の軍事的常識では理解できない話だ。
キーウ正面の戦いで敗北した兵士たちは6週間の戦闘を経験し、多くの仲間が殺されるのを見て、ウクライナ軍を恐れるようになっている。
兵器を整え再編成し、新たな戦場へ移動する前に、何よりもまず休息が必要なのだ。
そのためには、よく組織された軍隊でも通常数週間かかるし、ロシア軍にとっては兵站が再び大きな足かせになる可能性がある。
ロシア兵を早く悲惨な戦争に再び戻そうとすることは、プーチン指導部のパニックの表れであり、プーチン政権にとって大きなリスクとなる。
ロシア軍の兵士がウクライナへの派兵を拒否したという話はすでにある(空挺部隊のような精鋭部隊の一部も拒否している)。
再投入された部隊は、完全に崩壊状態になる可能性がある。
人間は、戦争の緊張に長く耐えることは難しいし、敗戦した軍隊はその緊張をうまく受け止められない場合が多いのだ。
これは、ロシアの兵力がウクライナ全土を占領するのに十分ではないことが原因だ。
南部と東部の一部を占領するのに十分な兵力はあるかもしれないが、その後にそれらの地域を保持しようとすると、良質な部隊が残っていない。
ロシアがより長い戦争をするためには、全く新しい軍隊を創設し、訓練し、装備を与える必要がある。
ロシア社会の戦争へのコミットメントが問われ、ロシア人を解放し、ウクライナを非ナチス化するための戦争であるというロシア国家の嘘が完全に崩れ、すでに西側諸国の経済制裁が威力を発揮しつつある。
ロシアがウクライナで直面している基本的な問題は、その軍隊があまりにも小さく、ロシア政府が信頼する兵士が少なすぎて、実際に戦えないことだ。
ロシア軍は、多くの人が想像しているよりも悪い状態にある可能性が高い。
つまり、ロシア軍は今後、マリウポリの占領などの小さな戦果を得ることがあっても、プーチンが戦争開始にあたり夢見たような大戦果を得ることはなく、戦争が数年間継続する公算が高くなっている。
最後に、我々日本人は露宇戦争から多くの教訓を学び、我が国の問題だらけの安全保障体制を改善する努力をすべきであろう。
渡部 悦和
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2月24日に開始したロシア・ウクライナ戦争(露宇戦争)は既に50日が経過しようとしている。
過去10年間、ロシア軍の近代化と戦力向上について多くのことが語られてきたため、戦争開始以前は、「ロシアは世界最大かつ最強クラスの軍隊を保有している」と広く信じられていた。
軍事力は米国には及ばないが、ウクライナのような軍事的弱小国を征服する能力はあると思われていた。
プーチンは、2日間で首都キーウを占領し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を打倒し、ロシアの傀儡政権を樹立し、ロシアがコントロールするウクライナの建設を夢想した模様だが、その試みは見事に失敗した。
7週間にわたるウクライナでの戦争で、ロシア軍は首都キーウを占領できず、大きな損害を出して撤退せざるを得ない状況になった。
ロシア連邦軍の評判は地に落ちている。そして今、ロシア軍はウクライナの他の地域でも劇的な成功は望み薄で手詰まり状態になりつつある。
プーチンが始めた露宇戦争は、プーチンの意図とは逆に、米国などの民主主義陣営の結束を強化する結果となり、ロシアの国際社会における孤立を決定的なものにした。
さらに、民主主義諸国のロシアに対する厳しい経済制裁は、ロシア経済に甚大な被害を与え、ロシアの国力は徐々に減衰する可能性が高い。
2014年のロシアのクリミア半島併合に対する経済制裁ですらロシアの製造業、特に軍事産業に大きな影響を与え、西側諸国の部品を必要とする武器の製造を困難にした。
例えば、ロシアの最新戦車「アルマータ(T-14)」は、西側諸国の部品が入手できずに量産(当初の計画では2020年までに2300両の製造を予定していた)を断念した。
世界の軍事専門家が「なぜアルマータが戦場に登場しないのか」という疑問に対する答えがここにある。
2022年の経済制裁は、2014年のそれに比較にならないくらいに厳しい。
西側から半導体やベアリングが入手できず、最新鋭の軍事装備品が製造できないロシアはもはや軍事大国とは言えない状況になるであろう。
考えてみれば、今回のプーチンの歴史的な誤判断のために、世界的なパワーバランスが民主主義陣営にとって有利な状況になる可能性が出てきた。喜ばしいことである。
■1 ロシアが敗北したわけ:ロシア側の要因
露宇戦争の初期作戦において、ウクライナ軍がロシア軍に勝利したことは明白である。
ウクライナ軍は、特にロシア軍の主攻撃であった首都キーウ正面において、ロシア軍に大打撃を与え、ロシア軍を撤退せざるを得ない状況にした。
この項では、ウクライナが強大な大国と思われたロシアとの緒戦において勝利したのはなぜかについて、ロシア側の原因に着目して記述する。
独裁者プーチンの戦争
露宇戦争は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」であると私は思っている。
つまり、今回の戦争に対してはその結果も含めてプーチンにすべての責任がある。
独裁者プーチンが自ら戦争の実施などの重要事項を決定した。プーチンの決定は、プーチンとプーチン以外の断絶を明らかにした。
戦争をやる気満々のプーチンと戦争に乗り気でないプーチンの側近たち、特に国防相セルゲイ・ショイグやロシア連邦軍参謀総長ワレリー・ゲラシモフの間には断絶がある。
プーチンを今まで支えてきたシロビキ(治安・国防関係者)、オリガルヒ(新興財閥)、ロシア軍がプーチンについていけない状況になっている。
20年以上にわたりロシアのトップに君臨したプーチンは裸の王様になっている。
裸の王様には正しい情報が流れない。プーチンが喜ぶ情報しか彼に届かないで、彼にとって不都合な情報は届かない状況になっていると言われている。
この状況がロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価するという致命的な結果を招いてしまった。
ロシア軍を過大評価しウクライナ軍を過小評価してしまった
プーチンは、ロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価してしまった。
その結果、戦争を始める前に行う情報見積(敵の能力や敵の可能行動に関する見積)や作戦見積(我に関する見積で、行動方針やその結論を含む)が極めて不適切なものとなり、その見積に基づいて作成される作戦計画が問題だらけになってしまった。
例えば、2日間で首都キーウを占領し、ゼレンスキー政権を排除し、傀儡政権を樹立し、ウクライナ全体を数週間で占領するなどの計画は非現実的なものになってしまった。
今回の初期の作戦では大きく分けて北、東、南方向からの攻撃を19万人の兵力で約19万人のウクライナ軍に対して実施してしまった。
通常、攻撃側は防衛側の5倍の戦力で攻撃しなければ成功しないのが原則だ。
この原則に従うと95万人の兵力が必要であるので、そもそもロシア軍の攻撃は失敗するのが必然だったのだ。
甘い見積や計画のために、食料・飲料水、弾薬、燃料などの兵站が機能しなくて大問題を引き起こしてしまった。
「素人は戦略を語り、プロは兵站を語る」という格言があるが、兵站なくして戦争の勝利はあり得ない。
この兵站の問題は深刻な問題で4月12日の時点でも解決していないし、今後とも大幅に改善することはないであろう。
その他の敗北の原因は、ウクライナ軍・ゼレンスキー政権・ウクライナ国民の頑強な抵抗や西側諸国の経済制裁に対する過小評価、情報戦の失敗、航空優勢獲得のための航空攻撃・ミサイル攻撃が不完全、ロシア軍の練度・士気の低さ、厳寒期の寒さ対策の欠如による凍傷の多発などが列挙できよう。
ロシア陸軍の中核である「大隊戦術群」の致命的な欠陥
ここで、軍事的に非常に重要な部隊編成の欠陥について記述する。
ドゥプイ研究所(TDI:The Dupuy Institute)は、トレヴァー・ドゥプイ(Trevor N. Dupuy)が設立した研究所で、軍事紛争に関連する歴史データの分析を主とした学術的研究機関だ。
TDIがツイッター(@dupuyinstitute)で、「ロシア地上軍の中核である大隊戦術群(BTG:Battalion Tactical Group)の欠陥がロシア軍の作戦失敗の大きな原因である)と本質的な主張しているので紹介する。
BTGとは、簡単に言えば、大隊規模の任務編成された諸兵科連合(combined arms)チームのことである。
第2次世界大戦以降、すべての主要な軍隊が諸兵科連合チームを採用している。
図1を見てもらいたい。BTGは増強された機械化歩兵大隊で、3個の歩兵中隊に砲兵中隊、防空小隊、通信小隊、工兵小隊、後方支援部隊などで編成され、総計で兵員700~1000人(この中で歩兵は200人)、戦車10両、装甲歩兵戦闘車40両の部隊だ。
ここで注目されるのが歩兵の数が200人と極端に少ない点である。
ロシア軍は、170個のBTGを編成したが、その中で128個のBTGが今回の戦争に参加し、37~38個が壊滅的損害を受けている。
128個中38個の損害は30%の損害であり、軍事の常識で30%の損耗を被るとその部隊は機能しなくなる。
特に主攻撃であった首都キーウを包囲し攻撃したBTGの損害は最大50%という情報もあり、この正面が攻撃をあきらめて撤退したのは当然のことであった。
ドゥプイ研究所はツイートでBTGの問題点を列挙しているが、主要な指摘は以下の通りだ。
・ ロシア軍が現在BTGを重視しているのは、利用可能な人員が不足しているためである。BTGはチェチェン紛争の際に便宜的に使用され、2013年にロシア国防省のマンパワーが少ないことへの対策として全面的に採用されたものである。
・ロシア軍のBTGとドクトリンは、マンパワーを犠牲にして、火力と機動力を重視して構築されている。
・ 西側のアナリストは、ロシアのBTGはリアルタイム(またはほぼリアルタイム)で長距離砲撃をネットワーク化することができると考えていた。例えば2014年のゼレノピリア攻撃*1のように。
(なお、ゼレノピリア攻撃とは、2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕が野営していた37人のウクライナの兵士と国境警備隊員を殺害した攻撃のことだ)
・BTGは、実際にはこれが機能しないことが判明した。安全な手段で通信することさえできないし、ましてや遠距離で素早く効果的に狙いを定めて攻撃することはできない。このため、BTGの戦闘力の優位性はほとんど失われている。
・ロシアのBTGは有能な諸兵科連合戦術を実行できないように見える。第1次世界大戦以来、諸兵科連合は近代的な火力・機動戦術の基本中の基本であったから、BTGは基本的に失敗の組織である。
・これは、効果的な歩兵支援の欠如に大きく表れている。BTGの歩兵は、ウクライナの機械化・軽歩兵の対戦車キラーチームが、ロシア軍の装甲戦闘車(AFV)、歩兵戦闘車(IFV)、自走砲を攻撃するのを防ぐことができない。装甲部隊の防護は歩兵の主要な仕事である。
・これは歩兵部隊が有効でないためか、BTGの歩兵の数が足りないためかは不明であるが、おそらく両方であろう。
・実際、BTGは、妥当な戦闘損耗で、防御された市街地を攻撃し占領するのに必要な歩兵部隊の質と量を欠いている。
・BTGの人員構成がスリム(約1000人以下)であるため、多くの消耗を被ると戦闘力と効率性が著しく低下する。
・BTGのパフォーマンスが、ロシア軍の人員と訓練に内在する欠陥によるものか、それとも教義上のアプローチの欠陥によるものかを判断するには、徹底的な分析が必要である。しかし、ここでもまた両者に原因があると思われる。
・いずれにせよ、これらの問題は短期的には改善されそうにない。この問題を解決するためには大規模な改革が必要である。
以上のようなドゥプイ研究所の主張は妥当だと思う。ロシア軍が露宇戦争に勝てない要因が根本的なものであるならば、今後のロシア軍の苦戦は明らかであろう。
*1=2014年7月11日の早朝、ロシア領土内からロシア軍によって発射されたロケット弾幕は、野外でキャンプしていた37人のウクライナの兵士と国境警備隊を殺害した。
■2 選択肢を失いつつあるロシア軍
セントアンドリュース大学(スコットランド所在)のフィリップス・オブライエン教授は、ロシア・ウクライナ戦争についてツイッターや有名雑誌への投稿など精力的に情報発信を行っている。
本項は、オブライエン教授の論考「選択肢を失いつつあるロシア軍(The Russian army is running out of options)」やツイッター(@PhillipsPObrien)でロシア軍に対する厳しい批判をしているので紹介する。
ロシア軍の規模は小さすぎる
キーウの戦いでの失敗後、ロシア軍は東部と南部の軍を統合し、ドンバスのウクライナ軍の包囲殲滅などの大規模な攻勢を再開しようとしている(図2を参照)。
問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることである。
東部で大規模な作戦を展開し、ウクライナの陣地を急速に突破してウクライナの主要都市を奪取するには十分な戦力と新たな戦術・戦法が必要だ。
つまり、敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。
ロシア軍は、今までこれらすべての点で失敗してきた。
ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる。
ある地域では少しずつ成果を上げ、別の地域では押し戻されることになるだろう。
これは、何よりもまず、ウクライナに投入されたロシア軍の規模が小さすぎるためであり、その他のロシア軍も、指導者が実際に効果を上げることができると信頼できるような兵力を有していないためである。
ロシア軍は特別に大きいというわけではなく、実際には、戦闘力の点で中型の軍隊に過ぎない。
ロシアは19万から20万人の兵士でウクライナに侵攻したが、この部隊にはロシア陸軍のまともな戦闘力を持つ部隊の約75%(170個のBTGから128個BTGが戦争に参加していると仮定)を含むと考えられていた。
これまでのところ、この75%のロシア軍最高の部隊は苦戦している。
キーウ周辺で敗れ、多くの死傷者を出した後、急遽撤退を余儀なくされ、北ウクライナには多くの破壊または放棄された装備が散乱している。
南部と東部でも、ドンバスのイジウムに向けて少しずつ前進しながら、南西部のヘルソンでは実際には後退させられており、3週間前からほとんど動きがない状態となっている。
敗戦で大きな損害を出した部隊を再使用する長期戦は難しい
もしロシア軍の状態が良ければ、プーチンはウクライナ以外に配置されている部隊を投入し、損害を出している侵攻軍を助けることができるだろう。
しかし、実際にはその逆であるように思われる。
つまり、ネオナチの傭兵(民間軍事会社の私兵「ワグネル」)などを除いて、ロシア指導部はキーウの戦いで敗れた部隊を再使用しようとしていている。
これは、通常の軍事的常識では理解できない話だ。
キーウ正面の戦いで敗北した兵士たちは6週間の戦闘を経験し、多くの仲間が殺されるのを見て、ウクライナ軍を恐れるようになっている。
兵器を整え再編成し、新たな戦場へ移動する前に、何よりもまず休息が必要なのだ。
そのためには、よく組織された軍隊でも通常数週間かかるし、ロシア軍にとっては兵站が再び大きな足かせになる可能性がある。
ロシア兵を早く悲惨な戦争に再び戻そうとすることは、プーチン指導部のパニックの表れであり、プーチン政権にとって大きなリスクとなる。
ロシア軍の兵士がウクライナへの派兵を拒否したという話はすでにある(空挺部隊のような精鋭部隊の一部も拒否している)。
再投入された部隊は、完全に崩壊状態になる可能性がある。
人間は、戦争の緊張に長く耐えることは難しいし、敗戦した軍隊はその緊張をうまく受け止められない場合が多いのだ。
これは、ロシアの兵力がウクライナ全土を占領するのに十分ではないことが原因だ。
南部と東部の一部を占領するのに十分な兵力はあるかもしれないが、その後にそれらの地域を保持しようとすると、良質な部隊が残っていない。
ロシアがより長い戦争をするためには、全く新しい軍隊を創設し、訓練し、装備を与える必要がある。
ロシア社会の戦争へのコミットメントが問われ、ロシア人を解放し、ウクライナを非ナチス化するための戦争であるというロシア国家の嘘が完全に崩れ、すでに西側諸国の経済制裁が威力を発揮しつつある。
ロシアがウクライナで直面している基本的な問題は、その軍隊があまりにも小さく、ロシア政府が信頼する兵士が少なすぎて、実際に戦えないことだ。
ロシア軍は、多くの人が想像しているよりも悪い状態にある可能性が高い。
つまり、ロシア軍は今後、マリウポリの占領などの小さな戦果を得ることがあっても、プーチンが戦争開始にあたり夢見たような大戦果を得ることはなく、戦争が数年間継続する公算が高くなっている。
最後に、我々日本人は露宇戦争から多くの教訓を学び、我が国の問題だらけの安全保障体制を改善する努力をすべきであろう。
2022年の経済制裁は、2014年のそれに比較にならないくらいに厳しい。
西側から半導体やベアリングが入手できず、最新鋭の軍事装備品が製造できないロシアはもはや軍事大国とは言えない状況になるであろう。
考えてみれば、今回のプーチンの歴史的な誤判断のために、世界的なパワーバランスが民主主義陣営にとって有利な状況になる可能性が出てきたと、渡部氏。
ウクライナが強大な大国と思われたロシアとの緒戦において勝利したのはなぜなのか。
露宇戦争は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」であるとは、渡部氏以外にも多くの識者の方々が述べておられることですね。
今回の戦争に対してはその結果も含めてプーチンにすべての責任があると。
プーチンを今まで支えてきたシロビキ(治安・国防関係者)、オリガルヒ(新興財閥)、ロシア軍がプーチンについていけない状況になっているとも。
その分、停戦や終戦もプーチン次第。
20年以上にわたりロシアのトップに君臨したプーチンは裸の王様になっている。裸の王様には正しい情報が流れない。
この状況がロシア軍を過大評価し、ウクライナ軍を過小評価するという致命的な結果を招いてしまったと。
戦争を始める前に行う情報見積や作戦見積が極めて不適切なものとなり、その見積に基づいて作成される作戦計画が問題だらけになってしまったと、渡部氏。
初期の作戦では大きく分けて北、東、南方向からの攻撃を19万人の兵力で約19万人のウクライナ軍に対して実施してしまった。
通常、攻撃側は防衛側の5倍の戦力で攻撃しなければ成功しないのが原則。
この原則に従うと95万人の兵力が必要であるので、そもそもロシア軍の攻撃は失敗するのが必然だったと。
甘い見積や計画のために、食料・飲料水、弾薬、燃料などの兵站が機能しなくて大問題を引き起こしてしまったと渡部氏。
この兵站の問題は深刻な問題で4月12日の時点でも解決していないし、今後とも大幅に改善することはないであろうと。
その他の敗北の原因は、ウクライナ軍・ゼレンスキー政権・ウクライナ国民の頑強な抵抗や西側諸国の経済制裁に対する過小評価、情報戦の失敗、航空優勢獲得のための航空攻撃・ミサイル攻撃が不完全、ロシア軍の練度・士気の低さ、厳寒期の寒さ対策の欠如による凍傷の多発などが列挙できようとも。
軍事的にも非常に重要な部隊編成の欠陥あったと。
ドゥプイ研究所(TDI)は、「ロシア地上軍の中核である大隊戦術群(BTG:Battalion Tactical Group)の欠陥がロシア軍の作戦失敗の大きな原因である)と主張しているのだそうです。
BTGとは、簡単に言えば、大隊規模の任務編成された諸兵科連合(combined arms)チームのこと。
注目されるのが歩兵の数が200人と極端に少ない点だと渡部氏。
128個中38個の損害は30%の損害であり、軍事の常識で30%の損耗を被るとその部隊は機能しなくなる。
特に主攻撃であった首都キーウを包囲し攻撃したBTGの損害は最大50%という情報もあり、この正面が攻撃をあきらめて撤退したのは当然のことであったと。
ドゥプイ研究所の主要な指摘は以下。
・ロシア軍が現在BTGを重視しているのは、利用可能な人員が不足しているため
・ロシア軍のBTGとドクトリンは、マンパワーを犠牲にして、火力と機動力を重視して構築
・BTGは、実際にはこれが機能しないことが判明した。安全な手段で通信することさえできないし、ましてや遠距離で素早く効果的に狙いを定めて攻撃することはできない。このため、BTGの戦闘力の優位性はほとんど失われている
・ロシアのBTGは有能な諸兵科連合戦術を実行できないように見える
・BTGの歩兵は、ウクライナの機械化・軽歩兵の対戦車キラーチームが、ロシア軍の装甲戦闘車(AFV)、歩兵戦闘車(IFV)、自走砲を攻撃するのを防ぐことができない
・BTGは、防御された市街地を攻撃し占領するのに必要な歩兵部隊の質と量を欠いている
・BTGの人員構成がスリム(約1000人以下)であるため、多くの消耗を被ると戦闘力と効率性が著しく低下する。
・BTGのパフォーマンスが、ロシア軍の人員と訓練に内在する欠陥によるものか、それとも教義上のアプローチの欠陥によるものか
・これらの問題は短期的には改善されそうにない。この問題を解決するためには大規模な改革が必要
キーウの戦いでの失敗後、ロシア軍は東部と南部の軍を統合し、ドンバスのウクライナ軍の包囲殲滅などの大規模な攻勢を再開しようとしている。
しかし、問題は、ロシア軍の作戦が、小さすぎるロシア軍に依存していることだと渡部氏。
敗北した部隊を迅速に再編成して補給し、以前の失敗から多くを学び、複雑な作戦を勝利に導く戦術・戦法を採用する必要がある。
ロシア軍はおそらく、東部や南部で大規模な攻撃を成功させる代わりに、作戦開始以来行ってきたように、兵力の維持に苦労し、兵站に苦しむことになる。
ある地域では少しずつ成果を上げ、別の地域では押し戻されることになるだろうと。
これは、ウクライナに投入されたロシア軍の規模が小さすぎるためだと。
ロシア軍は特別に大きいというわけではなく、実際には、戦闘力の点で中型の軍隊に過ぎない。
ロシア軍の状態が良ければ、プーチンはウクライナ以外に配置されている部隊を投入し、損害を出している侵攻軍を助けることができるだろう。
しかし、実際にはその逆であるように思われる。
民間軍事会社の私兵「ワグネル」などを除いて、ロシア指導部はキーウの戦いで敗れた部隊を再使用しようとしていている。
これは、通常の軍事的常識では理解できない話だと、渡部氏。
ロシア兵を早く悲惨な戦争に再び戻そうとすることは、プーチン指導部のパニックの表れであり、プーチン政権にとって大きなリスクとなる。
ロシア軍の兵士がウクライナへの派兵を拒否したという話はすでにある(空挺部隊のような精鋭部隊の一部も拒否している)。
再投入された部隊は、完全に崩壊状態になる可能性があると。
ロシアの兵力がウクライナ全土を占領するのに十分ではないことが原因だと繰り返し強調しておられます。。
南部と東部の一部を占領するのに十分な兵力はあるかもしれないが、その後にそれらの地域を保持しようとすると、良質な部隊が残っていないとも。
プーチンが戦争開始にあたり夢見たような大戦果を得ることはなく、戦争が数年間継続する公算が高くなっていると渡部氏。
国連の常任理事国のロシアが、その大統領の個人の想い、過去の栄光ある国家への復活を達成して炒めに侵略戦争を勃発させる。しかも、戦争犯罪の行為や脅しで。そんなことが、21世紀の今日に勃発。
もうひとつ、毛沢東時代の専制政治に戻し、中華の夢を追求しようとしている国がある。その国も、ロシアも、日本は海を隔ててではあるものの、対峙している。
我々日本人は露宇戦争から多くの教訓を学び、我が国の問題だらけの安全保障体制を改善する努力をすべきであろうとの渡部氏のご指摘。
G7で、リーダーシップを発揮した安倍政権ではなく、外務大臣失格実績の岸田政権となってしまっている今日。重く受け止めねばなりませんね。
# 冒頭の画像は、ウクライナ軍が撃墜した、ロシア軍の戦闘機「Su-35S」の残骸
この花の名前は、一輪草
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