Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

誰も守ってくれない

2011-03-07 | 日本映画(た行)
★★★ 2008年/日本 監督/君塚良一

「多すぎる視点」


重いテーマですけど、フジテレビ制作ですから、何とかエンタメにしなければなりません。その点について考慮すれば、前半部は作品としての力強さがあり、展開もスピーディで大変引き込まれるものでした。多くの方がご指摘するように、犯人逮捕の瞬間から実に手際よく加害者家族がバラバラにされていく様子は作品のツカミとしては最高の滑り出しです。

しかし、次第にテンポも悪くなり、何が言いたい映画なのか、よくわからなくなっていきます。率直に言うと、こんなにいろんな視点を盛り込む必要があるのか?ということです。加害者家族、刑事、かつての事件の被害者家族、マスコミ、ネット社会、妹の恋人…。視点の多さというのは、物事を一面的には考えられない、ということを示しているのですが、却ってポイントが絞りきれずどっちつかずになってしまうという危うさがあります。つまり、出すなら最後まで責任を持てよってことだし、この視点は入ってませんけど、というツッコミどころを生んでしまう。

最も合点がいかないのは、柳葉敏郎と石田ゆり子演じる夫婦がこの逃亡者の受け入れることに葛藤するも、一晩経ったらすんなり関係が修復されていることです。彼らが何を根拠に刑事の暴挙を受け入れようと決心したのか何の説明もなされていないし、演出から想像することもできません。「刑事と加害者家族の娘」だけの物語にすればいいものを、被害者家族、しかもその原因が刑事にありというややこしい人物登場により、三者それぞれがそれぞれに対して見せなければならない感情の起伏が描ききれず、鑑賞者は物足りないことこの上ありません。柳葉夫妻と志田未来ちゃんは、全然語り合うシーンがありませんよね。これはおかしい。

そういうわけで、なんでこの脚本が映画祭で賞を獲ったのか、甚だ疑問に感じてしまいます。君塚良一は好きな脚本家です。一番好きな作品は浅野温子が主演した「コーチ」。九十九里浜のしがない缶詰工場で繰り広げられる人情劇で再放送を含め何度も見ています。「踊る」シリーズも最初のドラマの時は、ホント面白かったなあ。本作は着想してからずいぶん長いこと取材を重ねての脚本ということですが、その長い時期の間に、あれも入れろ、これも入れろとフジテレビから横槍が入ったと考えてしまうのは私だけでしょうか。

佐々木蔵之介演じるイカれた記者が、どんなに自分の足でかけずり回っても、ネットに棲む人々に情報戦で負けてしまい愕然とする、というくだりがありますねえ。これは、面白い着眼点だと思う。でも、他の視点同様深く切り込めずに、中途半端なネタで終わっています。このテーマはこのテーマだけで、1本映画が撮れるくらいの強さを持っていると思う。欲張り過ぎですね。