落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

手の声

2007年01月29日 | book
『栗林忠道 硫黄島からの手紙』 栗林忠道著
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絶賛上映中の映画『硫黄島からの手紙』の原作ではアリマセン。タイトルは似てるけどね。
映画の下敷きになっているのは5年前に刊行された『「玉砕総指揮官」の絵手紙』の方で、こちらには主にアメリカ・カナダ滞在中に栗林氏が家族に出した手描きイラスト入りの手紙と、それに硫黄島から出したもの数通が収録されている。『栗林忠道 硫黄島からの手紙』の方はタイトルそのまま、硫黄島から家族に宛てたものだけを集めた書簡集。こちらは去年の刊行。

まあぶっちゃけ、読まにゃいかんよーなこたなんも書いとりゃせんですよ。ただの手紙です。
風邪をひいてないか、床の修繕のこと、お風呂の湯垢の取り方、疎開の用意はしたか、子どもの進学のこと、勉強しなさいよ、しっかりお母さんの手伝いをしなさい、ごくふつうの家族の会話が手紙になってるだけ。しかも同じ話題を何度も繰返し書いている。それだけ栗林氏がマメで優しい家庭人だったことはよくわかる。
ぐりが心を動かされたのは、栗林氏が「ものは足りているから、食物や酒など何も送ってこなくてよい」と繰返し書き送っているにも拘らず、妻・義井がしつこくあれこれと物資を送っているらしいことに何度か触れているところ。
いらないから送るなといわれても送らずにはいられない妻。軍から配布されたお菓子を家族に送る夫。顔が見えなくても、どこにいるかわからなくても、栗林家がひとつにかたく結びつき、互いに強く思いあっていたことがうかがえる。
それと家族それぞれに対する言葉遣いがハッキリ違うところにも父親らしさがでてるなあと思い。妻にはいたわるような言葉で、長男には厳しく、長女には真面目に、末っ子の次女にはただただ甘く。
便箋の裏まで使って罫に2行ずつ小さな字でぎっしり書かれた手紙はみるからに几帳面そう。

しかしこの本の解説はまたお粗末至極。映画のヒットでいろんな本出てるみたいだけど、玉石混交なんだねえ・・・。


手の声

2007年01月29日 | book
『ハンミちゃん一家の手記 瀋陽日本総領事館駆け込み事件のすべて』 キム・グァンチョル家・文国韓著 
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2002年5月8日、中国瀋陽の日本総領事館に北朝鮮から亡命しようとする一家5人が駆け込み、警備をしていた中国警察に身柄を拘束されるという事件が起きた。
事前に協力者によって呼び寄せられたジャーナリストが、領事館の真向かいの建物から一部始終を撮影した映像が即座に世界中に配信されたことで、事件は単なる一個人の亡命だけの問題ではなくなった。映像や画像を見た世界中の人々が、カメラに向って悲しそうに顔をゆがめた幼い少女─当時2歳の韓美(ハンミ)ちゃん─の無事を願った。
約2週間後、そうした国際世論に後押しされるかたちで一家は韓国に亡命することができた。
この本には、一家が事件に至るまで北朝鮮でどれほどの艱難辛苦を味わいながら生き延びてきたかが、彼ら自身の言葉と手描きのイラストで綴られている。

彼らの生い立ち、家庭環境は現代北朝鮮の一般市民のひとつの典型だろう。
彼らの暮らしを通して、今の北朝鮮社会がどこまで崩壊しているかが手に取るようにわかってくる。社会が壊れる、といっても日本で安穏とくらしているぐりにとってはまるで現実味のない話でしかない。北朝鮮はまさにそれなのだ。社会が壊れたらどうなるか、国民を守り養っていくはずの国家体制が崩壊したらどうなるか、グァンチョル一家の置かれた状況がそれをそのまま表している。
着るものも食べるものも燃料もない。北朝鮮で違法とされている行商や密輸や泥棒に手をそめる以外に生きる手段がない。それもダメなら中国に行くしかない。中国では女は身体を売り、子どもを売る以外にお金を得る方法がない。中国にも密告者はいて強制送還されるのは簡単だ。送還されれば収容所での厳しい取調べと労働が待っている。収容所で病気や飢餓のために命を落とす人も大勢いる。

国が壊れたらどうなるか、それが非常にリアルに書かれた本。文章もイラストもとてもわかりやすい。
ところでこの本には訳者名が記載されていない。なんでですか。