落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

天才エレジー

2007年04月21日 | movie
『神童』
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最悪。
ストーリーはいい、出演者もすごく頑張ってる(演奏シーンのほとんどが吹替えってのはさみしかったけど)、なのにスタッフにやる気がない。思想がない。根性がない。センスがない。だから退屈。ただただ意味もなくずるずると長いだけ。80年代のアイドル映画かっちゅーの。『僕妹』といっしょっすよ。原作者と出演者が気の毒すぎ。
とくに惜しいのは台本。ぜんぜん悪くない台本なのに、そこで終わっちゃってる。書いた台本なぞって映画にしただけ。しかも台本すらまったく消化しきれてない。撮って繋ぐだけでいっぱいいっぱい。だからせっかくの印象的な台詞がどれもこれも超しらじらしい。ダサ。
カメラワークもライティングも衣装も美術も全部ダメ。リアリティもないしかといってどうしたいのかという方向性も見えない。観客バカにしてるでしょ?ぐりはみてないけど「のだめ」だかなんだかの影響でクラシックブームらしーけど、どーせこんな映画観にくるヤツにクラシックとか音大の世界なんかわかるワケないとか思ってるっしょ。そーゆー問題じゃないっちゅーに。
けどこの作品の最大のガンは音楽と音響設計。選曲はチープだし音効は安直、音響設計もガチガチにカタイ。ぐりは音楽に関しては素人だけど、この映画の音には広がりも奥行きも厚みも、ピアノの華麗さ、繊細さや、オーケストラの力強さも迫力も何もない、ってことくらいはわかる。作中の台詞で「菊名くん(松山ケンイチ)のピアノは呼吸してない」というのがあるんだけど、それこの映画の音のことじゃん。音楽が主役の映画なのにそんなのアリ?信じらんないよ。最低。
初日なのに映画館ガラガラ。さもありなん。アタシだってお金と時間返してほしいです。予告編に騙されたわー。不覚なり。

天才エレジー

2007年04月21日 | book
『真夏の航海』トルーマン・カポーティ著 安西水丸訳
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カポーティの死後発見・出版された事実上の処女作。
ぐりはカポーティのファンではあるけど安西氏の文章はかなり苦手である(爆)。安西氏自身本職はイラストレーターのはずだが小説も書いていて、十年以上前に1冊読んだのだがどうしても好きになれなかった。わからなくはないけど趣味じゃない。文体のクセや独特の視点にどうしてもひっかかりがある。
それでこの本も去年出てすぐには読まなかった。
この作品の出版をカポーティは望んでいなかったという証言がある。それは読めば「そうかもしれない」と思う。
確かに天才カポーティらしい、非常に優れた作品ではある。十代で書かれただけあって荒削りな部分も不完全な部分も残されてはいるが、充分に個性的だし魅力的な小説だ。まるでステンドグラスで出来た吊り橋を踏んで虚空をわたっていくような、ふわふわきらきらと現実感のない、それでいて刺すように鋭い緊迫感に満ちた青春ラブストーリー。美しい。見事だ。
でも正直にいえば、やはりカポーティはあの『遠い声、遠い部屋』でデビューしてよかったんだというところに間違いはないとも思った。『真夏の航海』はそれだけなら十代の新人にしてはよく書けた作品だけど、逆にいえば、これくらいの作品を書く少年少女なら今も当時も?シにいくらもいるだろう。十代というのはそういう年代だ。誰もが全ての可能性を秘め備えた年齢、その可能性を信じて飛躍する人間と賭けに?oないままの人生を選ぶ人間との別れ道にたつ前、誰もが、自分を「天才」と信じあるがままの能力を発揮できる、それが十代なのだ。
個人的には巻末の、生前はカポーティの弁護士をつとめ死後は作品や遺産を守り運用していく仕事をひきうけておられるアラン・U・シュワルツ氏の手記が非常に感動的でした。芸術家は作品をつくるだけつくって死んでしまえば(運が良ければ)伝説になっておしまいだけど、人類の財産となった作品は彼のような裏舞台の人間によってこそ無事に全人類の財産として共有されているのだろう。読者はもしかすると彼らにもっと感謝すべきなのかもしれない。