落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

かけがえのないあなた

2007年12月02日 | movie
『アフター・ウェディング』

『ある愛の風景』のスザンネ・ビア監督の最新作。
カルカッタの貧民街で孤児院を運営する活動家ヤコブ(マッツ・ミケルセン)は新しいスポンサーの招致で故郷コペンハーゲンを訪れるが、当の資産家ヨルゲン(ロルフ・ラッセゴード)は活動内容にはほとんど興味を示さず、週末の娘の結婚式に無理矢理彼を招待する。そこでヤコブはヨルゲンの妻ヘレネ(シセ・バベット・クヌッセン)が20年前の恋人であり、新婦アナ(スティーネ・フィッシャー・クリステンセン)が存在さえ知らされなかった実の娘であることを知る。
これもストーリーそのものはどーっちゅーことないんですよ。てゆーか、かなりの部分で「それはどーか?」と首を傾げざるを得ない、相当に危うい物語です。辻褄があわないとかそういうことはないんだけどね、考え方として「ちょっとどーよ?」なところがけっこーあるのよ、なんちゅーか、もしやこの監督白人史上主義者?なの?みたいなさ。ヤコブの活動内容に興味ないのって実は監督のことじゃないすかねー。
それはおいといて、やっぱりこの映画も感情描写が素晴しい。死期の迫った男の去り際、初めて実の子に対面した男の狼狽、生死さえ諦めていた過去の恋人に再会した女の怒り。全然これみよがしな感じじゃないのよ、オーバーアクトでもなんでもないのに、もうもうめちゃくちゃリアルで、ひとつひとつすべてが観るものの胸に肉薄してくる。圧倒的。
『ある愛〜』もそーだけど、音楽の使い方が情緒的でステキ。アウトフォーカス気味のカメラワークはややくどい・・・かも。全体に人物に寄りきった画面がちょっと多過ぎる感じはしましたです。ヨルゲン役のロルフ・ラッセゴードはスウェーデン人で『太陽の誘い』にも出てる人ですね。ぜんぜん違うキャラで最初気づかなかったです。
しかしこの映画は飲み食いするシーンがものすごく多くて、観ていておなかが空いて空いて、酒が飲みたくて飲みたくてしょうがなかったです。

Brother

2007年12月02日 | movie
『ある愛の風景』

アフガニスタンに派遣されたデンマーク軍のヘリが撃墜され、乗っていた将校ミカエル(ウルリク・トムセン)は九死に一生を得るがタリバンの捕虜になってしまう。ミカエルの弟ヤニック(ニコライ・リー・コス)は夫の死亡を知らされ嘆き悲しむ義姉サラ(コニー・ニールセン)を励ますうち、彼女に複雑な感情を抱くようになる。やがて救助され無事に帰国するミカエルだが・・・という、『フランドル』でも描かれた「戦争に引き裂かれる男と女」のメロドラマ。
ストーリーにはとりたてて新鮮なところは何もない。優等生の兄、やさぐれた弟、美しい兄嫁のトライアングル。戦争でズタボロに傷つく男、夫を失ってよろめく女、そんな女の弱さに惑わされる若者、古今東西あらゆる国と地域の映画に描かれて来た愛の物語だ。
この映画のスゴイところは、だからストーリーや題材ではなく、そうした一種「ありがち」な状況に置かれた人間たちの内面の懊悩が、台詞や表情だけではとても表現できない心の奥のそのまた奥で荒れ狂う嵐が、まさに見事に映像に再現されているところだ。
もうねえ、人物描写のディテールがハンパなくリアルなのよ。フィクションをみてるような感じさえしない。登場人物のひとりひとりが、実在の、それもぐり自身がよく知ってる人にしかみえない(デンマーク人なんか知らんちゅーに)。たとえば弟は直情径行的な性格で癇癪持ちだけど、この性格ははっきりと彼の父から受け継がれたものだ。そして一見立派そうに見える兄にもそういう一面はちゃんとある。なおかつ、兄の長女にもしっかりとその傾向が遺伝している。実はこの性格はストーリーとはまったく関係がない。それなのに、こうした遺伝的な性向が繰り返し丁寧に描かれることで、登場人物たちが、血の繋がった、強い絆で結ばれた家族であり、家族だからこその愛や壁に苦しんでいることがものすごくわかりやすくなっている。すばらしー。
この映画、ハリウッドでのリメイクが決まっていて(タイトルは原題英訳の『Brother』)、兄をトビー・マグワイア、兄嫁をナタリー・ポートマン、弟をジェイク・ギレンホールが演じる。もう撮影やってんのかな?確か?しかしこのキャスティングはあざとすぎ。トビーとジェイキーは『スパイダーマン』のオーディションを最終選考で争った因縁のライバルで、未だにトビーが降板するなんて噂が立つたびに代役にジェイキーの名前が挙がるような間柄、ナタリーとジェイキーは古くからの親友でこれまでに何度も熱愛報道もされている。マ、間違いなく日本でも公開されるので楽しみにしていましょー。

世にも麗しき孤独

2007年12月02日 | movie
『呉清源 極みの棋譜』
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これ、ほとんど日本映画ですね。監督中国人で主役は台湾人だけど、舞台の99%は日本で台詞も日本語、出演者も主役とその親兄弟以外は全員日本人。見た目はカンペキ日本映画です。
外国人監督が描く日本ってゆーとやっぱ大抵、ナニなカンジになりがちじゃないですか。台詞がギクシャクしてるとか、日本文化の解釈がズレてるとか、微妙なミステイクがどーしても目立ってしまって、なかなか入りこみにくい世界観になっちゃう。この映画はそういうところはあんまりなかったです。意外にも(爆)。まあまったくないとはいえないにせよ、すごく気になる、ひっかかるってほどのことはなかったです。
もともとは実在の棋士・呉清源の伝記映画として撮られた作品だけど、資金難から撮影後1年以上ポストプロダクションが中断したという経緯があり、監督によればその中断によって内容に変更が生じたという。つまり呉清源がいつどこへ行って何をしてといったような説明的な伝記映画ではなく、天才の天才たる苦悩と孤独という内面描写をメインにまとめてある。観た印象では、その変更は必須のものであって、変更されて然るべき変更だったように感じた。確かにこの映画を観ただけでは呉清源の囲碁の精神や彼の生涯の変遷はわかりにくい。でも、そんなことが知りたければ彼の本を読めばいいわけで、この作品では独自に、映画なら映画でしかできない表現で、彼が天才の名を守るためにどう生きようとしたのかを描こうとしている。
全体に台詞が少なく静かな映画だけど、ヘンに時代背景を強調したりしないで、ごくごく自然に、日中戦争時代に日本に来た呉清源の孤立感や、天才ゆえの迷いや、信仰への挫折の喪失感が伝わって来て、とても観ていてラクな映画でした。冬の日本の風景が非常に美しく描写されているのも見どころではないだろうか(ロケは冬の近江八幡で行われた)。
ただし惜しむらくは伊藤歩や松坂慶子など日本の女性キャストの魅力がイマイチうまく活かされてなかったところ。伊藤歩ってこんなつまんない女優でしたっけね?張震(チャン・チェン)はサイコーですけど。相変わらずステキ(爆)。てゆーかワダエミの衣裳が似合い過ぎですからー。日本語の台詞も上手かったです。少なくとも呉彦祖(ダニエル・ウー)とか陳慧琳(ケリー・チャン)よりはかなり上手かった(笑)。
あと字幕監修に田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)監督自身がクレジットされてたけど、監督日本語できんのかね?