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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

クリスティをフレンチで

2007年12月24日 | movie
『ゼロ時間の謎』
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原作はアガサ・クリスティだが、ぐりはこの小説(『ゼロ時間へ』)は読んでないです。てゆーかクリスティって中学時代に何冊か読んだきりだけど、タイトルも内容もまったく覚えてない。脳味噌くさってんな・・・。
おもしろかったです。すごくふつうの、まっとうなエンターテインメント映画。どこといってひねったところもないけど、観てて不満に感じるようなところもとくにない。ある意味ちょっと懐かしい感じもする、オーソドックスなミステリー映画。
この映画のいいところは、そのミステリー臭さがあまり鼻につかないところだろう。トーンが全体に淡々としていて、観客が無意識に能動的にいろいろと想像する余地をじゅうぶんに残してある。音楽やカメラワークも控えめ。そのぶん、衣裳や美術などのディテールに非常に凝っている。クリスティといえば金持ちの家が舞台だが、この映画の金持ち描写はじつにまったく趣味がいい。贅沢なのに派手じゃなくて嫌味がなくて、観ているこっちも自然にリッチな気分になれる。こういうところがハリウッド映画の贅沢描写とは一線を画している。
それとこの映画の人物描写がまたものすごくくっきりとコントラストがきいていて楽しい。どの人もそれこそマンガみたいにわかりやすくばっちりと色分けされていて、まるで映画というより舞台を観ているような気分にさせられる。とくにメルヴィル・プポーがすばらしい。すばらしすぎる。ブラーボー。プポーの前妻役がキアラってキャスティングは狙い過ぎな気もしますが(ふたりは元パートナーで5歳の娘がいる)。
物語そのものにはなんかひっかかるものは感じるけど、まあそこはクリスティだからってことでよしとしましょー(笑)。

マルジャン・ダイアリー

2007年12月24日 | movie
『ペルセポリス』

ペルセポリスとは一般的にはアケメネス朝ペルシャの都のことだが、おそらくこの映画ではギリシャ語の「ペルシャの都」と「都市を破壊する」のダブルミーニングではないかと思う。
監督は原作者でもあるマルジャン・サトラピ。この映画は69年にテヘランで生まれた彼女自身の身の上話がベースになっているのだが(ただし本人は映画よりずっと美人)、同時に79年のイスラム革命やイラン・イラク戦争など現在も続く不安定な中東情勢下での一般庶民の暮らしを、ひとりの少女の成長に重ねてわかりやすく描いた社会派ブラックコメディでもある。
ヒロイン・マルジのキャラクターがとにかく楽しい。日本でいうと『ちびまる子ちゃん』のさくらももこによく似ている。子どものころはとくに顔やヘアスタイルもそっくりだ。だがいつまでも小学生のまるちゃんと違ってマルジは中学生になり、やがて高校生になり、大人の女性へと成長していく。思春期もある。恋愛もする。恋に敗れたり、結婚に失敗したりもする。挫折に迷ったり、音楽やファッションにうつつを抜かすこともある。すごくふつうの女の子だ。
しかし彼女の少女時代は全然ふつうじゃない。親族が政治犯として逮捕され処刑されてしまったり、家の近所が爆撃されて隣人が亡くなるのを目撃したり、警官に追われた友人が事故死したり、平和な国ではまず起こり得ないことが彼女の周囲では当り前のように次々と起こる。
そんななかでもマルジの両親や祖母は独立心を失わず、常に冷静に彼女を見守り続け、あたたかいアドバイスを与えつづける。素敵な家族だ。
戦争や革命が一般市民を規定するわけではない。イラン人といえばよく知らない外国人(ぐり含む)には熱心なイスラム教徒というイメージしかないけど、それこそイラン人にだっていろんな人がいる。金持ちもいれば貧乏人もいるし、無教養な人もいればインテリもいる。都会人もいれば田舎者もいるし、ロックが好きな人もいればオシャレが好きな人もいる。それぞれだ。そんなごくふつうの人々の生活を脅かすのが、戦争や独裁政権なのだ。
その微妙な距離感を、チャーミングなアニメーション映像で表現したこの作品は確かに画期的だと思う。観ててふつうに楽しいしね。いい映画ですよ。
原作本もこれから読みたいと思います。

原作レビュー:『ペルセポリスI イランの少女マルジ』『ペルセポリスII マルジ、故郷に帰る』 マルジャン・サトラピ著

星の女王たち

2007年12月24日 | movie
『線路と娼婦とサッカーボール』

グアテマラシティのスラム街リネアの私娼窟で働く娼婦たちは、常に差別と暴力に脅かされて暮して来た。多くは地方や近隣のもっと貧しい国から流れて来たよそ者の彼女たちは、しばしば顧客や愛人、時には警察から虐待されながら、2ドル余りの安い賃金で春を売って家族を養っている。
そんな彼女たちがサッカーチームをつくり一般のアマチュア選手権に登録したことがマスコミにとりあげられ、女性の人権問題へと発展していく過程に密着したのがこのドキュメンタリーだ。
監督チェマ・ロドリゲスがスペイン人(=外国人)であったことと、チームができる時点から彼女たちの側で取材していたことから、ドキュメンタリーとしてはかなり視点の偏った作品にはなっている。それはそれで悪くないのだが、もう少しグアテマラ全体の状況をわかりやすく説明するパートもあってもよかったのではないかと思う。
たとえばグアテマラの国民のほとんどが敬虔なクリスチャンであることが彼女たちへの差別につながっていること、識字率が低いせいで恒常的な職に就けない人が多く、このため失業率も高く貧富の差が激しいことなどは、この映画の世界観を知るうえで重要な情報ではないだろうか。だが日本も含めて、グアテマラという中米の小国の国内事情などはあまりにも世界に知られていない。この映画を世界に発信するなら、それくらいのことは最低限盛りこむのも観客への親切だろう。
とはいえ、元気で健気で一生懸命な「ESTRELLAS DE LA LINEA」のメンバーのキャラクターは文句なくおもしろいし、彼女たちをみていると、?「間でいう「モラル」や「常識」の馬鹿馬鹿しさが心底から身にしみてくる。好きで娼婦になる女なんかいない。少なくとも、グアテマラやエルサルバドルのように信心深く貧しい国の女は、他に何の手だてもなく、家族の生活のために、やむを得ず娼婦として働いている。どう考えても彼女たちを責めたり虐げたりする方が無知で非常識としか思えない。
いや、どんな職業であろうと、その人の職業だけで相手を差別するのは間違っているのだ。どんな理由があっても、人を嘲ったり蔑んだりするのは人として間違っている。世の中には、何も知らずに「だってそんなの当り前でしょ」という顔で、平然と相手構わず人を差別する人間がたくさんいる。
社会のまさに最底辺をイキイキと生きる彼女たちのうつくしい顔をみるにつけ、差別はやはりおかしいという思いが強くなる。そんな映画でした。