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落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ハート形の記憶

2008年04月22日 | book
『ハートシェイプト・ボックス』 ジョー・ヒル著 白石朗訳
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先日あるレストランで食事をしたとき、ウェイターに見覚えのある男の子がいた。
しっかりとテーブルに屈んでこちらの顔を覗くようにして「おまたせしました」とにっこり笑い、丁寧に皿を置く。旧共産圏もかくやといわんばかりに無愛想な(でなければ神経症的なほどにマニュアルじみた)昨今の東京のサービス業の方々の態度に慣れっこになっている身としては、ちょっとびっくりしてつい顔をまともに見てしまった。
それで「おやっ?」と思った。誰かに似ている。でもそれが誰なのかは思いだせない。食事をしている間中、一生懸命記憶を辿ったのだが、結局店を出るまで思いだせなかった。
実はこれと同じようなことが少し前にもあった。やはり初対面のある人が強烈に「誰かに似ている」ように思えて仕方がない。それも雰囲気がとか目鼻立ちがとかいった生半可な似方ではなくて、顔かたちはいうに及ばず、背格好から身のこなし、ちょっとした表情や声音や喋り方や仕種まで、なにもかもにものすごいデジャヴュを感じる。ヘタしたら前にどこかで会ったかもしれないとも思うが、物理的にそれはなさそうである。じゃあその似ているはずの「誰か」は何者なのか。
しばらく考えて、その人は誰にも似てないという結論を出した。強いていうなら、いわゆる「同族顔」だったかもしれない。親戚同士は血が繋がっているので身体的特徴に明確な共通点があって、何十年会わなくてもひと目みればなんとなく勘が働いて懐かしさを感じるものだ。その人が具体的にぐりの親類の誰某に似ているということはないけど、体型や顔のパーツや肌の質感など、ディテールには確かにぐりのいとこたちにみられる特徴に共通するものがある。ぐりが偶然感じたデジャヴュはDNAの反応のようなものなのかもしれない。

たぶんこんなことを頻々と感じるようになったのは、ぐりが年をとって記憶力が老化して来た証拠なのだろう。
人間の記憶は、パソコンに喩えるなら、まずデスクトップに「メモ」として置かれる。そしてしかるべき後に内容の重要度と汎用性に応じてふりわけられ、ハードディスクにセーブされる。セーブされない「メモ」はデリートされ、セーブされた「メモ」は「記憶」になり、年月と経験に伴って整理・リライトされていく。こういった作業は大体が睡眠中に行われる。睡眠学習なんてのが流行ったのはこのせいだ。
年をとると記憶力が弱くなるとよくいうが、単にそれは「記憶」をセーブしておくハードディスクの残り容量が減るからである。「記憶=メモリー」を外部にバックアップしておくなんてことは人間の脳にはできない。逆に「記憶」を整理する能力はあるから、整理された記憶が自動的に合成されて、実際にはありえない光景を現実のように記憶していたり、見たはずのない情景にデジャヴュを感じたりするという現象が起きる。類似性のある「記憶」が整理されて重なりあい、新しい「記憶に似たもの」が脳の中でつくられることがあるからだ。
知らないはずの人物に懐かしさを感じるのも、それと同じような現象なのではないだろうか。

『ハートシェイプト・ボックス』は記憶との戦いの物語である。
ロックスターのジュードには、連続殺人犯が描いたスケッチや絞首台のロープやスナッフフィルムなど、薄気味の悪いモノをコレクションする趣味があった。あるとき彼は「幽霊の憑いたスーツ」をネットオークションで手に入れるのだが、届いた品は自殺した元恋人アンナの亡義父の遺品だった。以来ジュードの自宅には義父の幽霊が出没するようになり、やがて身辺にはとんでもない災難が次々とふりかかってくる。
始まりはいかにもオカルトホラーらしいが、物語が進行してくるにつれ、この小説のテーマが死者の呪いとの戦いではなく、自己の記憶との戦いであることがわかってくる。アンナと義父の間には知られざるおぞましい過去があった。ジュードも家を出てから30年以上、故郷へ足を踏み入れていなかった。現在の恋人メアリベスにも消したい過去・他人にはいえない過去があった。彼らはそれらの残酷な過去から逃げたい一心で記憶に鍵をかけ、できるかぎり遠くへ逃れようと必死に生きて来た。しかし人間は自ら記憶から逃げることはできない。記憶の積重ねこそがその人を人間たらしめるアイデンティティだからだ。決着をつけるには、自らその過去に立ち向かう以外にすべはない。

そういう主題は非常に興味深くはあったのだが、いかんせんこの小説は長い。内容のわりに長過ぎるし、似たような描写がくどくどくどくどとくり返し出てくるのには心底参った。読んでてなんだか疲れてしまったよ。
犬を守護神として描いたり、音楽を霊を遠ざけるアイテムとして描いたりするのはいいけど、あのエンディングはどうにも予定調和過ぎて拍子抜け。
タイトルの“ハート形の箱”は作中に登場するチョコレートのギフトボックスのことなんだけど、おそらく1993年に発表されたニルヴァーナの曲名から借用したものだろう。ぐりはこの本を読んで初めて聴いたんだけど(爆)、もしかするとロックに造詣の深い読者ならもっと共感できる小説なのかもしれない。ずびばぜん〜。
この作品は既にニール・ジョーダンによる映画化が決定していて、公開は2010年の予定だそうだ。まあね、大体どーゆー映画になるのかはもうわかりきってるけどね〜。


Heart - Shaped Box by Nirvana

She eyes me like a pisces when I am weak
I've been buried inside your Heart Shaped box, for weeks
I've been drawn into your magnet tar pit trap
I wish I could eat your cancer when you turn black

Hey!
Wait!
I've got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
hey
wait
I've got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey!
Wait!
I've got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice

...your advice

Meat-eating orchids forgive no one just yet
Cut myself on Angel Hair and baby's breath
Broken hymen of your highness I'm left black
Throw down your umbilical noose so I can climb right back

Hey!
Wait!
I've got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
hey!
Wait!
I've got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Hey!
Wait!
I've got a new complaint
Forever in debt to your priceless advice
Your advice
Your advice
Your advice