落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ろうととバケツ

2012年05月22日 | book
『朽ちていった命―被曝治療83日間の記録』 NHK「東海村臨界事故」取材班編

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1999年9月30日、茨城県の核燃料加工施設JCOで起きた臨界事故で大量の放射線を浴びた従業員の治療記録を放送した番組の書籍版。
こないだ読んだ『原発のウソ』に出てきたので早速読んでみました。

この事故で亡くなられた従業員はおふたり。この本では事故当時35歳だった大内久さんの治療の経緯を主に紹介している。
大内さんは身体の前面に16~20Svという大量の放射線を浴びた。急性被曝の致死量は4Svといわれているので、大内さんは初めから回復は見込めないだけの被曝量だった。にもかかわらず、治療の陣頭指揮を執った前川和彦東大医学部教授は「治せるかもしれない」という希望を持って全力で臨んだという。
なぜなら、事故当初大内さんはふつうに話せるほど元気で、皮膚の状態も見た目にはちょっとした日焼け程度にしかみえなかったからだ。
しかし、骨髄細胞をとって顕微鏡で染色体を調べたところ、大内さんの染色体はすべてがバラバラに破壊されつくしてしまっていた。
人は染色体に記録された遺伝子によって日々新しい細胞をつくり循環させながら生きている。その遺伝子が働かないということは、もう二度と新しい細胞はつくられないということになる。身体中を構成している細胞がただ死んでいくだけで、新しいものと入れ替わることはない。
理屈の上では大内さんの生存は絶望的だった。なのに医師団は諦めなかった。最新の再生医療を駆使すれば、大内さんの回復にも望みがあるとかたく信じていたのだ。

看護師たちも大内さんの特異な状態に驚いていた。
たとえば点滴の針を大内さんの肌にテープで貼りつけてはがす。すると皮膚もいっしょにはがれてしまう。健康な人であればそこに新しい皮膚ができて、傷は塞がる。だが大内さんの皮膚ははがれたままだった。やがて被曝した身体の前面の皮膚は自然にぜんぶだめになってはがれ落ちてしまった。
被曝から3週間を過ぎたころには人工呼吸器がつけられ、鎮痛剤が大量に投与され、大内さんは意識が戻らなくなった。表皮だけでなく腸の粘膜もなくなり、身体の内外を問わず絶えず体液が流れ出し、出血するという状態になってしまった。
鎮痛剤を投与されていたとはいえ、こんな風に全身の細胞がただ死んでいくのを待つだけという死に方がどれだけの苦痛を伴うものなのか、ぐりにはまったく想像がつかない。
逆に、こんな状態になっても大内さんの生存を諦めようとしなかった医師団の気持ちもわからない。
確かに大内さんはまだ若かった。死にたくない、生きたいと願っているなら全力でそれに応えるのが医療だといわれてしまえばそれまでだ。
けど、ぐりにはここまでして大内さんの苦痛を引き延ばした彼らの意図に、最新の医療の力への驕りがあったように思えてならない。
逆にいえば、それだけ医療の力を信じたい、希望に賭けたいという強い思いがあったともいえるのかもしれない。
だがそれでほんとうに正しいのだろうか。

大内さんは亡くなったあと司法解剖された。
あらゆる臓器が激しい損傷を受けているなかで、心臓だけは健康だったという。
35歳の死だった。
まだ話せたころ、妻に「愛しているよ」と告げているのを、看護師が聞いている。小さな息子さんもいた。
どれほど無念だったかはもう誰にもわからない。
それでも、彼の死から学ぶべきことは数多い。
日本は原発ばっかり建てて原発事業にばっかりお金をかけてきたけど、事故が起こったときにどう対応するかという安全策がぜんぜんできてないことは、福島第一原発の事故で世界中の知るところとなった。
被曝者を治療する医療面も遅れている。現場の救急隊員や医師や看護師でさえ、二次被曝の危険性がわからないで躊躇するくらいなのだ。あまりにも情報が不足し過ぎている。
これでは原発というおいしい事業のために、国が国民の安全を無視して騙しているとしかいえない。
そんなもの、許せますか。
ぐりは許せません。

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