福井県、若狭地方に三方町という所があります。
そこに伝わる貧乏神の昔話です。
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むかしむかし、三方という村に、働いても働いても楽にならず、増えるのは子供ばかり・・そりゃ大変貧乏なお百姓さんが暮らしていたそうです。
もう冬も越せない切羽詰ったある日、夜逃げをすることに決めました。
その当日の夜中、納屋の前を通ると、見知らぬ男が、何かゴソゴソしていました。
「お前は、誰じゃ?」
「わしゃ、貧乏神じゃ」
「貧乏神? こんなところで何をしとるのじゃ?」
「この家のもんが逃げ出すちゅうで、わしもついて出かけるので、ほれ・・こうして草鞋(わらじ)を編んでいるんじゃ」
・・おどろいたのは、そのお百姓さんでした。
「そうか・・ついてくる。貧乏神がついている。だから、ずっと貧乏なんだぁ~。なるほど」
お百姓さんは、がっかりして、夜逃げをして出てゆく気もなくなりました。
次の朝、貧乏神は、草鞋を用意して待っていましたが、いつまでも待っても誰も出て来ません。
次の日も、次の日も・・
一日、また一日・・貧乏神は、せっせと草鞋作りに励みました。
そして、いつのまにやら軒先に草鞋が、どっさりと貯まってゆきました。
こうなると、村の者がくるようになって、「草鞋をわけてくれ」と言います。
貧乏神は、気前がよいのです。
「さぁ、どれでも持っていきなされ」
と、どんどん草鞋をわけてやるのです。
それを見た貧しいお百姓さんは、いいことを思いつきました。
「そうじゃ、この草鞋を売ればいいんじゃ」と。
さっそく、お百姓さんは村へ、町へと、売りに行ったのでした。
草鞋は、よく売れました。
でも、暮らしは、いっこうに楽になりません。
「やっぱり、貧乏神が居るかぎり、暮らしは楽にならねぇってことか・・」とため息がでます。
そこで、お百姓さんは、一計を案じました。
草鞋を売った、わずかな残り金で、ありったけの酒やごちそうを用意して、貧乏神をもてなしました。
「さぁさぁ、貧乏神さま、きょうは遠慮のうやってください。貧乏神さまが、作った草鞋が売れて暮らしも楽になりました。さぁ、いっしょに祝ってください」
貧乏神は、すすめられるままに、食べたり飲んだり・・。
「酔った。酔った。すっかりごちそうになってしもうて・・。暮らし向きがようなると、貧乏神のわしは、もう、この家にはおれん・・」
腹いっぱいになった貧乏神は、こう言うと出て行きました。
お百姓夫婦は、大喜びです。
「出っていった。わしらも、これから暮らしも楽になるぞ。はっはっはっ・・」
ところがです。
真夜中に便所に起きると、納屋のまえに、出ていたはずの貧乏神が居りました。
「ま、まだ、居たのか・・」
貧乏神は、お百姓さんを見ると、うれしそうにニッコリします。
「この家が、大好きなんじゃ・・」
そうして、それからも、毎日毎日、貧乏神は、草鞋作りに精を出しました。
草鞋を作るには、藁がいる。
藁を作るには、米のなる稲がいる。
貧乏神の草鞋作りのために、前よりもいっそう働かなければなりませんでした。
そして、貧乏神がいるかぎり、暮らしは、あまり楽にはなりませんでした。
でも気がついてみると・・
もう夜逃げなんぞは、しなくてもよい暮らしになっていました。
<おわり>
そこに伝わる貧乏神の昔話です。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「
むかしむかし、三方という村に、働いても働いても楽にならず、増えるのは子供ばかり・・そりゃ大変貧乏なお百姓さんが暮らしていたそうです。
もう冬も越せない切羽詰ったある日、夜逃げをすることに決めました。
その当日の夜中、納屋の前を通ると、見知らぬ男が、何かゴソゴソしていました。
「お前は、誰じゃ?」
「わしゃ、貧乏神じゃ」
「貧乏神? こんなところで何をしとるのじゃ?」
「この家のもんが逃げ出すちゅうで、わしもついて出かけるので、ほれ・・こうして草鞋(わらじ)を編んでいるんじゃ」
・・おどろいたのは、そのお百姓さんでした。
「そうか・・ついてくる。貧乏神がついている。だから、ずっと貧乏なんだぁ~。なるほど」
お百姓さんは、がっかりして、夜逃げをして出てゆく気もなくなりました。
次の朝、貧乏神は、草鞋を用意して待っていましたが、いつまでも待っても誰も出て来ません。
次の日も、次の日も・・
一日、また一日・・貧乏神は、せっせと草鞋作りに励みました。
そして、いつのまにやら軒先に草鞋が、どっさりと貯まってゆきました。
こうなると、村の者がくるようになって、「草鞋をわけてくれ」と言います。
貧乏神は、気前がよいのです。
「さぁ、どれでも持っていきなされ」
と、どんどん草鞋をわけてやるのです。
それを見た貧しいお百姓さんは、いいことを思いつきました。
「そうじゃ、この草鞋を売ればいいんじゃ」と。
さっそく、お百姓さんは村へ、町へと、売りに行ったのでした。
草鞋は、よく売れました。
でも、暮らしは、いっこうに楽になりません。
「やっぱり、貧乏神が居るかぎり、暮らしは楽にならねぇってことか・・」とため息がでます。
そこで、お百姓さんは、一計を案じました。
草鞋を売った、わずかな残り金で、ありったけの酒やごちそうを用意して、貧乏神をもてなしました。
「さぁさぁ、貧乏神さま、きょうは遠慮のうやってください。貧乏神さまが、作った草鞋が売れて暮らしも楽になりました。さぁ、いっしょに祝ってください」
貧乏神は、すすめられるままに、食べたり飲んだり・・。
「酔った。酔った。すっかりごちそうになってしもうて・・。暮らし向きがようなると、貧乏神のわしは、もう、この家にはおれん・・」
腹いっぱいになった貧乏神は、こう言うと出て行きました。
お百姓夫婦は、大喜びです。
「出っていった。わしらも、これから暮らしも楽になるぞ。はっはっはっ・・」
ところがです。
真夜中に便所に起きると、納屋のまえに、出ていたはずの貧乏神が居りました。
「ま、まだ、居たのか・・」
貧乏神は、お百姓さんを見ると、うれしそうにニッコリします。
「この家が、大好きなんじゃ・・」
そうして、それからも、毎日毎日、貧乏神は、草鞋作りに精を出しました。
草鞋を作るには、藁がいる。
藁を作るには、米のなる稲がいる。
貧乏神の草鞋作りのために、前よりもいっそう働かなければなりませんでした。
そして、貧乏神がいるかぎり、暮らしは、あまり楽にはなりませんでした。
でも気がついてみると・・
もう夜逃げなんぞは、しなくてもよい暮らしになっていました。
<おわり>