ファティマからリスボン行きの列車に乗った時、前に座った老婆のがっしりとした手が忘れられない。
額に刻み込まれた皺、汗の上に日焼けした茶褐色の顔。
お世辞にも小奇麗とは言えない服装。
その恰好は、ほんの少し前に農作業を終えたばかりの様子。
そんな出で立ちで何の用事でリスボンまで出かけるのか?と余計なお世話だが、とても気にかかる。
老婆は、そんな私の方には目も呉れず、目線は、ただ真正面に向って凝視をするだけ。
どうしても、その老婆の手が目に入る。
その手の指が視界の中に入る。
その指の節々の瘤のようなタコが気にかかる。
仕事をしている手なのである。
草を抜き、鍬を持ち土地を耕す百姓の手、まさしくその指なのである。
急に涙もろくなって目を閉じた。
私の祖母と同じ指、同じ手なのである。
そして、同じように、きれいな目をしていた。
リスボン駅に着くまで、その老婆は笑顔一つみせることもなく、ただ一点前を凝視していた。
そそくさに足早に去る後ろ姿が、何故か哀しく見えたが、それでいいとも思った。
その日中に訪ねたファティマという場所は、山の中にある観光地化された風情を持つが、聖母マリアが降臨されたというバチカンお墨付きの聖地である。
そして、あの日は、私の祖母の命日であった。
「ひらがな」しか書けなかった祖母を思い出す。
幼い頃、祖母に手を引かれ、百島の浜辺を歩いていた時、こんな事を聞かされた。
「昔、ここらを歩いていたらなぁ。アメリカの飛行機が飛んできて、空からババッと狙い撃ちをされたんよ。それで慌ててあの岩場の穴の中に逃げ隠れたんじゃよ」
これは明かに無差別攻撃である。
何にもない静かな島の民間人を意味もなく空から撃つなんて、アメリカ軍の指揮命令系統外のことだと思う。
ただ、祖母はそういう怖い体験をしても、心底アメリカ人を恨んでいなかった。
祖母が、「アンディ・ウイリアム・ショー(アメリカの番組をNHKで放送していた)」を嬉々としてテレビを観ていた姿を思い出す。
原爆に遭われた方々もそうである。
アメリカの原罪を恨んでいない。
人間の原罪を恨むのである。
節目の今日・・ポルトガルから仕事の依頼が届いた。
ありがとう・・。
額に刻み込まれた皺、汗の上に日焼けした茶褐色の顔。
お世辞にも小奇麗とは言えない服装。
その恰好は、ほんの少し前に農作業を終えたばかりの様子。
そんな出で立ちで何の用事でリスボンまで出かけるのか?と余計なお世話だが、とても気にかかる。
老婆は、そんな私の方には目も呉れず、目線は、ただ真正面に向って凝視をするだけ。
どうしても、その老婆の手が目に入る。
その手の指が視界の中に入る。
その指の節々の瘤のようなタコが気にかかる。
仕事をしている手なのである。
草を抜き、鍬を持ち土地を耕す百姓の手、まさしくその指なのである。
急に涙もろくなって目を閉じた。
私の祖母と同じ指、同じ手なのである。
そして、同じように、きれいな目をしていた。
リスボン駅に着くまで、その老婆は笑顔一つみせることもなく、ただ一点前を凝視していた。
そそくさに足早に去る後ろ姿が、何故か哀しく見えたが、それでいいとも思った。
その日中に訪ねたファティマという場所は、山の中にある観光地化された風情を持つが、聖母マリアが降臨されたというバチカンお墨付きの聖地である。
そして、あの日は、私の祖母の命日であった。
「ひらがな」しか書けなかった祖母を思い出す。
幼い頃、祖母に手を引かれ、百島の浜辺を歩いていた時、こんな事を聞かされた。
「昔、ここらを歩いていたらなぁ。アメリカの飛行機が飛んできて、空からババッと狙い撃ちをされたんよ。それで慌ててあの岩場の穴の中に逃げ隠れたんじゃよ」
これは明かに無差別攻撃である。
何にもない静かな島の民間人を意味もなく空から撃つなんて、アメリカ軍の指揮命令系統外のことだと思う。
ただ、祖母はそういう怖い体験をしても、心底アメリカ人を恨んでいなかった。
祖母が、「アンディ・ウイリアム・ショー(アメリカの番組をNHKで放送していた)」を嬉々としてテレビを観ていた姿を思い出す。
原爆に遭われた方々もそうである。
アメリカの原罪を恨んでいない。
人間の原罪を恨むのである。
節目の今日・・ポルトガルから仕事の依頼が届いた。
ありがとう・・。