■Argent In Deep (Epic)
1960年代後半より、ロックもLPで聴くことが主流になり、つまりはシングルヒットが出せなくとも優れたアルバムを作っていれば、そのミュージシャンは大物と認められたのですから、まさに人生楽ありゃ、苦もあるさっ!
本日ご紹介の1枚は、基本的にはアルバムで勝負していたアージェントの最高傑作と認知される人気盤と書きたいところなんですが、天の邪鬼なサイケおやじにとっては、アージェントが大好きなバンドだけに、可愛さ余って憎さ百倍というところでしょうか……。
A-1 God Gave Rock And Roll To You
A-2 It's Only Money Part 1
A-3 It's Only Money Part 2
A-4 Losing Hold
B-1 Be Glad
B-2 Christmas For The Free
B-3 Candles On The River
B-4 Rosie
これが世に出た1973年春といえば、アージェントが「Hold Your Head Up」のシングルヒットを放ち、同曲収録のアルバム「オール・トゥゲザー・ナウ」も広く一般のロックファンから認められた後ですから、ようやく苦節から抜けだしたグループの意気込みが半端ではない時期でした。
しかしロッド・アージェント(vo,key)、ラス・バラード(vo,g,key)、ジム・ロッドフォード(b,vo)、ロバート・ヘンリット(ds,per) という4人のバンドメンバー、及びプロデューサーとして関わっているゾンビーズ以来の盟友たるクリス・ホワイト、それぞれの音楽性が、それゆえにバラバラになりかけていました。
もちろんそんな内部事情をサイケおやじが知ったのは、かなり後の事なんですが、そう思って聴けば、アルバムを構成する各楽曲の要素や仕上がりが纏まっていません。
結論から言えば、初めてこのアルバムに接するお若い皆様には、EL&Pとクイーンの折衷スタイルのように感じられるかもしれません。
しかし、決して安易なパクリや物真似ではなく、それこそがアージェントならではの個性だと主張するのは、贔屓の引き倒しでは無い! そう、サイケおやじは確信するのです。
例えば後にキッスがカパーしたことでロック史に残る名曲となった「God Gave Rock And Roll To You」は、いきなりの大団円的な名演でもあり、厳かにして胸が熱くなるようなロック的メロディ展開と欧州教会音楽の素晴らしき融合♪♪~♪
本当ならばアルバムのクライマックスに配置されて然るべきだと思うほどですが、それをあえてド頭に持ってきたところに、このアルバムの信憑性が疑われるほどです。
なにしろ、続く「It's Only Money Part 1」が如何にもパワーポップ全開のハードロックながら、その変奏とも言うべき「同 Part 2」では、なんとビートルズのモータウンカパー「Money」のリフとアレンジを借用する稚気やフュージョン前夜祭のようなギターアンサンブル、そしてキーボードのクールなアドリブがニクイばかりなんですねぇ~♪ しかもそれが良いところでフェードアウトし、矢鱈にポップなコーラスパートが追加されてフェードインしてくるという、洒落になっていない裏ワザがっ!?!?
ですからA面の締め括りに置かれた「Losing Hold」の勿体ぶった様式美が、なんだかなぁ……。正直、出来の悪いゼップのようでもあり、クイーンの亜流のようにも聞こえてくる始末なんですが、もちろんそれはアージェントの先見性の表れが、見事に裏目に出たという気がしますし、極言すれば同時期のイエスが作ったデモテープ? と言われても納得するかもしれません。
ところがB面トップの「Be Glad」になると一転、これぞっ、見事なアージェントロックの代表格に仕上がっている事実には溜飲が下がります。そこには強い存在感を示すピアノとオルガン、情熱のボーカル&コーラス、さらに多彩なビートをミックスさせるドラムス&ベースという、まさに当時の最先端が主張され、これをEL&Pの二番煎じと断じるのはバチアタリだと思いますよ。
しかも、これはサイケおやじの妄想ではありますが、クイーンだって、きっとこれを聴いていたに違いないと!?
また「Candles On The River」が、これまた強力なキーボードロックの決定版で、重厚なリズムとビートを背景に暴れるオルガンや巧みに組み立てられたギターアンサンブル、そこへ同時進行する熱血のボーカルと華麗なコーラスは、EL&Pと似て非なる素晴らしい世界じゃないでしょうか。この手が好きな皆様ならば、必ずや納得させられる名演でしょう。
しかし、ここまでの流れの中には既に述べたように、メンバー各人の目指す音楽性の違いが微妙ですが明確に浮かび上がっているように思います。
例えばラス・バラードはパワーポップ、ロッド・アージェントはプログレ&ロックジャズ、またジム・ロッドフォードはフュージョンであり、ロバート・ヘンリットはハードロック&ジャズという感じでしょうか。
もちろんそれらがジコチュウで表現されているわけではなく、ちゃ~んとバンドとしての機能の中に活かされているのは言うまでもありませんが、それを担うはずのプロデューサーのクリス・ホワイトが前作アルバム「オール・トゥゲザー・ナウ」のヒットで妙に欲を出したのかもしれません。サイケおやじには、このLPの曲の並びが、どうにもしっくりこないんですよねぇ……。
それは相当にシブイながらも、実は素敵なメロディが秀逸な「Christmas For The Free」というクリスマスソングの隠れ名曲が、その存在感を強くアピール出来ないという事実にも顕著だと思いますし、オーラスの「Rosie」が陽気で楽しい分だけ、逆に煮え切らないというあたりが、実に勿体無いと思うのです。
そして個人的には「God Gave Rock And Roll To You」をメインに据えたトータル的な構成こそが、アルバム中心のロック時代に相応しかったんじゃないか?
このLPを聴く度に、それほど不遜な事を考えてしまいます。
しかし、これは絶対に駄作という事ではありません。
同時代に作られた夥しいロックアルバムの中で、プログレやロックジャズに特化しなくとも、なかなか立派な作品であることに違いはないのです。ただし、そこには思い込みによる好き嫌いが確かに存在する!?
そんな屁理屈が強く滲み出る名盤(?)だと認識するだけなのでした。