OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

スタン・ゲッツの欧州物は味わい深い

2011-04-18 16:45:21 | Jazz

Imported From Europe / Stan Getz (Verve)

本場アメリカのジャズプレイヤーが時代の流れに押されるように欧州各地へ活動を場を求めた歴史は、特に1960年代中頃から顕著だと思いますが、しかしフランスや北欧は1940年代から既にジャズの先進地帯でしたから、リアルタイムでも超一流のメンツが度々訪れ、地元の実力者達と優れたレコーディングを残していました。

例えば本日ご紹介のアルバムは、スタン・ゲッツが1958年にスウェーデンで吹き込んだセッションから作れた1枚なんですが、これ以前にも自身の十八番となった「Dear Old Stockholm」に象徴的な素晴らしいレコーディングを残しているとおり、何故か当地とは相性が良いようですから、ここでも素晴らしい快演を聞かせてくれます。

メンバーはスタン・ゲッツ(ts) 以下、ベニー・ベイリー(tp)、オキ・ペルセン(tb)、エリック・ノールストローム(ts)、ビャルネ・ネーレン(ts)、ラス・ガリン(bs)、ヤン・ヨハンソン(p)、ベンクト・ハルベルク(p)、グナー・ヨンソン(b)、ウィリアム・ショッファー(ds) という聴けば納得の才人揃いですから、決してスタン・ゲッツだけのリーダー作品とは決めつけられないものがあると思います。

A-1 Bengt's Blues (1958年9月16日録音)
 タイトルどおり、ピアニストのベンクト・ハルベルクが作編曲したモダンジャズのブルースなんですが、このなんとも言えないクールなカッコ良さがクセになる4ビートグルーヴは、ちょいとたまりません。
 それはアップテンポで、アメリカ西海岸系のハードバップのようでもありますが、スマートなノリとシンプルなホーンリフを得て繰り広げられる各人のアドリブは充分に個性的で、なかなかのアクの強さも滲んでいます。
 中でも最初に登場するベンクト・ハルベルクのピアノには硬質なクールフィーリングと妥協しないジャズっぽさがあって、微妙に良い感じ♪♪~♪ さらにオキ・ペルセンの闊達なトロンボーンからツッコミ鋭いベニー・ベイリーのトランペットが鳴り出せば、そこには本場アメリカに勝るとも劣らないモダンジャズの天国が現出されるのですが、いよいよ登場するスタン・ゲッツのスピードのついたアドリブの素晴らしさの前では、そうした彼等が露払いに思えるほど!?!
 あぁ、この不遜をお許し下さい。
 実は本当に短いパートしか吹いていないんですが、このアピール度の高さこそがスタン・ゲッツの真骨頂でしょうねぇ~~♪
 何度聴いても、ゾクゾクさせられますよ♪♪~♪ 

A-2 Honeysuckle Rose (1958年8月26日録音)
 良く知られた歌物ジャズ曲が、なかなかスリルに満ちたアレンジで躍動的に演奏される時、それはモダンジャズの真髄といって過言ではありません。
 ヤン・ヨハンソンの編曲は相当にスピード感を要求するものですが、シャープなドラムスの好演もあり、なによりもスタン・ゲッツが如何にも「らしい」アドリブで先陣を務めた後は一気呵成! その流れるようなフレーズのひとつひとつに込められた歌心が、後続するメンバー達を見事に導いていきます。
 またホーン隊の迫力ある合奏とアンサンブルの妙もジャズ的な楽しみに満ちていると思いますし、個人的にはベニー・ベイリーの溌剌さがたまりません。

A-3 They Can't Take That Away From Me (1958年8月26日録音)
 これまた邦題「誰も奪えぬこの思い」として良く知られたスタンダード曲とあって、まずはヤン・ヨハンソンのアレンジが気になるところではありますが、もちろんミディアムテンポのジャズビートの中ではスタン・ゲッツのリラックスした吹奏が最高の聴きどころでしょう。その期待を裏切らぬ出来栄えは流石の一言!
 そしてホノボノフィーリングが全開のオキ・ペルセンも良い味出しまくりですが、クールでソフトなラス・ガリンのバリトンサックスが最高に侮れませんねぇ~♪ 今もってこの人のファンが多いのも納得されるはずです。

B-1 Topsy (1958年8月26日録音)
 1930年代からのカウント・ベイシー楽団が十八番にしていたジャズヒットですから、スタン・ゲッツも自らのルーツたるレスター・ヤングを意識していたと思しきスタイルも披露しつつ、やはり個性はしっかりと打ち出しています。
 ただし基本が所謂カンサスシティ系のモダンスイング調にアレンジされていますから、参加メンバー達のモダンなフィーリングがイマイチ、活かされていないような……。 個人的には、ここてもラス・ガリンのバリトンに心惹かれます♪♪~♪

B-2 Like Someone In Love (1958年9月15日録音)
 再びベンクト・ハルベルクのアレンジという所為でしょうか、なかなか楽しくてモダンなアンサンブルを活かした演奏が楽しめます。
 特にアドリブ先発のスタン・ゲッツはハードバップ的なニュアンスも含めた緊張の緩和のバランスが秀逸! また、逞しさとソフトな情感を両立表現するテナーサックスの音色も魅力がありますねぇ~♪

B-3 Speak Low (1958年9月15日録音)
 これも原曲の魅力を活かしたベンクト・ハルベルクのアレンジが見事すぎますが、スタン・ゲッツも負けじと素晴らしいメロディフェイク&アドリブで応えるという、このアルバムの中でも出色の仕上がりになっています。
 そして中間部の凝った仕掛のアンサンブルを経て登場するラス・ガリンのバリトンサックスが、短いながらも素敵ですよ♪♪~♪

B-4 Stockholm Street (1958年9月16日録音)
 そのラス・ガリンの作編曲による、このオーラスに置かれたクールな演奏は、まさに北欧のジャズムードでしょうか。
 ですからスタン・ゲッツが聴かせてくれるハートウォームな表現は、既にしてボサノバのヒットを予見させる浮遊感に満ちていますし、ちょいとモヤモヤした原曲から珠玉のメロデイを紡ぎ出すアドリブの天才性は特筆物だと思います。

ということで、数多残されたスタン・ゲッツの作品群の中では目立たない1枚ではありますが、実は本来、このセッションはヴァーヴが企画制作したものではなく、スウェーデンの現地レーベルが原盤権を持っていた音源をあえて発売しただけあって、その充実度はファンを充分に満足させるものです。

それはどんな環境条件であっても、常にスタン・ゲッツはスタン・ゲッツでしかありえないという確固たる存在感の証明に他なりません。

ご存じのとおり、スタン・ゲッツがこの時期から1961年初頭まで、欧州各地で活動していたのは悪いクスリ云々によるところが大きかったと言われていますが、もうひとつ、既に述べたように、自らの音楽性との相性が良かった事もあるんじゃないでしょうか。

一概に断定は出来ませんが、このアルバムの他にもサイケおやじを密かな愛聴衝動に駆りたてる何かが、この頃のスタン・ゲッツにはあると感じています。

ちなみにジャケットに写る街頭の風景はフランスですよねぇ……?

それゆえにアルバムタイトルに偽りは無しという事なんでしょうが、そうしたファジーな仕上げもヴァーヴらしくて、憎めないのでした。

コメント (3)
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