すっかり暖かい陽気になりましたね。
連日のシビアな仕事で、些かゲンナリしている私は、こんなアルバムを聴いてみました――
■Doin' Allright / Dexter Gordon (Blue Note)
私がジャズ喫茶に通い始めた頃はジョン・コルトレーンが神様でしたから、同じテナーサックス奏者でも、例えばそういう演奏が出来ないハンク・モブレーとかハロルド・ランドあたりは、些かバカにされた存在でした。
しかし唯1人、ジョン・コルトレーンを超えたところで強烈な存在感を誇示していたのがデクスター・ゴードンという黒人テナーサックス奏者です。
そのキャリアはモダンジャズ創成期から第一線で活躍しながら、ハードバップ全盛期ど真ん中の1950年代後半には悪いクスリでリタイアしていたのが、今となってはなんとも残念なところです。しかし1960年代初頭に娑婆へ戻ったカムバック期に残されたレコーディングの強烈さは圧巻でした。
そしてこのアルバムはその時期の代表的な1枚で、ブルーノート契約の初作品! 録音は1961年5月6日、メンバーはデクスター・ゴードン(ts) 以下、フレディ・ハバード(tp)、ホレス・パーラン(p)、ジョージ・タッカー(b)、アル・ヘアウッド(ds) というイキの良い共演者達です。特にリズム隊は所謂“Us Tree Trio”ですからねぇ~♪ もう聴く前からワクワクしてきます――
A-1 I Was Doin' Allright
あまり有名でない映画音楽ですが、デクスター・ゴードンの悠々自適なテーマ吹奏からマイペースのアドリブまで、モードもコルトレーン関係無い佇まいが流石だと思います。もちろん緩やかなテンポの中に急速フレーズを用いたり、あるいは意図的なはぐらかしというキメも自然体で使われますから、時代遅れどころか、時代を超越した存在感♪
これには若手バリバリのフレディ・ハバードも、ちょいと飲まれたような感じで、些か萎縮気味でしょうか……。またリズム隊も何時ものドス黒いグルーヴが出せずに苦闘している感じです。
しかし演奏全体の和やかな雰囲気、リラックスしたノリの良さは、間違いなく一級品で、アルバム全体の流れを見事に作っているようです。
A-2 You've Changed
後々までデクスター・ゴードンが十八番として愛奏する歌物バラードです。大らかなノリを作り出すリズム隊も素晴らしいですから、デクスター・ゴードンは存分に心情吐露の大名演!
ハードボイルドな歌心、温かくてハードなテナーサックスの音色♪ もはや私などには何も言えない世界です。
おそらく同曲のインストバージョンとしては最高峰かもしれません。
A-3 For Regulars Only
デクスター・ゴードンが書いたハードバップなオリジナル曲で、まずトランペット&テナーサックスによる2管の響きが心地良いテーマ合奏からして、グッと惹きつけられます。
そしてアドリブパートでは、先発のデクスター・ゴードンがゴキゲンなフレーズとノリを完全披露♪ 得意技の有名曲引用もツボを押えた上手さですし、続くフレディ・ハバードが若さを露呈するのとは対照的なベテランの味わいが深いところです。
またリズム隊が粘っこいグルーヴで本領発揮♪ ホレス・パーランの変態ブロックコード弾きやサポートでもビシバシと遠慮の無いアル・ヘアウッドがニクイですよ。
B-1 Society Red
これもデクスター・ゴードンのオリジナル曲ですが、ブルースでありながら、1961年を意識した新感覚のファンキーなメロディが最高です。
もちろん演奏もグルーヴィ♪ 引き締まったアドリブを聞かせるフレディ・ハバード、シビアな粘っこさを発揮するリズム隊も素晴らしいと思います。アドリブの受渡しに使われるリフも良い感じですねぇ♪
そしてデクスター・ゴードンのグイグイに黒っぽいノリは唯一無二の凄みがあって、聴くほどにモダンジャズ天国へ直行です。ひとつひとつの音選び、フレーズの意味合い云々という前に、全体のハードなスイング感が物凄いと思います♪
またホレス・パーランがお待ちかねのストーカーっぽい陰湿さで繰り広げるファンキーな世界も圧巻で、聴いているうちに自然と体が揺れてくる感覚がたまりません。
どっしり構えたベースのジョージ・タッカー、さらにシャープで重いビートを敲き出すアル・ヘアウッドも最高です。
B-2 It's You Or No One
オーラスはモダンジャズでは定番という歌物スタンダードで、定石どおりアップテンポで演じられますが、イントロにちょっとしたアレンジがあったりして、楽しさが倍化しています。
デクスター・ゴードンはアドリブでも絶好調で、豪快で愉快なフレーズと大らかなノリの良さが痛快至極♪ 続くフレディ・ハバードも水を得た魚のようにイキイキとトランペットを鳴らしまくりですから、これがジャズだっ! 本当にそう思います。
そしてホレス・パーラン以下のリズム隊が、これまた快演です。アル・ヘアウッドのハイハットが実に良い雰囲気ながら、ジョージ・タッカーの4ビートウォーキングも、たまりませんねっ♪
ということで、A面はちょいと肩透かし気味なところもありますが、B面は如何にもブルーノートいう圧倒的な勢いのハードバップが堪能出来ます。
そしてある日、なんとなくA面を鳴らしてみると、これが実に味わい深いという、素直な感動に包まれまれるんですねぇ。まさに奇跡のようなプログラムです。
まあ、当時はA面ド頭に一番良い演奏を置くのがLPの常道なわけですから、今更何をという感想かもしれませんが、若い頃の私は黒い熱気に満ちたB面ばかりを聴いていましたから、我ながら苦笑です。
そしてB面を聞き終えて、レコード盤をひっくり返し、A面に針を落とすという儀式こそが、このアルバムへの礼儀かもしれないと思っています。