■Mud Slide Slim And The Blue Horizon / James Taylor (Warner Bros.)
発売された当時、高校生だったサイケおやじに大衝撃を与えたアルバムが、本日の1枚です。
その昭和46(1971)年といえば、我国ではGSブームの衰退と入れ替わるように歌謡フォークやアイドルポップスが急激な人気を集めていた頃でしたから、所謂フォークギターと呼ばれたスチール弦の生ギター、通称アコギを使った音楽が流行していました。
もちろんそれは洋楽におけるシンガーソングライターと呼ばれた自作自演歌手、中でもフォークやカントリー系の音楽に強い影響を受けたミュージシャンがヒットを飛ばしていた事実に裏付けられたものでしたから、特にフォークっぽい日本語の歌の内容は、自意識過剰とネクラなムードが強く、また恋に恋して、失恋するような雰囲気は、サイケおやじの感性にはイマイチ、合っていませんでした。言葉だけの反戦・反体制も、また、しかりです。
そして本日も告白しておくと、その頃のサイケおやじは高校にあった同好会のバンドに入れてもらい、しかも時代錯誤なエレキのバカ大将を目指していたのですから、フォークなんて軟弱だっ! と強く決めつけていたのです。
ところがそんな頑迷な私に、「これを、聴いてみろ」とばかりに先輩のWさんが貸してくれたのが、本日ご紹介のジェームス・テイラーが通算3枚目となるLPでした。
実はジェームス・テイラーについても、そういえばビートルズのアップルレコードからデビューした新人フォーク歌手だったかなぁ……、というようなイメージが残っていましたし、またラジオからは「きみの友だち / You've Got A Friend」という、穏やかなヒット曲が流れていた印象しかありませんでした。
しかし、この「マッド・スライド・スリム」は、まず針を落とした瞬間から、ウッと唸らされたほどのショックを私に与えたのです。
A-1 Love Has Brought Me Around / 強きものは愛
A-2 You've Got A Friend / おまえには友だちがいるよ (きみの友だち )
A-3 Place In My Past / 過ぎ去ってしまった場所
A-4 Riding On A Railroad
A-5 Soldiers / 兵士たち
A-6 Mud Slide Slim
B-1 Hey, Mister, That's Me Up On The Jukebox / ジュークボックスの歌
B-2 You Can Close Your Eyes / 目を閉じてごらん
B-3 Machine Gun Kelly
B-4 Long Ago And Far Away / 遠い昔
B-5 Let Me Ride
B-6 Highway Song
B-7 Isn't It Nice To Be Home Again / なつかしきわが家
まず、何気なく歌いだされるA面冒頭の重いリズムとビート、その中心となっているエレキベースが演奏が進むにつれ、雄弁に蠢いていくという、私の最も好きな展開にハッとさせられました。しかも何時しかバックの演奏がエレキギターやドラムス、ピアノやブラスが堂々と入っていることにも、私が思いこんでいたフォークのイメージを覆す何かがあると気がつかせられる要因でした。
しかし、そう思った次の瞬間、巧みなフィンガービッキングが冴えまくりのアコギが演奏をリードする「きみの友だち」が歌い出される流れの良さ♪♪~♪ しかも演奏パートは決してアコースティックな所謂アンプラグドではなく、ほどよいビートを提供するセンスの良いドラムスや打楽器、蠢くエレキベース、控えめなエレキギターに彩られているのですから、たまりません。ハートウォームなコーラスも良い感じ♪♪~♪
というように、このアルバムには、ジェームス・テイラー(g,vo) を主役に、ダニー・クーチ(g)、リー・スクラー(b)、ラス・カンケル(ds,per)、キャロル・キング(p.vo)、リチャード・グリーン(vln)等々の盟友&名手が参加していて、中でも既に述べたようにリー・スクラーのエレキベースが、当時のフォーク系セッションとしては珍しいほどのソウル&ジャズフィーリング♪♪~♪ その蠢きまくるスタイルは、私の大好きなザ・フーのジョン・エントウィッスルやゴールデンカップスのルイズルイス加部にも共通する味わいを強く感じました。
また全篇に横溢する不思議なジャズっぽさは、本当に新鮮!
いきなりユーミンが出てきそうなピアノに導かれた「過ぎ去ってしまった場所」の、本当にせつない和み♪♪~♪ ちなみに初期ユーミンのバックをやっていた細野晴臣は、はっぴいえんど時代からジェームス・テイラーが大好きだったそうですから、さもありなんでしょう。
まあ、そのあたりは今後に取り上げる所存ですが、とにかくアルバムタイトル曲「Mud Slide Slim」に至っては、シミジミ系のアコースティックメロディがジャズっぽいバックと融合した、本当に何度聴いても、そこはかとない胸キュン感が秀逸の極み♪♪~♪ 意図的にシンプルに歌うリードボーカルと倦怠したようなゴスペルっぽいコーラス、さらに演奏パートのソウルジャズ味は絶品で、中でもキャロル・キングのピアノがキメに弾くフレーズの素敵な情感、アドリブと定型リフを自然に化学変化させていくエレキベース、ワウワウをイヤミなく使ったエレキギター、そしてジェームス・テイラーの歌とギターの上手さ! そんなこんながゴッタ煮となった展開は、これが永遠に続けば良い! としか言えません。そしてタイミングの素晴らしい打楽器やドラムスも最高です。
またB面に移っては、似たような味わいの「Machine Gun Kelly」やジェームス・テイラーの上手すぎるギターをメインにした弾き語り風の「目を閉じてごらん」、それをポップに展開し、キャロル・キングのバックボーカルも冴える「遠い昔」あたりが今では定番になっていますが、個人的にはブラスも大胆に導入したファンキーロックな「Let Me Ride」が大好きです。ちなみにここではジェームス・テイラーのボーカルが、必ずしも黒っぽい力強さがないところを逆手にとったお洒落感覚が、後のAOR路線へと繋がるものかもしれません。またダニー・クーチのファンキーエレキも痛快ですよ。
ということで、このアルバムを聴いた後のサイケおやじは、こういうフォークなら、良いかもねぇ~♪ なんて節操も無く言い放ち、それは今でも顰蹙だったと思いますねぇ……。
また同じ頃に発売されたキャロル・キングの大名盤「つづれおり」にも、この頃に邂逅し、忽ち好きになったのは言わずもがな、ジェームス・テイラーにしても来日公演の素晴らしいステージに接し、そのアコギから出まくるビートの効いた音こそが、新しい感動を呼ぶと確信しましたですね。
それまでアコギで私が認めていたというか、知っていたのはPPMに代表されるようなスリーフィンガーとか、ポール・サイモンのような英国フォーク系の奏法、あるいはCSN&Yのブレイクによって当然となった変則チューニング等々でしたから、ジェームス・テイラーのような正統派でありながら、ジャズ&ソウルっぽいアコギは、最高に新鮮な驚きだったのです。
もちろん練習もしましたが、挫折……。なにしろスリーフィンガーにしても、私は今でも苦手ですから、エレキに逃避していた真実は隠せません。
まあ、それはそれとして、やっぱりジェームス・テイラーは良いですねぇ~♪
JTのギターはやっぱりマーチンですかネ?
コメント、ありがとうございます。
アコギは良いですねぇ~♪
自分は下手の決定版なので、練習もしていますが、う~ん……。
で、JTはギブソンの「J50」みたいですよ。マーチンよりも地味めの音が出るんですが、それゆえに、あの独特の味わいが醸し出されるのかもしれません。