■Soul Battle / O.Nelson, K.Curtis & J.Forrest (Prestige)
ジャケットで一目瞭然、黒人テナーサックス奏者3名による魂の共演盤です。
おそらくは我が国のジャズファンにとって一番有名であろうオリバー・ネルソンは、作編曲家としての評価が高いと思われますが、サックスプレイヤーとしても独特の個性派ですし、ジミー・フォレストは如何にも黒人らしいR&B感覚と大衆性を併せ持った名手として、カウント・ベイシー楽団の看板も務めた実力者です。
そして大いに気になるのがキング・カーティスの参加でしょう。
この人はご存じ、1950年代にはニューヨークを中心に数多くのR&Bヒット曲の制作に関与したテナーサックス奏者であり、クレジットは無くとも、その素晴らしい演奏は必ずや音楽ファンの耳には届いているはずです。さらに1960年代からは自身のバンド「Kingpins」を率いて強烈なファンキーグルーヴを撒き散らした偉人です。なにしろそこにはコーネル・デュプリー(g)、ジェリー・ジェモット(el-b)、バーナード・パーディ(ds)、パンチョ・モラレス(per) 等々、キラ星のプレイヤーが出入りしていたのですから! アレサ・フランクリンのバックバンドとして大活躍したフィルモアのライブ盤も印象的でしたねっ♪♪♪
という3人が集結しての「バトル」盤ですから、まずは企画の大勝利でしょう。実際、私なんかは、こんなアルバムがあると知って、聴く前からワクワクドキドキしていたほどです。
録音は1960年9月9日、メンバーはオリバー・ネルソン(ts)、キング・カーティス(ts)、ジミー・フォレスト(ts)、ジーン・ケイシー(p)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、ロイ・ヘインズ(ds) なんですから、たまりませんねぇ~~~♪ ちなみに演目は1曲を除いて、オリバー・ネルソンのオリジナルとされています。
A-1 Blues At The Five Spot
アル・ケイシーのシンプルにしてファンキーなピアノが導く和みのテンポ、それが実にワクワクするドライヴ感を生み出し、ちょっとモード系のブルーステーマが良い感じです。
そしてそれをリードするのは、もちろんオリバー・ネルソンですから、そのまんまアドリブパートへと自然に移行していく流れには何の抵抗感も無く、続いて登場するキング・カーティスがたっぷりとしたフィーリングでテナーサックスを鳴らす頃には、完全に演奏の虜になってしまいます。
さらにジミー・フォレストがダークな音色でハードなアドリブという、所謂「格の違い」を聞かせてくれるのは嬉しいですねぇ~♪
演奏全体としてはリラックスした露払い的な仕上がりですが、ビシバシにキマるバックのリフとか、健実なリズム隊のサポートもあって、単なるジャムセッションとは一線を隔していると思います。このあたりがオリバー・ネルソンの手腕なんでしょうねぇ。
ちなみにロイ・ヘインズは、相当にシビアな怖さも発揮していますよ。
A-2 Blues For M.F.
これはジンワリと和みのゴスペルファンキー♪♪~♪
ゆったりしたテンポで演奏されるテーマメロディのホノボノ感と手数の多いジョージ・デュヴィヴィェのペースリフが印象的ですが、アドリブパートに入っては、もちろん粘っこい4ビートのグルーヴが全開となります。
それはジミー・フォレストが余裕のブルースフィーリング、シンプルさと革新のバランスが絶妙なオリバー・ネルソン、正統派R&Bのフレーズを見事にモダンジャズ化しているキング・カーティスと、各人が自分の持ち味を発揮して潔し! 中でもオリバー・ネルソンは前曲でもそうでしたが、ちょっとアルトサックスみたいな音色で夢遊病っぽいフレーズを乱れ打ちという、本当に奇妙な味わいが印象的です。
それとピアノのジーン・ケイシーは基本に忠実なタイプで、好感が持てますねぇ。
A-3 Anacruses
ロイ・ヘインズのシャープに躍動するドラミングがイントロとなって始まる、これは新主流派も真っ青のテーマ合奏が???ではありますが、アドリブパートは痛快至極です。
オリバー・ネルソンは些かウェイン・ショーターになっていますが、ロイ・ヘインズの怖い煽りには、これがジャストミートでしょうねぇ~~♪ そしてキング・カーティスが、これまた全く動じないマイペースというか、ジーン・アモンズ系のプローで勝負を仕掛ければ、ジミー・フォレストは横綱相撲のタフテナー!
あぁ、こういう真っ黒な雰囲気が横溢する中では、オリバー・ネルソンは完全に浮いているのですが、ジーン・ケイシー以下のリズム隊が出番となる終盤には、曲のミソとなっているモードが明かされますから、溜飲が下がると思います。
B-1 Perdido
さあ、これがアルバムのハイライト!
曲はお馴染み、こういうバトルジャムには御用達というデューク・エリントンの名作リフですから、ビシバシにキメたロイ・ヘインズのドラミングが導くテーマ合奏の気持ち良さ♪♪~♪ もう、ここだけでウキウキしてきますよっ♪♪~♪ 上手くアレンジされたアンサンブルがシンプルにして最高です。
そしてジミー・フォレストが絶好調のアドリブでハードバップのR&B的解釈を披露すれば、キング・カーティスは俺に任せろ! そのグリグリに突進する熱っぽいフレーズの連続技には、続くオリバー・ネルソンも心中穏やかではなく、迷い道のスタートから少しずつ自己主張を取り戻していくあたりが、ジャズの面白さでしょうねぇ~♪
そしてお待ちかね、いよいよ突入するテナーバトルでは、もちろん3人が意地のぶつかりあいを演じていますが、オリバー・ネルソンが意外にもキワドイ系のブローを聴かせてくれますよ。
また快適なグルーヴを演出するリズム隊では、やはりロイ・ヘインズのキレまくったドラミングが痛快で、特にラストテーマ最終パートのキメは最高! 実にカッコ良いです。
B-2 In Passing
前曲の波乱万丈を心地良く和ませてくれる、オトポケゴスペルなハードバップですが、そこはオリバー・ネルソンですから、「モード」が入っているのは「お約束」でしょう。そしてアドリブ先発で奇々怪々なフレーズしか吹かない作者の「分からなさ」が、思わせぶりな露払いとなるのです。アルトサックスとしか思えない高音域吹奏も、???なんですが……。
しかし続くキング・カーティスが、そんなの関係ねぇ~! 分からないなりの自己主張というか、相当に立派なハードバップのアドリブです。まあ、本音としては歌いようがない……、ということでしょうか。
ジミー・フォレストに至っては開き直りというか、十八番のR&Bな音色と絶妙にデスコードしかかったフレーズを使いながら、黒さを捨てないテナーサックスは流石だと思います。
ということで、「バトル」に興じているのは「Perdido」だけなんですが、オリバー・ネルソンの新しい感覚とR&Bど真ん中のグルーヴが上手く融合した、実に面白いセッションが楽しめます。
中でもガチガチのジャズファンからは白眼視も止むを得ないキング・カーティスの純ジャズ的な凄さ! これが認識されるだけでも、私のような者には嬉しいアルバムなのでした。