■Gypsy / Herb Geller (Atco)
「マイ・フェイ・レディ」や「ポギーとベス」、そして「ウエストサイド物語」等々の人気ミュージカルを素材にしてアルバム全部を作ってしまう企画はジャズにも沢山ありますが、本日のご紹介の1枚も、そのひとつです。
それは伝説のストリッパーだったジプシー・ローズ・リーの自伝を元ネタとして1959年に制作され、700回を超える上演を記録したヒット作と言われていますが、我が国ではどういう評価だったのか、私は不勉強で……。
そしてこのアルバムは、そのヒットに便乗した企画盤かと思ったら、実は本題の初演とほぼ同時に録音された経緯もあり、もしかしたらタイアップ企画だったのかもしれません。
録音は1959年6月9&10日、メンバーはサド・ジョーンズ(tp)、ハーブ・ゲラー(as)、ハンク・ジョーンズ(p)、ビリー・テイラー(p)、スコット・ラファロ(b)、エルビン・ジョーンズ(ds)、そしてバーバラ・ロング(vo) が参加していますが、告白すると私がこのメンツの豪華さに惹かれているのは言わずもがでしょう。なにしろジョーンズ3兄弟の揃い踏みに加え、ビル・エバンスのトリオで大注目された時期のスコット・ラファロとエルビン・ジョーンズという、まさに凄いリズムコンビが実現しているのですからっ!
A-1 Everything's Coming Up Roses
如何にもというメロディが軽快なリズムで演奏され、バーバラ・ロングが「ためいき」系ボーカルで歌いますが、この人は確かサボイでシングル盤を出しているぐらいで、それほど有名な人では無いと思いますから、このアルバムで歌ったことが代表作になるのでしょうか? 失礼ながら個人的には上手いとは思えない歌手です。
しかし演奏そのものは流石に素晴らしく、唯我独尊のドライヴ感でバンドをグイグイとリードしていくスコット・ラファロ、流麗なフレーズを使いつつも情熱的なハーブ・ゲラー、正統派ミュートを聞かせるサド・ジョーンズに小粋なハンク・ジョーンズのピアノと素晴らしいアドリブが連発されますよ。
もちろんエルビン・ジョーンズは、どっしり構えての健実なサポートが見事です。
A-2 You'll Never Get Away From Me
ミディアムテンポの演奏で、ヘヴィなエルビン・ジョーンズの小技も冴えていますが、スコット・ラファロのペースがここでも目立ちまくりです。そしてその2人を相手に鋭いアドリブを披露するハーブ・ゲラーも厳しい姿勢を崩していません。
しかもテーマ部分のアレンジが相当にしぶとい感じですし、ピアノが抜けているがゆえに、絶妙にクールな感覚が表出して、これぞモダンジャズ! スコット・ラファロのペースソロも凄すぎますよっ!
A-3 Together
再びバーバラ・ロングの歌が聞かれるアップテンポの隠れ名曲♪♪~♪ 不安定な音程が結果オーライというか、スコット・ラファロのエグイ煽りとかバンドアレンジのさりげなさがありますから、けっこう楽しめると思います。
ハーブ・ゲラーのアルトサックスもほどよい情熱を発散し、サド・ジョーンズの浮かれた調子寸前のアドリブも素敵ですが、ハンク・ジョーンズの落ち着きにも脱帽です。
A-4 Little Lamb
これまたピアノレスのカルテット演奏ゆえに、ハードボイルドなムードの演奏とやさしい原曲メロディのミスマッチが面白い味わいだと思います。
ハーブ・ゲラーは白人ながら、それほど甘い感性のプレイヤーではないので、こうした結果になったのかもしれませんが、そこはサド・ジョーンズのミュートがソツの無い纏め役を果たしているようです。
B-1 Some People
エルビン・ジョーンズの重量級ドラムスがイントロとなって始まるアップテンポのハードバップですが、平面的なテーマメロディと好き勝手に目立つスコット・ラファロのペースワークがありますから、予定調和的に纏まらないところが魅力的でしょうか?
しかしハンク・ジョーンズの上手い伴奏が、そんな雰囲気を繋ぎ留めている感じがニクイところ♪♪~♪ 各人のアドリブも秀逸ですが、やはりスコット・ラファロのペースに耳が惹きつけられてしまいますねぇ~♪
終盤ではエルビン・ジョーンズが怒りのドラムソロ! しかし短いのが残念です。
B-2 Mama's Talkin' Soft
そしてスコット・ラファロが強靭なグイノリの4ビートウォーキングでリードする、このミディアムテンポの演奏では、バーバラ・ロングのボーカルも危うい音程が良い味だしまくり♪♪~♪ このあたりは十人十色の感想でしょうが、私は好きです。
そしてメリハリの効いたバンドアレンジとハードボイルドなサド・ジョーンズのトランペット、ツッコミ鋭いハーブ・ゲラーのアルトサックスに流石の存在感というハンク・ジョーンズ♪♪~♪
しかもスコット・ラファロのペースが短いアドリブも含めてエグイ熱演ですから、たまりませんねっ♪
B-3 Cow song
これはスコット・ラファロのブッ飛んだペースを主役にした激演! 初っ端から縦横無尽に暴れる斬新なベースの躍動とエルビン・ジョーンズの粘っこいブラシ、この曲だけに特別参加のビリー・テイラーが見事な仕切りという、これはモダンジャズ全盛期の凄さを今に伝える隠れ名演でしょうねぇ~♪
B-4 Samll World
オーラスはリラックスした軽めの演奏で、バーバラ・ロングもハスキーボイスの魅力を全開させていますし、逆にハーブ・ゲラーのアルトサックスがエグイ味わい♪♪~♪ ハンク・ジョーンズのピアノに絡むベースとドラムスの怖さもヤバいほどです。
しかしサド・ジョーンズがイヤミの無い和みを提供し、実に良い雰囲気でアルバムの締め括りが演じられています。
ということで、主役のハーブ・ゲラーよりも、実は脇役陣が目立ってしまった作品です。特にスコット・ラファロの活躍は驚異的! アグレッシブで繊細なベースワークが存分に楽しめるわけですが、録音もそれが中心としか思えないバランスになっているのも、実に意味深だと思います。
演目も楽曲的にはそれほどの素敵なメロディがあるとは思いませんが、演奏そのものの密度の濃さは絶品で、おそらくはサド・ジョーンズが施したと思われるアレンジのツボを押さえた上手さも秀逸です。
当時の芸能界の事情を抜きにしても、モダンジャズ全盛期の側面を楽しめアルバムとして、なかなか貴重なドキュメントになっているのかもしれません。
スコット・ラファロが、とにかく凄いですよっ!
スコットラファロとピアノの絡みは、よかったですね~!トランペットのミュートもサックスも心地よかったです!ブログの解説を読ませていただいて、曲を聴くととてもわかりやすいです!!
ありがとうございます。
スコット・ラファロの存在は唯一無二、今でも超えたベーシストは居ないと思われるほどです。
ちなみに当時の本人は重度のジャンキーだったそうで、いつもクスリ代に追われていたとか……。
しかし、そういう切迫感が名演に繋がったとは思いたくありませんね。
スコットラファロは、自動車事故で亡くなるのですよね。関係あるかも・・・ですね~
しかも、活躍した時期は、短いのですよね。
肯定はしませんが、凡人にはない、なにか究極の感性がありますよね。
また、スコットラファロのお薦めがあれば、教えてくださいね。
西海岸時代のスタイルはレッド・ミッチェルみたいですよ。だから全盛期の予行演習です。
エバンストリオ期の演奏では、公式盤4枚の他にバードランドからの放送音源がありますね。音は良くありませんが、やはり聴きたいブツだと思います。
セッション参加では、ブッカー・リトルのタイム盤が極みつきでしょうね。これは私も愛聴しています。