■The Wes Montgomrey Trio (Riverside)
ウェス・モンゴメリーがリバーサイドと正式契約して最初のリーダー盤ですが、後の名盤群の中では比較的目立たない1枚かもしれません。しかし、これが聴く度に味わいが深まっていくという、なかなか滋味豊かな作品だと思います。
録音は1959年10月5&6日、メンバーはウェス・モンゴメリー(g)、メル・ライン(org)、ポール・パーカー(ds) という所謂オルガントリオですが、もちろんウェス・モンゴメリーの凄いギターがメインに据えられています。
ちなみにウェス・モンゴメリーはキャノンボール・アダレイによってインディアナポリスで「発見」され、ニューヨークに出て来てのレコーディングだったのですが、何故かギターとアンプはケニー・バレルからの借り物だったのは有名な逸話! う~ん、それにしても、なんでだろう……。
A-1 'Round Midnight
セロニアス・モンクが書いた、誰もが知っている有名なメロディをジンワリと弾いていくウェス・モンゴメリーのジャズ魂は恐るべし! そのストレートにして微妙なR&B感覚が滲み出るフェイクの上手さ、そしてスローテンポでも凄いビートを失わないギターの運指とピッキングの上手さ!
ちなみにここで「ピッキング」と書いてしまいましたが、ご存じようにウェス・モンゴメリーは親指だけで弦を弾くというナチュラルなサムピック奏法ですから、独特の柔らかな響きとエレキギターならではのエグ味が化学変化的に融合し、抜群の個性を際立たせているようです。
それはアドリブ構成においても、単音弾きからオクターヴ奏法、そしてブリブリに迫ってくるコード弾きに至るという、全く憎らしいほどのモダンジャズがど真ん中! フレーズのひとつひとつが有機的な繋がりを保ちつつ、それぞれにハッとさせられてしまうのは、言わずもがなの素晴らしさだと思います。
A-2 Yesterdays
幾分のダークな雰囲気が魅力のスタンダード曲ですから、ここでのグルーヴィな4ビート演奏にしても、ソフトな黒っぽさ優先主義が実に好ましいと思います。
それはラウンジ系の演奏を装ったハードバップ狙いがストライクゾーンにビシッと決まった瞬間かもしれません。リラックスしたウェス・モンゴメリーの一人舞台というか、軽めに弾くつもりが、ついつい力んだフレーズを演じてしまう、オチャメなところは流石だと思います。
A-3 The End Of A Love Affair
これまたモダンジャズでは定番のスタンダード曲をアップテンポでグイグイに弾きまくるという、ついに本性を現したウェス・モンゴメリーが楽しめる演奏です。
オルガンのメル・ラインも、ようやく自分の出番をもらってハッスルしていますが、正直に言えばB級感は否めません。しかしそれを救っているといっては失礼ながら、ウェス・モンゴメリーのパッキングが最高に素晴らしいですねぇ~。
A-4 Whisper Not
そして、これが実にニクイ選曲!
ご存じ、ベニー・ゴルソンが書いた決定的な人気メロディですから、その哀愁がウェス・モンゴメリーならではの歌心で解釈されていくという、まさにモダンジャズの至福が楽しめますよ。まずチープなオルガンの響きに彩られた豊かな音量のギターが良い感じ♪♪~♪ 魅惑の原曲メロディを活かしきったフェイクも素晴らしいですねぇ~♪
そしてアドリブパートのバランスの良い構成も秀逸ですし、メル・ラインの些か亡羊としたオルガンアドリブのバックで光るギター伴奏が、これまた本当にたまりません。
全く短いのが、残念至極ですよ。
A-5 Ecorah
ファンキー派の名作曲家としては決して忘れられないホレス・シルバーが書いた隠れ名曲ですから、これも味わい深い選曲だと思います。そしてアップテンポの軽快なグルーヴでノリノリのギター、硬質なビート感が心地良いドラムス、さらにグビグビに鳴り響くオルガンという、完全なるクラブデイトなムードが最高です。
ただし、この演奏も時間が短く、しかもテープ編集疑惑までもが感じられるのは……。
B-1 Satin Doll
デューク・エリントンが書いた説明不要の大名曲というだけで嬉しくなりますが、冒頭から幾分生硬にテーマを弾いていくウェス・モンゴメリーとハードなドラムスが、意外にもミスマッチの妙で良い感じ♪♪~♪
ただし、そのあたりがアドリブパートではイマイチ活かされていないような……。全体的に纏まりが良くないと思うのですが……。メンバー各々は、それぞれに熱演なんですけどねぇ……。
B-2 Missile Blues
そのあたりの欲求不満が解消される名演が、ウェス・モンゴメリーの書いた、このオリジナルのブルースです。些かガサツなドラムスとB級テイストのオルガンが、豊潤なギターをさらに盛り上げていくという、全くの美しき構図がたまりませんよ。当然ながら前半のオルガンアドリブのパートは熱気が本物です。
そしていよいよ登場するウェス・モンゴメリーが、絶妙のタメとノリが見事過ぎるジャズギターの真髄を披露♪♪~♪ 豪放なオクターヴ奏法のスラーとかコード弾きに移行していく時の自然体とか、とにかく唯一無二の天才性が、これほどナチュラルに表現出来るとは恐ろしいばかりです。
B-3 Too Late Now
さらに、これがまた泣けてくるメロディフェイクの天才性を、じっくりと味わえる大名演♪♪~♪ 原曲の良さはもちろんのこと、ここでのウェス・モンゴメリーの存在感は、後年のイージーリスニング系の演奏が決して企画優先ではなかったことの証明だと思います。
ラウンジムードのアレンジとジャズフィーリングの融合感度も素晴らしく、なによりもトリオが歌心優先主義を貫いているのは高得点!
何度聴いても、和んでしまいます。
B-4 Jingles
オーラスは、これもウェス・モンゴメリーがステージでは定番演目にしていたハードバップ風味満点のオリジナル!
メル・ラインのオルガンが露払いを務めた後に飛び出すウェス・モンゴメリーのギターは、最初は抑え気味ながら、ポール・パーカーのハードなドラミングに煽られて熱くなっていくところが、まずは痛快です。ヤケッパチ気味のコード弾きにはニンマリさせられますよ。
そしてクライマックスでは、これもヤケッパチなドラムスとのソロチェンジが、本当に熱気ムンムン! というか、この部分になると意図的とも思えるほどにドラムスのミックスバランスが強くなっているんですねぇ~。これぞ、リバーサイドならではの裏ワザ!?
ということで、メンバーは地味なんですが、選曲の味わい深さとリバーサイド特有のエッジの効いた硬質な録音が楽しめるアルバムです。ただし録音的な問題かもしれませんが、低音域が時折強すぎて、濁った感じとモヤモヤした雰囲気に感じられるのは私だけでしょうか……。
このあたりは最近のCDを聴いたことがないので一概には言えませんが、アメリカプレスのモノラル盤だと、それなりにハードバップな音がするので、私は好きです。ちなみに1970年代にプレスされた日本盤アナログLPはステレオ仕様だったこともあり、???が正直な気持ち……。私が何故に前述のモノラル盤を入手したか、ご理解願えると思うのですが……。
肝心のウェス・モンゴメリーは借り物ギターだったとしても、そんなことは関係ねぇ~! というばかりの安定性とダイナミックなジャズ魂、さらに最高の歌心を完全披露しています。ただし既に述べたように、後にどっさりと吹き込まれる名盤群に比べれば、こじんまりした感は否めません。
ですからジャズ喫茶で聴くと冴えない雰囲気になるんですが、しかし自宅鑑賞だと、これがちょうど良いんですねぇ~。実際、アメリカにはジャズ喫茶という素晴らしき文化は無いわけですから、制作側も考慮していないのが当然なんですが、小さなモノラルの電蓄プレイヤーで聴いても充分に楽しめるレコードかもしれません。
とすれば、選曲にも納得!